ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/16 句読点や細かい部分を修正


第323話 敵を全滅させよ!

 シャナとシノンは、敵が出来るだけ遠くにいる間になるべくダメージを与えておこうと、

ひたすら遠距離狙撃を続けていた。

幸い敵の数も事前に分かっており、弾はありったけ持ってきていた為、

M82とヘカートIIでなければ届かない距離に敵がいる間は、弾が切れる事は無かった。

 

「しかし色々な敵が混在しているみたいだな」

「足が特に速いとかの敵がいないのはラッキーよね」

「しかしシノンも、狙撃の腕を上げたもんだな」

「努力してるもの」

「そうだな、えらいぞ」

 

 会話中も、二人は狙撃はずっと狙撃を続けていた。

さすがに百発百中とはいかなかったが、それでも二人とも、

九十五パーセント以上の命中率を誇っていた。

 

「そろそろ他の銃でも届くくらいの距離になったか?」

 

 そのシャナの言葉通り、他の仲間達も攻撃を開始していた。

今のところは外壁まで届いた敵はいないが、そろそろ何匹かは到達すると思われた。

 

「さすがに俺のM82はセミオートだから多少弾の装填は楽だが、

ヘカートIIはボルトアクションだからきついよな」

「そこは羨ましいわね、ヘカートIIもイコマ君に改造してもらえないかなぁ」

「まあ聞くだけ聞いてみればいいんじゃないか?

もっともそういった銃の根幹に関わる改造が出来るのかどうかは分からないけどな」

「まあ期待しないで聞いてみるわ」

「そうだな」

 

 そしてシャナは、眼下を見下ろしながら言った。

 

「俺は十二体ほど倒したが、シノンはいくつだ?」

「私は八体ね、手傷を負わせたのはもっと多いんだけど、あのモブ共、意外とタフよね」

「マシンガンとかだと、かなり当てないと死なないみたいだな」

「思ったより手応えがあるわよね。弱点が分かり易い生物系の敵はいいんだけど、

機械系の敵は中々一発で即破壊とはいかないわね」

「残りの弾数は何発だ?」

「十発よ、そろそろ他の銃に切り替えかしらね」

「それなら弾が切れたらこれを使うといい。こっちの弾はまだ二十発はあるからな」

 

 そう言ってシャナは、M82をシノンに差し出した。

 

「いいの?助かるけど、シャナはどうするの?」

「俺は様子を見ながら地上で近接戦闘だな」

「なるほど、ARとALを使うのね」

「ああ、そろそろ闇風が外に出るみたいだから、その付き合いだな」

 

 どうやら敵はまだ半分くらいは残っているようだ。

基本全員が屋上ないし個室フロアから攻撃していた為、若干威力が落ちているのだろう。

明らかに、通常の戦闘時よりも殲滅速度が遅くなっているように見えた。

 

「さて、それじゃあ行ってくる」

「あんたの事だから何も心配はしてないけど、まあ気を付けて」

「おう」

 

 そしてシャナはストレージからロープを取り出し、近くの木の枝に結びつけた。

 

「ちょっと、ここからそのまま下りるつもり?」

「おう、お前もこれくらい出来るようにならないと、いずれ苦労する事になるかもな」

 

 そしてシャナは、懸垂降下でそのまま二階くらいの高さまで下りた後、

壁を蹴って大きくジャンプし、同じタイミングで外に出てきた闇風の目の前に降り立った。

 

「うわっ」

 

 慌てて銃を構えた闇風は、すんでのところで銃を発砲するのを止めた。

 

「おいおいどんなサプライズだよ、危なく銃を撃っちまう所だったぞ」

「大丈夫だ、その時はお前の腕を斬りおとして防いでいたからな」

「はっはっは、ナイスジョーク!そういうの嫌いじゃないぜ」

「………………………………そうだな、ジョークだ」

 

 そんなシャナの様子を見て、闇風は訝しげな顔をしてシャナに尋ねた。

 

「シャナ?」

「…………お、おう」

「何故こっちを見ない?ホワイ?」

「気のせいだ」

「オーケーオーケー、ところでシャナ、その手のARはいつ抜いた?」

「気のせいだ」

「日本語おかしくない?明らかに今手に持ってるよね?俺の記憶だと、俺が飛び出た瞬間、

シャナの着地直後にそれを抜いたのを見た気がするんだが」

「気のせいだ」

「ふ~ん…………」

 

 そして闇風は、手に持っていた銃をそっとシャナに向けた。

その瞬間にシャナは、反射的にARを闇風の手首に振り下ろし、その寸前で止めた。

 

「これは?ホワッツ?」

「ただの反射だ、ほら、針とかがチクッとした時、

思わず手を引っ込めちまうだろ?あれと一緒だ」

「ああ~オーケーオーケー、確かにあれは勝手に手が動くよな…………なんて言うかあああ!

お前やっぱり俺の手首を斬り落とす気満々だったんじゃねええええか!」

 

 顔を赤くしてそう言う闇風に向けて、シャナが言った。

 

「ほら、敵が来るぞ、さっさと行くぞヤミヤミ」

「話を逸らすんじゃねええええええええええ!」

「ロザリアが見てるぞ」

「おらさっさと行くぞシャナ、よっしゃ!闇風様の華麗な戦いを見せてやるぜ!」

 

 そして闇風は、要塞の扉に向けて接近してきた敵に突っ込んでいった。

 

「やれやれ扱い易いな……さて、それじゃあ俺も行くか」

 

 シャナはそう言って、動き回りながら銃を撃ちまくる闇風の背後を守るように、

闇風の動きに合わせてARを振るい始めた。

 

「おお、やっぱ凄え威力だな。それなら俺の手首も簡単に斬り落とせそうだなおい」

「いつまでも根に持ってるんじゃねえ、おら、攻撃攻撃」

「おうよ、おっ、ロザリアちゃんがこっちを見てるな、これは頑張らねば!」

 

 ちなみにもちろんロザリアが見ていたのは、シャナの雄姿であった。

その後も処理しきれない程の敵が来る事もなく、

二人は協力して扉の前を守り、ついに敵は全滅した。

 

「ふう、まあ初回ならこんなもんか」

「意外と楽勝だったな」

「でもフローリアのクリアアナウンスがまだ無いな」

「どこか見落としでもあるのかな?」

「まあとりあえず一度要塞内に戻るか」

 

 そう会話しながら中に戻った二人に、フローリアが少し焦ったように声を掛けた。

 

『すみませんマスター、想定外の事態が起こりました』

「ん、どうしたフローリア」

『ほぼゼロに等しい確率だったので、今回は説明していなかったのですが、

どうやらそのイベントが起こってしまたようです……おそらくボスが出現しました』

「まじか」

「うわお!」

 

 そして二人はフローリアと共に最上階に上がり、そこから遠くを見回した。

他の仲間達も集合し、一同は敵の姿を探した。

 

「どこだ……フローリア、敵の位置は分かるか?」

『申し訳ありません、イベント用の敵なので、私にも正確な位置までは……』

「そうか、とにかく探すしかないな。まあ障害物も何も無い平原だ、直ぐに見付かるだろ」

 

 その言葉通り、直ぐに敵は見付かった。

 

「シャナ、あそこ!」

「見付けたか、どれ……何だあれは……」

 

 そこにいたのは、肩から二門の銃が生えた巨大な獅子だった。

 

「うわ、強そう……」

「おいおい、何か大きくないか?」

「機動力もありそうだな、上から銃で狙うだけじゃちょっと厳しいか?

それとも弾幕を張ればいけるか?」

 

 そう言って仲間達に振り返ったシャナに、薄塩たらこが言った。

 

「シャナ、まずいぞ、弾の残りが少ない」

「ちょっと調子に乗って撃ちまくりすぎた……」

「ここで弾を買えれば良かったんだけどなぁ」

 

 その言葉を聞いたシャナは、少し考えた後にフローリアに言った。

 

「フローリア、ショップの完成は、規定の金額が溜まれば直ぐにいけるのか?」

『はい、それは一瞬です』

「よし、その分は俺が投資する。フローリア、ショップ開設を急いでくれ」

『分かりました』

 

 そして直後にフローリアが、一同に言った。

 

『ショップを開設しました』

「まじかよ、フローリアちゃん有能すぎだろ!」

「よし、急いで弾の補充だ」

 

 一同は二階まで走り、そこでショップを覗きこんだ。

 

「さすがに種類には限りがあるよな」

「弾が揃う武器と揃わない武器が出るのは仕方ないよね」

『ショップNPCに登録すればその弾がラインナップに並びます』

「まじかよ、でもさすがにあの速度だと、そんな事をのんびりやってる時間は無いな」

「とりあえず俺とシズとケイとピトは後回しだ、三人は近接戦闘準備、

その間に他の者は装備を融通しあって、急いで弾を補充してくれ。

同時にフローリア、マスター権限をここで使う。ヘカートIIの弾を可能な限り出してくれ」

『かしこまりました』

 

 そしてフローリアは一瞬でヘカートIIの弾を出し、シャナに手渡した。

 

「よしシノン、お前は直ぐに上で攻撃を開始してくれ」

「了解よ」

「最初は俺とシズで敵をけん制する、ピトとケイは最初は中で待機、

状況を見て射撃か近接かを選択して、戦闘に介入してくれ」

「分かった!二人とも気を付けて」

「お兄ちゃんとお義姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど、やばそうなら直ぐに行くから!」

 

 そしてシャナとシズカの二人は入り口から外に出て、敵を待ち受けた。

 

「こうして二人で戦うのは久しぶりだね」

「そうだな……おっ、シノンの狙撃が始まったぞ」

 

 二人が屋上を見上げると、轟音と共にシノンのいる方から弾が飛んでいくのが見えた。

 

「こういうアングルから狙撃してる所を見るのは初めてだな」

「まるで大砲を撃ってるみたいだね」

「だな」

 

 そしてその弾の飛んでいく方向に、ついに敵が姿を現した。

 

「まだ小さく見えるが、どんどん大きくなってるな」

「かなり早いね」

「そろそろ準備するか」

「うん!」

 

 そして武器を取り出し待ち受ける二人に、シノンから通信が入った。

 

「ごめん、何発か当てたけど、敵の動きが素早くて肩の銃を破壊する事は出来なかったわ」

「肩の銃は可動式か、固定か?」

「多分固定だと思うんだけど、まだ撃ってこないから何とも……あっ、避けて!」

 

 その言葉を聞いた瞬間に二人は素早く左右に動き、

少し前まで二人がいた位置を巨大な銃弾が通過し、地面に着弾して大きな砂ぼこりを上げた。

 

「ふう、危ない危ない」

「かなりの威力だね」

「今ので確認出来たわ、銃は固定式、でも位置が高いから、

上から攻撃しないと下からの破壊は難しそうね」

「そうか……俺が上から飛びかかって肩の銃を破壊すべきか……?」

「大丈夫だよシャナ、ケイは懸垂降下が出来るから」

「そういえば師匠に教わったんだったな、ピトは出来るのか?」

 

 その会話を聞いていたのか、三階の窓からピトが言った。

 

「大丈夫、私もいけるよシャナ!」

「オーケーだ、お前とケイは上で待機して、

タイミングを見て飛び降りて肩の銃を破壊してくれ」

「「了解!」」

「シャナ、避けて!」

「おっと」

 

 その瞬間にシノンがそう叫び、再びシャナのいた位置を銃弾が通過した。

 

「さて、そろそろか」

「うん」

 

 そしてシャナはARとALの黒い刃を出し、シズカも輝光剣の刃を出した。

その刀身はピンク色に光っており、シャナはシズカにこう尋ねた。

 

「おっ、その色にしたのか。名前は決めたのか?」

「うん、夜桜にした」

「そうか、何かシズらしいな。昔のお前の服は赤と白、混ざればピンクだしな」

「あは、確かにそうだね」

「よし、来たぞ」

 

 そしてついに巨大な獅子が二人の眼前へと迫り、二人は剣を構えて敵と対峙した。


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