「フローリア、この施設の事を詳しく教えてくれないか?」
『はいマスター、それではこの部屋からご説明致します』
そしてフローリアは、五人に説明を始めた。
「この最下層は、先ほどご説明した通り駐車スペースになっております。
皆様もご存知のように、街からここまで歩いてくるのはかなり大変ですので」
「ここは街からどのくらい離れているんだ?」
「五十キロほどです、マラソンの距離とほぼ同じですね」
「マラソン大会でも開催するつもりだったのか……?」
シャナはそう冗談を言い、歩いてどのくらいかかるかを考えた。
「世界記録が二時間ちょいとして、その四倍の時間をかけるとしても八時間とかか?
確かにこの世界ではいくら走っても疲れはしないが、
それだけの時間歩き続けるのは大変なんてもんじゃないよな」
「車を飛ばせば三十分だね」
「スピードが出せないような場所でも一時間くらいだろうしな」
その言葉を受け、フローリアが言った。
『はい、実はもっと車関係の利用を見込んでまして、
実際海外サーバーではかなり利用されているのですが、このJPサーバーでは……
ちなみにこういった要塞の場所は各サーバーで違ってまして、
海外サーバーの情報を見た方もいると思いますが、ここではまったく役にたちません」
「なるほどな、首都圏に住んでいれば免許が無くても生活にはあまり困らない上に、
近場で基本的なゲームのコンテンツは大体揃ってるしな。
あえてゲーム内で車に乗ってみようとは思わないか……国民性の違いもあるんだろうかな」
『海外では、こういったゲーム専門の冒険家の方もいるようですね』
「耳が痛いな、こういうゲームでも、そういった部分ももっと楽しまないといけないよな」
『はい、なので先ほどマスターにお会いした時は、少し嬉しく感じました』
「そうか、それは俺も嬉しく思うよ」
その言葉にフローリアは首を傾げた。
『どういう意味でしょうか』
「俺の周りにも、茅場晶彦製のAIがいくつかあるんでな、
感情が豊かなNPCを見ると、ちょっと嬉しく思ってな」
『残念ながら、私に使用されているAIはそれには劣りますが、
そう思って頂ける事を私も嬉しく思います、マスター』
そして五人は、螺旋階段を上って次の階層へと向かった。
『ここは基本、到着したばかりのプレイヤーの方々が休憩したり準備をする、
共用スペースになっております。売店なども設置される予定です』
「ほうほう、なるほどな」
『それでは次に参ります』
次のフロアは、まるでホテルのようにいくつかの部屋が設置されたスペースだった。
『このフロアには、プレイヤーの方々がログアウトする為の小部屋が設置されております。
個人用の部屋と、団体用の部屋があります』
「よく考えられているな……」
「確かにここまで来るのは大変だから、こういった施設は必要だよね」
『はい、ここから三フロアはそんな感じのフロアになっております』
そして二つのフロアを超え、次のフロアは入り口に認証が必要なフロアとなっていた。
『ここはマスターと、サブマスター専用のフロアとなっております』
「何に使う部屋なんだ?」
『司令室と考えて頂ければ』
「ほほう?そういえばここは要塞って言ってたよな」
『はい、ここは敵の目標の一つとなっていますので、
一定条件ごとに、敵の集団が押し寄せてくるんです』
その言葉に五人は驚いた。
「そんなイベントがあったのか?」
「う~ん、聞いた事無いよね」
「フローリアさん、その発生条件って何ですか?」
『初回はこの要塞を訪れた、のべ人数となっております』
「最初にそのイベントが発生する条件は何人なんだ?」
『最初は二十人ですね、現在五名ですので、残りはのべ十五名になります。
その次は百名、次からは千名単位での発生となります』
そして五人は、フローリアに色々質問をした。
「建物内から出て直ぐに入っても、のべ人数にカウントされるの?」
『いいえ、一度街に戻る事が条件になります』
「敵の規模は?」
『初回は三百体ほどになります。
次回からは、ここから半径一キロ以内にいるプレイヤーの数を計測し、
その二十倍の敵となります。上限は千体です』
「十人だと二百体か……プラズマグレネードとかは使ってもいいんだろうか」
『グレネード系は完全に無効化されます、手榴弾もです。
あくまで銃もしくは近接武器による戦闘が推奨されています』
その言葉にシャナは、広域攻撃用武器は使えないという事かと納得した。
「敵の強さは?」
『通常のフィールドモブと同じになっております』
「勝利条件と敗北条件は?」
『勝利条件は敵の全滅、敗北条件は、開始時に拠点内にいたプレイヤー数の半減となります』
「拠点防衛戦なんだよな?入り口の扉は開放された状態になるのか?」
『いいえ、最初は閉まった状態になります。敵の中に工作専門の敵がいまして、
その敵が扉に到達するごとに扉の耐久度が減っていき、
目安としては十体の敵が五分間工作を行うと扉が破壊され、建物の中での戦闘に移行します』
「なるほどな……」
『上のフロアからも、威力は落ちますが安全に攻撃出来ますし、
これはボーナスゲームという扱いなので、あくまで遊び程度に考えて頂ければと思います』
そのフローリアの最後の言葉に五人は驚いた。
「ボーナスゲームなんだ」
『はい、さすがに惑星の存亡がかかっているとか、そういった事はありません。
もし敗北しても、一定期間が過ぎれば中立拠点に戻りますので、
その時に次のプレイヤーが中に入れば、その方が新しいマスターになるだけです。
ただしマスター不在の時にここが落ちた場合には、マスターは移行しません』
「マスターにはどんな権限があるんだ?」
『入場料の一%を自分のものに出来ます。もっとも入場料も微々たる金額ですが。
その他にはこのフロアにあるマスター専用施設の使用権と、
一日の上限付きでの希望する弾薬の支給です』
「残りの入場料はどうなるんだ?」
『施設の充実に使われます。具体的には訪れる方が増えれば増える程、
ショップが増えたり商品が充実していきます』
「うわ、それはつい友達を誘って通いたくなるね」
「二十人か……何人か誘って試しに発生させてみるか?」
「いいねそれ!」
そしてフローリアが、ニコリと笑顔で言った。
『初回はボーナスの度合いが高いので、貴重なアイテムもドロップしますよ。
これは要塞を最初に発見した方と、その知り合いの方々へのボーナスとなりますので、
出来るだけ親しい方々を誘う事をお勧めします』
その言葉を聞いて、一行は俄然やる気になった。
「誰を誘う?」
「まあそんなに親しい知り合いが多い訳じゃないから、
メンバーは本当に厳選する事になるだろうがな」
「まあとりあえず、残りの施設の説明を聞いちゃおうよ」
「そうだな、フローリア、次のフロアに案内してくれ」
『分かりました、といっても次が最後のフロアになります』
「お、そうなのか」
『はい、こちらです』
そして五人が案内されたのは、屋上と言っていいのだろうか、
周囲の景色が一望出来る展望台のような広場だった。
「うわぁ、凄い凄い!」
「綺麗ね……」
「ここから下に向けて攻撃するんですかね?」
『はい、ここからの攻撃も当然可能となっております』
「こんな施設が、世界にいくつもあるの?」
『はい、ここは世界樹要塞ですが、他にも場所はお教え出来ない事になっていますが、
竜谷門や光の空中都市などがありますね』
「何それ、すごく気になる」
「そうだな、いつか見てみたいよな」
『マスター達ならきっといつか見付けられますよ』
フローリアはそう言いながら五人に微笑んだ。
「さて、とりあえず今日は帰るとするか、先生達にも報告しないといけないしな」
「予定を調整して、直ぐにここに戻って来ようね」
「フローリア、近いうちにまたここに戻ってくるから、
それまで寂しいだろうが待っててくれよな」
『そう言って頂けるだけで、マスターをマスターに出来た事を嬉しく思います』
フローリアはそう言って、シャナに満面の笑顔を見せた。
『ですがその心配は不要です』
そしてフローリアは、シャナにとあるアイテムを差し出した。
「これは?」
『ここのマスターの証で、世界樹の窓と呼ばれるアイテムです』
「これはどう使うんだ?」
『はい、横のスイッチを押して下さい』
「こうか?」
その瞬間に、シャナの隣にもう一人のフローリアが現れた。
「うおっ」
『彼女はもう一人の私です、もちろん会話も出来ます』
『記憶も共有していますので、ここの管理と同時にお傍にお仕えする事が可能となります』
『何か質問がある時は、いつでもお呼び出し下さい』
二人は交互にそう喋り、最初からここにいたフローリアは五人を見送った。
『それでは私はここでノンアクティブ状態に戻ってここを管理します。
以後はそちらのフローリアをお連れ下さい』
「おう、色々ありがとな、フローリア」
『はい』
フローリアはニッコリと微笑んで姿を消した。
そしてもう一人のフローリアがシャナに言った。
『さて、それでは私も窓の中に戻ります』
「いや、待て待てフローリア」
『どうかしましたか?マスター』
「せっかくだから、お前も一緒にブラックに乗って、景色を眺めながらのんびり帰ろうぜ」
その言葉にフローリアは、きょとんとしながら言った。
『……そんな事を仰るマスターは、海外サーバーを含めてもマスターが初めてです』
「フローリアのAIは学習型なのか?」
『はい、その通りですマスター』
「なら広い世界を見て、色々勉強してもいいんじゃないか?
その方がきっとフローリアのためにもなるさ、な?」
「うん、誰もいない時は、拠点から外を眺めててもいいしね」
「フローリアちゃんの服も色々選んでみたいなぁ」
「私、妹が出来たみたいで嬉しいです!」
『あの……は、はい』
そしてシャナは、フローリアに手を差し出した。
「ほら、フローリア、こっちだ」
『は、はい』
フローリアはシャナに手を引かれ、
戸惑いつつも嬉しそうにその隣を歩き、一緒に階段を下っていった。
それを見て、残りの四人は微笑ましさを覚えた。
『ところでマスター、そのブラックというのは何ですか?』
「おっとすまん、俺の所有しているハンヴィーの名前だな。
もう一台あって、そっちはホワイトって名前になる」
『分かりました、ブラックとホワイトですね』
「おう、ほら、あれだ」
そして最下層に戻った一行は、そのままブラックに乗り込み、街へと戻り始めた。
運転しているのはシノンであり、フローリアは助手席に座らせてもらった。
「おいシノン、フローリアに笑われないように、おかしな運転はするんじゃないぞ。
俺も後ろからちゃんと見てるからな」
「わ、分かってるわよ、しっかりと安全運転するわよ!」
「街の近くに着いたらブラックを車庫に入れないといけないから、俺が運転を代わるからな」
そして流れる景色を見ながらフローリアが言った。
『マスター』
「どうした?フローリア」
『私、この辺りの地形の事も、データとしては知ってました』
「そうか」
『でも、地図のデータを見るのと実際の景色を見るのは全然違うんですね』
「ああ、そうだな」
そしてシャナはフローリアの頭を撫で、フローリアは嬉しそうに窓の外を見つめていた。
そして街の近くまで戻った一行は、シャナを残して鞍馬山へと向かった。
フローリアは、街の様子を興味深そうに眺めていた。
「フローリアちゃん、こっちだよ」
「はい、シズさん」
そんな一行をたまたま見かけたのか、薄塩たらこと闇風のコンビが声を掛けてきた。
「よぉ、今日はシャナはいないのか?」
「ううん、今車庫にブラックを入れにいっている所だよ」
「ブラック?何だそれ?」
「あ、重装備の方のハンヴィーの事かな。もう一台はホワイトって名付けたの」
「おう、シンプルでいいな!そういうの嫌いじゃないぜ」
「で、こちらの女の子は?」
「え~っと……」
どうすればいいか迷うシズカに、ピトフーイが言った。
「どうせ参加してもらう事になるんだし、鞍馬山まで来てもらえば?」
「鞍馬山?もしかしてお前達の拠点の事か?」
「凄い、よく分かったねヤミヤミ」
「おう、シャナからの連想なんだろ?俺の教養も中々のもんだろ!」
「うん、素直に賞賛するよ、やっぱりたらおとは違うね!」
「おう、この闇風さんはインテリだからな!たらおとは違うのだよたらおとは!」
「お前らたらおたらおといい加減にしろ、俺の母親の名前はサザエじゃねぇっつ~の!」
「まあとりあえずそこで全部説明するから、たらおとヤミヤミも一緒に来てよ」
そんな会話が交わされた後、二人は黙って一行の後に続き、一緒に鞍馬山へと向かった。
そして到着後に、ブラックの車庫入れを終えたシャナが合流した。
「よぉ、二人とも来てたのか」
「ああ、さっきたまたま外で一緒になってな、何かに参加してもらうって言われて、
のこのことこうして付いてきたって訳だ」
「おお、二人は誘おうと思ってたから丁度良かったな。
少し待っててくれ、先生達にも集合をかけたからな。
おいピト、一度落ちて、可能ならエムを呼んできてくれ」
「了解!」
そしてシャナは、指を折りながら人数を数え始めた。
「残り十五人、俺達が九人の、たらこと闇風で十一人か、あと四人足りないな」
「エヴァ達でいいんじゃない?」
「そうだな……ダイン達でもいいんだが、あそこは人数がそこそこ多いしな」
「ダインとギンロウだけでもいいんじゃないか?先日話したばかりだしな」
「よし、そうしよう。たらこ、闇風、もう少し待っててくれよな」
「おう、スコードロンが解散になって暇だから、まったく問題ないぞ。
まだ新しいスコードロンも発足させてないしな」
「くぅ~、引っ張るねぇ、まあそういうのも嫌いじゃないぜ!」
そしてニャンゴローとロザリア、イコマが拠点に戻り、
エムを連れてピトフーイも拠点に帰還した。
残念ながら、ダインとギンロウはログインしておらず、今回は見送りとなった。
シュピーゲルを誘っていいか尋ねようとしたシノンも、本人がいない為これを見送った。
そして少し後に、エヴァ達が緊張しながら拠点に入ってきた。
「ど、ども、本日はお招き頂きまして……」
そんなエヴァ達にシャナが声を掛けた。
「よく来たな、お前ら」
「はい、シャナさんお久しぶりです!」
そして面識のある薄塩たらこもエヴァ達に声を掛けた。
「おう、久しぶりだなお前ら」
「たらこさん、今はシャナさん達と一緒なんですね」
「まあ色々あってな、昨日の敵は今日の友って奴だ」
そして闇風も、エヴァ達に声を掛けた。
「あんたらが今話題のアマゾネス軍団か、俺は闇風、宜しくな!」
「あっ、はい、お噂はかねがね」
こうして自己紹介も済んだ所で、シャナが一同に向けて説明を開始した。
「実はな……」