無事にボス戦を終えた一行は、四層への階段を上り始めた。
「キリト、次の層ってどんな所か聞いてもいいか?」
「確か、何も無い乾いた層だったかな。店とかは全部高層フロアにある、
遺跡っぽいエリアだったと思う」
「そうなんだ。なんか埃っぽそうな所だね」
そんな事を話しながら階段を上っていくと、
どうやらまもなく四層に到着するようだ。
前方から、歓声が聞こえ、皆走り出しているようだ。
四人も釣られて走り出し、ついに四層に到着したのだが……
「なんだこれ……」
キリトは呆然として呟いた。
そこに広がるのは、一面の水、水、水であった。
「店が高い所にあるってこのためか……」
「つまりどういうこと?」
「βテストの時は、これを見据えてマップを作ってたけど、
水に関するプログラムが間に合わなかったとかかもしれないな」
「なるほど」
その時ネズハが素朴な疑問を発した。
「ここ、島みたいですけど、どうやってこの川を越えるんですかね」
四人はそれを聞いて考え込んでしまった。
周囲からも、辺りを調べろ!何かあるはずだ!という声が聞こえる。
四人も協力して周辺を調べる事にした。
「キリト、βの時は無かったものって何か無いのか?」
「うーん、この木くらいかな……」
「これか?」
その木は、ドーナツ型の実が生っている、ヤシの木に似た木であった。
ドーナツのような実を眺めていた二人は、何かひらめいたようだ。
「もしかしてこれ」
「浮き輪か?」
試しに実を落としてみた二人は、とりあえず使えるか試してみる事にした。
「これ、装備が重いと沈んだりとか、あるか?」
「どうだろう……」
「よし、まずは俺が水着で試してみる」
「ハチマン水着なんか持ってるのか……」
「ああ。エルフの野営地で売ってたから、怪しいと思って買っといたんだよ」
「なるほどな」
「キリト、離すなよ!絶対離すなよ!」
「フリか」
ハチマンは装備を水着に変え、実を浮き輪のように使い、水に入ってみた。
どうやら問題なく浮くようだ。
ハチマンはその状態で、徐々に装備を増やしていったが、
どうやらかなりの重さにまで耐えられるようだった。
その情報を周囲に広め、一行は川を渡り始めた。
誰かが欲張って、実を大量に採取していたようだったが、問題なく全員に渡ったようだ。
途中何度かモンスターに襲われそうになったが、全てネズハがチャクラムで処理した。
「ネズハ、ここの敵と相性いいんじゃないか?」
「なんかそうみたいです!」
そして川を渡りきった一行は、そのまま街へと向かい始めた。
第四層の主街区は、ロービアという名前のようだ。
そこでレイドは解散となり、いい時間だった事もあってか、とりあえず宿に戻る事になった。
キリトは四層で宿を探し、ネズハは一度ブレイブスの仲間の元へと戻るようだ。
アスナは、風呂に入りたいから少し遠いが一層まで戻ると言った。
ハチマンは、少しだけ街を見てみると言って、四層の街中に消えていった。
少したった後、ハチマンはアルゴに、とある情報を渡した。
次の日、四人にアルゴを加えた面々は、四層の転移門前に集合していた。
「それじゃとりあえずクエスト関連から探索してみるか?」
キリトの提案に従い、五人は分かれてクエストを探す事になった。
情報は全てアルゴに集約し、
もし何か変わった情報があった場合は、全員に連絡が行く手はずとなった。
四人は散っていこうとしたが、アルゴがアスナを呼びとめた。
「そうだアーちゃん。昨日、この層の風呂付き物件の情報が入ったんだが、買うカ?」
「買う!一層まで毎回戻るの、ちょっと不便だなって思ってたしね」
アスナは即答した。
アルゴはハチマンの方を向き、にや~っと嫌らしい笑顔を浮かべた。
アスナはそれに気付いてはいないようだった。ハチマンはスルーしていた。
「それじゃ、オレっちが現地に案内するヨ」
そう言ってアルゴは、アスナを先導して歩き始めた。
「それじゃ俺達は行くか」
「わかりました!」
「また後で落ち合おう」
街中には、縦横無尽に水路が走っていた。
各自定期便のゴンドラ等も利用して、水路の分街の面積が狭い事もあり、
数時間で大体の情報が集まったようだ。
そしてアルゴから皆に呼び出しがかかったので、転移門前に再び集合する事となった。
「大体こんな感じだな」
アルゴがマップに手書きで【!】マークを入れた。
「ちょっとそれ、見せてくれないか、アルゴ」
キリトが何かに気付いたように身を乗り出し、マップの一点を指差した。
「これはβ時代には無かったクエのはずだ。多分ここに何かあると思う」
その言葉を聞き、一行はまずそこに向かう事になった。
アルゴはガイドブックを製作しなくてはいけないからと、別行動になった。
四人が現地に到着すると、そこには寂れた小屋の中に一人の老人がいた。
四人はクエストを受けようと、何かお困りですか?等色々と声を掛けたが、
その老人、ロモロはまったく反応をしなかった。
「うーん、頭に【!】があるからクエには間違いないはずなんだけどな……」
「最初に掛ける声の内容が違うのかな?」
「よし、ちょっと小屋の中を調べてみるか」
四人は小屋の中を調べ始めたが、
見つけられたのは、変な形のネジと、いくつかの工具だけだった。
「このネジなんだろう」
「うーん」
「ちょっと根本から考え直してみるか」
「フロアが変化した事で、追加される要素…水路…」
その時キリトが、何か天啓を得たように叫んだ。
「そうだ!船だよ!船が無いとこの層の移動はめんどくさすぎる」
おおっ、と三人が声をあげ、キリトはロモロに声をかけた。
「私達に船を造ってもらえませんか?」
その声と共に、ロモロの頭の上のマークが【?】に変化した。どうやら正解だったようだ。
その後ロモロから船の材料と仕様を聞き、
キャンペーンが別な関係で二手に分かれる事を考慮して、
二人乗りの船を二隻造る事に決めた一行は、材料集めを開始した。
基本ロモロの指示通りに動けばいいので、それほど大変では無かったが、
最後のアイテムが、やや難関であった。
「あれを倒すのか……」
「でかいな……」
最後のアイテムを持っているのは、巨大なクマ型モンスターだった。
名を、マグナテリウムと言った。
「なんか絶滅動物でそんな名前のがいた気がするな」
「動きは遅そうだけど、パワーはすごそうだね」
「とりあえずネズハの遠隔攻撃から開始だな」
「はいっ」
マグナテリウムは基本、突進突進で攻撃してくるタイプだったようで、
生えている木を盾にしながら戦闘は終始有利に進んだ。
一匹倒すと複数個必要アイテムをドロップしたので、
余った分は、ブレイブス専用の船のためネズハに一つと、
後は適当に知り合いに配る事にした。
戦闘で発生した倒木の影に隠れた時、その倒木も素材扱いだという事が判明していたので、
一行はついでにその倒木をストレージに入れ、ロモロの元に戻った。
「どうやら船は一隻づつしか造れないみたいだな」
「それじゃ発見したキリトとネズハの船を先に造ろうぜ」
「おっけー、それじゃ終わったら連絡するよ。多分数時間だと思うし」
予定が決まったため、そこで一旦解散となった。
三時間後、キリトから連絡が入ったので、
次はハチマンとアスナの船の製作に入る事となった。
その際、倒木が、船首に付ける、衝角というオプション武器になるから付けた方がいいと、
キリトからアドバイスがあった。
キリトとネズハは先行して、キャンペーンクエストの続きを探すようだ。
二人は製作を依頼し、その場で休憩する事にした。
そして三時間後、ついに船が完成した。
どうやら名前を付けなくてはいけないらしく、二人は悩んだが、
アスナの武器にちなんでシバルリー号にしようという事になった。
「これ、自分達で操作するのかな?」
「って事は、実質三人乗れるのか」
「まあ、キズメルにも乗ってもらう事になるかもしれないし、ちょうどいいかな?」
交互に練習し、船の操作にも習熟したため、二人も探索に出る事になった。
その日は特に情報もなく、二人は宿に戻る事にした。
「ハチマン君も四層に移動すれば?」
「そうだな、ちょっと遠いしな」
「うん!お風呂のある宿も確保できたから、リズもこっちに呼ぼうかな」
「それがいいんじゃないか。移動だけならこの船に三人乗れるから、問題ないしな」
その後二人は別れ、ハチマンも近場で適当な宿を見つけ、そこに転がり込んだ。
どうやら他のプレイヤーの間では、造船ラッシュが始まっているようだ。
中型船や大型船も製作されているという。
移動が楽になる分攻略自体は早まるかもしれないなと思いつつ、ハチマンは眠りについた。