ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正



第306話 上映会

 八幡が、薔薇を迎えにソレイユに向かっている頃、

ピトフーイ、シノン、ニャンゴロー、ベンケイ、エムの五人は、

拠点内のモニター前に集合していた。

 

「シノノンとエムは、アハト・ファウストについては何も知らないんだよね?

ケイと先生はどのくらい知ってるの?」

「私は昔話で、こんな武器を使ってたって、おおまかな説明を受けたくらいですかね、

でも話を聞いてもいまいちイメージが沸かなくて、実際に見てみたかったんですよ」

「私はあやつの当時の友人達から話を聞いただけだが、

同じくどんな武器なのか理屈は分かるが、どう運用するのかが今一つ分からなかったのだ」

「なるほどなるほど、それじゃあこれからじっくりと、

どういう武器なのか見てみるといいよ」

 

 そしてピトフーイが、コンソールに仮想キーボードとマウスを出現させ、

何事か操作をしたかと思うと、モニターに八幡の姿と、見知らぬ若者の姿が映し出された。

 

『一応あんたの若い頃の写真を元に、外見も若い頃と同じにしてあるからな』

 

「ん、今のはどういう意味だ?この相手は何者だ?」

「ああ、先生それはね……えっと、ちょっと待ってね」

 

 そしてピトフーイは映像を一度止めると、代わりにモニターに、

何かの会合のような物の映像を映し出した。

 

「えっとね、あっ、この人この人」

「何っ!?これがさっきの若者か?」

「うん、明日奈の親戚……え~と、明日奈のお爺さんのお兄さん……だったかな」

「これは……確かに強そうではあるが、中身は老人ではないか。

そもそも何でその老人とあのもやしが戦うという事になっているのだ?」

「実は私の独立に絡んで、色々あったんだよね」

「ふむ」

 

 その言葉を聞いたニャンゴローは、腕を組みながらこう言った。

 

「まあそこらへんの詳しい事情は別にいいか、とにかく明日奈の親族なのだな」

 

 そしてその若者は、一本の日本刀を選び、ビュッと振った。

 

『これだな、これが一番、俺の手になじむ』

 

「あら、随分と様になっているわね」

「調べてみたけど、若い頃は色々な大会で優勝した事もあるらしいよ」

「そうなんだ、正当な剣士相手だと、さすがのお兄ちゃんも苦戦するのかなぁ」

「まあ見てれば分かるよん」

 

 そして八幡が、虚空に向けてこう言った。

 

『『アレ』を出してくれ』

 

「おっ、来るよ来るよ」

 

『よう、久しぶりだな、相棒』

 

 そして八幡の腕に、アハト・ファウストが装着された。

 

「……あれは何だ?」

「小型の盾?」

「えっへん、あれがね……」

「あれがアハト・ファウストですよ!」

 

 突然後ろからそう声が掛かり、五人は振り向いた。

そこには顔を紅潮させたイコマが立っており、イコマは興奮ぎみに言葉を続けた。

 

「やっぱり気になって、一度戻ってきちゃいました!」

「ああ、そういえばイコマきゅんは、この武器の事を実際に知っているんだよね!」

「はい、あれは八幡さんのメイン装備ですから!」

 

 そして戦いが始まり、その若者~清盛が、無造作に八幡の左肩に刀を振り下ろした。

 

「あっ……あれ?」

 

 シノンがそう言い、ピトフーイは一時動画を止めた。

 

「シノノン、どしたの?」

「今、八幡が自分から敵の刀に当たりにいったような気がして……」

「あっ、左肩のあたりね!」

「でも終わってみたら右だったから、ちょっとびっくりしたの」

「はい、それではスーパースロウでもう一度!」

 

 そして動画が巻き戻され、ゆっくりと再生された。

画面の中では、左から振り下ろされた攻撃が、いきなり右に変化したのを見てとった八幡が、

咄嗟にその攻撃を回避する様子が映し出されていた。

 

「あ、こういう事だったのね」

「攻めも攻めたり、防ぐも防いだり!って所だな!」

「まあ、これは前座ですけどね」

「これが前座なんだ……うちのお兄ちゃんって……」

 

 そして戦いが継続され、六人は次の攻防を目にし、手に汗を握った。

 

「……今何があったの?」

「いやぁ、前回見てる僕でも、やっぱりハッキリとは見えませんでしたね」

「大丈夫、これから明日奈が解説してくれるから」

 

 そして明日奈の解説を聞いた六人は、その言葉をしっかりと頭に入れながら、

もう一度スローで今の攻防を見てみた。

 

「ねえケイ、八幡は何でこんな事が出来るの?本当に人間なの?」

「それは言外に、妹の私も人間じゃないと言っているようなものなんだけど、

まあ気持ちは分かるよ、うん、他ならぬ私自身もそう思うもん」

「やはりあいつは化け物だな、昔はそうでもなかったんだが」

「これが本物の英雄の力なんですね」

「でも相手も凄くない?」

「あ~……相手の人も僕の知る限り、十分化け物ですからね……」

 

 そうわいわい言い合う五人を見ながら、ピトフーイがこう言った。

 

「さて、クライマックスだよ」

「え?もう決着なの?」

「まあこういう戦闘は、得てして一瞬で決着がつくものですからね」

「まだアハト・ファウストを、ただの盾として使ってる所しか見てないんだけど」

「それはこれからだよ!」

「おお、何か興奮してきました!」

「エムが戦いを見てそんな事を言うなんて珍しいわね」

 

 そして最後の戦いが始まり、六人はそれを、固唾を飲んで見守った。

『ガン!』という音が何度かして、その度に清盛の体のどこかや武器が弾けとんだが、

ピトフーイとイコマはともかく、他の四人は何が起こっているのかまったく分からなかった。

そして次の瞬間、清盛の首が刎ねられた。

 

「うわ」

「やっぱり私はお兄ちゃんの妹じゃないんじゃ……」

「意味がわからん!何だ今のは!」

「の、脳が震える……」

「うはぁ、やっぱり八幡は最高だね、イコマきゅん」

「ですね、やはり八幡さんとアハトのコンビは最強です!」

 

 そして四人の求めに応じ、再びその場面がスーパースロウで再生された。

八幡がいきなり前に出て、完璧なタイミングでカウンターを入れる。

 

「これ……そもそも何でカウンターになってるの?」

「そうだぞ、まだ相手は何のモーションを起こしてないではないか!」

「私もそう思って何度も何度も見てみたんだけど、ちょっとここをよく見ててね」

 

 そのピトフーイの言葉を受け、五人は清盛の腕をじっと見つめた。

 

「はいここ!」

「……よく分からないけど」

「あ、でも何か力が入ったようにも見えません?」

「うむ、言われてみればそう見えなくもないな、言われればな!」

 

 そして四人が説明を求めるようにイコマとピトフーイの顔を見た為、

イコマがピトフーイに代わって説明を始めた。

 

「八幡さんは、相手の攻撃の気配を感じてカウンターを仕掛けるのが得意なんですよね」

「「「「は?」」」」

「ちょ、ケイさんまで……」

「だ、だってお兄ちゃんの本気の戦いを見るのはこれが初めてだし……」

「ああ、そうなんですか、まあそういう事です」

 

 そして次に、清盛が八幡の顔に突きを放った。

 

「これ、完全に顔に刀が刺さったように見えたんだけど……」

「こうして見ると、避けてますね」

「ここは足元に注目ね」

 

 その言葉通り、八幡は右足で清盛の左足を蹴って体を反らしていた。

 

「足は見てなかった……」

「なるほどな」

 

 そして同時に清盛の刀が上に跳ね上げられた。

 

「あっ、左手の武器が一瞬伸びてる!」

「それがアハト・ファウストの能力です!シンプルでしょ?」

「なるほど、こうやって敵の攻撃にカウンターを入れる為の武器なのか!」

 

 そして八幡がアハトを正面に構えて真っ直ぐ敵に突っ込んだ。

 

「ここはあれよね、何も考えずに真っ直ぐ突っ込んだように見えたけど……

何故か相手の刀が外に弾かれたのよね」

「あっ、見て!」

 

 シノンがそう言った瞬間、アハトが逆に伸びているのが見え、四人は驚愕した。

 

「なっ……」

「なるほど、あれは前後に伸びるのか!」

「はい、それがアハト・ファウストです!」

「全方向でカウンターを取る為の武器ですか……でもよく見えますね」

「あの男は、昔から観察力に優れていたからな!」

 

 その会話の間にアハトが再び前に伸び、清盛の顎にヒットした。

 

「あ!こういう事だったんだ!」

「まさに自由自在だな!」

「これで首ががら空きですね!」

「あっ、ここ!よく見ると、お兄ちゃんが笑ってるよ!」

「あまり見る事の無い、凄惨な笑顔ですね」

「本当だ!うぅ、ぞくぞくするぅ!」

 

 そして画面の中では、一瞬で清盛の首が刎ねられた。

 

「「「「「「ふぅ……」」」」」」

 

 戦闘はそこで終わり、六人はそうため息をついた。

 

「あれがアハト・ファウスト……八幡はよくあんな装備を自由自在に使えるわね」

「でしょでしょ?」

「あれ、って事はもしかして……」

 

 エムがそう呟き、五人は何だろうかとそちらの方を見た。

 

「エム、どうしたの?」

「いや、思ったんですけど、GGOでのシャナさんってまさか全力を出せてないんですか?」

「……いやいや、だってあんなに強いじゃない」

「でも、アハトがあったらシャナさんは、絶対にサトライザー何かには負けてないですよ」

「あ、イコマきゅんはそう思うんだ?」

「はい、僕もあの戦闘は見ましたけど、アハトがあればって何度も思いましたから。

八幡さんは僕達のヒーローなんで、それがとにかく悔しかったですね」

 

 そんなイコマを、他の五人がじっと見つめた。

 

「ど、どうしたんですか?」

「ねぇ、イコマきゅん、GGOでアハト・ファウストって作れないの?」

「いやぁ、それはさすがに……」

「本当に?」

「……真面目に考えた事は無かったですね、完全な再現は無理ですけど、

似たような機構を使えば、あるいは……よし、研究だけはしてみます!」

「まあ、銃の世界でどれだけ役にたつかは分からないが、

少なくともあの素材、宇宙船の装甲板とやらを使えば、

敵の弾を弾く事は出来るのだろうし、それで接近戦に持ち込めれば、

あやつはほぼ無敵の存在になるかもしれんな!」

 

 六人はそんな光景を夢想し、気分が高揚するのを感じた。

 

「イコマきゅん、必要な素材があったら何でも言ってね」

「この事は、シャナには内緒にしておくのだぞ」

「はい!実現出来るかは分かりませんが、全力を尽くします!」

 

 こうしてGGOにおけるアハト・ファウスト復活作戦が、密かに始まったのだった。

だがそれは結局、ラフコフ残党との決着には間に合わなかった。

そしてピトフーイは、次の明日奈の戦いの動画を流し始め、

イコマはその間に、シノン用のグロックの改造を始めた。

 

「おっ、この服装は見た事ありますね!」

「血盟騎士団とやらの制服だな!」

「ねぇ、それって何?」

「SAOで二人が最後に所属していた、最強ギルドの名前だぞ!」

「ああ、この二人が所属してたなら、それは強いわ……」

 

 そして明日奈の戦いは、一瞬で決着がついた。

 

「うわぁ……さすがはお義姉ちゃん……」

「八幡とタイプは違うけど、本当に強いね、やっぱりこの前の動きは伊達じゃなかったんだ」

「明日奈さんの二つ名の通りって事ですね、閃光のアスナ、全プレイヤーの憧れです」

 

 そう言いながら、イコマがこちらに歩いてくるのが見えた。

 

「イコマ君、まさかもう出来たの?」

「ですです、シノンさん、これを」

 

 そしてイコマは、シノンにグロックを差し出した。

グロックは多少銃口が太くなっているが、見た目にそう変わりは無いように見えた。

 

「今回は隠し武器というコンセプトから、秘匿性を重視しました。

グリップの上側にスイッチがついてます、先ずはそれを動かして下さい」

「うん」

「それでトリガーを引くだけで刃が出ますよ」

 

 そしてシノンがグリップを引いた瞬間、いきなり銃口の少し下から光の刃が出現した。

 

「おおっ」

「これぞまさに隠し武器!」

「いいぞいいぞ!シノン、ちょっとケイに教えてもらって練習してみるといい」

「そうですね、短剣の事ならお任せ下さい!

まあベストなのは、お兄ちゃんに教えてもらう事だと思いますけどね」

「あ、あれはちょっと私には無理じゃないかな……」

「いやいや、お兄ちゃんは基本的な動きを人に教えるのも上手いですよ!」

「そ、そうなんだ、それじゃあ今度頼んでみようかな」

 

 こうしてこの日の活動は終わり、イコマは寝る前に車をいじるからと、

車庫の方へと向かって歩いていった。そのイコマの手によって、

二台のハンヴィーが魔改造されてしまう事を、この時は誰も想像していなかった。


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