ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第292話 夜のアレコレ

「どうしてあなたは加減という物を知らないのかしら。

学校にいきなりキットで乗り込んでいじめを解消した後、

詩乃をお姫様抱っこして、そのまま車で走り去ったですって?

これについてはまあ、詩乃がとても喜んでいるからいいとしても、

あなた、学校で王子扱いされるだけじゃ飽き足らず、本気で王子にでもなるつもりなの?

そもそも私には一度もお姫様抱っこなんか……おほん、話が反れたわね。

それよりも問題はその後よ。独立を手伝うのは別にいいと思うけど、

それがどうしてソレイユにメディキュボイドをもたらす事に発展するのかしらね。

あれの事は私も少しは知っているけど、あれは本当に凄い物なのよ?

それを『あ、思い出しました』の一言で手に入れるなんてどうなっているのかしらね?

更に結城家に乗り込んで当主を叩きのめした上で、

メディキュボイドを存分に活用して、難病の治療に成功した後、

その施設を一つ丸ごと引き取ったとか、今度は足長おじさんにでもなるつもりなの?

更に結城家の次期当主の座を手に入れた後、芸能プロダクションを実質傘下に収めるとか、

ただでさえあなたは、今後雪ノ下の全てと、レクトすら手中に収めるかもしれないのに、

建設、医学、IT、電化製品、芸能と、一体いくつの分野に手を出すつもりなの?

もしかして総理大臣にでもなるつもりなのかしら?

確かに姉さんが政治家になれば、その流れでそれも可能かもしれないけど、

いちいちやる事が派手すぎないかしら?もはや都市伝説レベルを軽く超えているわよ。

そもそも因縁の相手を潰したいだけだったら、

直接乗り込んで動かぬ証拠を突きつけた後、その男を追放すればいいだけの話じゃなくて?

社長を傷つけたくないとか優しいのにも程があるわよ、

とにかく色々とやりすぎるのもいい加減にしなさい!

あなたの場合は凄いの桁が違いすぎるのよ!」

「う……す、すみません……」

 

 八幡は、成り行きとはいえ確かにやりすぎた自覚はあった為、素直に謝った。

だが雪乃はそれでは納まらず、そのまま八幡に説教を続けた。

八幡は、その凄い剣幕に何も言えず、明日奈と詩乃は、その姿を生暖かく見つめていた。

確かに改めて聞くと、八幡はとんでもない事を成し遂げており、

雪乃が説教したくなるのも無理はないと思えたからだった。

 

「ところでまさかとは思うのだけれど、

京都で別の女の子に気に入られたりとかはしていないわよね?」

「いや、それはもちろん…………あ」

 

 その八幡の態度を見て、雪乃はスッと目を細めた。

 

「……明日奈、詩乃」

「うん」

「分かってる」

 

 そして二人は八幡が逃げられないように、八幡の両腕をガッチリと押さえた。

 

「さあ、これで逃げられないわよ」

「いや、逃げるつもりは無いが……」

「で、どこで別の女の子を引っ掛けてきたのかしら?」

「いや……あれは別に引っ掛けたとかじゃ……」

「いいからさっさと話しなさい」

「……実は眠りの森で、双子の女の子とたまたま知り合ったんだが、

その二人は随分と俺に懐いている気がする」

「その子達の名前は?」

「本名は知らないけど、アイとユウだな」

「それは患者さんなのかしら、それとも外部の方?」

「か、患者だ」

「……もしかしてその二人は、重い病気にかかっているのかしら」

「ああ、一応手は打ったが、正直助けられるかどうかは分からん」

「そう……」

 

 そして三人は、ひそひそと相談を始めた。

そして結論が出たのか、雪乃が八幡にこう言った。

 

「他にはいないのね?」

「……明日奈のいとこの楓は数に入れなくていいよな?まだ小学生だし」

「そうね、それは良しとしましょう。他には?」

「特にはいない…………です」

「そう、ならその話はそこで終わりね」

 

 そして雪乃は、ここでやっと笑顔を見せた。同じく明日奈と詩乃も笑顔を見せた。

 

「さすがに女性絡みとはいえ、そういう事情なら仕方がないわね。

私達も、その事で特に何か言ったりするつもりは無いわ」

「何か手伝える事があったらいつでも言ってね、八幡君」

「私達も何かあったら出来るだけの事はするわ、頑張って」

「おう、正直俺にも畑違いの分野だから、

出来そうな人達に頼って、何か俺に出来る事がありそうなら最大限努力はする」

 

 八幡はそう力強く宣言し、それをもって雪乃の説教も終わる事となった。

 

「それじゃあ話はこのくらいにして、夕食の支度でもしましょうか。

材料なら途中で買ってきたから、三人で料理しましょうか」

「俺も何か手伝おうか?」

「八幡君は、のんびりしてていいわよ」

「そうか」

 

 八幡は、三人が少し優しくなったのを感じ、やや困惑したが、

どうやら許してもらったのだろうと思い、胸をなでおろした。

同時に確かにやりすぎたのは確かだが、間違ってはいなかったと認めてもらえたのだと思い、

八幡は少し嬉しさを感じていた。

 

 

 

 そして食事が終わった後、明日奈達三人は、明日奈の部屋に移動した。

 

「噂では聞いていたけど、本当に存在したのね、明日奈の部屋……」

「えっ?もちろん本当だよ!?」

「まさか八幡の家に、明日奈の部屋があるなんて……」

「実は気付いたら用意されてたんだよね」

 

 その時部屋のドアがノックされ、八幡がひょこっと顔を出した。

 

「風呂が沸いたんだが、順番はどうする?」

「どうしよっか?」

「とりあえず八幡君に先に入ってもらって、

その間に適当に順番を決めればいいのではないかしら」

「そうだね、そうしよっか」

「そうか、それじゃあ先に入らせてもらうわ」

 

 そして八幡は階段を下りていき、しばらくした後に、詩乃がこう言った。

 

「そういえば、ああいう八幡の姿を見るのは初めてだから、ちょっと新鮮かも。

ゆるい感じっていうか、外だといつも隙が無い感じだし」

「確かにそうかもしれないわね」

「家ではいつもあんな感じだけどね」

「ふむ……つまり今は隙だらけだという事ね」

「そ、そうかもだけど、まさか……」

「そうね……よし、二人とも行くわよ」

「ええっ!?」

「そ、それはちょっと……」

 

 二人は雪乃が風呂に突撃するつもりだと思い、さすがに雪乃を止めようとした。

しかし明日奈はともかく、詩乃は内心では興味津々だった。そういうお年頃なのである。

 

「せっかく彼が油断しているのだし、このチャンスを逃す訳にはいかないでしょう?」

「で、でもいきなりお風呂に乱入するのは……」

「お風呂?あなたは一体何を言っているの?」

 

 雪乃はきょとんとしてそう聞き返した。

 

「え?ち、違うの?」

「詩乃まで……いくらなんでもそんな事、ある訳無いでしょう?」

「そ、そうだよね、うん知ってた知ってた」

「私はそれでも良かったけど……」

 

 詩乃がぼそっとそう言い、即座に雪乃が突っ込んだ。

 

「詩乃、あなたって、意外とむっつりなのね」

「ち、違っ……ちょっと女子会っぽいノリで言ってみただけだから!」

「まあ突っ込むのはよしておくとして、私が行くと言ったのは、彼の部屋よ」

「八幡の部屋?そっちも確かに興味はあるけど……」

「全然普通の部屋だと思うけどなぁ」

 

 そんな二人に雪乃は首を振り、拳を握り締めてこう答えた。

 

「私の目的は一つ、彼が隠しているいかがわしい本を発見する事よ!」

「「それだ!」」

 

 そして三人は頷き合うと、そろりそろりと八幡の部屋へと向かった。

そして八幡の部屋の前に到達した瞬間に、トントンと階段を上がる音が聞こえ、

三人は、その足音の主である八幡と目が合った。

 

「……お前ら、そこで何をしてるんだ?」

「なっ、は、早すぎない?」

「そういえば八幡君は、一人の時のお風呂はいつもパパッと済ませちゃうタイプだった……」

「何ですって?仕方ないわ、強行突入よ!明日奈、入ったら扉を押さえておいて!」

「分かった!」

「お、おい、お前ら一体何を……」

 

 その八幡の声を無視し、三人は八幡の部屋に素早く入り、ドアを閉めた。

 

「おいこら、何がしたいんだよお前ら」

 

 ドンドンとドアを叩く音と共に、そんな八幡の声が聞こえ、

ドアを押さえていた明日奈は、八幡に謝りながらこう言った。

 

「ごめん八幡君、私達はどうしても、

八幡君の部屋のどこかに隠してあるえっちな本を探さないといけないの!」

「ん?ああ、そういう事か。それじゃあ探し終わったら教えてくれ」

「え?」

 

 そう言って八幡は、再び下へと戻っていった。

 

 

 

 そして十分後、明日奈が八幡を呼びに行った。

 

「どうだ、何か見つかったか?」

「何も無かった……」

「まさか、本当に何も無いと言うの……?思春期の男性のベッドの下には、

必ずいかがわしい本があるというのは都市伝説なの!?」

「お前な……今どきそんな本を買うような男がいる訳ないだろ……」

「くっ……」

「今なら何か隠すとしたらPCの中だろうな。まあ俺のPCには何も入ってないが」

 

 そう言って八幡は、雪乃に自分のPCを差し出した。

雪乃はこれは本当に何も無さそうだと、諦めにも似た気持ちでPCを調べ始めた。

そして一つの隠しファイルを見付けた。

 

「あら、これは……隠しファイル?」

「ん、何だそれ、そんな物あったか……?あっ」

「!?……明日奈、八幡君を押さえて!」

「う、うん!」

「ま、待て明日奈、アレを見たらきっと後悔するぞ、離してくれ!」

 

 そして詩乃も八幡をけん制しながら雪乃に言った。

 

「雪乃、早く!」

「今開くわ……こ、これは……」

「どうしたの?……こ、これ……」

「ふ、二人とも、何が入ってたの?」

 

 そして明日奈は八幡を離すと、PCの方へと近付いた。

雪乃と詩乃が、気まずそうな表情をしているのが気になったが、

明日奈はしかし、好奇心を抑える事が出来ず、画面を覗き込んだ。

 

「えっと……その……」

「あ、あは……」

 

 そしてそれを見た明日奈は、愕然と八幡の顔を見た。

 

「あ、いや、出来心というか、明日奈の部屋が出来た直後の一ヶ月くらいの間に、

明日奈を起こしに行く度に撮影して、そのまま忘れていたというか……その、すまん」

「確かに今よりもかなり痩せているわね」

 

 雪乃が冷静な口調でそう言った。明日奈は顔を赤くしてフリーズしていた。

 

「いや、しかし懐かしいな……」

 

 そう言って八幡は、そのファイルの中に収められた写真を覗き込んだ。

そこには、明日奈がだらしない顔で寝ている写真や、変な格好で寝ている写真が、

山のように収められていた。

 

「何故こんな物を?」

「……明日奈の部屋がうちに出来て、俺も浮かれてたんだろうな、

ほら、この顔、何かかわいいだろ?それでつい……な」

「そうね、確かにとても幸せそうな顔をしているわね」

「うん」

 

 雪乃がそう言い、詩乃もそれに同意した。

 

「まあ、目的の物は見付けられなかったけど、代わりにいい物を見せてもらったわ」

「それじゃあ明日奈の部屋に戻って、ガールズトークかな」

「実は私、そういった経験がほとんど無いのよ、だから少し楽しみね」

「あ、私もつい最近何度かそういう話をしたくらいで、実はあんまり……」

「それは楽しみね、ほら明日奈、部屋に戻るわよ」

 

 そう言って雪乃と詩乃は八幡の部屋を出ていき、明日奈の部屋に向かった。

明日奈がまだフリーズしていた為、八幡は明日奈の頬をぺちぺちと叩きながら言った。

 

「お~い明日奈、戻ってこい、ほら」

「あっ、は、八幡君」

 

 そして明日奈は気が付くと、八幡をぽかぽか叩きながら言った。

 

「もう!もう!」

「悪かったって、俺もすっかり忘れてたんだよ」

「うぅ……」

「ほら、雪乃と詩乃が待ってるぞ、早くいってやらないと」

「う、うん」

 

 そして二人は軽くキスを交わし、明日奈は自分の部屋へと戻っていった。

そして八幡は昔を懐かしむように、その明日奈のよだれ写真を見始めた。

 

 

 

 そして次の日の朝、八幡が起きて下に行くと、三人は既に起きていたのだが、

三人は八幡の顔を見ると、恥ずかしそうに八幡から顔を背けた。

 

「…………明日奈?」

「ち、違うの、昨日はあの後ちょっと盛り上がっちゃって、それでつい……」

「つい?」

「色々と、その……ね?」

「ま、まさか……」

 

 その八幡の視線を受け、三人とも顔を赤くして下を向いてしまったので、

八幡はそれ以上何か聞くのをやめた。

そして朝食をとった後、雪乃と詩乃を送る為、八幡が車を出す事となった。

明日奈は色々と片付けがあるらしい。

 

「それじゃ雪乃、詩乃、また来てね」

「またGGOでね、明日奈」

「とりあえず私も後でGGOにキャラを作るから、またその時に連絡するわ」

「うん、待ってる」

 

 こうして二人を送り届けた後、少ししてから雪乃から連絡があった為、

八幡と明日奈は、GGOへとログインした。


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