「いやぁ、ここに来る前に、叔父さんの所に挨拶にいったんだが、
思わず、『誰ですか?』って言ったら、やっぱり怒鳴られたよ」
「お父さん、それは当たり前だから……」
冗談なのかどうかは分からないが、章三がそう言い、
明日奈は呆れたように、章三に言った。
「いや、本当に、最初誰だか分からなかったんだって。
いやぁ、まさかあの叔父さんが、あんなに丸くなるとは、やっぱり八幡君は凄いんだねぇ」
「あれはまあ、上手くこっちの土俵に引っ張り込めたせいなんで、作戦勝ちって奴ですね」
「しかも、あの難しい、楓ちゃんの手術まで成功させるなんて、
医学会にも、メディキュボイドの可能性に、激震が走ったと思うよ」
「まあ確かに、各医師の手術の腕は、平均的に、どんどん上がっていく気がしますね」
菊岡がそう言い、八幡は、皮肉っぽい口調で菊岡に言った。
「ずっと遊んでたのかと思ったら、情報収集はしっかりしてたんですね、菊岡さん」
「失礼な、ついでだよ、ついで」
八幡は、遊びと情報収集の、どっちがついでなのだろうと思いつつも、
菊岡が、駒央に再会するキッカケを作ってくれたのは確かなので、
それ以上いじるのはやめる事にした。その代わり、次にこういう機会があったら、
とことん利用しつくしてやろうと、内心で黒い笑みを浮かべた。
「ところで八幡君、宗盛さんがやろうとしてる事に、補助金を出せないか、
今根回しを進めている所だから、もし駄目なら、君の方から支援してあげてね」
八幡の内心を読んだかのように、いきなり菊岡がそう言った。
八幡は、これだからこの人は侮れないんだよなと思いつつ、その言葉に頷いた。
そして会話も一段落したと思われたその時、陽乃が爆弾を投下した。
「で、二人の間には、本当に何も無かったの?」
「そうだ明日奈、何て事をしてくれたんだ、お父さんは本当に悲しいよ」
「そうよ明日奈、私はあなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ」
「お父さん、お母さん!」
章三がとても残念そうにそう言い、京子もそれに同意した為、明日奈は慌ててそう言った。
他の乗客から見れば、若い二人が、両親に怒られているように見えたかもしれないが、
もちろん事実は逆である。章三も京子も、早く孫の顔を見たくて仕方がないようだ。
「章三さん、ちょっと待って下さい、それは違います」
そこに陽乃が、そう口を挟んだ。明日奈は、陽乃が味方してくれるのかと思い、
パッと顔を明るくさせた。そして陽乃は、とても真面目な顔で、こう言った。
「何て事をしてくれたんだ、というのは、ちょっと違うと思います。
正確に言うなら、何で何もしてくれなかったんだ、
もしくは、何故強引に事を運ばなかったんだ、が、正しいと思います」
「姉さん!」
明日奈は、裏切られたという表情で、愕然と陽乃の顔を見た。
その言葉に章三は、確かにそうだと頷き、菊岡は下を向いて笑いを堪えていた。
そして八幡は明日奈を庇うように、横からそっと口を挟んだ。
「今回は、予想外に色々な事があって、さすがに疲れちゃって無理でしたけど、
そのうち必ずお二人に、かわいい孫の姿を見せますから、のんびりと待ってて下さい」
「そ、そうだね、人生はまだ長いんだ、焦る事は無いか」
「明日奈、それまでしっかりと、八幡君と愛をはぐくむのよ!」
「う、うん、お父さん、お母さん、ありがとう」
「チッ」
章三と京子は、八幡のその言葉に落ち着いたのか、明日奈に笑顔で話し掛けたのだが、
八幡は、陽乃がそう舌打ちするのを聞き逃さなかった。
「おい馬鹿姉、まさかこの前のアレ、本気だったんじゃないだろうな?」
「うるさいわね、乙女の夢を邪魔するんじゃないわよ」
「おい……」
「もうこうなったら、睡眠薬で眠らせてる間に事におよんで、
子供だけ授かるという手も……もしあれなら他の子達とも協力して……」
「おいこら、それは犯罪だ」
「あなたが訴えなければ犯罪にはならないわ。そしてあなたは訴えない、違う?」
八幡は、うっと言葉に詰まったが、何とか気をとりなおし、陽乃に言った。
「と、とにかくおかしな事ばっかり考えるんじゃねえ、分かったか?」
「いやねぇ、冗談に決まってるじゃない」
「まったく信用出来ねえ……」
そうこうしている間に、新幹線は東京駅に着き、章三と陽乃はそのまま会社へ、
菊岡も報告があるとかで、霞ヶ関に向かう事となり、京子も自宅へと帰るようで、
八幡と明日奈は、とりあえずこれからどうするか、相談を始めた。
「荷物、もう届いてるかな?」
「とりあえず確認する為にも、一旦うちに戻るか」
「そうだね、どうやって行く?」
「ちょっと待っててくれ、キットの現在位置を確認するわ」
そして八幡は、キットに直接連絡し、今どこにいるか確認すると、明日奈に言った。
「今はソレイユの車庫にいるらしいから、このまま姉さんのタクシーに便乗していくか」
「そうだね、そうしよっか」
「ついでにアルゴから、ピトへの土産用のDVDを受け取っておこう」
そして二人は、陽乃と共に、ソレイユへと向かった。
「材木座、アルゴ、小……薔薇、今帰ったぞ」
「八幡、八幡ではないか、久しぶりだな!」
「おう、お帰り、ハー坊、アーちゃン」
「あんた今……いや、何でもないわ、お帰り」
「悪い、三人とも、お土産は家に送ってあるから、明日持ってくるわ。
アルゴ、頼んでたDVD、出来てるか?」
「ああ、もちろんだぞ。ほら、これダ」
「サンキュー、それじゃまた明日来るわ」
そして八幡は、キットと合流すると、そのまま八幡の自宅へと向かった。
幸い荷物は、既に宅配ボックスに入っており、
昨日送った荷物の行方を宅配会社のサイトで確認すると、
そちらも間もなく到着する事が分かったので、
とりあえず二人は、荷物の仕分けをする事にした。
「まず八ツ橋を一つずつ分けて、名前のタグを付けて……」
「さすがに多いね、私、現実に戻ってきてから、一気に友達が増えたよ」
「確かにそうだよな、どうだ明日奈、友達が増えて、楽しいか?」
「うん、とっても!」
「なら良かった」
そう言いながらも、テキパキと、誰に何を渡すかが、分けられていく。
そして玄関のチャイムが鳴り、昨日八幡が送った箱の他に、もう一つの荷物が届いた。
どうやらそれは、先に明日奈と陽乃が送った、他の者への土産の箱のようだった。
「こっちの仕分けは、明日奈に任せればいいか」
「うん」
八幡は、明日奈に指示された通りの名前の上に、
渡されたお土産を、どんどん置いていった。
「なぁ明日奈」
「ん、何?」
「この量だと、明日は車で学校に行かないと、持ちきれないよな」
「そうだね、学校以外の人の分も、乗せないといけないしね」
「渡せる奴の分は、今日のうちに渡しちまった方がいいか……」
「明日の放課後、雪乃達と会う約束をしてるから、
雪乃と結衣と優美子と南といろはちゃんは、その時がいいかな」
「それじゃあ帰りに、約束の場所まで車で送るか」
「そこからは別行動で、効率よく配ればいいね」
「残りはどうするか……」
そんな八幡に、明日奈は言った。
「とりあえず、今日はここに泊まるから、私、夕飯の材料を買いにいってくるよ。
その間に八幡君は、ダイシーカフェにでも行って、エギルさんや、
クラインさんを呼び出すか何かして、お土産を渡しちゃえばいいんじゃないかな」
八幡はその提案に納得し、遼太郎に電話をした。
遼太郎はすぐに電話に出ると、今丁度外回りの最中だからという事で、
後でダイシーカフェで落ち合う事になった。
「そうだな、ついでに詩乃と理事長の所にも顔を出すか」
「ピトはどうする?」
「そうだな……詩乃は学校前で待ってればいいとしても、ピトはな……
なぁ明日奈、お前、ピトの連絡先、知ってるか?」
「ううん、さすがに芸能人に、連絡先を聞くのはちょっとって思って、
その流れでシノのんの連絡先も知らないんだよね」
「まあ確かにそうなんだよな、とりあえずGGOにログインして、
ピトがいるかどうか確かめてみるわ」
「それじゃあ私、買い物にいってくるね」
「送らなくていいのか?」
「うん、すぐ近くだから大丈夫」
「分かった、それじゃあ後でな」
そして八幡は、GGOへとログインしてみた。
まさかとは思ったが、案の定、目の前には、ピトフーイがいた為、
八幡は、呆れた顔でピトフーイに言った。
「お前の野生の勘は、一体どうなってるんだよ……」
「え~?愛の力なら当然じゃない?」
「お前の愛は重すぎんぞ……」
「いやぁ、そこまで褒められると、愛を重くしてきた甲斐があったよぉ」
八幡は、そのピトフーイの言葉をスルーした。
ピトは気にした様子も無く、八幡に尋ねた。
「で、今日はシズ達は?」
「今日は別件だ、ついさっき、こっちに帰ってきたんでな、
お前にお土産を渡そうと思って、連絡をとる為にインしてみたんだよ」
「そうなんだ!ありがとう、シャナ!それじゃあどこで待ち合わせにする?」
「お前の都合のいい場所でいいぞ」
「ん~、じゃあまた、ソレイユの前でいいかなぁ?」
「あそこでいいのか?」
「うん、あそこって、実はうちの事務所から近くて都合がいいんだよね」
「そうなのか」
そして時間を決めた二人は、すぐにログアウトした。
「それじゃあ予定を変更して、ついでにソレイユにも寄るか……」
八幡はそう呟くと、必要なお土産をキットに乗せ、最初にダイシーカフェへと向かった。
ダイシーカフェに到着すると、八幡は、入り口のドアを開け、
暇そうにしていたエギルに声を掛けた。
「よぉ」
「おう、八幡じゃねーか、今日はどうしたんだ?」
「何か暇そうだな、エギル。こんなんで経営は大丈夫なのか?」
「まあ、この時間はな、もう少し早いか遅いかすると、かなり混んでるから大丈夫だ」
「それならいいんだが」
そう言って八幡は、エギルに土産を手渡した。
「これ、明日奈が選んだんだが、八ツ橋と、どうやら京都の特産品の詰め合わせらしい」
「お、見た事のない食材が沢山だな、これは料理のし甲斐があるぜ」
「クラインもそろそろ来るはずなんだが……」
丁度その時、入り口から、遼太郎が姿を現した。
「すまん、待たせちまったか?」
「いや、今来たところだ」
「そっかそっか、で、土産をくれるんだっけか?何か気を遣わせてすまないな」
「いや、問題ない、というわけで、これだ」
「こ、これは……」
遼太郎は、八幡の差し出した新撰組の羽織に、目を奪われていた。
「うおお、やっぱり格好いいな、新撰組の、浅葱色のだんだら羽織!」
「お前なら、絶対気に入ってくれると思ってたよ、あとこれ、静先生の分な」
「おお、さすがは良く分かってるじゃねーか、静さんも、絶対気に入ると思うぜ」
「当然だ、お前よりも、あの人との付き合いは長いからな」
「本当にありがとな、八幡!」
「おう、それじゃあ、またALOでな、二人とも。
エギルすまん、注文は、今度時間のある時に、改めてゆっくりとさせてもらう」
「気にすんなって、土産、ありがとな!」
「おう」
そして八幡は、次にソレイユへと向かった。
ピトとの待ち合わせの時間には、まだもう少しあるので、
八幡は先に、材木座達の下へと向かった。
「よぉ」
「あれ、八幡、明日来るのではなかったのか?」
「ちょっと予定が変わってな、ほれ材木座、八ツ橋な」
八幡は、実際のところ、材木座の事をすっかり忘れていたのだが、
明日奈が気をきかせて、多めに八ツ橋を買っていた為、無事に土産を渡す事が出来た。
「アルゴにはこれらしい、猫と鼠の彫り物だそうだ」
「……よくあったな、こんな物」
「鼠のくせに猫っぽい、お前らしいだろ」
「そうだな、有難く飾っておくゾ」
「そして薔薇には、もちろん小猫だ」
「ええ、そうよね、もちろん予想はしてたわよ」
それは、小猫をかたどった、髪留めだった。
「京都の伝統技術で作られたうんぬんの、小猫の髪留めだ。
お前は髪が長いから、まあ有効活用してくれ」
「あ、ありがとう」
「せっかくだから、ハー坊につけてもらったらどうダ?」
「えっ?で、でも……」
「それくらいなら別に構わんが、どこに付けるかとか、俺には分からないぞ」
「そ、それじゃあこの辺りに」
「ここか?」
「え、ええ、そこでいいわ」
薔薇はすぐに鏡に向かい、自分の姿を見て、ニマニマしていた。
八幡は、どうやら気に入ってくれたみたいだなと安堵し、
行く所があるからと、ソレイユを後にした。
そして八幡は、その場で少し待つと、そこに息をきらせて、エルザが走ってきた。
エルザは変装のつもりなのだろう、帽子を目深にかぶり、サングラスをしていた。
「八幡!」
「おう、忙しいところを呼び出してすまないな、今日帰ってきたぞ」
「うん、お帰りなさい!で、お土産って何?」
「これだ」
八幡はそう言って、一枚のDVDを取り出した。
「DVD?」
「ああ、何か京都っぽい物がいいかとも思ったんだが、お前にはこれが一番、
いい土産になると思ったんでな、あっちでの、俺と明日奈の戦いの記録だ」
「おおおおおおお」
エルザは興奮が抑えられないかのように、そう言った。
「忙しいんだろ?詳しい話は、今度それを見た後にでも、
GGOの中なり、現実なりで、話してやるよ」
八幡のその言葉に、エルザは残念そうに言った。
「うん、そうなんだよね、独立に備えて、色々やらないといけない事があってさ……」
「その独立の話なんだが、結城本家との話がついたから、今度倉エージェンシーに、
お前を連れて乗り込むから、その覚悟だけはしておいてくれ。
エムにも、俺から連絡が入り次第、独立話を実行に移せと伝えておいてくれ」
「わっ、そうなんだ!さっすが八幡、私の愛する神!」
「愛するとか神とか簡単に言うんじゃねえよ。ほら、早く仕事に戻れ」
「うん、ごめんね八幡、また今度ね!」
「おう、またな」
そして八幡は、エルザと別れた後、次に学校に向かった。
当然まだ授業中であり、同じクラスの仲間に土産を渡すのは明日にしてあった為、
八幡は、真っ直ぐ理事長室に向かった。
「失礼します」
「あら、八幡君、帰ってきたのね。今日はその報告かしら?」
「いえ、それもあるんですが、これをお土産にと思いまして」
「あら、私に?まあまあ、素敵なかんざしね」
「はい、理事長は、和服でいる事が多いので、これがいいんじゃないかと思って、
ちょっと古めかしい品かもとは思いましたけど、俺が自分で選びました」
「あなたが自分で?そう……どう、似合うかしら?」
「はい、とても」
理事長は、まるで少女のようにはしゃぎながら、
鏡の前で、クルクルと回ると、感極まったように、八幡に抱きついた。
「ちょ、理事長」
「ありがとう八幡君、まさか私までお土産をもらえるなんて、思ってもいなかったわ」
「い、いえ、喜んで頂けて良かったです。学校には、明日から登校しますので」
「分かったわ、そのように伝えておくわね」
そして最後に八幡は、また注目を集めてしまうかと心配しつつも、
詩乃の学校へと向かい、駐車場に車を止め、詩乃が出てくるのを待つ事にした。
一応繰り返しますが、明日は朝8時の投稿を予定しています、ご注意下さい。
そして最後の展開からも分かる通り、明日は詩乃回となります。
タイトルは「この日の放課後、詩乃達は」
第236話と対になる話となります。文字数は、過去最長の8500文字となりました。
分けようかと思ったのですが、年末ですし、まあいかなと思い、そのまま投稿しました。