ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第294話 思わぬ援軍

「えっと……先生……だよね?」

「何を言っているのだ、当たり前ではないか、シズカ」

「なりきってるね~、いいねいいね!先生久しぶり!私エルザだよ、覚えてる?」

「もちろんだ、音楽をこよなく愛する妖よ」

「何もかも本物とは正反対ね……」

「どうやら私は、この世界だとこの依代に封印されているらしいから仕方なかろう」

 

 ちなみにロザリアは、情報収集に出かけるという口実で既にこの場から脱出していた。

そして最後にシャナがニャンゴローに言った。

 

「いや、しかしお前の声でその見た目だと、さすがに違和感が半端無いんだが……」

「ちょっと八幡君、どこを見て言っているのかしらね、それはセクハラよ、訴えるわよ」

「お前そこでいきなり素に戻るなよ……」

「うるさい!これは神が私に与えてくれたご褒美なのだ、私は一生ここで生きていくのだ!」

「ちょっとニャンゴロー、それはいくら何でも……」

「冗談だシズカ、だが夢であるからこそ、それを存分に楽しんでもいいではないか!」

「お前の冗談は冗談に聞こえね~んだよ……」

「うるさいわね、私のこの、つるふかな胸に文句があるというの?訴えるわよ!」

「はぁ……」

 

 丁度その時、部屋にベンケイが入ってきた。ベンケイは息を切らせながらシャナに言った。

 

「お兄ちゃん、帰りにスマホで動画を見ていたら、新しいのがアップされてたよ!

って、噂の動画の人がいたああああ!」

「ん、動画?まさかさっきのか?」

「早いね……」

「ここで見てみればいいんじゃないかな」

 

 そしてニャンゴローが、感心した様子で言った。

 

「ほうほう、ここでも見れるのか、よし、ベンケイ、頼む」

「あいあいさ~、動画の人!で、どちら様ですか?」

 

 ベンケイは、何故この人は私の名前を知っているのだろうかと思いつつ、そう質問した。

 

「私が分からないのか?」

「いや、すみません……そんな喋り方をする知り合いは、私にはいないので……」

「実際にここにいるではないか、小町さん!」

「わっ、私にさん付けをする人は一人しか……まさかユキノさん……?」

「うむ!だが今の私はニャンゴローだ、先生と呼ぶがよい!」

「ユキニャンゴローさん先生!」

「まあ正直、自分でもこの姿には違和感があるのは確かなんだがな」

「確かに何もかも正反対です……先生」

 

 ベンケイは、改めてニャンゴローの姿を見ながらそう言った。

 

「で、動画はどうなったのだ?」

「おっと、そうでしたそうでした、これです!」

 

 そして壁に設置されたモニターに、先ほどの様子が映し出された。

 

「やっぱりか、しかし随分早いな……」

「あっ、この人、この前も動画をアップしてたよ」

「この前というのは、例のシノンが一生お傍に宣言をした奴だな!」

「ニャ、ニャンゴロー、恥ずかしいからそこだけ強調しないで!」

 

 シノンは顔を赤くしながらニャンゴローに抗議した。

 

「アップロードしたのは……銃士X?これ何て読むんだ?」

「さあ……あ、でも、その人なら女性プレイヤーだけの集まりで名前は見た事があるかも。

まあ私はほとんど行ってないんだけどね」

 

 シノンがそう言い、シャナは少し驚いた。

 

「この名前で女性プレイヤーなのか、強いのか?」

「う~ん、どうだろ、あ、でも、前回のBoBで決勝に出てたかも。シャナ、覚えてない?」

「俺は最初にサトライザーとやったからな、他の奴の事は分からん」

「そういえばそうよね。まあでも、とにかく強い人みたいね」

「なるほど、ピトは知ってるか?」

「お前は今までに食べたパンの種類をいちいち覚えているのか?」

「要するに覚えてないんだな」

「うん!」

「まあいいか、たまたま居合わせたんだろうしな」

 

 そのシャナの言葉とは裏腹に、銃士Xは今後も、

何故か毎回シャナの動画を最速アップロードする者として名前があがる事となる。

 

「さて、後はイコマなんだが、俺以外に男がここにいたら、それがイコマだと思ってくれ」

「イコマというのはどのような男なのだ?」

「かつての仲間だ。今はここの専属鍛冶師をしている」

「なるほどなのだ!」

「やっぱり慣れねーなおい……」

 

 シャナはどうしても、その喋り方が気になるらしく、ぼそっとそう呟いた。

 

「まあ見た目があれなんだ、声は他人の空似だと思えばいい。

あれは知らないただのギャルだ、あれは知らないただのギャルだ……」

「どうしたのだ?」

「いや、何でも無い……」

「それじゃあそろそろ仕事にかかるとするのだ!」

「お、おう……頼むわ」

 

 ニャンゴローは自分がここに来た目的を忘れた訳ではないようで、

唐突にそう言うと、シノンとピトフーイにこう尋ねた。

 

「BoBの開催はいつなのだ?」

「三日後よ」

「なるほど、仲間からは誰が出るのだ?」

「私とシノンかな!」

「それじゃあその二人以外が使えるコマという訳だな!」

 

 次にニャンゴローは、シャナにゲーム内でBoBの中継が見られる場所を尋ねた。

 

「それなら街の中心にある大きな酒場と、東西南北の四つの酒場で中継があるな」

「五ヶ所か……ふむ、ゲーム内で動画の撮影は出来るのだろう?」

「ああ、ただしさっきみたいなケースでもない限り、そういう所でカメラを回すのは、

かなり不自然に見えるだろうな」

「ふむ……確かにそうだな、写真で我慢するか……」

 

 と、その時、ロザリアからシャナに通信が入った。

 

「おう、どうしたロザリア」

「それが……シャナに取材の申し込みです。どうやら私の事を動画で見たようで、

私がシャナの仲間だと思って声を掛けてきたようです」

 

 その言葉を聞いたシャナは、きょとんとした。

 

「取材?俺に?」

「ええ、何でも第二回BoB直前スペシャル特集とか。

どうやら前回大会の決勝進出者に話が聞きたいそうですよ」

「なるほどな、で、誰からの取材だ?」

「MMOトゥデイです、男性と女性の二人組で……」

 

 その言葉を聞いたシャナはハッとし、ロザリアにこう尋ねた。

 

「待て、MMOトゥデイだと?」

「はい、二人組で、シンカーさんとユリエールさんという方が……」

「今すぐここに連れてきてくれ」

「そこにですか?……分かりました」

 

 そしてシャナは、弾んだ声で、シズカに向かって言った。

 

「おいシズ、MMOトゥデイから俺に取材の申し込みとかで、

今からここに、シンカーさんとユリエールさんが来るらしいぞ」

「えっ、本当に?うわぁ、懐かしいなぁ」

「あの二人になら、俺達の正体をバラしても問題無いよな?」

「うん、別にいいんじゃないかな」

「MMOトゥデイって、何?」

「あ、私もそれ聞きたかった」

 

 ピトフーイとシノンが、そう同時に言った。

 

「MMOトゥデイというのは、MMOの攻略等を載せている、日本で一番大手のサイトだな。

ちなみにシンカーさんというのは、そこの管理人だ」

「ほえ~、そんなのがあったんだ」

「で、その二人とは知り合いなのね」

「ああ、二人とはSAOの中で知り合ったんだよな」

「そっか、それじゃ感動の再会だね」

「そうだな、とても楽しみだ」

 

 そしてロザリアに案内され、シンカーとユリエールが、おずおずと拠点に入ってきた。

 

「二人をお連れしました、シャナ」

「初めまして、MMOトゥデイの管理人をしています、シンカーと言います。

こちらはその手伝いをしてもらっているユリエールです。

今日は突然の申し込みにも関わらず、わざわざ拠点までお招き頂きありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそお久しぶりです、シンカーさん、ユリエールさん」

 

 そのシャナのセリフに、二人はきょとんとした。

 

「あの、失礼ですが、以前別のゲームか何かでお会いしましたっけ?

いや、でもユリエールまで知っているという事は……

彼女が取材に同行するのはここが初めてだし……」

「ははっ、以前お二人は、同じゲームをプレイしていたじゃないですか」

「同じゲーム……?まさかあなた、アインクラッド解放軍のメンバーの誰かですか?」

「えっ?ああそうか、確かにそう思うのが自然ですよね」

「それじゃあ改めて自己紹介しよっか、シャナ」

「えっ、あなたもですか?えっと、シズカさん……ですよね?」

「はい!」

 

 そしてシャナとシズカは目配せをし、

シンカーとユリエールに茶目っ毛たっぷりに自己紹介をした。

 

「それじゃあ改めて、血盟騎士団参謀の、ハチマンです」

「同じく血盟騎士団副団長、アスナです」

「ハ、ハチマンさんにアスナさんだったんですか!?」

「ええ、まあそういう事です」

「ユリエールさん、久しぶり!」

「ア、アスナさん!」

 

 突然ユリエールが、目に涙を浮かべながらアスナに抱き付いた。

 

「良かった、やっぱり無事だったんですね……」

「もちろん!」

「ハチマンさん、ゲームをクリアしてくれたのは、やっぱりあなた達だったんでしょう?」

「ええ、まあそうですね、紙一重でしたけど」

「良かった……無事だろうと確信はしていましたけど、

やっと直接会ってお礼を言う事が出来ます。

私達を助けてくれて、本当にありがとうございます」

 

 そう言ってシンカーは、ハチマンに深々と頭を下げた。

丁度その時、ピトフーイにエムから連絡が入った。

 

「ちょっとエム、今いい所なんだけど……ってやばっ、もうそんな時間?

分かった、直ぐに行くから外で待っていなさい」

「ピト、仕事か?」

「うん、今日は少ないとはいえ、やっぱりいくつか外せない仕事があってね」

「そうか、頑張れよ」

 

 そう言ってシャナは、ピトフーイの頭をなでた。

 

「うん、それじゃ行ってくるね!」

「あ、ちょっと待てピト」

「ん?」

「今度エムをここへ連れて来い、そろそろいいだろう」

「オッケー、今度連れてくるね!」

「話はそれだけだ、行ってこい」

「うん、それじゃあみんな、またね!」

 

 そう言ってピトフーイはログアウトし、それを見ていたシンカーが、感慨深そうに言った。

 

「いやはや、やっぱり噂なんて当てになりませんね」

「噂?」

「はい、あのピトフーイという方は、手のつけられない問題児だと聞いてましたからね」

「いや、それは合ってます、噂通りです」

 

 シャナはシンカーに、キッパリと言った。

 

「え、あ、そうなんですか?

やっぱりハチマンさん、いや、シャナさんの懐の深さは凄いんですね」

「まあ今はあいつも俺の大切な仲間ですからね」

「仲間ですか……あっ、そういえば、

ALOのヴァルハラ・ガーデンはシャナさんのギルドですよね?」

 

 シンカーは、思い出したようにそう言った。

 

「あ、はい、そうですね」

「やっぱり……実は軽く調査をした段階で、明らかにそうかなとは思って、

無事だったんだとそれで確信し、安心したんですが、

SAOから開放されてからずっと、サイトを立て直すのにいっぱいいっぱいで、

なおかつ深刻な人手不足でして……ほら、ザ・シードのせいで、

一気にVRMMOが増えたじゃないですか、

なのでどのゲームも通り一編の紹介しかまだ出来てなくてですね、

で、丁度大会が開かれるって事で、今はALOを後回しにして、

GGOの取材に力を入れていると、そういう訳なんですよ。

直ぐにALOにお礼を言いに行けなくてすみませんでした」

「あ……いや、こちらこそ何かすみません」

「え?シャナさんが何か謝るような事では……」

「そ、そうですね……」

 

(シンカーさんが忙しくなったのは思いっきり俺のせいなんですすみません)

 

 シャナは内心そう思いつつも、さすがにその事を明言するのは避けておいた。

その時シンカーが来ると聞いてからずっと無言だったニャンゴローが、

突然シンカーに話し掛けた。

 

「あの、シンカーさん、ちょっといいかしら」

「はい、あなたはえ~と……」

「私はヴァルハラ・リゾートの副長をしております、ユキノです、宜しくお願いします。

ここでの名前はニャンゴローと言います」

「あっ、あなたがユキノさんでしたか、お噂はかねがね」

 

 ニャンゴローはそう言われ、シンカーに会釈した後、こう切り出した。

 

「どうも、それでいくつかお聞きしたい事があるのですが、宜しいかしら」

「はい、何でも聞いて下さい」

「大会当日、ゲーム内で大会の中継を観戦しているプレイヤーの様子を、

撮影ないし録画する予定はありますか?」

「えっ?ああ、そこまでは考えていませんでしたが……」

「それでは仮定の話になりますが、ゲーム内だと五ヶ所で中継が行われるようですが、

仮にそういった事を企画するとして、五ヶ所全部に同時に人員を派遣する事は可能ですか?」

「あっ、はい、それは可能ですね」

「なるほど……」

 

 その答えを聞いたニャンゴローは、シンカーとユリエールの目をじっと見ながら言った。

 

「単刀直入にお聞きします。あなた達お二人は、彼に大きな恩義を感じているようですが、」

それでは彼の為に死ねますか?」

「えっ?」

「な、何ですって?」

「おい先生」

「あなたは少し黙ってて頂戴」

 

 ニャンゴローは二人からまったく視線を逸らさずにそう言った。

そして二人は顔を見合わせると、こう言った。

 

「それは出来ません、ユキノさん。もし僕達が簡単に死んでしまったら、

助けてくれたハチマンさん達の気持ちを裏切る事になります」

「なので代わりに、ハチマンさんが困っている時は、死ぬ気でお手伝いさせて頂きます」

「そうですか……突然失礼な事を聞いてしまって本当にごめんなさい。

あなた達がハチマン君達の事をとても大切に思っているのがよく分かりました。

その上でお願いします、どうか先ほど私が言った通りに、五ヶ所全部に人員を配置して、

大会の観客の様子を動画で撮影して欲しいのです、お願いします」

 

 そのニャンゴローのお願いを聞いた二人は、再び顔を見合わせた後、シャナに尋ねた。

 

「もしかしてハチマンさん、本当に何かお困りなんですか?」

「そうか、そういう事なんだな先生。シンカーさん、ユリエールさん、実は……」

 

 そしてシャナは、二人にラフコフの事を説明した。

 

「何ですって、あのラフコフのメンバーがここに?しかも幹部クラスですか?」

「今はもう何も出来ないでしょうが、それなら確かに動向は把握しておきたいですよね」

「そうなんですよ、まあ気休めかもしれませんが」

「分かりました、うちのスタッフに観戦しているプレイヤー達を撮影させて、

そのデータをこちらに提供しますね」

「ありがとうございます、これでダブルチェックが出来ます。

シャナ、あなたは五ヶ所全部の中継所を回って、それっぽいプレイヤーをチェックして頂戴。

その後に、後日全員で動画を見ながら怪しい挙動をしてる人がいないかチェックしましょう」

 

 こうしてシンカーとユリエールの協力を得て、大会当日の監視体制が整う事となった。


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