ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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お待たせしました、あの方の登場です!

2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第315話 そして彼女はたどり着く

 まもなく目的地のシャナ達の拠点に辿り着こうという頃、

薄塩たらこと闇風は、突然横合いから何者かに襲いかかられた。

 

「うわっ」

「何だ!?」

 

 そして二人は前のめりに倒され、頭に銃を突きつけられた。

その視線の先に、ブーツと白い足首が見え、二人は襲ってきたのが誰なのか理解した。

 

「この足首は……」

「銃士X……」

 

 そして顔を上げようとした薄塩たらこの頭に衝撃が走った。

どうやら銃士Xが、銃床で頭を殴ったらしい。

 

「うごっ……いきなり何しやがる!」

「それ以上顔を上げると私のパンツが見える、不許可」

「まじかよ」

 

 そう言って慌てて顔を上げようとした闇風の頭にも衝撃が走った。

 

「くそっ」

 

 そして銃士Xが離れる気配がして、二人はやっと顔を上げる事が出来た。

その頃には、銃士Xは長目のコートを羽織って前をキッチリ閉じており、

上から下までほとんど露出の無い姿となっていた。その姿を見て二人は肩を落とした。

 

「これでいい、私の肌を見ていいのはシャナ様だけ。

今後は極力シャナ様の前でだけ、あの格好をする事にする」

 

 その言葉で、二人は銃士Xがシャナの味方だという事を知った。

 

「お前もしかして、シャナのファンだったのか?いつも無口だから全然分からなかったぞ」

「シャナのファンがどうして俺達を襲うんだよ!」

「闇風はおまけ、今日の標的はたらこ」

「俺!?」

「あ~!おい相棒、噂、噂!」

「あっ……」

「肯定、噂は聞いた」

 

 そして薄塩たらこは、慌てて銃士Xに弁解した。

 

「ま、待て、あの噂は間違いだ、俺達はシャナの味方だ!」

「そうそう、今だってシャナの所に収集した情報を伝えにいく途中なんだよ」

「……証拠は?」

「証拠?」

「証拠か……」

 

 その銃士Xの言葉に二人は言葉を詰まらせた。

手元にそれを証明出来る証拠など、もちろん持ち合わせてはいないからだ。

 

「な、無い……」

「そう……なら死になさい」

「ま、待て待て、今シャナを呼ぶから待ってろ……って、いない……」

 

 生憎シャナは今、一時的にログアウトしていた。

 

「やばい……他に誰かいないか……」

「おっ、たらこさん、さっきはどうも……って銃士Xじゃねえか、何してるんだ?」

 

 丁度そこにギンロウが通りがかった。ギンロウは、今はエムがいない為、

情報収集に出るロザリアの護衛をする為に、

連絡を受けてわざわざここま出向いて来たのだった。普段はおちゃらけているが、

ギンロウはシャナが絡むと途端に義理固さを発揮する、中々いい男であるようだ。

 

「ギンロウどいて、そいつ殺せない」

「まあ街中なんだから、それはそもそも無理だろ、って、はぁ?

いや待てって、何がどうなってるんだよ?」

 

 驚くギンロウに、銃士Xはキッパリと言った。

 

「たらこはシャナ様の仲間を傷付ける事で、仲間を大切にするシャナ様の心を傷付けた」

「だから殺すってか?そういうのはシャナさんは喜ばないと思うけどな」

「うっ……肯定、私は冷静さを失っていた、確かにその通り」

「それにたらこさんはシャナの味方だぞ、闇風さんもな」

「……真実?」

「ああ、さっきまでシャナさんを交えて話してたから間違いない」

「納得……」

 

 そして銃士Xは、三つ指をついて二人に丁寧に謝罪した。

 

「ごめんなさい」

「あ、いや、悪いのは嘘の噂を広めてる奴らだからよ」

「そうそう、銃士Xちゃんは何も悪くない」

「ありがとう」

「それじゃあ俺も急ぐんでな、たらこさん闇風さん、またです。

銃士Xも噂の裏くらいちゃんととれよな」

「分かった、反省」

 

 そしてギンロウは去っていき、銃士Xは二人に説明を求めた。

 

「求む、状況、説明」

「ああ、簡単に経緯を説明するとな……」

 

 そして薄塩たらこは、おかしな集まりに呼び出された事、

今日ロザリアがさらわれた現場に居合わせた事、

闇風とシャナとイコマと共に、ロザリアの奪回に向かった事を説明した。

そしてその過程で、自分にも声を掛けようとした事を聞いた銃士Xは、

いきなり両手を地面についてうなだれた。

 

「お、おい、いきなりどうしたんだよ……」

「また神と知り合える機会を失った……」

「神?神ってシャナの事か?」

「当たり前、シャナ様は唯一神、他に神はいない」

 

 そんな銃士Xの様子を見た二人は、ひそひそと囁き合った。

 

「おい相棒、銃士Xってこんな奴だったか?」

「全然話さないから気付かなかったが、実は昔からこうだったんだろ、

多分第一回BoBの後からだとは思うが……」

「完全に信者って感じだよな……」

 

 そして闇風は、突然こんな事を言い出した。

 

「もしシャナに体を求められたら、銃士Xちゃんはどうするんだろうな……

まあシャナはそんな事は、絶対にしないだろうけどな」

「お前いきなり何を言い出しちゃってるんだよ、でも興味があるな、聞いてみるか……?」

「そうだな……」

 

 そして薄塩たらこが、恐る恐る銃士Xに尋ねた。

 

「なぁ……ちょっと質問していいか?」

「肯定、質問をどうぞ」

「お前もしかして、シャナと付き合いたいのか?」

 

 多少婉曲して、そんな質問から入った薄塩たらこだったが、

それに対する銃士Xの返事は、いつも通りこうだった。

 

「あなたにもし信じる神がいたとして、あなたはその神との恋愛を望むの?」

「お、おう、つまり望まないと」

「そう、私はそんな事は望まない」

 

 その言い方に少し引っかかるものを覚えた闇風が、次にこう尋ねた。

 

「それじゃあ、シャナにそれを望まれたら?」

「当然神の望むままにお傍に仕えるに決まってる」

「お、おう、そういう事な……」

「それじゃあ、シャナに体だけ望まれたらどうするんだ?」

「お、おい闇風、それはストレートすぎるだろう!」

「私のこの体だけを?」

 

 そう言って銃士Xはコートの前を開いた。相変わらず露出の多い格好だ。

銃士Xはスラッとした体型をしており、その白い肌は二人にはとても眩しく見えた。

タイプで言うと、シノンに近いのだろう。

 

「この体は作り物、でもシャナ様の目にとまるとしたら、この体しかない」

「あっ、お、おう……確かにそうだな、現実世界と見た目も体型もまったく違うかもだしな」

 

 そう言った闇風に対し、銃士Xはあっさりとこう言った。

 

「だけど、この顔も体も、胸以外は幸い現実世界での私の見た目に酷似している。

だからシャナ様がこの体を気に入って頂けるなら、現実世界の私も十分対応可能」

「胸以外?おいおい、まさかそれって巨……」

「おい闇風、ハラスメント警告が出ちまうから!」

 

 今の銃士Xの胸は、どちらかというとかなり小さい。

という事はつまりそういう事なのだと、二人は驚愕した。代わりに闇風は、次にこう尋ねた。

 

「なぁ、対応可能って、それってつまり……」

「当然望まれたら、現実世界での私の全てを捧げるという事」

 

 その言葉に、二人は先ほどの銃士Xと同じ格好でうな垂れた。

 

「いきなり何?」

「頼む、何も突っ込まないでくれ……」

「ちょっとくるものがあっただけだからよ……」

「そう」

 

 そして銃士Xは、話の続きを二人に促した。

 

「話の続きを」

「おっとそうだった、それでな……」

 

 そしてシャナが最上階に単独で乗り込んだ事、

その過程で輝光剣を使った事を聞いた銃士Xは、驚愕した顔でこう言った。

 

「何と……まさに神の武器……」

「おう、あれは凄かったな」

「ARとAL、正式名称は、カゲミツX1アハトライトとX2アハトレフトだったか?」

「……本当?」

「こんな事で嘘をついてどうするんだってばよ」

「本当にアハト?」

「おう、間違いないぜ」

「そう……」

 

 そして銃士Xが、いきなり二人に騎士の礼をとった為、二人は驚いた。

 

「な、何だよいきなり」

「二人に感謝を」

「感謝?何への感謝だ?」

「私は今、シャナ様の正体を知った。アハト、おそらくアハト・ファウスト。

それはSAOの英雄の武器の名前、つまりそういう事」

 

 その言葉を聞いた二人は、銃士Xの本気を見誤っていた事を知った。

 

「お、おい、それだけで確定させるのはさすがに……」

「彼のALOでの動画は見た事がある。シャナ様と短剣を構えるスタンスが酷似していた。

そしてシャナ様の傍に立つ女神の剣技、あれはバーサクヒ-ラーの剣技で間違いない。

二つだけなら確信する事は無かった。でも三つになると、これはもはや偶然とは呼べない」

 

 その銃士Xの説明を聞いた二人は、顔を見合わせた。

 

「相棒、俺達やっちまった?」

「かもしれん……シャナに謝るか……」

「必要ない、シャナ様はそんな事で怒るような方ではない」

「確かにそうかもだけどよ……」

「それに私の名前はシャナ様の前では出さないで。

私はあくまで自力で神の前に立ち、最終的にはヴァルハラに到る」

 

 そうキッパリと言い放つ銃士Xの事を、二人は眩しい目で見つめた。

ただの色ボケではない、一人の戦士の姿がそこにはあった。

そして薄塩たらこが、その名を呟いた。

 

「ヴァルハラ……ヴァルハラ・リゾートか……」

「そう、神々の楽園、いつか私は必ずそこに到る。

そして現実世界でも、シャナ様のお傍にお仕えする」

「そこまで決意してるなら、何も言う事は無えな」

「くそ、妬けるぜ……なあ、シャナの見た目が現実であんたの好みに合わなくても、

それでもやっぱり求められたらそれに応じるのか?」

 

 最後に悔し紛れに闇風がそう言った。

銃士Xは、何故か突然顔を赤らめ、もじもじしながら言った。

 

「え……シャナ様の見た目は私の好みにドストライクだから、

そんな事あるはずないし……というか凄く格好良かったし、むしろ望むところというか……

候補の中では最上級の結果が出て、凄く嬉しい……」

「お、お前その喋り方……」

「普通に話せたのかよ!」

 

 それは先ほどの凛とした姿とは違って、完全に色ボケした姿であった為、

二人はそう突っ込んだ。直後に銃士Xはハッとした顔で口調を元に戻した。

 

「意味不明、理解不能、多分幻聴」

「そ、そうか……」

 

 そして闇風が、思い出したように銃士Xに尋ねた。

 

「っていうか、お前シャナの顔を知ってるのか?」

「肯定、常識」

「どこで見たんだよ……というかさっき正体が分かったばっかりだろ!?」

「以前から候補には入れていた。SAOサバイバーが集まる施設といえば帰還者用学校。

そこで私は、神候補と同じ名前の人物を既に発見してリサーチ済」

「そこまでするか……」

「悪意が無いだけに始末に終えないな……」

 

 二人はその言葉に呆れたが、そんな二人に銃士Xは言った。

 

「当然シャナ様の素性も把握済、私はいつか必ずシャナ様の秘書になる為に、その勉強も始めた」

「秘書?秘書って何だよ、学生なんだろ?」

「それは言えない、でもシャナ様は学生の身でありながら、

とある大企業の次期社長に既に内定している、まさに現代に生きる神」

「えっ……?」

「ま、まじかよ、超セレブじゃねえか!」

「否定、シャナ様の家はそういう家では無い、ただの一般家庭だとリサーチ済」

「どういう事だよ……」

「全てシャナ様の実力という事。あなた達も精進が必要」

 

 そしてその後の狙撃のシーンで再び興奮した姿を見せた後、銃士Xは去っていった。

そんな銃士Xの後姿を見ながら、闇風が言った。

 

「まさかあいつがあんな奴だったなんて知らなかったな」

「信仰とか言ってるけど、普通にシャナに惚れてるよな……愛が重い……」

「ピトフーイもそうだし、シノンもベタ惚れだったんだろ?

凄えなシャナ、俺にはとても受け止めきれねえわ……」

「まあ俺達は、分相応の相手を頑張って見付けようぜ」

「だな」

 

 こうして二人の心に鮮烈な印象を残した銃士Xは、

シャナと知り合える機会を、今後も虎視眈々と狙い続けるのだった。

だがその日はまだまだ先、この戦争の後の事となる。

ちなみに驚くべき事に、その出会いはGGO内ではなく、現実世界での事であった。

更にちなみに、薄塩たらこと闇風も八幡と知り合う事になるのだが、

それもこの戦争が終わった後の事である。


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