ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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微妙に時期がずれてしまいましたが、クリスマス絡みの話になります。
しかしながら、ここからは、本編絡みの話が続いていく事になる予定です。
そして三が日も過ぎた為、明日から投稿時間をお昼12:00に戻そうと思います。
連続投稿は途切れないように頑張りますので、今後とも、宜しくお願いします。

2018/06/15 句読点や細かい部分を修正



第270話 クリスマスに向けて

 それから数日後、八幡の下に、薔薇から連絡が入った。

 

「クリスマスイベント?ヴァルハラのイベントなら、ALO内で、二十四日の夜だよな?」

「私が言ってるのは、GGOで開催される、公式イベントの事。

どうやら、二十三日の午後から、GGOで、

『機甲獣トナカイハント』なるイベントが開催されるらしいわ」

「何だそのセンスの無いネーミングは……二十三日なのは、休日だからか。で、内容は?」

「走り回る巨大なトナカイに、六人一組で挑んで、倒すまでのタイムを競うものらしいわ。

今参考動画を送るから、見てみて」

「ほう?」

 

 そして八幡は、送られてきた動画を見て、絶句した。

 

「何だこの、アメコミ調の、サンタの顔をしたトナカイは……」

「まあ、日本人向けの外見じゃない事は確かね」

「もう少しデフォルメするとかしろよな……」

 

 八幡はため息をつくと、改めてイベントのルールを確認した。

 

「総合タイムが一番短いチームが一位となって、景品群から一人一つ、何か選べるのか。

上位十チームまで景品がもらえて、一度選ばれた商品は、次の奴は選べなくなると。

後は、敵に当てた弾の数が一番多いチームと、被ダメージが一番少ないチームに、

追加で選択権がもらえるのか、って事は、総取り出来れば、八種類だな。

お、参加賞扱いで、倒した時間に反比例して大量の経験値までもらえるのか」

「そう、だから私より、駒央君に参加してもらうのがいいわね」

「そうだな、悪いな、薔薇」

「ううん、私は密偵だから、レベルは特に必要とはしていないしね」

 

 そしてルールを確認した後、二人は、動画から得られた情報を確認し始めた。

 

「この動画を見ると、敵の速度はかなりのものね」

「動画で攻撃に使ってる銃のランクを見ると、装甲もかなり頑丈に見えるな」

「まるで装甲車を相手にしてるみたいよね」

「武器は特に制限無し、ただし特殊な弾や、罠の使用は禁止か、ふむ……」

 

 八幡は、少し考え込んだ後、ロザリアに言った。

 

「よし、参加だ、悪いがシノンとピトに、今夜集まるように連絡を頼む」

「了解」

 

 そして八幡は、その日の夜、集まった仲間達に、クリスマスイベントの事を説明した。

 

「何それ、面白そう」

「やるからには、一位を取りたいわよね」

「景品はっと……目玉はこの銃なのかな?シャナならどれを選ぶ?」

「俺はこれかこれ、もしくはこれだな」

 

 そう言ってシャナが指差したのは、何に使うか分からない、

用途不明な怪しげなアイテムだった。

 

「何これ?」

「多分、何かの素材だな。イコマ、これらのアイテムについて、詳しく分かるか?」

「その辺りのアイテムは、全部武器や防具の素材ですね、

まだ僕の実力だと、作れない物の方が多いですが、いくつかは、用途も分かります」

「だ、そうだ」

「おお、これは期待が持てますねぇ」

「この宇宙船の装甲板って、何?」

「それはかなり硬度の高い、万能素材ですね、主に防具に使うみたいですけど、

防御力が半端なく凄いみたいです」

「それってチート?」

「まあ、そんな感じですね」

 

 イコマは苦笑しながら、そう答えた。

 

「それなら、事前に決めておいて、良さそうな素材を全部掻っ攫うのが良さそうだな。

幸い金には困ってないし、銃も、イコマがいずれ、もっといい物を作ってくれるだろう」

「そうだね、それがいいかもしれないね」

「頑張ろう!」

「で、でも、それなら僕が出るより、ロザリアさんが出た方がいいような……」

「大丈夫、作戦は考えてある」

「作戦?」

 

 そしてシャナは、動画を見ながら考えた作戦を、仲間達に説明した。

 

「これなら僕でも大丈夫そうですけど、でも……」

「……え、本当に?」

「シャナとシノノン次第って事になるけど……」

「シノノン、大丈夫?」

「そうね……」

 

 シノンは、その提示された作戦案を前に、腕組みをしながら、難しい顔をした。

そんなシノンに、シャナは、自信たっぷりに言った。

 

「お前ならこんなのちょろいだろ、余裕だ、余裕」

「……シャナはそう思うの?」

「ああ、そのヘカートIIを手に入れた時より、ずっと楽じゃないか。

どうだ?出来るよな?シノン」

 

 シノンは、その言葉を受け、あの時の事を思い出していた。

シャナの歌うジングルベルが、シノンの脳裏に蘇り、

シノンは、力強い声でシャナに答えた。

 

「誰に物を言ってるの?出来るに決まってるじゃない」

「おう、だよな」

「おお、シノノンが急に強気に……」

「やばい、格好いい!」

「私は最初から、出来るって思ってたけどね」

「お二人の銃は、僕が完璧に整備しますね!」

 

 そしてシズカが、こんな提案をした。

 

「それじゃあ二十三日の夜、祝勝会も兼ねて、軽いクリスマスパーティーでもする?」

「もう勝つ事は決定してるんだ……でもまあ、賛成」

「私も賛成です!」

「二十三日……うん、大丈夫、エムに言って絶対空けさせるから」

「私もその日なら大丈夫よ」

「僕はちょっと……」

 

 イコマのその言葉に、シズカはハッとした顔で言った。

 

「あ、そっか、それだとイコマ君が無理か」

「あ、いや、その日の夜は僕、ちょっと眠りの森にお呼ばれしてまして……」

「あーそっか、うん、楓ちゃんに宜しくね」

「そうか、頼むぞイコマ」

「はい、もちろんです!」

 

 シノンとピトフーイは、その耳慣れない用語と名前に反応し、シズカに質問した。

 

「眠りの森って何の事?」

「楓ちゃんって?」

「あ、えっとね……」

 

 シズカが二人に説明している間、シャナはイコマに、そっと耳打ちした。

 

「イコマ、眠りの森にな、楓用のプレゼントを送ってあるんだが、

その中に、別の包みが一つ入ってるから、それをアイとユウって双子に渡してくれないか?」

「そうなんですか、分かりました、必ず届けますね」

 

 そしてシズカから説明を聞いた二人は、納得したようで、

パーティーパーティーと、盛り上がっているようだった。

その二人が、たまにシャナに注ぐ視線には、尊敬の光が混じっていた為、

シャナは決まりが悪そうに、目を合わさないようにしていた。

 

「プレゼントとかは、どうしよっか?」

「う~ん、この前お土産をもらっちゃったばっかりだしなぁ」

「そうよね……」

「あ、それじゃあ、私が景品を用意しますから、何かゲームでもしますか!」

「賛成!って、ケイ、景品って?」

「それは当てがあるから心配しないで下さい、私の懐は、痛みません」

「それならいいけど、じゃあそうする?」

「それでいいんじゃないか?」

「じゃあ、準備はお任せを!」

 

 こうして、今後の予定も決まった所で、この日は解散する事になったのだが、

帰り際、シャナが、シノンとピトフーイにこう言った。

 

「二人とも、大会じゃ直接対決する事になるんだし、

気軽に野良パーティにも参加して、お互い手の内を見せないように、

色々と鍛えておいた方がいいぞ」

「あ、うん」

「うん、たまにはそれもいいかもね!でも、私と組んでくれる人なんて、いるかなあ?」

「その時はまあ、エムを連れていけばいい」

「そっか、そうだね!」

「それじゃあ俺は、イコマと工房でちょっと話してから落ちるから、またな」

「うん、またね、シャナ」

「またね」

 

 シズカとベンケイは、どうやら先に落ちたようで、

シノンとピトフーイは、拠点を出ると、並んで歩き始めた。

 

「ねぇシノノン、さっきはああいう話になったけど、シャナにさ、何かプレゼント、する?」

「そうねぇ……でも、ああいう話の流れになったのに、受け取ってくれるかな?」

「でも、あげちゃだめとも言ってなかったよね?」

「あ……確かに」

「今度シズに会った時、許可がとれたらオッケーかな?」

「そうだね、話は通しておいた方がいいかもね」

「それじゃあ、どっちかが話せたら、お互い連絡するって事で」

「オーケー、そうしましょっか」

 

 そして二人はそのまま別れ、ピトフーイは、どこへともなく去っていき、

シノンは、以前たまり場として利用していた酒場に、久しぶりに足を向けた。

シノンが酒場のドアを潜ると、それを目ざとく見付けたシュピーゲルが、声を掛けてきた。

 

「シノン、随分久しぶりだね、色々忙しいの?」

 

 シノンは、そういえば最近まったくシュピーゲルと話していなかったなと思い、

野良パーティに参加するにしても、多少気心の知れた相手がいた方がいいかなと、

大会までは、ちょこちょここっちにも顔を出す事にしようと考えた。

 

「うん、まあ、色々とね。ところでシュピーゲルは、BoBに出るの?」

「うん、一応その予定、シノンは?」

「私も出るつもりよ、あれに優勝する事が、目標だったしね」

「そっかぁ、それじゃあこれから一緒に、ちょっと狩りにでも行く?」

 

 シュピーゲルは、その言葉に、二人きりで、という意味を込めたつもりだったのだが、

シノンはそれに対し、あっさりとこう言った。

 

「別にいいわよ、どこか募集をかけてるパーティとかある?」

 

 シュピーゲルは、その言葉を残念に思いながらも、

まあ仕方ないかと思い、こう返事をした。

 

「待ってて、知り合いに声を掛けてみる」

「うん」

 

 そしてシュピーゲルは、知り合いなのだろう、他のプレイヤーに声を掛け始め、

その間にシノンは、酒場から個人ロッカーにアクセスし、そこにヘカートIIを収納した。

 

(野良だし、知っている人が一緒ならともかく、

ニュービーと一緒になって、何か事故があって、これを失うのは嫌だしね)

 

 そしてシノンは、元の場所に戻り、壁に寄りかかると、

目を閉じて、シュピーゲルが戻ってくるのを待った。

しばらくして、シュピーゲルが、一人のプレイヤーを伴って戻ってきた。

そのプレイヤーは、シノンを見て驚いた表情をしたのだが、

直ぐに気を取り直し、シノンに自己紹介をした。

 

「俺はダインだ、宜しくな、え~と、シノン、だったか?」

「あれ、ダインさん、シノンの事知ってるの?」

 

 そうシュピーゲルに問われたダインは、一瞬変な顔をした。

シュピーゲルは、何だろうと怪訝な表情をしたが、

ダインは、何か納得したような顔で、こう言った。

 

「ああ、まあ名前くらいはな」

「そっか、まあシノンも結構長くやってるし、そういう事もあるかな」

 

 実際の所、ダインは、シノンがシャナやシズカ達と一緒に、

ゼクシードと睨み合った動画を見て、シノンの事を知っていたのだが、

まあ動画とかを見ない層もいるよなと思い、そう無難な返事をしたのだった。

ダインは、わざわざ動画の事を説明するのもシノンに失礼だろうと思い、

そのまま特に、説明を加えたりはしなかったが、

シノンはダインが自分の事を知っていた理由を何となく悟り、

少し恥ずかしく思いながらも、相手が何も言おうとしない事に、感謝していた。

そしてダイン達と共に、久しぶりにシノンは、野良パーティで思いっきり暴れた。

シノンのレベルは、以前よりも格段に上がっており、

その実力は、例えヘカートIIが無くとも、群を抜いていた。

その事を、一番実感していたのは、シュピーゲルだった。

シュピ-ゲルは、このシノンの変化に戸惑いつつも、

自分の実力が、明らかにシノンより下な事を悔しく思い、

狩りが終わり、シノンと別れた後、ぼそっと呟いた。

 

「くそ……このままじゃ駄目だ、どうすればいい……

そうだ、この前噂になってたっけ、あれはそう、AGIだ、もっとAGIを上げないと……」

 

 こうしてシュピーゲルは、AGI特化への道を、突き進む事となったのだった。




明日から投稿時間がお昼12:00に戻ります、ご注意下さい!
次回『いくら光が大きくとも』クリスマスイベントの話ですが……

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