ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第311話 頼れる奴ら

「さて、それじゃあ行くか、闇風」

「おう、殴りこみだ!」

 

 シャナの作戦に乗る事を決めた二人は、ビルの入り口前に移動し、狙撃の体制をとった。

 

「見張りは二人、俺達も二人、とりあえず初手はこれだよな」

「あんな動かない的なんか、外す気がしないな」

「よしいくぞ、三、二、一、撃て!」

 

 そして二つの銃声が一つに重なり、見張りはその場にドッと倒れた。

 

「よし闇風、頼んだ!俺も直ぐに後を追う!」

「任せろ、派手な花火を上げてくるぜ!」

 

 そして闇風は、そのステータスを生かして全力でビルへと走り出し、

入り口から中を伺うと、一瞬チラっと時計を見た後、中に手榴弾をいくつも投げ込んだ。

同時にビルの反対側では、イコマが同じく時計を見た後にランチャーを射出していた。

そして手榴弾の爆発音と共に、ビルにワイヤーランチャーの先端が突き刺さったのだが、

その事には敵の誰も気付かなかった。

 

「よしイコマ、俺も行ってくる」

「シャナさん、お気をつけて!ロザリアさんの事、お願いします!」

「任せろ。お前は入り口側に移動して、俺達の撤退をサポートしてくれ」

「了解」

 

 そしてイコマは恐る恐るハンヴィーを運転し始めた。

慣れない為に時間はかかったが、イコマは無事にハンヴィーを入り口側に移動させた。

 

「さて、二人の様子は……」

 

 イコマはビルの入り口が辛うじて見える位置にハンヴィーを止め、

そちらの様子を伺ったのだが、二人は中で戦っているらしく、誰の姿も見えなかった。

 

 

 

「よっしゃ、どうやら陽動は成功みたいだな」

「すまん闇風、待たせたな」

「おう、それじゃあ派手にいくとするか!」

 

 そして二人は二階へと駆け上がり、闇風は果敢にも敵目掛けて突っ込んだ。

敵もそんな闇風に銃を向け、撃つ、撃つ、撃つ。だが闇風は避ける、避けて避けまくる。

その間にたらこは的確な射撃で顔を出した敵を葬っていき、一階は簡単に制圧された。

 

「なぁたらこ、今の奴らの中に、

もしかしてお前のスコードロンのメンバーがいたんじゃないのか?」

「ん?もちろんいたぞ?」

「……いいのか?」

「シャナに敵対したら、俺が敵になる可能性もあるとは言ってあるからな。

もしかしたら冗談だと思ったのかもしれないが、それはあいつらの勝手だからな」

「おうおう、ドライだねぇ」

「俺は女をさらうような奴をかばう気はまったく無いからな」

「それには俺も同感だ」

 

 そして二人は三階への階段を上った。

 

「これは……随分でかい扉だな」

「この部屋が上へと通じてそうだが……」

「安易に開けたら蜂の巣にされそうだな」

「どうする?」

 

 その言葉を受け、薄塩たらこは周囲をきょろきょろと見回した。

 

「よし、あの椅子を扉にぶつけてみよう」

「オーケーオーケー、そういう大雑把なのは嫌いじゃないぜ」

 

 そして二人はその椅子を扉にぶつけ、強引に扉をこじ開けた。

その瞬間に中から銃弾の嵐が降り注いだ為、二人は顔を見合わせた。

 

「今の感じだと、七~八人ってところか?」

「だな、どうする?」

「大雑把の次は、細かい芸を見せるとするか」

「おお、頼むぜ、相棒」

 

 そして薄塩たらこは、ストレージから服を一枚取り出して、別の椅子に被せた。

 

「俺がこの椅子を室内の左の方に投げ入れる。

そしたらあいつらの射線は全てそっちに向くはずだ。

その瞬間に闇風は、これを中に投げ入れてくれ」

「閃光手榴弾か」

「ああ、スコープごしにこれの光を見たらどうなるか……分かるな?」

「デクノボウがカカシに早変わり、ってか?」

「胸が高鳴るだろ?」

 

 そして薄塩たらこがその椅子を投げ入れた瞬間、目論見通りそこに射線が集中し、

闇風が投げた閃光手榴弾が、見事にその射手達の視界をブラックアウトさせた。

そして次の瞬間に二人が中に飛び込み、無防備なプレイヤー達を蹂躙した。

 

「イエス!」

「胸が高鳴るぅ!」

 

 だが喜ぶのは少し早かったようだ。反対側の入り口に一人、難を逃れたプレイヤーがおり、

そのプレイヤーはいきなり闇風に向け、大口径の銃を発砲した。

その銃弾は、運が悪い事に闇風の心臓に命中し、闇風はどっとその場に倒れた。

それを見た薄塩たらこは、慌ててそのプレイヤーを射殺し、闇風の下に駆け寄った。

 

「お、おい、闇風、大丈夫か?」

「くっ……調子に乗って撃たれちまうとかざまぁねえな、

これでもう俺は飛べねえ……飛べない俺はただの俺だ……」

「まったく意味が分からねえよ、おいしっかりしろ、闇風!」

「なぁたらこ、もしロザリアちゃんが無事だったらこう伝えてくれ、

闇風はあんたの為に必死で戦った、そして出来る事なら、

一度でいいからロザリアちゃんのおっぱいを揉んでみたかった、ってな……」

「え、やだよそんなの、俺がシャナに殺されるじゃないかよ、って、闇風、闇風ぇ!」

 

 その瞬間に、闇風の心臓の辺りから、何かがぽろっと落ちた。

それはどうやら、先ほど射殺したプレイヤーの放った銃弾だと思われた。

 

「……あれ?」

「どうした?俺はもう死ぬ、だからさっきの言葉を必ずロザリアちゃんに……」

「いや、おい闇風、お前撃たれてないっぽくね?」

「はぁ?心臓に直撃だぞ、俺の胸には間違いなく大穴が空いて……ない!?」

「おい、これはあれじゃないか、イコマ特製防弾ベストのおかげなんじゃないのか?」

「あれか!あのイコマの説明はマジだったのか……」

 

 

 

 作戦が開始される直前、イコマがハッとした顔で、二人に服のような物を差し出してきた。

 

「これは?」

「先日作った僕達の専用防具のプロトタイプです。防弾ベストみたいな物ですよ。

絶対に急所に弾が通る事は無いんで、使ってみて下さい」

「ははっ、それはいいな、お守り代わりに有難く着させてもらうぜ」

 

 

 

「凄いな、本当に弾を防ぎやがった」

「防弾チョッキでも、普通にあの口径の銃の弾を防ぐのは無理だからな」

「さすがはイコマ印の防弾ベストって所か」

「イコマ様々だな」

「まあお前が生きてて本当に良かったよ」

「おう、ありがとな、たらこ。ところでちょっと相談があるんだが」

「ん、何だ?」

「さっき言った事は、ほんの軽い冗談だ、妄想だ、世迷言だ、

絶対にシャナの耳に入らないように、ここは一つ宜しく頼む」

 

 その闇風の言葉を聞いた薄塩たらこは、ニヒルに笑った。

 

「分かってるって、俺も前、同じ事を考えた事があるからな」

「おお、同士たらこよ、お前もか!」

「そんな訳で、俺は何も聞いてない、さあ、上の階へ進もうぜ」

「おう!」

 

 そして次の階に上がった二人は、人が集まっている気配を感じ、

そっとその部屋の様子を伺った。そこに集まっていた者達は、

とても慌てた様子で右往左往していた。その視線は、奥の扉に向かっていた。

 

「おい、これはまさか……」

「ああ、シャナがここまで下りてきたんだと思う」

「どうする?」

「奇襲して全員殺す」

「シンプルだな、そういうのも嫌いじゃないぜ」

「まあ楽勝だろ、行くぞ」

 

 そして二人が突撃しようとした瞬間、中から悲鳴のような声が聞こえた為、

二人は足を止め、再び中の様子を伺った。

 

「ぎゃっ!」

「おわっ!」

 

 そして二人の見守る中、部屋の中にいるプレイヤー達の心臓や頭から、

次々と黒い棒のような物が生え、その度にそのプレイヤーは消滅していった。

 

「……あの黒い棒みたいな物、何だと思う?」

「まったく分からん。多分シャナが何かしているんだと思うが……」

「あっ、また一人倒れた」

「そして誰もいなくなったってか?」

「おい、誰か来るぞ」

 

 そして静まりかえった部屋の奥の扉の方から、コツコツという足音が聞こえ、

そのドアがギギッと音を立てて開いた。

そしてその中から、ロザリアをお姫様抱っこしたシャナの姿が現れた。

 

「ロザリアちゃん!」

「だ、大丈夫か?どこか怪我でもしたのか?」

「たらこさん、闇風さん!すみません、お手数をおかけしました」

「いやいや、気にしなくていいから」

「そうだぜ、それよりも体の方は大丈夫か?」

「こいつ、手足の腱を斬られた上に、目を横一文字に潰されてやがったんだよ。

で、再生する事はしたんだが、足がどうやらまだ本調子じゃないみたいで、

こうして俺が運んでると、まあそういう訳だ」

 

 その言葉を聞いた二人の脳は一瞬フリーズした。そして再起動した二人は怒りに震えた。

それはもう、怒髪天を衝くという言葉そのものだった。

 

「ふざけんなよクソ野郎ども、やっていい事と悪い事の区別もつかないのか」

「畜生、もしあいつらがスコードロンに顔を出したら、もう一度皆殺しにしてやる」

「待って!」

 

 そんな二人をロザリアが止めた。

 

「いや、待たないね」

「いくらロザリアちゃんの頼みでも、それは聞けないな」

「違うの、私の話を聞いて」

 

 そしてロザリアは、ラフィンコフィンという組織の事と、今回の拉致事件そのものが、

そのメンバーの陰謀かもしれないという事を二人に説明した。

その言葉を聞いた薄塩たらこの反応は激烈だった。

 

「何だと……おいシャナ、ラフィンコフィンのクソ野郎共は今GGOにいるのか?」

「ああ、かなりの確率でな」

「そうか、くそっ、もし見つけたら、生まれてきた事を絶対に後悔させてやる」

 

 そんな怒りを露にする姿を見たロザリアは、薄塩たらこにこう尋ねた。

 

「たらこさんはもしかして、ラフィンコフィンの事を知ってるの?」

「ああ、昔SAOの中で、俺のダチが殺されそうになったらしい。

その組織の名がラフィンコフィンだった。

幸いそのダチは、ハチマンとアスナって二人組に助けられたらしいけどな」

「という事らしい、ロザリア、この二人の前では制限無しで話していいぞ。

もうこの二人は俺の……大事な友達だ」

 

 その言葉を聞いた薄塩たらこと闇風は、ハイタッチをしながら言った。

 

「イエ~イ!」

「友達認定きたZEEEEEEE!」

「あ……」

 

 そんな二人の嬉しそうな姿を見たロザリアは、目を伏せながら薄塩たらこに言った。

 

「あ、あの……たらこさん、実は私も昔、そのラフィンコフィンの下部組織にいたの。

だから一歩間違えたら、私がその……たらこさんのお友達をこの手に……」

 

 その言葉を聞いた薄塩たらこはきょとんとした後、ロザリアに笑いかけた。

 

「そうだったのか、でも今はロザリアちゃんは、シャナの大切な仲間なんだろ?

だったらそんな事をいつまでも気にしてないで、これから真っ直ぐ進んで行けばいいさ」

「そうそう、ロザリアちゃんは、昔は間違えたのかもしれないけど、

今は何も間違えていない、それは凄く立派だと思うぜ」

「たらこさん、闇風さん……あ、ありがとう」

 

 そんなロザリアを、三人は暖かい目で見つめていた。

 

「さて、それじゃあとりあえずイコマの所に戻るとするか」

「あっ、その前によ、なぁシャナ、あの黒い棒みたいなのは何なんだ?」

「そうそう、いきなり敵の胸や頭から黒い棒が生えたかと思うと、

そいつらのHPが一瞬でゼロになってたから、何だろうって二人で話してたんだよな」

「ああ……ちょっと待ってろ、ロザリア、しっかり捕まってろよ」

 

 そしてシャナは、左手一本でロザリアを支え、右手で腰に差していたARを抜いた。

 

「何だそれ?」

「光剣に見えるが……」

「いやいや、光剣ってあれだろ?ごっこ遊びの為の、攻撃力が一切無いネタ武器だろ?」

「まあそうだな」

 

 シャナは二人に頷き、ARの刃を出した。

 

「く、黒い刃?何か禍々しいな」

「ああ~、これこれ、さっき見た奴だ!」

「それじゃあちょっと実演してみるか。

なぁたらこ、ちょっとお前の腕を斬らせてくれないか?」

「おう、対光学銃バリアーはきっちり装備してるから問題無いぜ」

「そうか、それじゃあ何も問題無いよな?」

「お、おう……どんとこい!」

「それじゃあ腕を横に出してくれ」

「分かった」

 

 そして薄塩たらこは、そっと左腕を真横に出した。

シャナはニコニコしながら、ARを薄塩たらこの腕目掛けて振り下ろした。

その瞬間に薄塩たらこは悲鳴を上げて腕を引いた。

 

「うぉあぁぁあうわぁ」

「あはははは、相棒、凄い悲鳴だなおい」

「ば、馬っ鹿野郎!何か本当に怖かったんだよ!それならお前がやってみろ!」

「おう、見事に腕のバリアで受け止めてやるぜ!

でもその前に、一応……シャナ、この鉄パイプで安全を確認させ……」

 

 そう言って闇風が、下に落ちていた鉄パイプを横に出した瞬間、

ブンッという音と共に、シャナはARを神速で振りぬいた。

 

「う、うわぁ!びっくりさせるなよ、シャナ!」

 

 そしてシャナは、黙ってARを腰に戻し、ロザリアを両手で抱きなおした。

 

「な、何も起こらないな……一瞬黒い刃が見えた気がしたが」

「確か光剣ってこの程度の物でも斬れないよな?」

「お、おう、俺も試した事があるけど無理だった」

「シャナ、何かしたの……」

 

 その瞬間に鉄パイプに一筋の線が入り、その先が床に落ち、カランと音を立てた。

 

「……か……って、あれ?」

「ええええええ?」

「シ、シャナ、もう一回プリーズ!」

「仕方ないな、今日は大サービスだぞ。おいロザリア、ちょっとあの椅子に座っててな」

 

 そしてシャナは、ロザリアをそっと椅子に座らせると、

右腰からARを、左腰からALを抜いた。

 

「もう一本あったのか!」

「ああ、よく見てろよ」

 

 そしてシャナは、ARとALから刃を出した。

 

「おおっ」

「やばい、格好いい……」

「闇風、その鉄パイプを軽く投げてくれ」

「おう!」

 

 そして軽く投げられたその鉄パイプが目の前に来た瞬間、ブブンッという音と共に、

シャナがその二刀を舞うように振り、次の瞬間鉄パイプは細切れにされ、

いくつもの破片が下に落ち、派手な音を立てた。

 

「なっ……」

「何ですとぉ!?」

「ちなみにこれは光剣じゃない、輝光剣という。

プレイヤーメイドオンリーの、実用的な武器だ」

「そ、そんな物が存在してたのかよ!全然知らなかったぞ!」

「まあこのゲームには、確かにまともな職人はいないからな……」

「お前達が見たのはこれだろ?」

 

 そう言ってシャナは、近くにあった扉の中に入ると、

中から外に向かって、その扉にARの刃を突き刺した。

 

「そう、それそれ!」

「そういう事だったか……」

 

 扉の向こうからそんな声が聞こえ、サービス精神を発揮したシャナは、

ARとALの柄の底同士を合体させ、くるくる回しながらその扉を一瞬で何度も切り裂いた。

そしてそれを扉の向こうで見ていた二人は、扉が細切れにされ、

中から二本の刀を組み合わせ、まるで某映画のように振り回しているシャナの姿を見た。

 

「凄ぇ!まるでSF映画みたいだ!」

「ビ、ビューティフル!」

「シャナはジェダ……」

「ストップだ相棒、それ以上喋るとハリウッドからとんでもない額の請求書が届くぞ」

 

 そんな二人にシャナはこう言った。

 

「まあ、これはこういう武器だ。もし輝光ユニットって名前のアイテムが手に入ったら、

イコマにそれを渡して作ってもらうといい。もっとも俺のは特別製だから、

普通に光剣と同じデザインの奴になるだろうけどな」

「いいのか?」

「ああ、だがあまり派手に対人戦闘で使うなよ、お前達も見て分かったように、

この武器はある意味バランスブレイカーすぎる。

今日の事が無かったら、俺も使う気は無かったしな」

 

 こうして二人は、輝光剣を製作してもらう権利を手に入れた。

もっとも二人が輝光ユニットを手に入れたのは、第三回BoBの後になる。




何故シャナが二人の腕を斬ろうとしたかの理由は明日明かされます!
ちなみにたらこと闇風のコンビは、FF7のレノとルードっぽいイメージですね!

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