そしてギンロウを見送ったシャナ達の下に、シズカ達三人が戻ってきた。
「あれ、賑やかになってる」
「お、宴会か?シャナ、酒持ってこ~い!」
「おい先生、少しはネタに走るのを自重しろ」
「黙れもやしめ!」
「ああはいはい、どうせ口だけなんだから、もう好きにして下さい」
そしてシズカが、こっそりとエヴァに話し掛けた。
「咲ちゃん?この前言わなかったよね、私、明日奈だよ」
「えっ?あなたは確か……あ~!そうか、よく考えたら当然ですよね!
宜しくお願いします、シズカさん!」
「私はシャナの妹のベンケイです、皆さんのお話は聞いてます!」
「シャナの友人のニャンゴローだ、宜しく頼む!」
こうして自己紹介も済んだ所で、丁度ギンロウの試合が始まった。
「おっ、ギンロウか……相手は……あ、これは駄目だ、ゼクシードか」
「ギンロウさんとゼクシードさんって、そんなに差があるんですか?
何かゼクシードさんって、シャナさんにやられてるイメージしか無いんですけど」
「あいつは強いぞ、まあGGOでトップテンに入るくらいにはな」
「そうなんですか……」
そして目に見えてギンロウが押され始め、シャナがこう解説した。
「ほらな、ゼクシードの弱点は攻撃の命中率の低さだったんだが、
それもあのクリスマスイベントの時に入手した武器で、かなり改善されている。
元々立ち回りだけは抜群に上手いから、今のギンロウじゃ、どうあがいても勝てないな」
「でもゼクシ-ドさんってAGI型ですよね?何であの武器が装備出来るんですか?」
「ん?ゼクシードはSTR型だぞ?」
「ええっ?」
「でも確かゼクシードさんって、AGI型最強って方々でふれ回ってませんでしたか?」
「あんなの嘘に決まってるだろ……多分少しでも相手にいい武器を使わせない為の方便だ」
「「「「「「ええええええ!」」」」」」
六人はその言葉に、かなり驚いたようだ。
「ゼクシードさん、さすが汚い……」
「結構騙されちゃってる人っているんじゃないですかね」
「まあ最終的には自己責任って事になるんだろうけどな」
「確かにそうでしょうけど、納得出来ない人もいるでしょうね」
「まあ、叩かれても仕方がない事をやっているのは事実だが、
あいつは叩かれ慣れてるから、そんな事はまったく気にしないだろうな……」
そんな会話をしている間にも、どんどん試合は消化されていき、
各ブロックの本戦出場者も出揃ってきた。
「たらこと闇風は安泰、さっきの銃士Xも決勝進出か、
おっ、ダインもいけたか、やるじゃないかあいつ」
「獅子王リッチーって、何か強そうな名前だね」
「あいつはまあそこそこだな、基本重機関銃で待ち伏せするタイプだが、
一定以上の成績は収められないだろうな」
「何で?」
「弾切れだ。さすがにいくらSTRを上げても、装備自体が重過ぎてな」
「ああ~!」
シズカは、店で見た事のある重機関銃の事を思い出しながらそう言った。
そうしている間にも、どんどん決勝進出者は決まっていった。
「お、シュピーゲルの奴、まだ残ってたのか、相手は……シシガネか、
こいつはVIT一極振りで、とにかくタフなんだよな」
「知り合いなの?」
「シュピーゲルはどちらかというと、シノンの知り合いだな。
シシガネは、何度か見た事がある程度だ」
「そうなんだ、シノノンの知り合いの彼、勝てそう?」
「いや、無理だな」
シャナはにべもなくそう言った。
「シシガネは多少の被弾はものともしないで突っ込んでくるからな、
ほら、シュピーゲルの奴、足を止めて迎え撃つ体制になっちまってるだろ?
ああなるともうあいつの持ち味はまったく生かせないからな、
敵の攻撃を数発避けるくらいは出来るだろうが、そこで終わりだな」
「あっ」
丁度その時、シュピーゲルが被弾したのが見え、その速度は目に見えて遅くなった。
「あいつは闇風あたりの戦闘をもっとよく見て意識を改革出来れば、
もっと強くなれるかもしれないな。今回はまあ、準備不足だったんだろう。
AGI型の戦闘に慣れていないように見えたからな」
「案外ゼクシードさんに乗せられて急遽AGI型に転向したとか」
「いやいやまさか、さすがにシノンと同じくらい長くやってるなら、
当然自分のスタイルくらいは自分で決めるだろう」
「まあそうだよね」
そしてシュピーゲルはそのまま敗北し、
グループの上位二名に与えられる本戦への切符を手に入れる事は出来なかった。
「さて、後はシノンとピトフーイだが……」
「あの二人、同じブロックだったんだね……」
「まあもう二人とも本戦進出は決定してるんだけどな」
そのシャナの言葉通り、二人は既に、本戦への出場を決めていた。
次はいよいよ、シノンとピトフーイの、グループ一位を決める戦いである。
もっとも特に一位である事に意味は無いので、この戦いの意味はあまり無い。
実際グループの決勝では、あからさまに手を抜く者も多いのだ。
そして戦いの火蓋が切って落とされ、二人は向かい合うと、何事か話し始めた。
それを見たシャナとニャンゴローは、いきなり立ち上がった。
「お二人とも、どうかしましたか?」
そのエヴァの問いに、シャナはあっさりとこう言った。
「この戦いはドローだ、なぁ先生」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、読唇術で見た限りはそのようだな。よし、二人を労いに行くとしようではないか」
「先生に読唇術を習った甲斐があったってもんだな、
という訳でお前ら、今日はここで解散だ、また明日な」
「あっ、はい、ありがとうございました」
そしてその言葉通り、二人の試合はドローとなり、
エヴァ達は、自分達も読唇術を学んでみようかと、本気で考えたのだった。
「ピト、私は決勝進出を決めたわよ、あなたは?」
「うん、今から速攻で決めてくるから待ってて!」
「オーケー、頑張って」
「うん!」
二人が決勝で向かい合う少し前、控え室で二人はそんな言葉を交わしていた。
そしてピトフーイが実質最後の試合に向かい、
それと入れ替わるように、シュピーゲルが戻ってきた。
「どうだった?いけた?」
「……駄目だった」
「そっか、まあ次があるわよ、元気出してね」
「うん……シノンはどうだったの?」
「私はついさっき、本戦出場を決めたわ」
「そっかぁ……シノンは凄いね」
「今回は意気込みが違うからね、本戦でも死ぬ気で頑張るわ」
そんなシノンを見て、シュピーゲルはついこんな事を言った。
「……シャナさんが見てるから?」
「え?あ、あは……まあそれもあるんだけど、実はさっきまでここにいた友達と、
シャナとのデートを賭けて勝負してるのよね」
「そ、そうなんだ……」
「勝った方がシャナとデート出来るから、相手より一つでも順位を上にしないと……
まあ直接対決でケリをつけるのが一番早いかもしれないけどね」
「う、うん、そうだね……」
「まあ、優勝しちゃえば何も問題は無いんだけどね、とにかく頑張るから応援してね」
「う、うん、もちろん」
シュピーゲルは、複雑な胸の内を隠して何とかそう言った後、
シノンに別れを告げ、とぼとぼとその場を後にした。
そしてその少し後に、ピトフーイが戻ってきて、シノンにVサインを出した。
「勝ったよ~!」
「おめでとうピト、これで二人揃って本戦出場が決定したわね」
「うん、ありがとう!さて、次は決勝だねぇ、とりあえずさくっと行こっか」
「そうね」
そして二人は、そのまま決勝の場で対峙した。
「さて、どうする?」
「う~ん、これって正直本気でやる意味無いよね?」
「そうなのよね……」
「いっその事、ジャンケンで決める?」
「それでもいいけど、宣戦布告の意味も込めて、お互いの頭を撃ち抜くっていうのはどう?」
「おっ、シノノンいいノリだね、それじゃそれでいこっか!」
まさにこの瞬間が、シャナとニャンゴローが立ち上がった瞬間だった。
そしてエヴァ達が観戦する中、二人はお互いの頭に銃口を向け、
声を揃えてカウントを開始した。
「「さ~ん、に~、い~ち、ゼロ!」」
その瞬間に二人は発砲し、二人は大きな声で笑いながら同時に倒れた。
一方その頃、みじめな気持ちで通路を歩くシュピーゲルの耳に、
こんな会話が聞こえてきた。
「ゼクシードの野郎、本当にいい武器と防具を持ってやがるよな」
「この前のクリスマスイベントのせいだな、シャナさんが素材を独占したから、
その分いい武器と資金があいつに流れたからな、防具もそれで揃えたんだろうさ」
「ああ、そういえば二位はあいつらだったっけ」
そのプレイヤーは、思い出したようにそう言った。
「それにしてもあいつのあの武器、要求STRがかなり高いんじゃないか?
あいつって事あるごとに、AGI型最強論を吹聴して回ってるじゃないかよ、
って事は本人ももちろんそうなんだろ?それでよくSTRが足りたよな」
「ああん?お前知らなかったのか?あいつはSTR型だぞ。
AGI型は弱くはないが、戦法がほぼランガンに限定される上に、
強い武器や防具を使えないって欠点があるからな」
「え、まじかよ……じゃああいつは何であんな事を?」
「それがよ、あの野郎、自分がBoBで有利に戦えるように、普段はAGI型のフリをして、
中堅プレイヤーの集まる所でわざとそれをアピールして、
他人を出来るだけAGI型に転向させようとしてるらしいんだよ」
「そういう事かよ……相変わらずあいつは姑息だな」
「まあ実際腕はあるんだけどな」
その会話を聞いたシュピーゲルは、自分の視界が真っ赤になるのを感じた。
「まさかそんな……それじゃあ僕のこのキャラは……」
シュピーゲルがそう呟いたのと同時に、再びそのプレイヤーの声が聞こえてきた。
「でも騙された奴は本当にかわいそうだよな、
このゲームって、ステータスの振りなおしは出来ないだろ?」
「そうなんだよな、確かにかわいそうだが、噂を安易に信じちゃいけないって事だよな」
(そう、もう育て直す事は出来ない……このままいくしかない……
畜生、ゼクシードの奴、殺してやりたい……)
そしてシュピーゲルは、怒りに顔を赤くしたままログアウトした。
「でもお前、よくそんな話知ってたな」
「ああ、この前二人組のプレイヤーがそう話してるのを聞いたんだよ。
一人は何か不気味な感じで、マスクとマントを付けてたな。
最初はガセだろうと思ってたんだが、あの武器と防具の必要STRを計算したら、
やっぱりそれって事実なんだよな」
「噂を安易に信じちゃいけないが、今回の話には根拠があるって事だな」
「実際ゼクシードがそれっぽい事を言ってるのを聞いたって奴もいるみたいだからなぁ」
その日の夜、昌一は、恭二が部屋で騒いでいる事に気が付き、
恭二の部屋のドアを少し開け、そっと中の様子を窺った。
「くそっ、ゼクシードの奴、絶対に許さないぞ……くそっ、くそおおお!」
その声を聞いた昌一はドアを閉め、満足そうに呟いた。
「よし、無事に恭二の耳に入ったようだし、噂を広めるのはこのくらいでいいだろう。
まあノワールが実際ゼクシードって奴らから盗み聞きした話だから、事実なんだけどな」
恭二は自分が深い沼の中に、一歩、また一歩と足を踏み入れている事に、
まだ気が付いてはいなかった。