ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第313話 覚悟しておいてくれ

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 五人は絶対安全圏である拠点に入ると、やっと心から落ち着く事が出来たようで、

リラックスした表情で談笑していた。

 

「ロザリアちゃん、体はもう大丈夫?」

「はい、今回はお手数をおかけして本当にごめんなさい」

「いやいや、悪いのはロザリアちゃんじゃないから」

「そうそう、確かに仕様上は可能とはいえ、悪いのは卑怯な手を使ったあいつらだから」

 

 そしてシャナは、ラフィンコフィンの事を念頭におきながらこう言った。

 

「可能だからといって何でもしていいなんて奴らにはご退場願わないとな。

別に正義を振りかざしたい訳じゃなく、単に俺がそういう奴らが嫌いってだけだけどな」

「相手も好きでやってるんだからこっちも好きでそうする、それでいいんじゃないか?

今回みたいな事は絶対に無くならないかもしれないが、

かといって放置する訳には絶対にいかないからな」

「結局は強い方の意見が通る、これはゲームなんだから、それでいいと思うぜ」

 

 この場の誰も、自分達が正義だなどとは思っていなかった。

嫌なものは嫌だ、ただそれだけなのだ。

 

「ところでシャナ、さっき録画した動画をイコマに見せたいんだが……」

「おう、今準備するわ、もっとも見てて面白いかどうかは保証しないけどな」

「私はちょっと恥ずかしいんだけど……」

「最悪敵を潰す為のプロパガンダに利用させてもらうかもしれない、我慢しろ」

「う、うん」

「うわお、敵には容赦ねえなシャナ、そういうの嫌いじゃないぜ」

 

 そして動画の再生が始まった。どうやらその動画は、

薄塩たらこの視覚に同調させているようで、

スコープ越しに敵が撃ちぬかれていく姿がしっかりと映っていた。

時々歌うロザリアや、シャナの姿が映る演出が心憎い。

 

「おお、見事ですね」

「どうだイコマ、俺も中々のものだろう?」

「あっ、いえ、シャナさんの評価は既に僕の中じゃレジェンドなんで、

今言ったのはロザリアさんのハミングについてなんですが」

「……お前はお前で俺の行動に対するハードルを上げ過ぎるんじゃねえ」

「あは、すみません」

 

 そしてイコマは、続けてこう言った。

 

「僕はクラシックが好きで、自分でもよく聞く方だと思うんですが、

音程もしっかりとれてますし、聞いてて心地よいですし、

意外って言ったら失礼になっちゃうかもですが、凄くいいと思いますよ。

やってみると分かりますけど、これ結構難しいですよ」

「ふむ、どれ……」

 

 そして闇風が、試しに動画のロザリアのハミングに合わせてボレロを口ずさんでみた。

もっともハミングではなく、普通にラララ~と歌う感じであったが。

 

「ら~~~らららららららっららら~~~らららららららら~~~げほっげほっ、

確かに難しいな、ロザリアちゃん、お手本を見せてくれよ」

「えっ、いや、それはちょっと……」

「俺も聞きたいなぁ、ロザリアちゃん、ちょっとだけでも駄目?」

「いや、恥ずかしいですし……」

「俺ももう一回聞きたいな、ロザリア」

「ら~~~らららららららっららら~~~らららららららら~~~」

「シャナが言っただけでノータイムで歌いだすとか!」

「そりゃないぜロザリアちゃん、だがそれがいい!」

 

 そして下手ながらも、その場にいる全員が動画に合わせて歌いだした。

必ずしも音程が合っていない部分もあったが、

自分の歌に合わせて動画の中のシャナが敵を撃ちぬいていくのを見るのが楽しいようで、

多少おかしくても誰もそんな事は気にしなかった。そこに突然、六人目の声が聞こえた。

その声は声量や声の美しさが群を抜いており、一同は歌うのをやめこそしなかったものの、

一体誰だろうと思って入り口の方を見た。そこには楽しそうに歌うピトフーイの姿があった。

そして動画が終わり、全員がピトフーイに拍手喝采した。

 

「うわ、歌が上手いなおい」

「上手いっていうか、何かプロっぽかったな」

 

 そう感想を述べる薄塩たらこと闇風に、ピトフーイが言った。

 

「よく見たら、たらおとヤミヤミじゃない、何でここにいるの?」

 

 そのピトフーイの言葉に、薄塩たらこは即座に突っ込んだ。

 

「俺の苗字はフグタじゃねえよ!?」

「俺はまだ普通で良かった……」

 

 そんなピトフーイにシャナが言った。

 

「俺が招いたんだ、お前ら知り合いだったのか?」

「あっ、そうなんだ?うん、二人とも古参だし、何度かその、ね?」

「何だよその、お茶を濁すような言い方は」

「あっ、いや、昔ちょっと裏切って殺したり、盾にしたり……その、分かるでしょ?」

「おいピト、ちょっと俺の隣に座れ」

 

 シャナがいきなりそう言ったのを聞いて、ピトフーイは驚いた顔で言った。

 

「シャナがデレた!?どうしよう、シャワーを浴びてこないと……」

「そういうのはいいから」

「はぁい!」

 

 そして嬉しそうにピトフーイが隣に座った瞬間、シャナはその頭に拳骨を落とした。

 

「いきなり人前でそんなプレイは駄目だよぉ……」

 

 平然とそんな事を言うピトフーイに、シャナは二度三度と拳骨を落としながら言った。

 

「とりあえずお前はこの二人に謝れ」

 

 そしてピトフーイは、何の疑問も差しはさむ事もなく、素直に二人に謝った。

 

「たらお、ヤミヤミ、昔はごめんなさいでした」

「あ、あのピトフーイが素直に謝っただと……?」

「まじかー!噂には聞いてたが、こうして目の当たりにするとやっぱ驚くよな」

 

 そしてシャナは、薄塩たらこと闇風に頭を下げた。

 

「すまん二人とも、こいつが迷惑をかけたな」

「いや、別にいいって、もう過ぎた事だしよ」

「ピトフーイがシャナと一緒にいるって聞くようになってからは、

こいつの悪い噂はパッタリと無くなったし、俺も別に気にしないぜ。

それよりピトフーイ、お前、歌うのが上手いんだな、驚いたぜ」

「うん、歌は好き!でもロザリアちゃんも歌上手なんだねぇ、驚いたよ!」

「歌と呼べる物じゃないし、ピトと比べられるのはちょっと……」

 

 そう困った顔で言うロザリアに、ピトフーイは言った。

 

「え~?声が音階に乗ってれば、それは全部歌だし、

それにいいとか悪いとか何も無いよぉ、要は楽しければいいんだよ」

 

 そしてピトフーイは、再び動画に合わせて歌いだした。

 

「シャ~~~シャナナナナナシャッナナナ~」

「ボレロの歌詞を俺の名前にするんじゃねえ、

あと適当な癖にめちゃめちゃ上手いのがむかつく」

 

 そう言ってシャナは、再びピトフーイに拳骨を落とそうとして、

これでは喜ばすだけだと思い、寸前で手を止めた。

頭への衝撃を期待していたピトフーイは、その瞬間に恍惚とした表情になった。

 

「はぁ……シャナに放置されてる……」

「いつも通り、どっちにしろ結果は同じか……」

 

 そしてシャナは、諦めた顔でそれ以上突っ込むのをやめた。

そんな二人を見て、薄塩たらこと闇風は同時に言った。

 

「「お前ら仲いいな!」」

「あ?こいつはただの俺の下僕だ、それ以上でも以下でもない」

「そうだよ、私はただのシャナの下僕だよ、下僕オブ下僕だよ!」

「「のろけられた!?」」

「お前らも大概仲良しだよな……」

 

 シャナは二人の息ピッタリな様子を見て、呆れた顔で言った。

 

「で、今の動画は何?シャニアの私でも見た事が無い動画だったけど」

「シャニアって何だ?」

「シャナ・マニアの略だよ!」

「ああ、はいはい、実は今日、ロザリアがちょっと拉致されてな」

「えええええ?」

 

 そしてシャナは、今日の出来事をピトフーイに説明した。

ピトフーイは黙って話を聞いていたが、話が終わった後、ドスのきいた声でこう言った。

 

「クソ野郎ども、皆殺しにしてやる……」

「お、おう……」

 

 そしてピトフーイは、ロザリアに駆け寄ると、いきなりその頭を胸に抱きながら言った。

 

「ごめんねロザリアちゃん、私がその場にいたら、絶対に守ってあげたのに」

「ううん、悪いのは油断をした私だから……」

「あまつさえ、手足の腱を切った上に、目まで潰すなんて、

そんなのシャナにしかされたくないよね?辛かったね、ロザリアちゃん」

「えっ?……あ……えっと……そ、そうね……」

 

 ロザリアは困った顔で、とりあえずそれに同意した。

 

「で、これからどうするの?シャナ」

「今後も絡んでくるようなら……戦争だ、とことんやる」

「おほっ、そんな好戦的なシャナも好き!」

「あくまで今後も絡んでくるようなら、だぞ。無差別にやりあうつもりはねえよ」

「まあそれじゃあ終わりが見えなくなっちゃうしね!」

「だが、向こうから仕掛けてくるなら徹底抗戦だ、

相手の心を折るまでやるぞ、覚悟だけはしておけよ、ピト」

「了解!」

 

 そしてシャナは、続けてピトフーイに言った。

 

「あとな、ピト、今日試しにこれを使ってみたんだがな」

「ARとALだね!どうだった?」

「ビルの壁越しに、相手を細切れにしてやった」

「エ、エクスタシー!」

「何言ってるんだお前……で、さすがにこれは反則すぎると改めて思ったんだが……」

 

 そのシャナの言い方に、ピトフーイは期待に目を輝かせながら言った。

 

「思ったんだが?」

「今回の戦争が終わるまで、無制限でそれの使用を許可する。存分にやれ」

「やった!鬼哭ちゃん、ついに出番だよ!」

 

 そしてピトフーイは、カゲミツG3を取り出して刃を出した。

その真っ赤な刃は、まるで他のプレイヤーの血を求めるかのように、ゆらゆらと揺れていた。

 

「ピトフーイもそれを持ってたのか!」

「赤い刃……やばい、格好いい!俺も欲しい!」

「ふふん、これが私の鬼哭ちゃんだよ」

「さて、お前らは今後どうするんだ?」

 

 そしてシャナが、薄塩たらこと闇風にそう尋ねた。

 

「俺はスコードロンのしがらみもほとんど無いから、

助けがいる時はいつでも呼んでくれ。あ、やっぱり助けがいらなくても呼んでくれ」

「ずるいぞ闇風!」

「お前はどうするんだ?相棒」

 

 その闇風の問いに、薄塩たらこは苦い表情でこう答えた。

 

「俺は今まで、GGOで最大のスコードロンを目指す事ばかり考えて、

メンバーの質にはまったく気を遣ってこなかった。

今回の事で、それがどれだけ間違っていたのか思い知らされた。

だからうちのスコードロンは一旦解散して、俺の意思に賛同する奴らだけを集め直して、

また一からやりなおす事にするぜ。そしてそいつらを率いて、

シャナと共にこの戦争を戦い抜く事にする」

「いいのか?」

 

 そう尋ねてきたシャナに、薄塩たらこは笑顔で答えた。

 

「俺達友達だろ」

「……そうか、そうだな」

 

 そして二人は固い握手を交わし、闇風もそれに参加した。

丁度その時、残りのメンバーが全員拠点に入ってきた。

 

「あ、BoBに出てた人だ、確か薄塩たらこさんと闇風さん」

「あれ、たらこさんはともかく、闇風さんとシャナって知り合いだったの?」

「ふむ、何かあったのか?シャナ」

「こ、こんにちは」

 

 ベンケイ、シノン、ニャンゴロー、エムがそう言い、最後にシズカがこう言った。

 

「シャナ、一応聞くけどこちらのお客様は?」

「おう、知ってると思うが、こっちは薄塩たらこ、こっちが闇風だ」

「あっ……ど、ども、薄塩たらこです、たらこと呼んで下さい」

「初めまして、闇風です」

 

 二人はシズカのその女王然とした雰囲気に緊張し、そう挨拶を返した。

 

「私はシャナのパートナーのシズカです、宜しくお願いします」

「シャナの妹のベンケイです」

「私の自己紹介は別にいらないわよね」

「ニャンゴローだ、先生と呼ぶがよい!」

「エムです、初めまして」

「で、何かあったの?」

 

 そのシズカの疑問に答える形で、シャナは今日の出来事を全員に説明した。

 

「そう……そんな事が」

「それは許せないですね」

「何よそれ……片っ端からヘカートで撃ちぬいてやるわ」

「いざとなったら私も参戦するぞ、シャナ!」

「そんな事が……分かりました、警戒します」

 

 そして五人はロザリアに駆け寄り、口々にロザリアを慰め始めた。

その姿を見て、薄塩たらこと闇風は、改めてシャナ軍団の結束の固さを感じると同時に、

羨ましさも感じていた。

 

「おい闇風、ここはシャナのハーレムか!?」

「改めて見ると、レベル高いなおい!」

「聞こえてるぞ」

 

 そうひそひそと言葉を交わす二人に、シャナがそう言った。

 

「一応言っておくが、別にハーレムとかじゃないからな」

「で、でも、妹のベンケイちゃん以外は全員シャナの事が好きなんじゃね~の?」

 

 その言葉を受け、シズカとシノン、それにロザリアとニャンゴローと、

ピトフーイまでもがもじもじしだし、二人はその五人の態度に打ちのめされた。

 

「Oh……」

「本日二度目の、俺達にとってはでかいダメージが来たぜ……」

 

 シャナは困った顔でそれを見ていたが、とりあえず優先すべき話があった為、

気を引き締め、話を続けた。

 

「そんな訳で、今日から戦争になる可能性が高いから、覚悟しておいてくれ。

この二人は味方だが、正直誰が敵で誰が味方かは分からないから、

基本全員ログアウトはここでする事にして、まだダイン達にも気を許すなよ。

エヴァ達は……まあ平気だろう。外出する時は、基本一人にならないようにな」

「お、それだったら俺達が、さりげなく色々な奴らの所に出向いて情報収集してきてやるよ」

「そうだな、俺達を人質にとる意味も無いだろうしな」

「そうか?すまん、今回はその言葉に甘える事にする、この借りは必ず返す」

「いいって、俺達もう友達だろ?」

「そうだな、友達認定証ももらったしな!」

 

 シャナは二人に頭を下げ、二人は笑顔でそう返すと、情報収集の為にこの場を後にした。


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