「ところでシャナ、さっきそんな恐ろしい武器で、
さりげなく俺達の腕を斬り落とそうとしてなかったか!?」
「そ、そうだそうだ!あれは絶対に本気だった!」
そう抗議してくる二人を見て、シャナはスッと目を細めながら言った。
「いやな、どうやらお前らは、二人揃ってロザリアの胸を揉みたがっていたようだから、
腕が無かったらそんな事は思わなくなるだろうと思っただけだ」
そのシャナの言葉を聞いた二人は固まり、ロザリアは困った顔で自らの胸を隠した。
「も、もしかして、聞いてらっしゃった?」
「ああ、通信機から声が聞こえてな」
「ガッデム!死ね、通信機!」
「まあそんな訳だから、ここは大人しく腕を一本ずつよこせ」
「い、いや……さすがにそれは……」
「大丈夫だ、一時間で生える」
「た、確かにそうだけどよ、人の腕をまるでトカゲの尻尾みたいに言うなよ!」
そんな二人のピンチにロザリアが割って入り、真面目な顔でこう言った。
「シャナ、冗談はそのくらいで……ごめんなさい二人とも、
助けてくれた事には感謝してるし、お礼に胸くらいならと思わないでもないんですが、
残念ながらこの胸はシャナの物なので、その希望にはお応え出来ません」
「Oh……」
「今のセリフが、俺達にとっては今日一番でかいダメージだったぜ……」
「む、胸が苦しい……」
「シャナ、爆発しろ……」
そして二人は胸を押さえてその場にバタッと倒れた。
そんな二人にシャナは容赦なく蹴りを入れた。
「おら帰るぞ、さっさと立て」
「お、おいシャナ、俺達友達じゃなかったのかよ……」
「そうだそうだ、確かにさっき友達認定証をもらったぞ!」
「だからその認定証に、今足の裏で愛のハンコを押してやってるんじゃないかよ」
「「シ、シャナの愛が重い……」」
直後に二人は何事も無かったかのようにヒラリと飛び起き、外へと向かって歩き出した。
「おいシャナ、さっさと戻ろうぜ」
「ロザリアちゃんを抱き上げる時は優しくな」
「お前らもいい性格してるよな……」
「ふふっ」
そして四人は、とても仲が良さそうに笑い合いながら、
イコマが待つハンヴィーの所へと向かって歩き出した。
次の瞬間、シャナがいきなり二人に全力の蹴りを放ち、
二人はすぐ横のビルの中までぶっ飛ばされた。
「おわっ、シャナ、根に持ちすぎだろ!」
「ロザリアちゃんの胸の事はもう忘れてくれ!」
そして二人は、自分達を蹴った勢いで、ロザリアを抱いたまま後方に飛ぶシャナと、
その目の前を通過する複数の弾丸を目撃した。
「なっ……」
「新手か!?」
そしてシャナは、二人に叫んだ、
「閃光手榴弾を投げるぞ、目を閉じろ!」
そしてシャナは、二人が目を閉じるのを確認もせず、いきなり閃光手榴弾を投げた。
そして閃光の中、一瞬銃撃が止まった瞬間に、シャナはロザリアを抱いて、
二人のいる方のビルへと合流を果たした。
「お前ら、目は大丈夫か?」
「あたぼうよ!」
「もちろん問題無いぜ」
「しかしシャナ、これからどうする?」
「このまま裏口から脱出だ、ハンヴィーまで走るぞ。
まともに戦っても負ける気はしないが、イコマを一人にしておく訳にもいかないからな」
「シャナ、私の足ももう大丈夫よ、自分の足で走れるわ」
「おっ、そうか、よし、四人で走るぞ!」
そしてシャナは、走りながらイコマに連絡をとった。
イコマは銃撃音が聞こえたのか、少し慌てているようだった。
「イコマ、聞こえるか?」
『はい、こっちは大丈夫です。今銃声が複数聞こえましたがそっちは大丈夫ですか?』
「敵に予備兵力がいた。まあこっちにダメージは無いから大丈夫だ。
迎え撃ってもいんだが、そっちが心配だから先に合流しよう。
一度街から出て、南西方向で待っててくれ」
『分かりました、どうかご無事で!』
そして通信を終えたシャナは最後尾に立ち、走りながらM82を取り出した。
「ロザリアは先頭だ、たらこと闇風で、俺の左右を固めてくれ」
「おう!」
「任せろい!」
「ハンヴィーを見つけたらそっちに方向転換だ、ロザリア、指示は任せるぞ!」
「了解よ、シャナ」
そして三人は、背後を警戒しながらひたすら前へと突き進んだ。
そしてその甲斐あってか、敵から攻撃を受ける事なく進む事が出来、
ついにロザリアが、ハンヴィーを発見した。
「シャナ、左にハンヴィー!」
「よし、左だ!」
そして四人は、ハンヴィーの下へとたどり着き、中に乗り込んだ。
イコマは運転席から降りてそのまま後部座席へと回り、ロザリアが助手席に座った。
「ふう、どうやら敵をまいたか?」
「いや、さすがにこれはおかしい」
シャナはそう言いながら後方を見た。そこには敵の姿は一切見えず、
銃弾の一発も飛んでくる事は無かった。
「まあ確かにそうだな、何か不自然だよなぁ……」
「こっちも一切敵の姿は見かけませんでしたね」
「私達を見付けて慌てて攻撃してきたけど、
実は想定外だったみたいな感じじゃなかったかしらね」
「案外大きめのトラックか何かで、こっちに向かってる最中だったりしてな」
「おい相棒、何て事を言いやがるんだよ、それはフラグだぞ!」
その瞬間に、少し離れた場所からトラックが三台飛び出してきた。
「ほら見ろ、相棒のせいだからな!」
「闇風のせいだな」
「闇風さんのせいかも……」
「闇風さん……」
「わ、悪かったよ……」
そしてシャナは直ぐに車を発車させ、突然闇風にこんな事を言った。
「それじゃあ闇風はミニガン係な、上で撃ちまくってくれ」
「えっ……まじで?」
「心配するな、銃座の周りの防御は万全だ、敵の銃弾なんか全部跳ね返すぞ。
ついでに言うと、こっちの方が車の速度が早いからな、
接近される事なく安全に撃ちまくれるぞ」
「おっ、そうなのか?」
「ああ、これは罰ゲームじゃない、お前に対するサービスだ」
その言葉を聞いた闇風は、きょとんとしながらシャナに聞き返した。
「サービスサービスぅ?」
「お前も知っての通り、ミニガンはかなり重いからな、少なくともこんな機会でもないと、
お前のステータス構成じゃミニガンを撃つ機会は無いだろ?
だからこの機会に、存分にミニガンでの射撃を楽しんでこいよ」
「そ、そうか、言われてみれば確かに!」
「それじゃあ俺達の命はお前に任せたぞ、頼むぞ闇風!」
「おう!俺様に全てお任せあれだぜ!」
そしてイコマがスイッチを押すと、ハンヴィーの上部にミニガンがせりあがってきた。
闇風は天井のハッチを開け、上に上がると、楽しそうにミニガンを撃ち始めた。
その攻撃に恐れをなしたのか、想定外だったのか、後続のトラックが慌てて蛇行し始めた為、
相手の射撃はもうこちらにはまともに飛んでくる事も無く、
この車上での銃の撃ち合いは一方的な展開となった。
そしてついにトラックのうち一台が運転手を失い、横転した。
「おお、闇風の野郎、のってんな」
「まあサービスってのは本当だしな。実際ミニガンなんて、
撃てる機会がある奴はほとんどいないだろうしな」
「そう言われると、確かに俺もミニガンを撃った事は無いな」
「そういえばベヒモスって人が持ち歩いてるのよね?」
「ああ、その代わりにあいつは移動速度が遅いっていう欠点を背負ってるがな、
まあ骨があるといえばそうなんだろう」
「そういうの、嫌いじゃないぜ!」
その時闇風がひょっこりと上から顔を出してそう言った。
「闇風、どうしたんだ?」
「弾切れだ、弾をくれ」
「そういう事か、イコマ、頼む」
「はい!」
そして闇風に、薄塩たらこが質問した。
「おい相棒、楽しいか?」
「おう、人生観変わっちゃいそうだぜ!」
「そんなにか……」
薄塩たらこがうずうずした感じでそう言ったのを見て、闇風は言った。
「次弾切れになったら変わってやるよ」
「まじかよ相棒、頼むわ」
「おう!」
そしてその後、四度の弾切れを経て、残りの二台のトラックも無事排除された。
「よっしゃ、ミッションコンプリート!」
「まじで楽しかった……ありがとな、シャナ」
「おう、お疲れさん」
「しかしいくら何でも手応えが無さすぎたよな」
「まあ、銃での戦いなんてこういうもんじゃないか?
兵力の運用を間違えれば、こんな風に一方的になったりもするからな」
「しかしちょっとお粗末すぎないか?そもそもあいつらはどこから来た援軍だ?」
「普通に考えれば街からだと思うが……」
「でも普通あんな運用はしないだろ?もしあの人数で最初から囲まれてたら、
さすがの俺達も結構やばい事になったと思うが」
「う~ん……」
これにはもちろん理由がある。本来の作戦だと、ビルの中層でシャナ達を足止めし、
街からの援軍が入り口から上へ進み、挟み撃ちにする予定になっていたからだ。
要するにシャナ達の行動が規格外すぎた為なのだが、
さすがに誰もその事には気付かなかった。この事が判明したのは、街に戻った後、
薄塩たらこがスコードロンのメンバーを締め上げて作戦内容を聞きだした後だった。
「まあいいさ、多分何か理由があるんだろう」
「そうだな、次はどうなるか分からないが、今回はこっちが勝った、まあそういう事だ」
「ははっ、案外最初に倒した奴らが、街の前で待ち伏せしてたりしてな」
その闇風の言葉に、残りの四人はピタッと動きを止めた。
「闇風、お前な……」
「もしかしてまたフラグですか?」
「完全にフラグね」
「おい相棒、フラグを立てるのはエロゲだけにしとけよ!」
「エ、エ、エロゲなんかやってないわ!」
そしてシャナは、小高い丘の中腹でハンヴィーを止めた。
街までの距離は一キロ半という所であり、ここならハンヴィーの姿は街から見えない。
「イコマはここで待機しててくれ、残りの四人で街の方向に何か無いかチェックしよう」
そして四人は丘の上まで近付き、一応そこからほふく前進し、
単眼鏡や双眼鏡を使い、街の方を見始めた。
「……いた、この方向よ」
そのロザリアの指差す方向を見た残りの三人は、
今まさに待ち伏せをしようとしている者達の姿を発見した。
「本当にいやがったよ……諦めが悪い奴らだな」
「何があいつらをそこまで駆り立てるのか、さっぱり分からんな」
「いくら何でも、シャナを悪者に仕立て上げるのも限度があるだろうに」
「まあ煽ってる奴が上手いんだろうさ」
そう言いながら、シャナは先ほどは出番が無かったM82を、再び取り出した。
「おっ……」
「シャナといえば短剣とM82だけど、シャナがそれを撃つ所を見るのは初めてだわ」
「あ、俺も俺も」
「ああ、まあ確かに中々使いどころがな」
「運用が難しい武器ではあるよな」
「まあな。さて、やるか……おいロザリア、何か歌え」
「ちょっ……い、いきなり何て無茶振りをしてくるのよ!」
「ジングルベルでもいいぞ、なるべくシンプルな奴な」
「あっ……」
「「何故ジングルベル……」」
ロザリアは何かに気付いたようだが、薄塩たらこと闇風は同時にそう言った。
「ん?お前らうちのシノンがヘカートIIを持っている事は知ってるだろ?」
そしてそのシャナの言葉を、ロザリアが引き継いだ。
「確かそれを手に入れた時に、シャナがずっとジングルベルを歌ってたのよね?」
「「そうなのか?」」
「ああ、いい感じに集中出来たみたいでな、あいつその時、一発も外さなかったぞ」
「まじかよ……」
「凄えなシノンちゃん……」
「そんな訳で、俺も何か歌ってもらえれば外さない……気がする。
まあ別に外してもいいんだがな」
そして三人は、何かを期待するような目でロザリアを見た。
ロザリアは顔を赤くしながらも、何を歌えばいいか必死で考えていた。
この辺り、さすがロザリアは真面目である。
「えっと……ハミングでもいいのよね?」
「ああ、俺の時もそうだったからな」
「それじゃあやってみる」
「お、俺録画しとくわ!」
そしてロザリアが口ずさみ始めたのは、ラヴェルのボレロだった。
薄塩たらこはピュウッと口笛を吹き、闇風はパチンと指を鳴らした。
二人が静かに見守る中、シャナは満足そうにM82を構え、狙撃を始めた。
そしてタ~ン、タ~ンという音が何度もその場に木霊し、
その度に敵のプレイヤーが一人、また一人と倒れていった。
敵は迷彩柄のマントを羽織っていたのだが、
待ち伏せに選んだのが遮蔽物の無い場所だった為、
右往左往する事しか出来ず、敵はどんどんとその数を減らしていった。
タ~~~~~~~~~~~~~~ン!
そして最後に、一際長い射撃音が響き渡り、シャナの狙撃はそこで終わった。
それを感じたロザリアはハミングをやめ、シャナに尋ねた。
「終わった?」
「ああ、敵は全滅だ」
「おおおおお、凄いもん見せてもらった!」
「シャナ、やっぱあんた凄えな!」
「ロザリア、いい歌声だったぞ」
「あっ……ありがと」
ロザリアは、歌について褒められたのは生まれて初めてだった為、
顔を赤くしながらそうお礼を言った。
そしてハンヴィーの所に戻った後、薄塩たらこと闇風は興奮気味にその事をイコマに話した。
「うわぁ、僕も見たかったなぁ」
「大丈夫だ、俺が録画しておいたぜ!」
「本当ですか!?たらこさん、後で見せて下さい!」
「おっ、それじゃあお前らもうちの拠点に来ないか?ついでにそこで祝勝会といこう」
「いいのか!?」
「やった、俺一度あのビルに入りたかったんだよ!」
そして五人は、もはや誰も敵がいなくなった荒野を堂々とハンヴィーで走り、
街へと着くと、シャナ達が拠点としているビルへと向かった。