ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第290話 不意打ち

 シノンとフカ次郎が抱擁を終え、立ち上がったのを見て、

ハチマンが二人に声を掛けた。

 

「よし、とりあえず二人には個室を用意しないとな。あとこれを」

「これは?」

「正式メンバーに与えられる鍵だ。二人ともそれを使ってみろ」

 

 そして二人はハチマンの指示通り、その鍵を使用した。

その瞬間に鍵は光の粒子になり、二人の体の上に降り注いだ。

そしてその瞬間に、機械音声のアナウンスが流れた。

 

『プレイヤー、シノン、を、正式メンバーに登録しました』

『プレイヤー、フカ次郎、を、正式メンバーに登録しました』

 

 二人はその瞬間に手を取り合って喜び、そして二人に個室が与えられた。

 

「それとフカ次郎、お前にはこれもだな」

 

 ハチマンはそう言って、フカ次郎にヴァルハラの制服を差し出した。

 

「うおおおお、夢にまで見たヴァルハラの制服がここに!」

「そういえばシノンにも説明を忘れてたな。この制服は背中と胸に、

個人ごとに好きにデザインしたマークを表示する事が出来る。

まあ途中で変更も出来るが、そのマークが有名になればなる程、

他のプレイヤーはそのマークとエンブレムで、お前達が誰かを認識するようになる。

頑張って自分に合ったマークのデザインを考えてくれ」

「マーク……私のマーク……」

 

 考え込むシノンを見て、ハチマンが軽い感じで言った。

 

「まあ最終的には自分の好きにすればいいからな」

「私はもう決めてるけどね!」

「フカ、どんなの?」

「中央にハートを書いて、左右に天使の羽をこう、パッとね。

あとハートの上に天使の輪が欲しい!」

 

 そう言ってフカ次郎は、手の平をシノンに見せ、その上を左右に開いた。

 

「ユイ、マーク作成用ソフトを立ち上げてくれ」

「はいパパ!」

 

 そしてハチマンは、コンソールを操作し、フカ次郎の説明通りのマークを作成した。

 

「こんな感じか?」

「まさにイメージ通り!私のマークはそれで!」

「ちなみに名前は?」

「愛天使で!」

「オーケーだ、さっきの制服を貸してくれ」

 

 そしてハチマンは、そのマークをフカ次郎の制服に刻みつけた。

 

「よし、完成だ」

「おおおおお、これが私の制服ちゃん!是非記念撮影をお願いしたい!」

「その前にシノン、何か思いついたか?」

「やっぱり弓は外せないと思うから、横向きに矢をつがえた弓と、

その矢の先端に、フカに合わせてハートマークでもつけようかしら」

「やった、お揃いだね!」

「そうすると、こんな感じか?」

 

 ハチマンがその指示通りに画像を表示し、それを見たシノンは、ニッコリと微笑んだ。

 

「うん、イメージ通り!」

「名前はどうする?」

「キューピッドアローとか?」

「オーケーだ」

 

 そしてシノンもそのマークを制服に刻んでもらい、

二人はご満悦でお互いの制服を見せ合った。

 

「よしユイ、移動式のカメラの用意を」

「もう既にここに!」

「それじゃあ皆、カメラの前に集合だ」

 

 そして五人はハチマンを囲むように並んで写真を撮った。

その写真は、コンソールからそれぞれの携帯へと送信された。

 

「ちなみにハチマン達のマークにも名前が付いてるの?」

「俺のマークはシンプルにAだが、山の頂上のイメージと一番の意味で、

そのままトップAと名付けてあるな」

「私は基本はヒーラーだから、十字架型にレイピアをクロスさせた、クロスレイピアだよ。

そのまんまだけどね、えへっ」

「私もヒーラーだから十字架だけど、それを氷の結晶で表現したわ。

正式名称はアイスクリスタルクロスだけど、通常は略してアイスクロスと呼ばれているわね」

「なるほど、やっぱりシンプルなのがいいよね。他にはどんなのがあるの?」

「そうだな、単純に炎を波型に配置したユミーのヘルファイアとか、

鍛冶師の使うハンマーの右上に星を散りばめた、リズのスターハンマーとかがあるな」

「へぇ~、早く他の人にも会ってみたいなぁ」

 

 シノンは自分が他の仲間達と一緒に戦場に立ち、弓を放つ光景を想像し、

ついニヤニヤしてしまったが、他の者達は、そんなシノンを微笑ましく見つめていた。

 

「それじゃあ私はコヒーに今撮った写真を送って自慢しつつ、

ハチマンさんの言葉を伝えてきまっす!」

「おう、またな、フカ」

「フカ、また必ず会おうね!」

「うん!」

 

 そして他の者もフカ次郎に別れの挨拶をし、ハチマン達もとりあえず落ちる事にした。

 

「今日は凄く色々な事でびっくりさせられたわ」

「おっと、その前に装備を自分の部屋のストレージに収納しておくといい。

お前は直ぐにGGOにコンバートし直さないといけないからな」

「あっ、そうだね」

「いずれ自分の部屋の内装も好きにいじるといい」

「うん、ありがとう!」

 

 そしてユイとキズメルに別れを告げ、四人はそのままログアウトした。

 

「さて、今日は明日奈は八幡君の家に帰るのかしら?」

「どうだろう、たまには自宅に帰ろうかなって思ってたけど」

「もうどっちが自宅か分からなくなってるわね、失礼、ちょっとトイレに行ってくるわ」

 

 雪乃はそう言って席を外した。その直後に明日奈の携帯に小町から連絡が入った。

 

「小町ちゃん?どうしたの?」

「お義姉ちゃん、今日はうちに帰ってきてくれるんだよね?」

「何かあったの?」

「何も無いけど、小町はお義姉ちゃんと一緒にいたいのです!」

「今日は別にどっちに帰っても良かったから、別にいいよ?」

「やった!それじゃあ待ってるからね!」

「うん」

 

 そんな明日奈の様子を見た八幡が、電話の事を尋ねてきた。

 

「小町、何だって?」

「今日はうちに帰ってきてって」

「ふ~ん」

 

 丁度その時雪乃が戻ってきて、二人に言った。

 

「私と詩乃はこれから予定があるから、二人は先に帰ってもらって全然構わないわ」

「ん、そうか?それなら俺達は先に帰るか、明日奈」

「うん、それじゃあまたね」

「雪乃、詩乃、それじゃあまたな」

「ええ、また」

「またね」

 

 そして八幡と明日奈はキットに乗って自宅へと戻った。そんな二人を小町が出迎えた。

 

「良かった、帰ってきてくれた」

「何か用事でもあったのか?」

「う、ううん、何にも無いけど、お義姉ちゃんの顔が見たいなって思って」

「ふ~ん」

 

 この時点で八幡は、何か見えざる手の存在を感じていたが、それが何かは分からなかった。

そして二人はとりあえず自分の部屋に戻り、楽な格好に着替える事にした。

 

「何かこう、背筋のあたりがチリチリするんだよな……危険が迫っている気がする」

 

 八幡はそう呟くと、トイレに行きたくなった為、部屋を出た。

そして小町の部屋の前を通った時、小町が誰かと電話をしている声が聞こえた。

 

「はい、バッチリです!待ってますね!」

 

(ん、誰か小町の友達でも来るのか?それにしちゃ、小町の言葉遣いがちょっと変だが)

 

 そして八幡はトイレに行った後、部屋には戻らず、そのまま居間のソファーに腰掛けた。

少ししてから明日奈も下に下りてきたが、小町は上で何かしているらしく、

ドタバタという音だけが聞こえてきた。

 

「小町は何かしてるのか?」

「さあ……」

 

 そしてしばらくした後、上の音が静かになり、小町が二階から下りてきた。

 

「ふう……準備完了っと」

 

 そして小町はソファーに座ると、そわそわしながらしきりに外の様子を気にしだした。

 

「小町、誰か来るのか?」

「あ、うん、ちょっと友達がね」

「それなら俺達は邪魔しないようにどこかに出掛けておくか?」

「う、ううん、大丈夫、本当に大丈夫だから」

「そうか……」

 

 そしてその直後に玄関のチャイムが鳴った。

 

「ん、誰かな」

「小町行ってくるね」

 

 小町が直ぐにそちらに向かい、そして少しした後、小町に連れられ、二人の女性が現れた。

 

「なっ……」

「えっ?あ、あれ?」

「こんばんわ」

「お、お邪魔します……」

 

 それは、つい先ほど別れたばかりの雪乃と詩乃だった。

二人は何か大荷物を持参しており、どう見てもただ遊びに来たようには見えなかった。

 

 

 

 ここで話は少し遡る。八幡と明日奈が帰った後、二人は計画通りの行動に出た。

 

「とりあえず私は準備をしてくるから、少し待ってて頂戴」

「大丈夫かな?明日奈は自宅に帰ったりしないかな?」

「大丈夫よ、小町さんに念を押しておいたから、必ず足止めしてくれるはずよ」

「そっか、それなら大丈夫ね」

「それじゃあちょっと待っててね」

 

 そしてしばらくした後、雪乃が大きなバッグを持って戻ってきた。

 

「準備が出来たわ、それじゃあ詩乃の家へと向かいましょう」

「うん、でもどうやって行くの?」

「大丈夫、うちの執事の都築に車を用意させているわ」

「執事……やっぱりそういうのがいるんだ……」

 

 詩乃はここに連れてこられた時に、その家の大きさを見て、

雪乃がお金持ちのお嬢様だと理解していたが、執事という存在を聞いた事はあっても、

見るのはこれが初めてだったので、感慨深げにそう言った。

そして二人は都築の運転する車に乗り、詩乃の家へと向かった。

そして到着した後、詩乃は急いで部屋に戻り、五分後、

これまた大きなバッグを持って再び姿を現した。

 

「大丈夫?忘れ物は無い?」

「うん、大丈夫」

 

 こうして詩乃は、はちまんくんに留守番を頼み、

雪乃と共に、比企谷家へと初めて足を踏み入れる事になったのだった。

 

 

 

「お前ら、その荷物は?」

「そんなの決まってるじゃない、お泊りセットよ」

「お、お泊まり……?」

「そうなの?」

「二人の分の布団は、小町がお義姉ちゃんの部屋に運んでおきました!」

「ありがとう小町さん、事前に連絡しておいた甲斐があったわね」

「お父さんとお母さんにもちゃんと連絡してありますので大丈夫ですよ。

それじゃあ無事に役目を果たした小町は、友達の家に行ってきますね!」

 

 そして小町は、逃げるように家から飛び出して行った。

 

(早く逃げないと、修羅場に巻き込まれる!)

 

「別に家にいてもらって構わないのに……」

 

 そう言いながら雪乃は、二人に向き直った。

 

「さて、今日は二人にお説教をしに来たのよ、覚悟はいいかしら?」

「わ、私も?」

「な、何の説教だ?」

「あら、説明しないと分からないのかしら」

「お、おう……」

「う、うん……」

「そう……」

 

 そして雪乃と詩乃は目配せをすると、八幡の両隣に座り、

そのまま八幡の首に手を回した。

 

「なっ……何のつもりだ?」

「見ての通り、あなたを誘惑しているのよ」

「そ、そう、今日はその為に来たの」

「お、おい……冗談にもほどが……」

 

 そう言いながらも八幡はまったく動く事が出来ず、明日奈もまごまごしながらも、

何も出来ずにその場から一歩も動けなかった。

 

「……何故明日奈は動かないのかしらね、これはある意味彼の貞操の危機かもしれないわよ」

「そ、それは……」

「八幡君が動けないのは、まあ私達が拘束しているからだけど、

でも少し前なら、振りほどこうとするくらいはしたんじゃないのかしらね?」

「う……それは確かにそうなんだが……」

「詩乃、そろそろいいかしらね」

「うん、いいと思う」

 

 そして二人は八幡から離れると、普通にソファーに座り、

八幡と明日奈はほっと胸をなでおろした。

 

「とりあえず二人とも、その場に正座しましょうか」

「う……」

「は、八幡君」

「怒ってはいないようだが、とりあえず正座だ、明日奈」

「わ、分かった……」

 

 そして雪乃は、二人を諭し始めた。




明日は修羅場というより、友情確認のパートになるのでしょうか。

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