ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第027話 驚愕の変化

 無事にボス戦を終えた一行は、四層への階段を上り始めた。

 

「キリト、次の層ってどんな所か聞いてもいいか?」

「確か、何も無い乾いた層だったかな。店とかは全部高層フロアにある、

遺跡っぽいエリアだったと思う」

「そうなんだ。なんか埃っぽそうな所だね」

 

 そんな事を話しながら階段を上っていくと、

どうやらまもなく四層に到着するようだ。

前方から、歓声が聞こえ、皆走り出しているようだ。

四人も釣られて走り出し、ついに四層に到着したのだが……

 

「なんだこれ……」

 

 キリトは呆然として呟いた。

そこに広がるのは、一面の水、水、水であった。

 

「店が高い所にあるってこのためか……」

「つまりどういうこと?」

「βテストの時は、これを見据えてマップを作ってたけど、

水に関するプログラムが間に合わなかったとかかもしれないな」

「なるほど」

 

 その時ネズハが素朴な疑問を発した。

 

「ここ、島みたいですけど、どうやってこの川を越えるんですかね」

 

 四人はそれを聞いて考え込んでしまった。

周囲からも、辺りを調べろ!何かあるはずだ!という声が聞こえる。

四人も協力して周辺を調べる事にした。

 

「キリト、βの時は無かったものって何か無いのか?」

「うーん、この木くらいかな……」

「これか?」

 

 その木は、ドーナツ型の実が生っている、ヤシの木に似た木であった。

ドーナツのような実を眺めていた二人は、何かひらめいたようだ。

 

「もしかしてこれ」

「浮き輪か?」

 

 試しに実を落としてみた二人は、とりあえず使えるか試してみる事にした。

 

「これ、装備が重いと沈んだりとか、あるか?」

「どうだろう……」

「よし、まずは俺が水着で試してみる」

「ハチマン水着なんか持ってるのか……」

「ああ。エルフの野営地で売ってたから、怪しいと思って買っといたんだよ」

「なるほどな」

「キリト、離すなよ!絶対離すなよ!」

「フリか」

 

 ハチマンは装備を水着に変え、実を浮き輪のように使い、水に入ってみた。

どうやら問題なく浮くようだ。

ハチマンはその状態で、徐々に装備を増やしていったが、

どうやらかなりの重さにまで耐えられるようだった。

その情報を周囲に広め、一行は川を渡り始めた。

誰かが欲張って、実を大量に採取していたようだったが、問題なく全員に渡ったようだ。

途中何度かモンスターに襲われそうになったが、全てネズハがチャクラムで処理した。

 

「ネズハ、ここの敵と相性いいんじゃないか?」

「なんかそうみたいです!」

 

 そして川を渡りきった一行は、そのまま街へと向かい始めた。

第四層の主街区は、ロービアという名前のようだ。

そこでレイドは解散となり、いい時間だった事もあってか、とりあえず宿に戻る事になった。

キリトは四層で宿を探し、ネズハは一度ブレイブスの仲間の元へと戻るようだ。

アスナは、風呂に入りたいから少し遠いが一層まで戻ると言った。

ハチマンは、少しだけ街を見てみると言って、四層の街中に消えていった。

少したった後、ハチマンはアルゴに、とある情報を渡した。

 

 

 

 次の日、四人にアルゴを加えた面々は、四層の転移門前に集合していた。

 

「それじゃとりあえずクエスト関連から探索してみるか?」

 

 キリトの提案に従い、五人は分かれてクエストを探す事になった。

情報は全てアルゴに集約し、

もし何か変わった情報があった場合は、全員に連絡が行く手はずとなった。

四人は散っていこうとしたが、アルゴがアスナを呼びとめた。

 

「そうだアーちゃん。昨日、この層の風呂付き物件の情報が入ったんだが、買うカ?」

「買う!一層まで毎回戻るの、ちょっと不便だなって思ってたしね」

 

 アスナは即答した。

アルゴはハチマンの方を向き、にや~っと嫌らしい笑顔を浮かべた。

アスナはそれに気付いてはいないようだった。ハチマンはスルーしていた。

 

「それじゃ、オレっちが現地に案内するヨ」

 

 そう言ってアルゴは、アスナを先導して歩き始めた。

 

「それじゃ俺達は行くか」

「わかりました!」

「また後で落ち合おう」

 

 街中には、縦横無尽に水路が走っていた。

各自定期便のゴンドラ等も利用して、水路の分街の面積が狭い事もあり、

数時間で大体の情報が集まったようだ。

そしてアルゴから皆に呼び出しがかかったので、転移門前に再び集合する事となった。

 

「大体こんな感じだな」

 

 アルゴがマップに手書きで【!】マークを入れた。

 

「ちょっとそれ、見せてくれないか、アルゴ」

 

 キリトが何かに気付いたように身を乗り出し、マップの一点を指差した。

 

「これはβ時代には無かったクエのはずだ。多分ここに何かあると思う」

 

 その言葉を聞き、一行はまずそこに向かう事になった。

アルゴはガイドブックを製作しなくてはいけないからと、別行動になった。

四人が現地に到着すると、そこには寂れた小屋の中に一人の老人がいた。

四人はクエストを受けようと、何かお困りですか?等色々と声を掛けたが、

その老人、ロモロはまったく反応をしなかった。

 

「うーん、頭に【!】があるからクエには間違いないはずなんだけどな……」

「最初に掛ける声の内容が違うのかな?」

「よし、ちょっと小屋の中を調べてみるか」

 

 四人は小屋の中を調べ始めたが、

見つけられたのは、変な形のネジと、いくつかの工具だけだった。

 

「このネジなんだろう」

「うーん」

「ちょっと根本から考え直してみるか」

「フロアが変化した事で、追加される要素…水路…」

 

 その時キリトが、何か天啓を得たように叫んだ。

 

「そうだ!船だよ!船が無いとこの層の移動はめんどくさすぎる」

 

 おおっ、と三人が声をあげ、キリトはロモロに声をかけた。

 

「私達に船を造ってもらえませんか?」

 

 その声と共に、ロモロの頭の上のマークが【?】に変化した。どうやら正解だったようだ。

その後ロモロから船の材料と仕様を聞き、

キャンペーンが別な関係で二手に分かれる事を考慮して、

二人乗りの船を二隻造る事に決めた一行は、材料集めを開始した。

基本ロモロの指示通りに動けばいいので、それほど大変では無かったが、

最後のアイテムが、やや難関であった。

 

「あれを倒すのか……」

「でかいな……」

 

 最後のアイテムを持っているのは、巨大なクマ型モンスターだった。

名を、マグナテリウムと言った。

 

「なんか絶滅動物でそんな名前のがいた気がするな」

「動きは遅そうだけど、パワーはすごそうだね」

「とりあえずネズハの遠隔攻撃から開始だな」

「はいっ」

 

 マグナテリウムは基本、突進突進で攻撃してくるタイプだったようで、

生えている木を盾にしながら戦闘は終始有利に進んだ。

一匹倒すと複数個必要アイテムをドロップしたので、

余った分は、ブレイブス専用の船のためネズハに一つと、

後は適当に知り合いに配る事にした。

戦闘で発生した倒木の影に隠れた時、その倒木も素材扱いだという事が判明していたので、

一行はついでにその倒木をストレージに入れ、ロモロの元に戻った。

 

「どうやら船は一隻づつしか造れないみたいだな」

「それじゃ発見したキリトとネズハの船を先に造ろうぜ」

「おっけー、それじゃ終わったら連絡するよ。多分数時間だと思うし」

 

 予定が決まったため、そこで一旦解散となった。

三時間後、キリトから連絡が入ったので、

次はハチマンとアスナの船の製作に入る事となった。

その際、倒木が、船首に付ける、衝角というオプション武器になるから付けた方がいいと、

キリトからアドバイスがあった。

キリトとネズハは先行して、キャンペーンクエストの続きを探すようだ。

二人は製作を依頼し、その場で休憩する事にした。

 

 

 

 そして三時間後、ついに船が完成した。

どうやら名前を付けなくてはいけないらしく、二人は悩んだが、

アスナの武器にちなんでシバルリー号にしようという事になった。

 

「これ、自分達で操作するのかな?」

「って事は、実質三人乗れるのか」

「まあ、キズメルにも乗ってもらう事になるかもしれないし、ちょうどいいかな?」

 

 交互に練習し、船の操作にも習熟したため、二人も探索に出る事になった。

その日は特に情報もなく、二人は宿に戻る事にした。

 

「ハチマン君も四層に移動すれば?」

「そうだな、ちょっと遠いしな」

「うん!お風呂のある宿も確保できたから、リズもこっちに呼ぼうかな」

「それがいいんじゃないか。移動だけならこの船に三人乗れるから、問題ないしな」

 

 その後二人は別れ、ハチマンも近場で適当な宿を見つけ、そこに転がり込んだ。

どうやら他のプレイヤーの間では、造船ラッシュが始まっているようだ。

中型船や大型船も製作されているという。

移動が楽になる分攻略自体は早まるかもしれないなと思いつつ、ハチマンは眠りについた。


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