2018/06/15 句読点や細かい部分を修正
「八幡君、お帰り」
「おう、ただいま、明日奈」
全ての問題を解決し、疲れた体を引きずりながら帰宅した八幡を、明日奈が出迎えた。
明日奈は、もうすっかり比企谷家に馴染んでおり、
周囲の家の者達から、小町や八幡の母は、よくこう言われていた。
「小町ちゃん、素敵なお姉さんが出来て、本当に良かったわね」
「比企谷さん、早く孫の顔が見たくて仕方が無いんじゃない?羨ましいわぁ」
そして明日奈は、作戦の成功を確信しつつも、八幡にこう尋ねた。
「お帰り、どうだった?」
「オールクリアー、もう何も心配は無い」
「そっか、まあ分かってたけどね」
八幡は、明日奈にそう答えると、疲れた顔でソファーに腰を下ろした。
同窓会の日から、エルザの独立を勝ち取るだけのつもりだったのに、
長野から京都を経て、ここまでとんでもなく色々な事があり、
さすがの八幡も、全ての懸案が解決に至った事で安心したせいか、
一気に疲れが押し寄せてきたようだった。
そんな八幡の隣に、当然といった感じで、明日奈が密着して腰を下ろしたのだが、
八幡は、そんな明日奈を何故か遠ざけた。
「明日奈悪い、もう二歩ほど隣に座ってくれ」
「え?あ、うん……」
明日奈はその予想外の言葉に、まさか嫌われた!?と、一瞬目の前が暗くなったが、
次の瞬間に八幡は、明日奈の方に倒れ込み、その膝の上に頭を乗せると、
少し甘えるように頭をごろごろさせた。
明日奈は驚いたが、直ぐに優しい手付きで、八幡の頭を撫で始めた。
「そんなに疲れちゃった?」
「ああ……かなりな」
「やっぱりクラディールのせい?どうだった?前と同じ感じだった?」
その問いに、八幡は、一瞬ビクッとした後、
明日奈の腰に手を回し、そのまま明日奈のお腹に顔を埋めた。
「もう、いきなりどうしたの?」
明日奈は、その八幡の甘えっぷりに、慈愛のこもった口調でそう言った。
それに対しての八幡の答えは、こうだった。
「気持ち悪かった……」
「え?」
「あいつ、前と同じか、それ以上に気持ち悪かったわ……」
「そ、そうなんだ……」
明日奈は、あれ以上?と、当時の事を思い出そうとし、
気持ち悪さを覚え、直ぐに考えるのをやめた。
「やっぱり明日奈を連れていかなくて正解だったわ」
「う、うん、さすがにそれだと、その方が私も助かったかも」
さすがの明日奈も、八幡がそこまで言うからには、
本当にひどかったんだろうなと思い、それに同意した。
「で、結局海外に留学で、穏便に解決?」
「ああ、それな……」
八幡はそう言って、一瞬立ち上がりかけたが、
明日奈と離れるのが惜しかったのか、明日奈の腰に回した右手はそのままに、
左手を明日奈の膝の下に回すと、明日奈の体を、そのまま持ち上げた。
「よっと」
「きゃっ」
八幡は、そのままソファーに座り、明日奈は、八幡に横抱きにされたまま、
八幡の膝の上に座る格好となった。
「い、いきなりどうしたの?」
明日奈は、珍しく積極的な八幡に、ドキドキしながらそう尋ねた。
「実は今日、またクラディールの馬鹿に殺されかけてな」
「ええっ!?」
そして八幡は、何故そうなったかの経緯を、明日奈に説明した。
「あの人は、本当に変わらないんだね……」
「ああ、小猫とは大違いだよな」
「南ともね」
「お、確かにそうだな」
八幡は、そういえば昨日、明日奈が南に会ってたなと思い、
どうだったのか、尋ねる事にした。
「南の様子はどうだった?」
「うん、ハッキリとした目標が出来たせいか、
毎日張りがあって、すごく充実してるみたいだよ」
「そうか」
八幡はそれを聞いて、満足そうに頷いた。
「あいつも本当に変わったんだな。でもまあ、変わらなくていいものだってあるだろ?」
そう言って八幡は、明日奈を抱き寄せた。
「あっ」
「これから何年たっても、俺と明日奈はこうして一緒にいる、それはずっと変わらない」
「う、うん、そうだね」
「要するに、それが言いたかったから、今日はたまたまこうしてみたってだけなんだけどな」
その八幡の説明に、明日奈はもじもじしながら言った。
「べ、別に毎日でも、私は気にしないというか、むしろその方がいいと言うか……」
その明日奈のかわいいお願いを聞いた八幡は、顔を赤くし、
恥ずかしいのを誤魔化すように言った。
「ま、まあたまにな」
「う、うん、そうだね、た、たまにね」
そして二人は、軽くキスを交わし、八幡は、真っ赤になった顔を見られないように、
明日奈の顔を、自分の胸に抱きながら、説明を続けた。
「でな、倉社長は、警察に訴えるって言ったんだが、
俺が追い込んだ面も確かにあるから、それはちょっと気が引けてな、
結局、被害届とかは出さず、じじいに丸投げする事にしたわ」
「えっ?じじいって、もしかして、大叔父様?って事はまさか、結城塾?」
「おお、そのまさかだな。あのじじい、話をしたら、特別コースにするとか言い出してな、
クラディールは結局、結城塾に三年通う事になるそうだ」
「あ、あれを三年……」
明日奈は、帰りの新幹線の中で見せてもらった、結城塾のカリキュラムを思い出しながら、
戦慄したようにそう言った。
「まあ、あいつにとっては、本当に真人間になるラストチャンスだな」
「さすがにあの人も、これで変わるかな?」
「案外何年か後には、出家してたりな」
「ええ~?そんなのまったく想像出来ないよ」
「ははっ、まあ、俺もだ」
そして二人が、再びキスをしようとした瞬間、二階でバタンとドアの音がして、
小町が、慌てた様子で、階段をドタドタと駆け下りてきた。
「お、お兄ちゃん、帰ってたんだね、大変な……の……あっ」
そこで小町は、八幡の頭の向こうに隠れて見えなかった明日奈に気が付き、
状況を一瞬で把握すると、ニヤニヤしながら二人にこう言った。
「ああっと、これはこれは、失礼しましたぁ、
小町ももうすぐおばさんかぁ、それじゃあごゆっくり~!」
明日奈はその言葉の意味を理解すると、慌てて八幡の上から下り、
ソファーから身を乗り出すと、小町に向かって手を伸ばしながら言った。
「ま、待って小町ちゃん、今はそこまではしてないから!」
「い・ま・は?」
「あっ」
小町は、してやったりという顔でそう言い、明日奈は顔を赤くした。
そんな二人に、八幡は、平然とした顔で言った。
「お義姉ちゃんをあんまりからかうなよ、小町。で、何かあったのか?」
そんな八幡に、小町は悔しそうに言った。
「うう、お兄ちゃんがまったく動じてないなんて、何か悔しい……」
実はそれは、八幡が最近装備を完了した、強化外骨格を活用しただけであって、
実際の所八幡は、かなり恥ずかしい思いをしていたのだが、
幸いそれは、小町には気付かれなかった。
そして小町は八幡に、第二回BoBが、一ヶ月後に行われる事を報告した。
「なるほど、ついにか」
「うん、ついさっき発表されたみたい。
それじゃあ小町、シノのんを待たせてるから、一度あっちに戻るね!」
「ん~、それじゃあ俺達も、ちょっとインしてみるか?」
「そうだね、そうしよっか」
そして三人は、それぞれの部屋に向かい、GGOへとログインした。
さすがにピトフーイの姿は無く、シャナは安堵すると、
事前に相談していた通り、拠点へと向かった。
「シャナ!」
「おうシノン、やっぱりお前、BoBに出るのか?」
「うん、目標にしてたしね、ってもしかしてその言い方だと、シャナは出ないの?」
「そうだな……実はちょっと、大会中にやっておきたい事があるんだよな」
「へぇ~、何をするの?」
「実はちょっと、酒場のモニター周辺で監視をな」
「監視?」
シャナは、今回のクラディールの一件で、ラフコフの情報がまったく得られなかった事に、
内心少し落胆していた為、BoBの開催中は、怪しい者がいないか見極める為に、
BoBの実況が行われる予定の、ゲーム内の酒場で、
それっぽい者がいないか、監視を行う事にしたのだった。
「そっかぁ、残念だけど、それじゃあ仕方ないね」
「サトライザーが出るってなら、俺も出る気になったかもしれないけどな、
おそらくあいつは出てこないだろうから、本来の目的に戻ろうかと思ってな。
まあ見つかるかどうかは分からないが、他に手も無いしな」
「じゃあ、私も付き合うよ。他にラフコフの事を知ってるのは、
私と、後はロザリアさんくらいだしね」
シズカのその言葉に、シャナは、そういえばと思い、ロザリアを呼び出す事にした。
幸いロザリアもインしており、ロザリアは、呼び出しを受け、すぐに拠点に顔を出した。
そして到着したロザリアの横には、何故かピトフーイがいた。
「何だ、ピトも来たのか」
「うん、シャナの匂いがしたから、こっちに向かってたら、偶然ロザリアちゃんに会ってね」
「相変わらず化け物だなお前……だから褒めすぎだってぇ」
「だから褒め……って、先回りされた!?」
「お前はワンパターンなんだよ、もっと工夫しろ、工夫」
「うぅ……何か悔しい……」
そしてシャナは、ロザリアに、監視の手伝いをするように依頼した。
「分かりました、お手伝いします。後、報告したい事が……」
「お前、いい加減この拠点にいる時は、普通に話していいって」
「分かったわ、で、報告なんだけど、第二回BoBの開催が発表されてから、
ゼクシード一派が、変な噂を流してるのよ」
「噂?どんなだ?」
「それがね、AGI特化型が最強って、事あるごとに、触れ回ってるみたいなのよ」
「あん?」
シャナはその意図が分からず、何かあるのかと考えたが、にわかに答えは出ない。
そんな八幡に、ベンケイが尋ねた。
「お兄ちゃん、実際の所、それってどうなの?」
「そうだな……」
シャナは、少し考えた後、こう答えた。
「例えばシズやケイは、安定した速度を誇る、STR-AGI型だろ?」
「うん」
「対して俺やシノンやピトは、完全なSTR型だ。
戦闘時の速度は、個人の瞬発力に依存する事になる。
俺もシズカも、SAOではほぼAGI全振りだったが、
GGOでは、どちらもAGI特化にはしていない、それは何故か」
「何故か!それは当然アレのせい!」
ピトフーイがそう合いの手を入れ、シャナは、ピトフーイに頷きながら言った。
「そう、どれくらい荷物を持てるかが、STRに依存しているからだ。
ついでに性能のいい銃が持てるかどうかもな。
これはこのゲームの、欠点と言えなくもない。何故なら、全振りする場合に、
STR以外の選択肢をとれないからだ。もしAGIなんぞに全振りするとしたら、
その場合は、必ず頼りになる仲間の存在が、不可欠となる。
まあ、戦闘にそこまで支障があるかといえば、普段はそうでもないが、
こういった大会だと、相手の装備に押される可能性や、弾切れを起こす危険性は否めない」
「なるほど!」
「特に俺とシノンは、STRに全振りしないと、
M82やヘカートIIを運用するのは不可能だ、ピトは知らん」
「私は色々な武器をとっかえひっかえするタイプだから!」
「なるほどな、そういう事だったか」
「うん!」
「それなら確かに、他の選択肢はとれないな」
シャナは納得したように頷くと、更に説明を続けた。
「つまり、AGIに全振りさせようとするという事は……ああ、そうか」
「理由が分かった?」
「ああ、他のプレイヤーを、少しでも弱体させようとする、あいつの涙ぐましい努力だな」
「ああっ!」
「うわ、小物感が凄いね……」
「さっすがゼクシード、小物界の大物!」
「まあそんな訳で、だまされる奴もいるだろうが、俺達には関係ない」
「なるほど、そういう……」
シャナはそう結論付け、ロザリアはその説明に納得した。
「それじゃあ、とりあえずそれについては、ほっとけばいいのね」
「ああ、問題無い。今まで通り、なんとなくその動向に注意する程度でいい」
「了解よ」
そして次にピトフーイが、シャナに尋ねた。
「ところでシャナは、もちろんBoBには出るんでしょ?」
「ああ、ピトはさっきいなかったか、俺は出ないぞ」
「え~?何で?」
そしてシャナは、ピトフーイに、先ほどと同じ説明をした。
「なるほどねぇ、じゃあシズとケイは?」
「私はシャナと一緒に監視かな、
私とロザリアさんしか、直接あいつらの事を知っている人がいないしね」
「私はパスですかね、さすがにそういう大会に出て、一人で勝ち進む自信はまだちょっと」
「と、いう事は……」
ピトフーイは、シノンと向かい合い、ニヤリとしながら言った。
「私とシノノンの一騎打ちって事になるね」
「そうね、一撃でピトの頭を撃ち抜いてあげるわ」
「ふ~ん、出来るのかなぁ?」
「お前ら、ガチでやり合うのは別にいいが、遺恨は残すなよ」
シャナがそう言いながら、二人の間に入った。
それを聞いたピトフーイは、何か考え込んでいたが、やがて何か思いついたのか、
うんうんと頷きながら、シノンにこう提案した。
「それじゃシノノン、何か賭けよっか!」
「何を?」
「う~ん、シズ、何か無い?」
急に話を振られたシズカは、二人の顔を見て、少し考えたかと思うと、こんな提案をした。
「それじゃあ、勝った方が、シャナとデートしてもらえるってのは?」
「お、おい、シズ……」
「え?」
「い、いいの?」
「まあ、それで二人が勝ち進めるなら、いいんじゃない?」
「お、おい、俺の意思は……」
そんなシャナを無視し、ピトフ-イは、嬉しそうに言った。
「さっすが正妻、太っ腹!シノノンもそれでいい?」
「べ、別に私は、デートなんか……」
「じゃあ、私の不戦勝でいいの?」
「う、それは……」
「どっち?」
ニヤニヤ顔のピトフーイにそう言われ、シノンは、シャナの顔をちらりと見た後、
何かを決断した顔をし、思い切ってこう言った。
「分かったわ、受けてたつ」
「さっすがシノノン、女前!」
「女前……?」
「男前の女版!」
「ああ……」
シノンは、呆れた顔でピトフーイを見た後、腕組みをし、ニヤリとしながら言った。
「やるからには、絶対に負けないわよ」
「おっ、シャナとのデートは自分の物宣言?」
「そうとってもらって構わないわ」
「おお、言うねぇ……でもシャナとのデートは、私がもらうよ」
「そう上手くいくかしらね」
「それはこっちのセリフ」
そして二人は、顔をつき合わせ、にらみ合った。
「おおっ、またしても、お兄ちゃんを争う女同士の修羅場!しかもお義姉ちゃん公認!」
「……シズカ、いいのか?」
「うん、だって、これから何年たっても、私とシャナはずっと一緒なんでしょ?」
「……まあ、それもそうだな」
「うん!」
こうして第二回BoBに向けての、シノンとピトフーイの戦いの幕は、切って落とされた。
一方その頃ゼクシードは、ユッコとハルカと共に、
着々と第二回BoBに向けての布石を打っていた。
「ユッコ、ハルカ、どうだ?」
「ゼクシードさん、どうやら私達の流した噂は、順調に広がってるみたいです」
「そうかそうか、この調子で、どんどん噂を広めてくれ」
「はい、これで大会は、ゼクシードさんのものですね!」
自分を鍛える前に、こういう手段に出た事が、彼の運命をどう左右するのか、
この噂の結果がどうなるかは、神のみぞ知る。
明日までは、8:00に投稿します。
明後日から、また12:00投稿に戻る予定です。