「狩り?誰かとの約束なんだろ?俺が出しゃばるのはちょっとな」
「大丈夫、今日の狙いはPKスコードロンで、ちょっと人手が不安だったみたいだから、
シャナなら大歓迎なんじゃないかな」
「それでもな……」
「何よ、私と一緒にいるのが嫌だって言うの?」
「いや、そういう事じゃなくてだな」
(むぅ、手強い……夫婦もマンネリ化すると倦怠期になっちゃうって言うし、
ここはいつもとは違うイメージで……)
「私はシャナと一緒がいいの……駄目……かな?」
シノンは、上目遣いでとても切なそうにそう言った。
それを見たシャナは急におろおろし、焦ったような顔で言った。
「い、いや、駄目じゃない」
「じゃあ、一緒に行ってくれる?」
「ああ、もちろんだ」
「ありがとう、シャナ」
そしてシノンはソファーに座り、幸せそうに微笑んだ。しかし内心ではこう思っていた。
(思ったよりちょろかった。でも何かシャナの優しさにつけこんでるみたいで卑怯だから、
これは封印かな……まあ珍しいシャナの姿が見れただけで良しとしよっと)
その姿を少し離れたところから見ていたロザリアは、
シノンの急成長ぶりにとても驚いていた。
「シノン、恐ろしい子……」
これは、シノンに急に女友達が増えた事による副産物だった。
シノンは、学校の友達や、シャナの周りの女性達と多く接する事により、
その女性達の使う、様々な手管を知らず知らずのうちに学び、
それをある程度使いこなせるようになっていたのだった。
ちなみにこれは、シャナが相手の時にだけ発動するものであり、
他の男が相手の時のシノンは、あいかわらず難攻不落の堅牢さを誇っていた。
それはシュピーゲルが相手の時も例外ではなく、他の者より多少壁が低いだけで、
シノンはきっちりと、シャナ相手と他の者相手の時の自己の態度に、明確な差を設けていた。
「で、何時くらいからの予定なんだ?」
「夜八時かな」
「分かった、それまでちょっと仮眠してくるから、時間になったら起こしてくれ」
「オーケー……って、私が起こすの!?」
「冗談だって。それじゃ後でな」
だがシノンは、そのシャナの言葉に盛大に食いついた。
何故ならシノンはまだ、シャナの連絡先を知らないからだった。
意外なようだが、シノンとピトフーイと連絡先を交換している者は、
現時点ではロザリアだけなのである。
GGOに来れば問題なく連絡がとれ、現状はそれでまったく不便が無い為、
ついつい連絡先を交換するのを忘れるという事態になってしまっていたのだ。
その事に気が付いたシノンは、あまりガツガツしているように思われるのも嫌だった為、
あくまでも自然さを心がけながら言った。
「ううん、頼んだのはこっちだし、当然それくらいはさせてもらうわ。
でもよく考えたら、私はまだあんたに連絡先を教えてもらってないのよね。
なのでこの機会に教えてもらってもいい?」
「あれ、そうだったか?それじゃあせっかくだからお言葉に甘えるとして……」
そしてシャナは、自分の連絡先をあっさりとシノンに教えた。
「オーケー、ちゃんと起こすから、安心してぐっすり寝てきてね」
「それじゃ宜しく頼む」
そしてシャナがログアウトした事を確認した後、シノンは両手でガッツポーズをし、
『ついにはちまんのれんらくさきをてにいれたぞ!』と、声にならない叫びを上げた。
その姿を見ていたロザリアは、何かいけない物を見てしまったかのように目を背け、
撮影した者達の名前の特定作業を再開したのだった。
そしてシノンは、シャナが参加してもいいかどうか確認する為、ダインの下へと向かった。
約束の時間にシャナを直接連れていっても断られるとは思っていなかったが、
やはり事前に連絡はしておくべきだろうと考えたからだった。
「ダインさん、ちょっといい?」
「おっ、シノンじゃねーか」
シノンはいつもの酒場でダインを見付けて声を掛けた。
ダインはシノンに手を振ると、直後に腕組みをしながら言った。
「っていうかよ、俺より遥かに有名人のお前にダインさんなんて呼ばれると、
むず痒くて仕方ないから、これからは俺の事はダインって呼んでくれないか?」
「そう、分かったわ、ダイン」
ダインは、やはりその方がしっくりくるなと思い、うんうんと頷いた。
「で、約束の時間にはまだ早いと思うがどうかしたのか?
もしかして、シャナとのデートが忙しくて今日来れないとかか?」
ダインはそうシノンをからかったが、シノンは平然とこう答えた。
「デートならさっき済ませたわ。ちなみに用件は、そのシャナの事よ」
「シャナの事?恋愛相談なんかされても俺は気の利いた事なんか言えないぞ?
それともシャナが、今日の戦闘に参加してくれるとでも言うのか?」
「あら、その言い方だとシャナが参加する事は問題無いのね」
「当たり前だろ、シャナ以上に頼りになる奴が他にいるかよ」
「ならそういう事でよろしく」
「そういう事?おい、まさか……」
そしてシノンは、ニヤリとしながらダインに言った。
「そのまさかよ、シャナが来るわ」
「まじか!それならもう戦力的には問題無くなるな」
「用件はそれだけよ、それじゃ後でね」
「おう、それにしてもお前、本当に変わったよな」
「え?」
「お前は覚えていなかったようだが、先日シュピーゲルがお前を連れてくるより前に、
俺とお前は一度同じパーティになった事があるんだよ」
シノンはその言葉を受け、ダインの顔を改めてじっと見ながら考えたのだが、
その事はどうしても思い出せなかった。
「ごめんなさい、覚えてないわ」
「まあそうだろうな、俺はその時別働隊として、後からお前のいた本隊に合流したからな」
「そういえば、そんな事が昔あった気もするわね」
「その時のお前の印象は、感情をほとんど出さない無口で暗い女って感じだったが、
今のお前からは、そんな要素は欠片も感じないわ」
「確かに昔はそうだったわね」
初めてシャナと会った時のシノンは、大枚をはたいて買った武器を失った直後だった為、
たまたま感情的になっていたのだが、普段のシノンは確かにそんな感じだった。
「まあ、本当はそっちが地なんだろ?良かったな、シャナに出会えて」
そのダインの言葉に、シノンは目頭が熱くなるのを感じた。
ここでは涙は我慢出来ないので実際に少し涙がこぼれたのだが、
シノンはその涙を拭き、笑顔でダインに言った。
「ええ、今は本当に毎日が楽しいわ」
そしてシノンは拠点に戻るとそこでログアウトし、時間が来るまで少し仮眠をとった。
そして数時間後、はちまんくんに起こされた詩乃は、教えられた番号に連絡を入れた。
「はい、比企谷です」
その少し寝惚けたような声を聞いた瞬間、詩乃の心臓がドクンと音をたてた。
初めてとはいえ、ただ電話に出てもらったというたったそれだけの事なのに、
詩乃の心臓は、本人の意思とは関係なく喜びの音を奏でたようだった。
(やだ、私ったらいつからこんな恋愛脳になったのかしら)
詩乃はそう思いつつも、少し緊張しつつ記念すべき八幡との電話の第一声を発した。
「八幡、私、詩乃」
「おう、詩乃か、起こしてくれてありがとな、すぐにログインするわ」
「うん、待ってるね」
たったそれだけのやり取りだったのだが、詩乃は今までより、八幡を近くに感じた。
そして詩乃は、はちまんくんに行ってくるねと声を掛け、再びGGOにログインした。
はちまんくんは詩乃の体を守るように、詩乃の枕下にちょこんと座った。
「お帰りシノン、これから狩り?」
ロザリアがシノンにそう声を掛けてきた。
ロザリアは、シノンが落ちた時と同じ格好のまま、まだデータの整理を続けていたようだ。
「ロザリアさん、あれからずっとやってるの?」
「ええ、これが私の仕事だしね。そしてあなたの仕事はシャナと一緒に戦う事。
まあシャナが一緒なら大丈夫だろうけど、くれぐれも気を付けてね」
「うん、ありがとう、ロザリアさん」
そしてすぐにシャナもログインし、二人はロザリアに声を掛け、酒場へと向かった。
「ダイン、シャナを連れてきたわよ」
「いきなり押しかけてすまん、俺はシャナだ、今日は宜しくな」
「シャナさん、今日はありがとうございます!」
ダインはいきなりシャナにそう挨拶をし、シャナは困った顔でダインに言った。
「いや、別に同じプレイヤーなんだし、そんな畏まる必要は無いだろ」
「そ、そうか?それじゃあシャナ、今日は宜しくな!」
「おう、宜しく」
そしてシャナは端の方にある椅子に座り、シノンはちゃっかりとその隣に座った。
酒場には続々と仲間が集結しており、その中の一人がシノンに気が付き声を掛けてきた。
「シノンちゃん、久しぶり」
「ギンロウさん……」
ギンロウは古参のプレイヤーの一人であり、シノンも過去に何度か一緒に戦った事がある。
ギンロウは、女性プレイヤーを見ると見境なくリアルで会おうと声を掛ける癖があり、
シノンはギンロウを少し苦手に思っていた。
「ところでシノンちゃん、今日の狩りが終わった後さぁ、二人きりでどこかに……」
シノンはほら来たと思い、いつもと同じように淡々と断ろうとしたのだが、
シノンが口を開こうとした瞬間に、横からシャナがこう言った。
「なぁお前、短剣で真っ二つにされるのって、どんな気分だと思う?」
「ああん?横から口を出すんじゃね……あ……シャナさん……」
どうやらギンロウは、シャナの存在に気付いていなかったようで、
シャナに気付いた瞬間、顔を真っ青にし、あとずさった。
「二度目は無いぞ。一応言っておくが、俺がいない時でも一回にカウントするからな」
「は、はひっ、失礼しましたっ」
そう言ってギンロウは、逃げるように仲間の下へと走り去り、
そしてそのまま正座をさせられ、ダイン達に説教された。
「ギンロウ、お前馬鹿なのか?今のシノンにあんな事を言うとか、
自分で自分の死刑執行書にサインするつもりなのか?」
「これでもしシャナとシノンが帰っちまったら、お前どう責任をとるつもりなんだよ!」
「それだけならまだしも、俺達までシャナの敵認定されたらどうしてくれるんだよ!」
「死ね!今すぐ死ね!」
「あ……その……すまん」
その様子を遠目に見ながら、シノンはちらりとシャナの方を見た。
シャナはそ知らぬ顔で、頭の後ろで腕を組み目を瞑っていた。
シノンはくすくす笑うと、シャナにそっと寄りかかった。
「ありがと」
「おう、これでもう二度と声を掛けてくる事は無いだろ。っていうか離れろ」
「い・や・よ」
「ほら、友達が来たみたいだぞ、いいから離れろって」
「友達?」
シノンはそう言われて酒場全体を見回し、どうやら自分を探しているのだろう、
入り口できょろきょろしているシュピーゲルを見付けた。
シノンは立ち上がり、シュピーゲルに手を振りながら言った。
「シュピーゲル、こっちこっち」
「シノン!」
そしてシュピーゲルはシノンに駆け寄り、すぐ近くまで来たのだが、
シャナの存在に気付いた瞬間に停止した。
「えっ…………シャナ……さん?」
「うん、今日はシャナに来てもらったから、戦闘については安心してくれていいわよ」
「あっ……そ、そうだね……」
シュピーゲルは、落ち込んだ声でそう言った。
「どうしたの?」
シノンにそう声を掛けられ、シュピーゲルは慌てて表情を引き締めた。
「何でも無いよシノン。シュピーゲルです、宜しくお願いします、シャナさん」
「いきなり押しかけてすまない。宜しくな、シュピーゲル」
そしてどうやらメンバーが揃ったらしく、ダインがこちらに歩いてきた。
「シャナとシノンとシュピーゲルでチームを組んでくれ。
最初は二人の狙撃から開始で、シュピーゲルは狙撃中の二人の護衛を頼む。
その後シノンは狙撃を続行、シャナとシュピーゲルは、状況を見てこちらに来てくれ」
「えっ……」
「何だシュピーゲル、どうかしたのか?」
「い、いえ……分かりましたダインさん」
こうして三人はチームを組む事になり、いよいよ一行は、戦場へと出発する事になった。
うん、落ち着きましたね!