ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第317話 走れ、太夫黒!

「おい、シャナだぜ……」

「あの野郎、平気な顔で一人で歩いてやがる」

「一人だと?千載一遇のチャンスだ、人を集めろ!」

「わ、分かった」

 

 シャナは街のざわつく様子から、敵が罠にかかった事を知った。

 

(さて、戦士の墓場まで散歩としゃれこむか。イコマにアレも用意してもらったしな)

 

 そしてシャナは、敵の斥候がちゃんと着いてきている事を確認すると、

のんびりと街の郊外に向けて歩きだした。

 

(そういや、GGOから他のゲームにコンバートしてる間は、

戦士の墓場にそいつの墓碑が生成されたりしてるんだろうか)

 

 シャナはそんなとりとめのない事を考えながら、後方へと意識を向けた。

 

(ふむ……どうやら敵も徐々に集まってきているみたいだな、ロザリアに確認するか)

 

 シャナはそう考え、直ぐにロザリアに連絡をとった。

 

「どうだロザリア、そっちは今どうなってる?」

『慌しくプレイヤーがそっちの方に向かってるわ、

どうやら最初にシャナを見付けたのは、ペイルライダーの一派みたいね。

さっきご本人様が意気揚々とそっちに向けて出発したわ』

「ほほう?いきなりの大物だな」

 

 シャナはそう言い、ペイルライダーの容姿を思い出そうとしたのだが、

どうしても思い出す事が出来なかった。

 

「ペイルライダーな、あいつ腕はいいっぽいんだが、

華が無いからまったく記憶に残らないんだよな……」

『もしかして顔を覚えてないの?』

「ああ、まあ見れば思い出すだろ」

 

 ロザリアはその言葉を受け、敵のデータベース化を急ぐ必要があると考え、

シャナにこう言った。

 

『とりあえず、片っ端から撮影してリストに登録するわね』

「結構面倒だよな?すまないな、事務仕事を増やしちまって」

『大丈夫よ、今は先生がいるから』

 

 シャナはそう言われ、ニャンゴローをGGOに呼んだ理由を思い出した。

 

「そういえば、先生はそういうのの為に参加してくれたんだったな……

すっかり色物枠なつもりでいたわ。どうだ、やっぱり先生がいると楽か?」

『ええ、とっても』

「そうか、それなら来てもらった甲斐があったな」

『そういった仕事は大分楽になったわ。例の総督府のデータの解析は難航してるんだけどね』

「ラフコフの奴ら、相当上手く潜伏してやがるんだな……あの先生の目をかいくぐるとは」

『そうね、正体不明の人物のうち、十人くらいがどうしても絞り込めないのよね。

あるいは新人で既に引退しているのか、ほとんど街に寄り付かないのか、

もしくは誰かのセカンドキャラが混じっているのか、とにかく分からないの』

「まあとりあえずそっちは置いておこう。

で、どうだ?まだこっちに向かおうとしているプレイヤーはいるのか?」

『今のところはいないわ、敵は合計十六人ね』

「了解だ、それじゃあ何か他の動きがあったら教えてくれ」

『分かったわ』

 

 そして二人は通信を終え、シャナは大きく伸びをした。

 

「さてと、そろそろ動くか」

 

 そしてシャナは、Uの字型をしている単眼鏡を取り出し、

後方から気付かれないようにそれを覗きこんだ。

 

「ペイルライダーペイルライダーっと……え~っと、確かあいつだな、多分間違いない」

 

 シャナがそう決め付けたプレイヤーは、実はペイルライダーでは無かった。

シャナ的にはどうでもいいのか、この辺りはぞんざいである。

もっともどうせ全滅させるのだから、この場合は問題が無いだろう。

 

「この辺りなら、地形的にアップダウンが激しいから逃げるのにはもってこいか。

よし、ここらでとっておきを出すか、少しアナログだけどな。いでよ、我が愛馬よ!」

 

 そしてシャナはストレージから何かを取り出し、それに跨った。

それは何と自転車だった。実にアナログであるが、移動が楽なのは確かだ。

そしてシャナは、とてもわざとらしく後ろを向くと、

たった今追っ手に気付いたようなそぶりを見せ、全力で戦士の墓場へ向けて走り出した。

 

「行くぞ、太夫黒!」

 

 どうやらシャナは、自転車の名前を、先ほど聞いた義経の愛馬の名前にしたらしい。

当然太夫黒は返事などはしやしないのだが、わざわざ何度も声を掛ける辺り、

この男、案外ノリノリであった。

 

「なっ……自転車だと?」

「気付かれたぞ!」

「追え、追え!」

 

 そんな声が聞こえ、後方から何発か銃弾が飛んできたが、シャナに命中する気配は無い。

地形が上下している為、追っ手達は中々シャナに照準を合わせる事は出来ないのだった。

 

「ペイルさん、どうします?」

「くそっ、とにかく逃がすな、全力疾走だ!」

「は、はい!」

 

 追っ手の中には、AGI特化型のプレイヤーも当然おり、

そのプレイヤーはかなりの速度を誇っていたが、シャナもそのSTRを生かし、

全力で太夫黒を漕いでいた為、その距離はまったく縮まらなかった。

だがシャナの狙いはこれだけではなかった。

何とかシャナに付いてきていたのは、敵の十六人中、半数の八人、

残りの八人は、方向こそ先行する八人から連絡を受けていた為、付いて来れていたが、

前方集団からの距離は、大きく開いてしまっていた。

要するに、敵は二手に分断されてしまっていた。

そしてシャナは戦士の墓場を通過した頃、ホワイトで待機する仲間達に連絡をとった。

 

『こちらシャナ、ホワイト、聞こえるか?』

「こちらホワイト、感度良好」

「感度良好って、女の子が言うとちょっとエッチじゃない?」

『黙れピト、どうだ、そっちから俺が見えるか?』

「はい、今太夫黒が通過したのが見えました」

『後ろの敵も見えるか?』

「え~っと……あっ、今ひぃふぅみぃ……八人通過しました、追撃しますか?」

『いや、その後方から別に八人の集団が追ってくる。先ずはその集団を殲滅してくれ』

「了解です!」

 

 そしてシャナは、シノンに声を掛けた。

 

『シノン、聞こえるか?』

「うん、感……き、聞こえるわ」

 

 シノンはピトフーイが突っ込もうとする気配を感じ、感度良好と言うのをやめた。

 

『敵の中に、ペイルライダーがいるらしい。

もし後方集団にいたら、一番にあいつを狙撃してくれ、頼んだぞ』

「ペイルライダーがいるの?オーケー、任せて。

イコマ君、ホワイトを敵が来るルートから見て、正面に移動させてね」

「はい!」

 

 イコマはもうかなり運転に慣れたのか、ホワイトをスムーズに移動させ、

一行は、墓石の並ぶ一角で、街道が正面に見える位置に陣取った。

街道がアルファベットの小文字のiの下の部分だとしたら、

ホワイトの位置は上の点の位置にあたる。ちなみに街道は、

Iの一番上の部分で左に曲がっている為、敵を正面に捕らえられる時間は案外短い。

シノンはホワイトの屋根から上半身を出し、狙撃体制をとった。

 

「イコマ君、私が狙撃したらホワイトで突撃よ。

敵の前に出たら、ホワイトのドアを盾にして全員で攻撃ね、

到着するまでにもう一人くらいは撃ちたいから、ピトは私の足が安定するように固定して」

「分かりました!」

「オッケー、私がシノノンの足を押さえてればいいのね」

 

 そしてピトは、目の前にあるシノンの太ももをじっと見つめながら、シズカに話しかけた。

 

「……ねぇシズ」

「何?ピト」

「この太ももはちょっとけしからんと思わない?

太ももからおしりにかけてのラインがエッチというか何というか……」

「なっ……」

 

 シノンはそのピトの言葉に、自分の顔が熱くなるのを感じたが、

前方から目を離す訳にもいかず、動く事は出来なかった。

そしてシズカは、ピトに言われるままにシノンの太ももを観察し、

シノンはシズカからの視線を太ももに感じ、どこかくすぐったいような感覚を覚えた。

 

「確かに男の子はこういうのが好きなんだろうとは思うけどね、

しかしこの太ももは……うん、けしからんね」

「やっぱりシャナもこんな感じの太ももとおしりが好きなのかな?」

「う~ん、多分好きなんじゃない?まあ男の子は誰だってそうかもだけどね」

『おいお前ら、人の性癖を勝手に捏造すんな』

「ひゃっ!」

「シ、シャナ、聞こえてたの?」

『当たり前だろ、おいピト、多分シノンが赤くなってるだろうから、

狙撃に集中してもらう為に黙って言われた通りにしてろ』

「あ、あ、赤くなんかなってないわよ!」

 

 シノンは顔を真っ赤にしながらそうシャナに抗議した。

シノンは上半身を上に出していた為、下にいる者達からは、

その自分の顔の赤さを見る事が出来ないだろうと思い、シノンは安堵したのだが、

実はその言い方で、シノンが顔を真っ赤にしているのは下の者達にはバレバレだった。

 

 

「来ました、後続の八人です」

 

 その時窓から顔を出して前方を監視していたエムがそう言った。

どうやらピトフーイの言葉に突っ込む気はまったく無いらしい、さすが大人である。

イコマは何かに耐えるように、黙って前方を見つめており、

ニャンゴローはその横で、黙って自分の足を見つめながら何事か考え込んでいたのだが、

その言葉を聞いた瞬間、全員気を引き締めたようだ。

シズカは銃を構え、ピトフーイはしっかりとシノンの足が動かないように固定した。

 

「ペイルライダーを発見、撃つわ」

 

 さすがシノンは、先日ペイルライダーを第二回BoBで見ていた為、

その容姿をしっかりと覚えていたようだ。

そしてシノンは、ペイルライダーの頭をスコープの中心に据え、

あっさりとヘカートIIの引き金を引いた。次の瞬間ペイルライダーの頭は吹っ飛び、

こうしてペイルライダーは、あっさりと退場する事となった。

どんなに強い者でも状況によってはあっさりと倒される、

これがGGOというゲームの怖い所である。それはシャナでさえも例外では無いのだから。

 

「命中」

「行きます!」

 

 そのシノンの言葉を受け、イコマがホワイトを発車させ、

ホワイトはエンジンを唸らせて全力で走り出した。

 

「命中」

 

 再びシノンがそう言い、もう一人のプレイヤーが倒され、シノンはそこで車内に戻り、

サブ武器のグロックを取り出した。そして敵の前に飛び出したホワイトはそこで停車した。

 

「ペイルさんが撃たれた!」

「なっ……」

「敵の奇襲だ、応戦しろ!」

「もう撃ってる!でも……何だよあのハンヴィー、攻撃が通らないぞ!」

 

 そして六人は外に飛び出すと、ハンヴィーのドアを盾に、敵に銃弾の嵐を降らせた。

敵も更に何発か反撃してきたのだが、その攻撃は全てハンヴィーの厚い装甲に阻まれ、

こちらに命中する事はまったく無かった。

そして六人が倒されるのと同時に、いきなりシャナから通信が入った。

 

『まだ遠いが前方に誰か見える。あれは……ゼクシードとその取り巻きだ!』

「えっ、本当に?」

「ユッコとハルカだっけ?」

『ああそうだ、間違いない。とりあえずこっちは何とかするから、

そっちは殲滅が終わったら直ぐにこっちに向かってくれ』

「こちらは殲滅完了、直ぐに向かいます!」

 

 そしてその言葉を聞いた六人は直ぐに車内に戻り、イコマは慌ててホワイトを発車させた。

残りの敵は八人だが、シャナの言葉通りだと、前方にはゼクシード達三人がいるようだ。

果たしてゼクシード達がどう動くのかは、まだ誰にも分からなかった。


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