ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第314話 噂の虚実

「なぁ相棒、真っ直ぐ自分のスコードロンに戻って、話し合いでもするのか?」

「いや、やはり先に情勢を見極めておきたい。

案外敵対する奴らが少なくて、俺達の出る幕が無い可能性もあるからな」

「それじゃあお互い知り合いの所を回って、後で答え合わせといこうぜ」

「ああ、くれぐれも軽率な行動はとらないように、お互い気を付けようぜ」

「おう」

 

 最初に薄塩たらこが向かったのはダインの所だった。

 

「よぉダイン、久しぶりだな」

「ああん?て、手前、よくここに顔を出せたもんだなおい!」

「どうしたんだよ、随分な剣幕じゃないかよ」

「うるせえ、とっとと失せやがれ!女を人質にとるような奴とつるめるか!」

 

(ほほう……)

 

「不愉快にさせたなら悪かったよ、とりあえず今日はこのまま退散するわ、

これは侘びの印だ、受け取ってくれ」

 

 薄塩たらこはそう言って大仰に肩を竦めながら、

あらかじめ用意していたメッセージキューブをダインにこっそりと渡し、

酒場を出た後にどこかにメッセージを送ると、

よく自分が隠れ家的に使っている小さな酒場に向かい、個室に陣取った。

そしてほどなくして、ダインがギンロウを伴って現れた。

 

「おっ、悪いな、こんな所に呼び出したりしてよ、ギンロウも一緒か」

「一人でのこのこ来て、お前に闇討ちされたらかなわないからな」

「そんな気はまったくないが、問題無い、ギンロウも一緒に俺の話を聞いてくれ」

「ふん、とりあえずこんな所に俺を呼び出した理由をさっさと説明してくれ」

「もちろんだ」

 

 そして薄塩たらこは、ダインに語りかけた。

 

「そもそも何でお前はそんなに俺を嫌ってるんだ?

今日の事は、お前にはどういう風に伝わってるんだ?」

「今日、お前のスコードロンの連中を中心とする奴らが、

シャナの仲間のロザリアを拉致したよな?

そしてシャナに、公開された席上で女性プレイヤー全員に謝罪しないと、

ロザリアの手足の腱を切り、目を潰すと脅しをかけた。

ところがシャナが人質を見捨てるように、有無を言わさず攻めてきたから、

大義の為とか言って、実際にロザリアを傷付けたらしいじゃねえか。

そしてシャナの報復を受けて全滅させられたそうだな」

「裏はとれてんのか?」

「当たり前だ!」

 

 そしてダインは、怒りを込めた目で薄塩たらこに言った。

 

「その話を聞いて直ぐに、俺達はお前のスコードロンのメンバーを何人か締め上げた。

そしたらそのうちの一人が『ロザリアを人質にとってシャナに皆殺しにされた。

でもあれは最終的に彼女を助けるっていう大義の為で仕方なかったんだ』

とか確かに言ってやがったよ、なぁギンロウ?」

「ええ、それは確かっす、俺もその場にいましたから」

「要するに人質にとったのは間違いないって事だろうが!どう言い訳するつもりだ?」

「うちのメンバーのした事だ、その事で言い訳するつもりはない」

 

 そのセリフを聞いた薄塩たらこはそう言った後、逆にダインに質問した。

 

「そいつ、ロザリアちゃんの手足や目の事については何か言ってたのか?」

「ああん?そんなの否定しやがったに決まってるだろ、

どうせ自分の悪行を突きつけられて、そのまま認めるのが怖くなったんだろうよ」

「ふむ……」

 

 そして薄塩たらこは、キッパリとダインにこう言った。

 

「実は今日俺は、シャナと闇風と一緒にそいつらと戦った。自分の仲間すら皆殺しにしてな」

「はぁ?」

「たらこさん、それ、マジっすか?」

「今証人がここに来る。どうもお前を一人で説得する自信が無かったんでな、

ここに来てもらう事にした」

「証人?シャナ本人でも連れてくるつもりか?」

「その通りだダイン、それにギンロウ、久しぶりだな」

 

 突然個室の入り口からそんな声が聞こえ、ダインは慌ててそちらに振り向いた。

そこにいた人物はフードを外し、ダインに軽く手を上げた。

 

「よぉ」

「シ、シャナ!それにロザリアも!」

「シャナさん、お久しぶりです!」

「こ、こんにちは」

 

 横にいたロザリアもそう挨拶し、たらこの横に座った二人は、

今回の事件についてダインとギンロウに説明を始めた。

 

「そういう事か……くそっ、インチキな噂に踊らされる馬鹿どもが」

「ああ、今回は心配かけちまったな、本当にすまん」

「いやいや、シャナが謝る事じゃねえよ!

それよりも俺がたらこに謝らねえと……話も聞かずにお前を疑って本当にすまなかった!」

「いや、それだけ敵の情報操作が虚実織り交ぜた嫌らしい物だったって事なんだろう、

確かに俺が首謀者に聞こえるのも事実だから、気にしないでくれよ、

俺達は今回の事に怒りを覚えた同士だろ?な、ダイン」

「お、おう、そうだな、俺達は同士だ!」

 

 シャナはそんな二人を見て、安心したように言った。

 

「しかしどうやらダイン達が味方みたいでほっとした。

もし敵対してたら、お前やギンロウの頭を撃ちぬく時、ほんの少し胸が痛んだだろうからな」

「撃ち抜くのは確定かよ……ためらうとかいう選択肢は無いんだな……」

「シャナさん、さすがっす!」

「まあそんな事にならなくて、お互い良かったな」

「当たり前よ、他の奴らと違って、少なくとも俺達はあんたと一緒に戦って、

実際にシノンのあんたに対する態度とかを見てるからな、

こんなくだらない噂に惑わされたりはしねえ」

「そうか……ありがとな、ダイン」

 

 そんなシャナに、ダインが言った。

 

「もっとも俺も最初は、中立でいようかとちょっと迷っちまった部分もあるんだよ。

さすがにあんたを否定する声が大きすぎて、びびっちまってな……」

「そういう声は、そんなに大きいのか?」

「ああ、確実にあんたの味方と呼べるスコードロンは、うちの所以外には数える程しかねえ」

「なるほどな」

「だがうちは話し合いの最中に、このギンロウが大演説をかましやがった。

『お前ら、先日シャナが俺達の為に単独で奮戦してくれたのを忘れちまったのか!

この恩知らずどもが!他人の為に自分を犠牲に出来る人が、そんな悪党な訳無いだろう!』

ってな、それでうちのスコードロンは、中立でいる事をやめ、

あんたの味方をする事にしたんだ」

 

 そしてシャナは、ギンロウをぽかんと見つめながらこう言った。

 

「ギンロウ、お前どうしてそこまで……」

 

 その問いにギンロウは、胸を張りながら言った。

 

「男が男に惚れるのに、理由なんかいらないっす!」

 

 そんなギンロウの背中を、ダインと薄塩たらこが嬉しそうにバシバシと叩いた。

シャナはそんなギンロウに頭を下げた。

 

「すまん、俺にそんな趣味は……」

「やっ……違っ……そういう意味じゃ!」

「悪い、冗談だ」

 

 シャナはそう言ってギンロウに片目を瞑り、ギンロウはきょとんとした。

そんなギンロウの背中をシャナがバシンと叩いた。

 

「ちょっと感動しちまったから、まあ照れ隠しだ、これからも宜しくな、ギンロウ」

「はっ、はい!」

 

 ギンロウはそのシャナの言葉に、とてもいい笑顔でそう言った。

 

「ところでシャナ、気になる事があるんだよ、ロザリアちゃんの受けた傷の事でな」

「ん、たらこ、どうかしたのか?」

「なぁロザリアちゃん、説明を聞いた時から思ってたんだが、

ロザリアちゃんが手足と目を傷付けられた事を知っている奴って、

実は相当数が少ないんじゃないのか?」

 

 そう尋ねられたロザリアは、少し考えた後に頷いた。

 

「確かにあの時は、見張りの人の焦った様子からして、

事前に計画されていた事じゃなかったと思いますね。

つまりその事を知っているのは見張りの二人と、

実際に私を傷付けたその犯人だけという事になります。

その後上に来た人もいなかったですしね」

「だろ?でもよ、ダインが聞いた噂だと、その事もハッキリと伝わってるらしいんだよ、

だよな?ダイン、ギンロウ?」

 

 その薄塩たらこの問いに、二人は頷いた。

 

「俺はこの耳でハッキリと、ロザリアが手足の腱を切られて目を潰されたって聞いたぜ」

「俺もですよ、街で流れてる噂はそれで間違いないです」

「って事は、噂を広めたのはロザリアちゃんを傷付けた奴って事になるよな?」

「確かにそれしかないな、ロザリア、そいつの顔は見たのか?」

「ごめんなさい、目隠しをされていた上に、声も小さくて聞き取れなかったの」

「そうか、残念だが仕方ないな、二人とも、すまないが噂について詳しく聞かせてくれ」

 

 シャナは二人にそう言い、ダインとギンロウは、なるべく詳しく噂について説明した。

 

「なるほど、俺がロザリアを見捨てた事になってんのか」

「俺達はそこは信じなかったが、中には信じる奴もいそうな話なんだよな」

「人質がいるのに、対話を拒否していきなり攻めてきたって口を揃えて言ってましたしね」

「そうそう、そこは一致してたな」

「人によって、知ってる部分と知らない部分の差が激しいんですよね、

でも話をまとめると、大体そんな感じで辻褄が合うんっすよ」

「確かに傷の事を肯定する奴はいなかったが、明確に否定出来る奴もいなかったんだよ。

自分のいない所では、そういう事もあったかもしれないってな」

「公開された席上で謝罪を求めたってのも、

直接対峙した奴がいたなら、多分そんな要求をする奴もいたと思う、みたいな感じで」

「なるほど、誰も事件の全体像を知らないから、

噂がここまで広まっちまうと、安易に否定出来ないんだな」

「くそ、嫌らしいやり方だな、はがゆいぜ」

 

 噂についてはそう結論付けられた。こうなるともう、いくらシャナが否定しようとも、

それを安易に信じる者はいないだろう。

 

「別に悪役扱いされるのは構わないんだが、仲間に手を出してくる奴がいるのがうざいな。

やはり片っ端から潰してまわって、相手の心を折るしかないか」

「その過程でシャナさん達の絆を見せられたら、考え直す奴もいると思います!」

「地道にやっていくしかないか」

「多分そのうち大きな戦いも起きるだろうが、当面はそれしかないな」

「私はしばらく情報収集は、顔を知られていないエムさんと一緒に行いますね」

 

 そしてその後、何かあったら連絡を取り合い、お互いに助け合う事が確認され、

とりあえずその場はお開きになった。一方その頃闇風は、地道に酒場を覗き、

黙って色々な噂や、それに伴う他のプレイヤーの反応を観察していた。

 

(う~ん、俺の名前がまったく出ないな、たらこも直接戦闘に参加していた事は、

まったく知られてないみたいだな、確かに俺達の姿をハッキリ見た奴っていないからなぁ。

たらこはスコードロンを解散したら噂になるだろうが、

俺はしばらくは自由に情報収集が出来そうだ)

 

 そして闇風は、いくつかの酒場を訪れた後、街の噂も拾って回った。

 

(ギャレットもペイルライダーも敵、獅子王リッチーもか、ベヒモスは興味無さそうだな、

デヴィッドは……よく分からん、でもあいつはピトフーイと仲が悪いからなぁ)

 

 デヴィッドとは、MMTMという少人数のチームで活動している腕のいいプレイヤーで、

ピトフーイと揉めた事で、古参の間では有名なプレイヤーだった。

 

(対人スコードロンはほぼ敵に回るか。基本あいつらはシャナに痛い目にあってるからな、

噂は関係なく私怨で動いてもおかしくないな。ダインの所だけが例外か)

 

 そんな分析をしながら、闇風は気ままに街を歩いていた。

 

「くそっ、状況に流されちまった、あんな女の子の手足と目を潰すとか吐き気がする……」

 

 そして街を歩いていた最中に、突然そんな声が聞こえてきた為、

闇風は慌てて声の聞こえてきた方を見た。

そこには一人のプレイヤーが、ビルの壁を叩きながらぶつぶつと何か呟いている姿があった。

 

(今の言葉……あいつはまさか、ロザリアちゃんの監視役だった奴か!?)

 

「一応録画はしておいたが、客観モードだからバッチリ俺の顔が映っちまってるんだよな……

さすがにこんなのを公開したら、例えシャナの悪事が暴かれようと、俺の身の破滅だ。

どう見ても、女の子を拷問するのに参加してるように見えちまう……

しかもその後シャナに一瞬で殺されるおまけ付きだし、その事でも馬鹿にされるに違いねえ。

ああ、もう何もかも面倒臭え、ほとぼりがさめるまで、しばらくログインするのは控えるか」

 

(録画だと!?まずい、呼び止めないと……いや、その前にあいつの顔を……)

 

 そして闇風は、慌ててそのプレイヤーを写真に撮影し、

声を掛けようとした瞬間に、そのプレイヤーはログアウトした。

 

(くそ、遅かったか……しかし顔はハッキリと撮影出来たし、今日はこれで良しとしよう)

 

 そして闇風は、薄塩たらこと連絡を取り、合流した。

 

「どうだった?相棒」

「ダイン達は積極的にシャナの味方をしてくれるようだ。

そして俺はたった今、スコードロンを解散してきたぜ。

後は仲間の反応を見て、信頼出来る奴を見極めて再編成だ」

「そうか、こっちは主だった奴らの反応を見てみたぜ」

「おう、どうだった?」

「有名どころだと、ギャレット、ペイルライダー、獅子王リッチーは敵、

味方確定な奴はまだいねえな、全体の反応は、

中立が五割で、敵が四割、味方は一割ってところだろうな」

「厳しい数字だな」

 

 薄塩たらこは、重々しく頷きながらそう言った。

 

「まあ、逆転の一手になりそうな手がかりは見付けたぜ」

「まじかよ相棒、どんなだ?」

「あいにくログアウトされちまったが、ロザリアちゃんの監視役をしていた奴を見付けた。

どうやらその時の様子も録画していたらしい」

「まじかよ!」

「写真はとっておいたから、そいつを見付ける事が出来れば形勢を変えられるかもしれん。

でもそいつ、ほとぼりがさめるまで、しばらくログインしないって言ってたんだよな」

「いやいや上出来だろ、とりあえずそいつが誰か、写真から特定出来るだろうしな」

「よっしゃ、シャナに報告だな」

 

 そして二人はシャナに連絡をとり、意気揚々とシャナ達の拠点へと向かった。

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