ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第303話 新装備の力

「ああ、しまった、うっかりしてた」

 

 無限地獄へ向かう為、ハンヴィーを停めてあるレンタル車庫へと向かう道中で、

シャナが突然そう言った。

 

「どうかしたの?」

「いやな、よく考えたら、ハンヴィーの定員は六人までだったわ……」

「あ、そうだね」

「誰かこの中で、マニュアル車の運転が出来る奴はいるか?」

「マニュアルって……」

「もはや骨董品だよね……」

「すみません、僕もオートマしか……」

 

 この時代は、首都圏にはもはやマニュアル車はほとんど存在していなかった。

技術の進歩に伴って、オートマ車とマニュアル車のパワーの差が無くなり、

その為ほぼ全ての車のメーカーも、マニュアル車の生産を終了していた。

一番可能性が高そうなエムが駄目だった事で、

シャナはもっと大きな車を買おうかと考えたが、

そんなシャナに、ニャンゴローがこう言った。

 

「それなら私が運転出来るぞ」

「先生、いつの間に……」

「ふふん、都築がGGOをやると伝えた時にお奨めしてきたのでな、

オートマの免許は持ってたから、先日限定解除してきたのだ!」

「おお、都築さんが……」

 

 シャナは心の中で、師匠である都築に感謝した。

そしてシャナはあっさりと、もう一台ハンヴィーを購入する事を決めた。

 

「それじゃあこっちだ」

 

 シャナは車庫の近くにある車屋に立ち寄り、その場でハンヴィーを購入すると、

その運転をニャンゴローに任せ、女性陣を全員その車に乗せた。

 

「車庫まで歩かせるのは申し訳ないからな、女性陣は車で先に移動して、外で待っててくれ」

「分かった、外で待っているぞ」

 

 そしてシャナとイコマとエムの三人は車庫まで歩き、

停めてあったハンヴィーに乗り込むと、そのまま待ち合わせ地点へと向かった。

そしてシャナは、待っていたハンヴィーの横に車を停め、

窓を開けてニャンゴローに話し掛けた。

 

「すまん、待たせたな」

「問題ない、ついでに周囲に敵影も無しだ」

「偵察もしてたのか、さすがだな先生。さて、こっちに誰か一人くらい乗るか?」

「乗り換えるのも面倒だし、行きはこのままで良いのではないか?」

「まあそれもそうか、よし、それじゃあ先生、俺に付いてきてくれ」

 

 そして一行は、二台のハンヴィーで恒例の無限地獄ツアーへと向かった。

そして前方に、見慣れた宇宙船の姿が見えてきた。

 

「おお、凄く早いですね」

「そういえばエムは、GGO内を車で移動するのは初めてなのか?」

「はい、いつもは常に歩いて移動でしたからね、突然襲われる事も多かったですし、

本当に大変でした」

「まあ車でも、事前に察知されてたら襲われる事もあるが、

普通はいきなり遭遇しても、追いつかれる事は無いからほぼ安全なんだよな」

「ですね、そういえばこの車、武装はついていないんですね」

「まあ前は俺達を襲おうとする奴なんかいなかったからな。

だがこの状況だと、武装だけじゃなく総合的に色々強化しておいた方が安全かもしれないな」

「あ、それじゃあ僕が、今ある素材の状況を見ながら可能な限り強化しておきますね」

「すまんイコマ、大変だろうと思うけど頼むわ。

今日の戦闘でも色々と手に入ると思うから、それも存分に活用してくれ」

 

 そして現地に着いた一行は、一応周囲に誰かいないか警戒しながら、

いつも拠点にしている場所へと向かった。

 

「ここが狩場なのか?」

「ああ、今から説明する」

 

 そしてシャナは、ここに来るのが初めての、ニャンゴローとエムとロザリアに、

この場所での戦い方を説明した。

 

「なるほどな、よしエム、バックパックを下ろしてくれ」

「はい、先生」

 

 説明を聞いたニャンゴローは、エムにそう指示を出した。

 

「先生、どうするんだ?」

「何、射撃組が、ある程度自分達で防衛出来るようにしようと思ってな」

「ふむ」

「近接組は、シャナ、シズ、ケイ、ピトの四人として、銃担当は残りの五人であろう?

シノンは自分の盾で背中を覆ってもらうとして、おいシャナ、お前の盾もよこせ」

「お、おう、俺が同じ物を持ってるってよく分かったな」

「お前もスナイパーだろうが、当たり前の推測だ」

 

 そしてシャナから盾を受け取ったニャンゴローは、自分の背中の部分にそれを配置した。

 

「よし、エムは今下ろしたパーツを、

ロザリアとイコマと自分の背後を守るように配置してくれ」

「はい!」

「なるほど、それなら例え襲われても、身の安全を確保出来るな」

「更に推測だが……シャナ、予備の弾を、マガジンごとその辺りにばらまいておくのだ」

 

 そのニャンゴローの指示に、シャナは意表を突かれた。

 

「それに何か意味があるのか?先生」

「確証は無いのだが、敵は何かに重なって沸く事はありえないだろう?

それならもしかしたら、何かを満遍なく配置しておけば、

敵が沸く位置もコントロール出来る可能性があるのではないか?」

「確かに試す価値はあるかもしれないな」

「という訳で、部屋の中央に円形にスペースを作っておくとしよう」

「そうだな、よし、とりあえずこの部屋に続く通路は俺とシズが担当するから、

部屋の内部をピトとケイで観察してみてくれ」

「「了解!」」

「それじゃあ開始だな、俺が止めるまで、撃って撃ってうちまくれ!」

 

 こうしてこの日の戦闘が始まった。武器庫にあった銃は、

密かにイコマの手によって命中精度や威力が強化されていた為、

外の敵はほとんど撃ち漏らされる事も無く、どんどん殲滅されていった。最近知ったのだが、

事前に登録をしておけば、戦っていない者にもしっかりと経験値が入るらしいので、

今回からはそれもしっかりと行ってあった。

そして敵の沸きだが、通路にはいつも通りしっかりと敵が沸いているのだが、

室内には、先ほど設定した場所にしかまだ敵が沸いていない。

 

「う~ん、暇だねぇケイ」

「しかも武器がこれになったせいで、全部一撃で真っ二つに出来るしね!」

 

 輝光剣の性能は、この狩場には反則すぎた。

ここの敵は動きが鈍い為、敵の急所に簡単に的確な斬撃を与える事が出来るので、

ほぼ全ての敵が一撃で沈んでしまうのだ。

その様子を観察していたニャンゴローが、こう叫んだ。

 

「これは一度止めた方がいいな、沸きもそこだけで確定っぽいしな!

ケイ、ちょっとシャナ達を呼んできてくれ、他の皆も一時射撃ストップだ!」

 

 その指示に従い戦闘が停止された。そしてケイが、シャナとシズカを伴って戻ってきた。

 

「どんな感じだった?こっちは普通だったが」

「どうやら仮説は正しかったようだな、おそらく部屋中に物をばらまいておけば、

この部屋の中に敵が沸く事は無い」

「おお、そうか」

「あとお兄ちゃんも気付いたと思うけど、近接担当もこの人数は必要無いと思う。

全部一撃で沈んでたでしょ?しかも力も使わないし」

「ああ、正直これに慣れちまったらやばいなとは思ったな」

 

 シャナはベンケイの言葉にそう頷いた。

 

「射撃組も、以前より楽になった気がするんだけど……」

「あ、それなら僕のせいかもです、武器は一通り強化しておいたんで」

「あ、そうなんだ、さすがはマッドサイエンティスト!」

 

 イコマは再びのそのピトフーイの言葉に、親指を立てて応えた。

 

「よし、そういう事ならノンストップで交代で攻撃する事としよう。

射撃組と近接組で、ローテーションを組んでくれ。ピト、どうだ?一人でいけるか?」

「うん、余裕余裕!」

「よし、それならシズとケイも射撃組に合流で、

四人と三人でセットになって二交代で攻撃を頼む。攻撃対象が被らないように相談してな。

俺とピトは交代で入り口の見張りだ。盾や装甲パーツは沸きを防ぐ為に床に並べよう」

「そうすれば、置いた弾も全部回収出来るな」

「足りないスペースには、俺のM82とその弾を置いておこう」

 

 こうして体制を整え、一行は再び狩りを開始した。

いつもは途中でどうしても休憩や射撃をやめる時間が発生するのだが、

今日は全てを並行して行っている為、その効率は恐るべきものとなっていた。

 

「おいピト、力はいらないんだから、まずは基本の型をしっかりと身に付けるように、

意識して武器を振るようにな。体に流れを染み込ませるんだ」

「うん、動きがスムーズじゃないなと思ったら、横から指摘してね」

 

 一方エムとシノンも、他の者達に銃の指導をしていた。

 

「先生、少し顎を引いてみて。そうそう、その方が楽だし狙いもつけやすいでしょう?」

「イコマさん、トリガーは引こうとするんじゃなく、コトリと落とす感じです」

 

 このようにこの場は、各人の絶好の練習の場となっていた。

それでいて、経験値とアイテムが恐ろしい速度でたまっていく。

アイテムがたまる度に、少しもったいないが、

いるアイテムといらないアイテムを、休憩に入ったイコマがぽいぽい選別していき、

残してあるアイテムの質も、そのせいでどんどん向上していった。

床にアイテムが置かれる度に、エムは装甲パーツを回収し、

シャナとシノンもそれに習った為、床はドロップアイテムでいっぱいになっていった。

 

「よし、ここで一度ストップだ、ちょっと面倒だが、一度ここにあるアイテムを、

自分のアイテムストレージに限界まで詰め込んでみてくれ」

 

 そのシャナの指示通り、一同はストレージにアイテムを詰め込み、

あとどれくらい持てるか各自で申告した。

 

「よし、それじゃあ次は、そのドロップアイテムをハンヴィーに積み込むぞ」

 

 そのシャナの指示で、一同はドロップアイテムをハンヴィーに詰め込み、

再び元の場所に戻って狩りを続行した。シャナは脳内で、

あとどれくらいのアイテムを持ちかえれるか必死に計算していた。

 

 そして数時間後、シャナが狩りの終了を宣言した。

 

「よし、これくらいが限界だな、今日はここまでにしよう」

「ふう、何かアイテムが凄い事になってるね」

「というか、私の経験値が凄い事になってるんだが」

 

 この中で唯一初期ステータスのままだったニャンゴローがそう言った。

そこそこステータスが上がっている他の者と違い、

上がり幅が大きい為、よりその凄さを実感するのだろう。

 

「いくつになったんだ?」

「これくらいだ」

 

 ニャンゴローはそう言って、ステータス画面をシャナに見せてきた。

「ギリギリ上級者の一番下あたりに引っかかるくらいだな……」

「色々ポイントがたまっているようだが、どうすればいいのだ?」

「そうだな、先生の場合はシズやケイと同じ、STR-AGIタイプでいい気がするな」

「なるほど、まあ色々と話を聞いて研究してみるか」

「よし、それじゃあ撤収だ。戦利品については、分配出来る物は拠点で分配だな」

 

 そして一行は、意気揚々と拠点へと帰還した。

ハンヴィーから拠点にアイテムを移すのに、三往復しなくてはいけなかったのはご愛嬌だ。

そして戦利品の中に、シャナも見た事の無い珍しい物が混じっていた。

 

「イコマ、これは何だ?」

「ああ、それはかなり重量の重い銃を、店舗で受け取れる引換券みたいな物らしいですよ」

「そんな物があったのか」

「はい、STRが低いプレイヤーにそういう武器がドロップした場合、

当然運ぶどころか持つ事も出来ないじゃないですか、その救済策として導入されたそうです」

「ああ、なるほどな、それは確かにそうだ」

 

 そしてシャナは、その引換券をしげしげと見つめた。

 

「ミニガンか……あんな物を持ち運びしたら、不便だよなぁ……」

 

 ミニガンとは、名前から小さく思えるかもしれないが、実際は重機関銃であり、

その総重量は百キロ近くになる、大型の銃である。

 

「これ、どうします?」

「売ってもいいんだが、これ、もしかしてハンヴィーに搭載出来るんじゃないか?」

「ああ!そうですね、それはいいかもしれません」

「他の皆もそれでいいか?」

 

 特に反対も出なかった為、ミニガンはそのままハンヴィーに搭載する事が決定した。

そしてラッキーな事に、素材の中に一つだけ輝光ユニットが含まれていた。

通常の狩りでこれがドロップしたのは、初めての事である。

 

「これはどうするかな……おいピト、俺みたいに二刀流で接続出来るようにするか?」

「ううん、それならシノノンに作って欲しい武器があるの。

さっき女の子だけで着替えてる時に、ちょっと話してたんだけどね」

「ほほう?」

「ピト、私は嬉しいけど、でも本当にいいの?」

「もちろんだよ!」

「そう……ありがとう、ピト」

「うん!」

 

 そんな二人のやり取りを見たシャナは、興味深げにシノンに尋ねた。

 

「どんな武器だ?」

「えっとね……」

 

 そしてシノンの説明を聞いたイコマは、膝をぽんと叩いて言った。

 

「なるほど、それは凄く面白そうですね、実戦でもかなり役にたちそうです!」

 

 そしてシャナもそれに同意した。

 

「そうだな、この世界のプレイヤーは銃に詳しい奴が多いからな、

サブ武器の弾が切れたと思わせて、向かってきた所を一刀両断ってのはアリだな」

「ですです、それじゃあシノンさん、そのグロックを一日お預かりしてもいいですか?」

「うん、お願いします!」

「名前はそうだな……やっぱり試作ナンバーの、カゲムネX3って事になるか……」

 

 そう呟いたイコマの言葉に、シノンは内心でとても喜んだ。

 

(シャナと同じ名前だ……)

 

 そんなシノンの気持ちを知ってか知らずか、シャナもあっさりとこう言った。

 

「そうだな、それでいいんじゃないか?完成したら俺にも見せてくれよな、シノン」

 

 その言葉に、シノンは嬉しそうに微笑んだ。

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