ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第322話 そして世界樹要塞へ

「それじゃあ最初に、皆が一番気になっているであろう、この子の紹介をする」

 

 一同に対するシャナの言葉は、最初にそこから始まった。

 

「この子の名前はフローリア、ちなみに俺が名付けた。

彼女はAI搭載型の世界樹要塞の管理NPC、正式名称はWT-01だ」

 

 その聞き慣れない言葉に、その場にいなかった者達は首を傾げた。

 

「世界樹要塞?何だそりゃ?」

「っていうか、その子AI搭載型のNPCだったのかよ、全然分からなかったわ!」

 

 そんな一同に、フローリアは自己紹介をした。

 

「初めまして、今マスターにご紹介頂きましたフローリアです。

世界樹要塞の管理を任されています」

「その世界樹要塞ってのは何なんだ?」

「俺がマスターに就任した要塞だな、具体的には『この木なんの木』って言えば分かるか?」

「……まじかよ、あれって要塞だったのか?」

「俺はてっきりあの木の下で好きな人に告白する為の場所だとばかり……」

「お前は先ず相手を探せ」

 

 そんな闇風のボケにサラッと突っ込んで闇風を落ち込ませつつ、シャナは説明を続けた。

 

「俺達は今日あそこに行ったんだが、そこで偶然中に入れる場所を見付けてな、

最初に中に入った俺がマスターに登録される事になったと、まあそういう事だ」

 

 そしてあっさり立ち直っていた闇風が、面白そうにこう言った。

 

「そういえばシャナ、今日はバスで追いかけてきた奴らをバスごと転倒させて、

そのままプラズマグレネードで全員焼き尽くしたらしいじゃないかよ、街で噂になってたぞ」

「そういえばそんな事もあったな」

「数時間前の事を遠い過去の事みたいに……まあそういうの、嫌いじゃないぜ」

「あの、それってもしかして、例の噂絡みですか?」

 

 エヴァが六人の気持ちを代弁してそう言った。

どうやら六人の間でも、その事は心配されていたようだ。

 

「ああ、今は不特定多数のプレイヤーと戦争中と呼べる状態でな、

絡んでくる奴を片っ端から殲滅している状態だな」

「シャナさん達の事だから多分大丈夫だとは思いますが、でも心配です」

「おう、ありがとな。まあ今の状態ならまったく問題は無いんだが、

これからどんどん数が増えていくと……」

「私達も一緒に戦います!」

「……大変だからって」

「「「「「「私達も一緒に戦います!」」」」」」

「そ、そうか、その時は宜しく頼む」

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 どうやら六人はやる気まんまんのようだ。それだけ噂にイライラしていたのだろう。

 

「本当はこっちからエヴァ達にも助けを求めようと思ってた所だからな、本当に助かる」

「シャナさんが私達に助けを!?」

「ああ、信頼してるからな」

「やっ……やっ……」

「や?」

「野郎ども、皆殺しだ!シャナさんの敵を全て殲滅するぞ!」

「「「「「おう!」」」」」

 

 どうやらシャナに助けを求められた事で、ただでさえやる気満々だった六人は、

殺る気満々へとクラスチェンジしたようだ。

 

「俺のスコードロンも、シャナに味方する事を決定したぜ、何かあったら呼んでくれ」

「ありがとな闇風、恩にきる」

「俺も新しく立ち上げるスコードロンは、

それに賛成してくれるメンバーだけを集めるつもりだ」

「たらこもありがとうな、恩にきる」

 

 そしてロザリアが二人に言った。

 

「先日お二人に頂いた情報を元に、私を見張っていた者を探しているんですが、

どうやらそのプレイヤーは、ずっとログインしていないようですね」

「やっぱりか、そう言ってたからなぁ……」

「とりあえず諦めずに探し続けるつもりです」

「おう、俺も見掛けたら必ず連絡するよ、ロザリアちゃん」

「俺達に任せてくれよ、ロザリアちゃん」

「ありがとうございます」

 

 そんな二人にピトフーイが言った。

 

「何?たらおとヤミヤミの姫はロザリアちゃんなの?」

「おう、苦労して敵の手から助け出した姫だしな」

「シャナ命で絶対にこっちにはなびかない所が最高だろ?」

「だってよロザリアちゃん」

 

 そうニヤニヤしながら言ってきたピトフーイの言葉を受け、

ロザリアは二人の顔を見てこう言った。

 

「お二人には本当に感謝しています、シャナの次くらいには」

「いやっほー!聞いたか相棒!」

「中々の高評価だな!」

 

 二人は喜び、ロザリアはそれを見て困ったような顔をした。

 

「さて、それじゃあ話を続けるぞ」

 

 そんな三人の姿を見ていたシャナは頃合いだと見て、話を続ける事にした。

 

「でな、俺がマスターになった事で、フラグが立っちまったみたいなんだよ、

いわゆる拠点防衛イベントって奴だ」

「あ、俺それ何かで読んだ事あるわ、確か海外の記事に載ってて、

ここで検証しようとしたら、そもそもそれっぽい施設自体無かったっていう、

いわくつきの情報だな、本当に存在してたのか」

『マスターにも説明しましたが、サーバーごとに場所が違うんですよ。

おそらくイベント発生場所が他に存在するとは思わなかったんでしょうね』

「そういう事か。で、それをシャナが見付けたと」

 

 シャナは頷き、イベントの初回ボーナスについて話をした。

 

「おお」

「ボーナスステージきたあああああああ」

「それは凄いな、でかしたぞ、シャナ!」

「その施設、職人としてはどうしても見てみたいですね」

「よし、早速全員が集まれる日を決めようぜ」

 

 他の者達も興奮ぎみに話し出し、シャナはこう宣言した。

 

「それじゃあ順番に確認していこう。俺が明日から順に日付を言っていくから、

ログイン出来ない奴は手を上げてくれ。行くぞ……明日」

 

 誰も手を上げず、シャナは嘆息した。

 

「お前ら本当に行けるのか?誰も無理とかしてないか?」

「ここで無理をしないでいつするんだよ!」

「そうですね、予定をキャンセルしてでも行きたいです!」

「一日くらい練習をサボっても問題ありません!」

「むしろこっちを練習の一環だと主張します!」

 

 他にも同じような声が上がり、シャナは仕方なくこう言った。

 

「よし、それじゃあ明日に決行だ。全部で十七人だから、ハンヴィーをもう一台借りるか」

 

 そして次の日、ブラックにはシャナとイコマとシノンと薄塩たらことフローリアが、

ホワイトにはシズカとベンケイとピトとエムと闇風が、

そして臨時でレンタルした、ニャンゴローによってニャン号と名付けられたハンヴィーには、

そのニャンゴローとエヴァ達六人が乗り込む事となった。

 

「っていうか、ニャン号って何だよ……」

 

 そう呆れた顔で言ってきたシャナに、ニャンゴローはやや興奮ぎみに抗議した。

 

「うるさい!私が運転するのだから文句を言うな!」

「へいへい、それじゃあ行きますかね」

 

 ちなみにこの乗員の分け方は、単純に戦闘の事を考えて決められた。

先日のように追撃してくる敵に警戒する為、

ブラックには遠距離狙撃を可能とする者を配置し、

ホワイトには残りの者を、そしてニャン号にはエヴァ達を纏め、

シャナ以外の者の中で一番運転に安定感のあるニャンゴローが配置された。

そして街から五分ほど走った場所で、三台は一度停止した。

 

『ここで一旦停止して、敵の様子を観察する』

 

 ホワイトとニャン号にそんな通信が入り、しばらくした頃フローリアがシャナに言った。

 

『マスター、後方からバスが二台追いかけてきます』

「フローリア、そういうのが分かるのか?」

『はい、本当はあまり推奨はされないのですが、

今回は当要塞のイベントに向かう最中ですのでセーフと判断しました』

「そうか、よし、シズカと先生はやや後方へ、最初にブラックで迎え撃つ。

後は状況を見て攻撃の指示を出す」

 

 そしてブラックは前に出て、その上でシャナとシノンが狙撃体勢をとった。

 

「俺は左のバスのタイヤを狙う。シノンは右のバスを頼む」

「了解よ」

「ついでに可能なら、運転手も撃ち抜いちまおう」

「そうね、そうしましょう」

 

 そして二人はフローリアの指示に従いバスが来る方向を注視した。

そしてバスが見えた瞬間、二人は発砲した。

 

「命中だ」

「こちらも命中よ」

 

 そして二人はすばやく次の弾を込め、即座に運転手目掛けて発砲した。

 

「命中」

「当然命中ね」

 

 そんな二人の姿を見て、周りの者達は拍手喝采した。

その二人の攻撃で、二台のバスは沈黙した。

 

「よし、このままプラズマグレネードを撃ち込んで終わりにするか。

一応前回の反省を元に、即時脱出する奴がいるかもしれないから、

ホワイトとニャン号はそちらを見極めて車内から殲滅してくれ」

 

 そしてブラックは敵に接近し、

前回と同じように二門のグレネードランチャーからプラズマグレネードを発射した。

敵から何発か反撃もあったが、それらは全てブラックの装甲が撥ね返し、

放物線を描いてバスに向かった二発のプラズマグレネードは、

前回同様バスを二台とも焼き尽くした。

正直ブラック一台でも問題ない程に、ブラックの戦闘力は飛び抜けているようだ。

そして予想通り何人か脱出した者がいたが、ホワイトとニャン号からの狙撃で全滅させられ、

三台はそのまま意気揚々と世界樹へと向かった。

襲撃者達も、さすがに次からは何らかの対策をとってくる事だろう。

もっとも一キロ以上先から狙撃されてしまうので、それは中々難しいだろうが。

 

「さて、ここからが本番だな」

「頑張りましょう」

「この前聞いた話以上に容赦ないような気がするけど、今日は仕方ないよな」

「だな、相棒。敵は世界樹にあり、だ!」

 

 そして三台が現地に到着すると、世界樹の中からもう一人のフローリアが姿を現した。

 

「ええっ!?」

「あれ、フローリアちゃん?」

「こっちにもフローリアちゃん!?」

「おいシャナ、どうなっているのだ!」

「あ、そうか、すまんすまん、説明してなかったな。

二人は同一人物で、あっちが本体、こっちは自由に移動出来るって感じだな。

当然記憶とかも全部共有しているらしいぞ」

『はい、どちらの私も同じ私ですので、お気軽に同じように接して下さいね。

ちなみに初回は拠点の中の人数がカウント対象ですが、

次回からは一定範囲が対称になりますのでご注意下さい』

『もっともここだと混乱するかもしれないので、私はこのままスリープモードに入ります』

 

 シャナのその説明をフローリアが補足した。

そしてシャナは世界樹の中にブラックを停車させ、

それに続いてシズカとニャンゴローも世界樹の中に入った。

その瞬間に、フローリアの雰囲気が変わった。

 

『警告、世界樹要塞に敵の集団が迫っています。

カウントダウン開始、敵は三千六百秒後に到達予定』

 

 それを聞いたシャナは、一時間後かと呟くと、メンバー全員にこんな指示を出した。

 

「最初に速攻で施設の説明をする、俺に付いてきてくれ。

その後の戦闘の敵は三百体のモブだ。ハンヴィーに積んだ武器と弾薬も全部出して、

最初は各自届く距離からライフルで狙撃、後に中距離から近接戦闘に入るぞ!」

「了解!」

「いや~、まさかこの木の中にこんな施設があるとはなぁ」

「凄いもんだな……」

「内部も色々気になりますね……」

「まあそれは戦闘後にじっくりとな、イコマ」

「はい!」

 

 そして準備を終えて少し休憩した後、敵を待ち構えていた一行だったが、

到達予定時刻の十分前に、シャナの目が最初に敵の姿を捉えた。

当然攻撃の先鋒は、シャナとシノンである。

 

「シノン、敵への攻撃は例え倒せなくても一匹につき一発だ。

一匹に手間を掛けるよりも、出来るだけ多くの敵に手傷を負わせ

他の仲間が簡単に敵を倒せるような状態にする事を優先するぞ」

「了解!」

 

 そしてシャナとシノンの超遠距離狙撃を合図に、拠点防衛戦がついに開始された。




さすがに二度も同じ手口でやられると、襲撃者達も対策をとってくると思いますが、
はてさてどうなる事やら。

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