2018/06/15 句読点や細かい部分を修正
まもなく目的地のシャナ達の拠点に辿り着こうという頃、
薄塩たらこと闇風は、突然横合いから何者かに襲いかかられた。
「うわっ」
「何だ!?」
そして二人は前のめりに倒され、頭に銃を突きつけられた。
その視線の先に、ブーツと白い足首が見え、二人は襲ってきたのが誰なのか理解した。
「この足首は……」
「銃士X……」
そして顔を上げようとした薄塩たらこの頭に衝撃が走った。
どうやら銃士Xが、銃床で頭を殴ったらしい。
「うごっ……いきなり何しやがる!」
「それ以上顔を上げると私のパンツが見える、不許可」
「まじかよ」
そう言って慌てて顔を上げようとした闇風の頭にも衝撃が走った。
「くそっ」
そして銃士Xが離れる気配がして、二人はやっと顔を上げる事が出来た。
その頃には、銃士Xは長目のコートを羽織って前をキッチリ閉じており、
上から下までほとんど露出の無い姿となっていた。その姿を見て二人は肩を落とした。
「これでいい、私の肌を見ていいのはシャナ様だけ。
今後は極力シャナ様の前でだけ、あの格好をする事にする」
その言葉で、二人は銃士Xがシャナの味方だという事を知った。
「お前もしかして、シャナのファンだったのか?いつも無口だから全然分からなかったぞ」
「シャナのファンがどうして俺達を襲うんだよ!」
「闇風はおまけ、今日の標的はたらこ」
「俺!?」
「あ~!おい相棒、噂、噂!」
「あっ……」
「肯定、噂は聞いた」
そして薄塩たらこは、慌てて銃士Xに弁解した。
「ま、待て、あの噂は間違いだ、俺達はシャナの味方だ!」
「そうそう、今だってシャナの所に収集した情報を伝えにいく途中なんだよ」
「……証拠は?」
「証拠?」
「証拠か……」
その銃士Xの言葉に二人は言葉を詰まらせた。
手元にそれを証明出来る証拠など、もちろん持ち合わせてはいないからだ。
「な、無い……」
「そう……なら死になさい」
「ま、待て待て、今シャナを呼ぶから待ってろ……って、いない……」
生憎シャナは今、一時的にログアウトしていた。
「やばい……他に誰かいないか……」
「おっ、たらこさん、さっきはどうも……って銃士Xじゃねえか、何してるんだ?」
丁度そこにギンロウが通りがかった。ギンロウは、今はエムがいない為、
情報収集に出るロザリアの護衛をする為に、
連絡を受けてわざわざここま出向いて来たのだった。普段はおちゃらけているが、
ギンロウはシャナが絡むと途端に義理固さを発揮する、中々いい男であるようだ。
「ギンロウどいて、そいつ殺せない」
「まあ街中なんだから、それはそもそも無理だろ、って、はぁ?
いや待てって、何がどうなってるんだよ?」
驚くギンロウに、銃士Xはキッパリと言った。
「たらこはシャナ様の仲間を傷付ける事で、仲間を大切にするシャナ様の心を傷付けた」
「だから殺すってか?そういうのはシャナさんは喜ばないと思うけどな」
「うっ……肯定、私は冷静さを失っていた、確かにその通り」
「それにたらこさんはシャナの味方だぞ、闇風さんもな」
「……真実?」
「ああ、さっきまでシャナさんを交えて話してたから間違いない」
「納得……」
そして銃士Xは、三つ指をついて二人に丁寧に謝罪した。
「ごめんなさい」
「あ、いや、悪いのは嘘の噂を広めてる奴らだからよ」
「そうそう、銃士Xちゃんは何も悪くない」
「ありがとう」
「それじゃあ俺も急ぐんでな、たらこさん闇風さん、またです。
銃士Xも噂の裏くらいちゃんととれよな」
「分かった、反省」
そしてギンロウは去っていき、銃士Xは二人に説明を求めた。
「求む、状況、説明」
「ああ、簡単に経緯を説明するとな……」
そして薄塩たらこは、おかしな集まりに呼び出された事、
今日ロザリアがさらわれた現場に居合わせた事、
闇風とシャナとイコマと共に、ロザリアの奪回に向かった事を説明した。
そしてその過程で、自分にも声を掛けようとした事を聞いた銃士Xは、
いきなり両手を地面についてうなだれた。
「お、おい、いきなりどうしたんだよ……」
「また神と知り合える機会を失った……」
「神?神ってシャナの事か?」
「当たり前、シャナ様は唯一神、他に神はいない」
そんな銃士Xの様子を見た二人は、ひそひそと囁き合った。
「おい相棒、銃士Xってこんな奴だったか?」
「全然話さないから気付かなかったが、実は昔からこうだったんだろ、
多分第一回BoBの後からだとは思うが……」
「完全に信者って感じだよな……」
そして闇風は、突然こんな事を言い出した。
「もしシャナに体を求められたら、銃士Xちゃんはどうするんだろうな……
まあシャナはそんな事は、絶対にしないだろうけどな」
「お前いきなり何を言い出しちゃってるんだよ、でも興味があるな、聞いてみるか……?」
「そうだな……」
そして薄塩たらこが、恐る恐る銃士Xに尋ねた。
「なぁ……ちょっと質問していいか?」
「肯定、質問をどうぞ」
「お前もしかして、シャナと付き合いたいのか?」
多少婉曲して、そんな質問から入った薄塩たらこだったが、
それに対する銃士Xの返事は、いつも通りこうだった。
「あなたにもし信じる神がいたとして、あなたはその神との恋愛を望むの?」
「お、おう、つまり望まないと」
「そう、私はそんな事は望まない」
その言い方に少し引っかかるものを覚えた闇風が、次にこう尋ねた。
「それじゃあ、シャナにそれを望まれたら?」
「当然神の望むままにお傍に仕えるに決まってる」
「お、おう、そういう事な……」
「それじゃあ、シャナに体だけ望まれたらどうするんだ?」
「お、おい闇風、それはストレートすぎるだろう!」
「私のこの体だけを?」
そう言って銃士Xはコートの前を開いた。相変わらず露出の多い格好だ。
銃士Xはスラッとした体型をしており、その白い肌は二人にはとても眩しく見えた。
タイプで言うと、シノンに近いのだろう。
「この体は作り物、でもシャナ様の目にとまるとしたら、この体しかない」
「あっ、お、おう……確かにそうだな、現実世界と見た目も体型もまったく違うかもだしな」
そう言った闇風に対し、銃士Xはあっさりとこう言った。
「だけど、この顔も体も、胸以外は幸い現実世界での私の見た目に酷似している。
だからシャナ様がこの体を気に入って頂けるなら、現実世界の私も十分対応可能」
「胸以外?おいおい、まさかそれって巨……」
「おい闇風、ハラスメント警告が出ちまうから!」
今の銃士Xの胸は、どちらかというとかなり小さい。
という事はつまりそういう事なのだと、二人は驚愕した。代わりに闇風は、次にこう尋ねた。
「なぁ、対応可能って、それってつまり……」
「当然望まれたら、現実世界での私の全てを捧げるという事」
その言葉に、二人は先ほどの銃士Xと同じ格好でうな垂れた。
「いきなり何?」
「頼む、何も突っ込まないでくれ……」
「ちょっとくるものがあっただけだからよ……」
「そう」
そして銃士Xは、話の続きを二人に促した。
「話の続きを」
「おっとそうだった、それでな……」
そしてシャナが最上階に単独で乗り込んだ事、
その過程で輝光剣を使った事を聞いた銃士Xは、驚愕した顔でこう言った。
「何と……まさに神の武器……」
「おう、あれは凄かったな」
「ARとAL、正式名称は、カゲミツX1アハトライトとX2アハトレフトだったか?」
「……本当?」
「こんな事で嘘をついてどうするんだってばよ」
「本当にアハト?」
「おう、間違いないぜ」
「そう……」
そして銃士Xが、いきなり二人に騎士の礼をとった為、二人は驚いた。
「な、何だよいきなり」
「二人に感謝を」
「感謝?何への感謝だ?」
「私は今、シャナ様の正体を知った。アハト、おそらくアハト・ファウスト。
それはSAOの英雄の武器の名前、つまりそういう事」
その言葉を聞いた二人は、銃士Xの本気を見誤っていた事を知った。
「お、おい、それだけで確定させるのはさすがに……」
「彼のALOでの動画は見た事がある。シャナ様と短剣を構えるスタンスが酷似していた。
そしてシャナ様の傍に立つ女神の剣技、あれはバーサクヒ-ラーの剣技で間違いない。
二つだけなら確信する事は無かった。でも三つになると、これはもはや偶然とは呼べない」
その銃士Xの説明を聞いた二人は、顔を見合わせた。
「相棒、俺達やっちまった?」
「かもしれん……シャナに謝るか……」
「必要ない、シャナ様はそんな事で怒るような方ではない」
「確かにそうかもだけどよ……」
「それに私の名前はシャナ様の前では出さないで。
私はあくまで自力で神の前に立ち、最終的にはヴァルハラに到る」
そうキッパリと言い放つ銃士Xの事を、二人は眩しい目で見つめた。
ただの色ボケではない、一人の戦士の姿がそこにはあった。
そして薄塩たらこが、その名を呟いた。
「ヴァルハラ……ヴァルハラ・リゾートか……」
「そう、神々の楽園、いつか私は必ずそこに到る。
そして現実世界でも、シャナ様のお傍にお仕えする」
「そこまで決意してるなら、何も言う事は無えな」
「くそ、妬けるぜ……なあ、シャナの見た目が現実であんたの好みに合わなくても、
それでもやっぱり求められたらそれに応じるのか?」
最後に悔し紛れに闇風がそう言った。
銃士Xは、何故か突然顔を赤らめ、もじもじしながら言った。
「え……シャナ様の見た目は私の好みにドストライクだから、
そんな事あるはずないし……というか凄く格好良かったし、むしろ望むところというか……
候補の中では最上級の結果が出て、凄く嬉しい……」
「お、お前その喋り方……」
「普通に話せたのかよ!」
それは先ほどの凛とした姿とは違って、完全に色ボケした姿であった為、
二人はそう突っ込んだ。直後に銃士Xはハッとした顔で口調を元に戻した。
「意味不明、理解不能、多分幻聴」
「そ、そうか……」
そして闇風が、思い出したように銃士Xに尋ねた。
「っていうか、お前シャナの顔を知ってるのか?」
「肯定、常識」
「どこで見たんだよ……というかさっき正体が分かったばっかりだろ!?」
「以前から候補には入れていた。SAOサバイバーが集まる施設といえば帰還者用学校。
そこで私は、神候補と同じ名前の人物を既に発見してリサーチ済」
「そこまでするか……」
「悪意が無いだけに始末に終えないな……」
二人はその言葉に呆れたが、そんな二人に銃士Xは言った。
「当然シャナ様の素性も把握済、私はいつか必ずシャナ様の秘書になる為に、その勉強も始めた」
「秘書?秘書って何だよ、学生なんだろ?」
「それは言えない、でもシャナ様は学生の身でありながら、
とある大企業の次期社長に既に内定している、まさに現代に生きる神」
「えっ……?」
「ま、まじかよ、超セレブじゃねえか!」
「否定、シャナ様の家はそういう家では無い、ただの一般家庭だとリサーチ済」
「どういう事だよ……」
「全てシャナ様の実力という事。あなた達も精進が必要」
そしてその後の狙撃のシーンで再び興奮した姿を見せた後、銃士Xは去っていった。
そんな銃士Xの後姿を見ながら、闇風が言った。
「まさかあいつがあんな奴だったなんて知らなかったな」
「信仰とか言ってるけど、普通にシャナに惚れてるよな……愛が重い……」
「ピトフーイもそうだし、シノンもベタ惚れだったんだろ?
凄えなシャナ、俺にはとても受け止めきれねえわ……」
「まあ俺達は、分相応の相手を頑張って見付けようぜ」
「だな」
こうして二人の心に鮮烈な印象を残した銃士Xは、
シャナと知り合える機会を、今後も虎視眈々と狙い続けるのだった。
だがその日はまだまだ先、この戦争の後の事となる。
ちなみに驚くべき事に、その出会いはGGO内ではなく、現実世界での事であった。
更にちなみに、薄塩たらこと闇風も八幡と知り合う事になるのだが、
それもこの戦争が終わった後の事である。