「おわっ」
「な、何だ?」
薄塩たらこと闇風は前のめりに倒され、頭に銃を突きつけられた。
その視線の先にブーツと白い足首が見え、二人はそれを、どこかで見た光景だなと思った。
「もしかしてまた銃士Xか?」
「って事はつまり今、俺の頭の上にはお宝が!」
闇風はそう叫び、懲りずに必死に顔を上げようとした。
その瞬間に闇風は前と同じように銃床で殴られ、顔面から地面に叩きつけられた。
「ぶおっ」
「学習しない男はモテない」
「くっ……その言葉の方が俺的に痛いぜ……」
そして銃士Xは二人から離れ、薄塩たらこと闇風はよろよろと起き上がった。
「今日は何だよ、今回俺達は、お前に襲われるような事は何もしてないぞ!」
「そうだそうだ!それにお前、何でいつも通りの格好なんだよ、
厚着をする事にしたんじゃなかったのか?」
「熟考の結果、やはりあれは却下する事にした。
もし万が一、遠くからシャナ様にあの格好の私を見られたら、
私のイメージが『かわいくない』で固まってしまう」
相変わらずシャナ第一のその発言を受け、二人は精一杯抗議する事にした。
「くっ……もし万が一、俺達に色々見られたらどうするんだよ!」
「そうだそうだ!」
「その場合は目を潰す。一瞬で潰す。徹底的に潰す。
その後記憶を飛ばす為に徹底的に頭を殴る。
もっとも貴方達が、そういうのが見えるような位置どりをしている時点で、
相手の女性もそれに当然気付いていると思った方がいい。
その事に気付かない時点で貴方達が女性にモテないのは確定的」
「………………」
「………………」
二人は思い当たるフシがあるのか無言になった。
そんな二人を無感情な目で見つつ、銃士Xは更に続けた。
「数時間前、貴方達が楽しそうにシャナ様達と一緒に移動しているのを見た。
それだけでも私的には、ぐぬぬ案件。それが貴方達の一つ目の罪」
「り、理不尽だ……」
「悔しかったらお前も早くシャナと知り合いになれよ!」
その二人の言葉を無視して、銃士Xは更に話を続けた。
「その後、シャナ様をバスで追いかけようとする愚か者共の集団を見付け、
私はそれを走って追いかけた。私にとっては颯爽と登場する最大のチャンスだった。
でも現地に着いた時、そこに残っていたのはバスの残骸だけだった。
私が到着するまで場を持たせられなかった、それが貴方達の二つ目の罪」
「仕方ないだろ、シャナとシノンとブラックが強すぎるんだよ!」
「俺も一緒に乗ってたけど、何もする必要が無かったくらいな!」
その言葉に、シャナの仲間のリストを脳内で検索し、
該当する人物を発見出来なかった銃士Xは、首を傾げながら二人に尋ねた。
「疑問、ブラック、誰?」
「ああ、プレイヤーじゃねえよ、お前も見ただろ?あの重装備のハンヴィーの名前だよ」
「あれ一台あれば、平原なら百人くらい相手にしても余裕だよな……」
そう言われて銃士Xは理解したのか、こくこくと頷いた。
「納得、私もあれの運転の練習、必要?」
「そうだな……運転出来た方がいいんじゃないか?昨日も皆で練習してたらしいしな」
「むしろ絶対条件だな」
「了承、特訓にはいる」
「お、おう、頑張ってな……」
「もう二度と俺達を襲ったりすんなよ!」
そしてきびすを返し、車のレンタル屋のある方に向かいかけた銃士Xは、
ハッと足を止め、再びこちらに戻ってきた。
「誤魔化される所だった、まだ裁判の途中」
「まだあんのかよ……」
「い、今の情報は情状酌量に値すんだろ?」
「被告兼弁護人の言葉を認めるのも、やぶさかではない」
「おう、頼むぜ」
そして銃士Xは二人にこう言った。
「その後私は、愚か者共の監視を続け、その会話を盗み聞きする事にした。
あの愚か者共は相当手ひどくやられたようで、このままじゃ駄目だと議論していた。
でも議論に答えが出ないまま解散となり、今日は襲撃を諦めたようだったので、
私はそのままシャナ様の帰りを待つ事にした」
「お、おう、待っててくれたのか」
「あ、ありがとな」
銃士Xはその言葉に首を振りながら言った。
「私が待っていたのはシャナ様であって、貴方達ではない」
「ですよね……」
「お、同じ事じゃないかよ、理不尽だ!」
その言葉も当然スルーした銃士Xは、そのまま淡々と話を続けた。
「そして貴方達が戻ってきたが、その中にシャナ様のお姿は無かった。
乗っていたハンヴィーと、シノンというスナイパーの姿も無かったから、
おそらくハンヴィーを車庫に入れているのだろうと思い、
私はシャナ様の拠点近くでその帰りを待つ事にした」
「あ、その拠点だけどよ、鞍馬山って名付けたらしいぜ」
「鞍馬山……理解、情状酌量の余地拡大」
「やったぜ!」
銃士Xはその情報にも一定の価値を認め、そう言った。
「そしてシャナ様が戻ってきた。直前に鞍馬山には、
デリバリーの料理やスイーツがNPCの宅配人によって運び込まれていたから、
おそらく打ち上げでもするのだろうと思い、私もいつかそこに参加出来るように、
一刻も早くシャナ様に認めて頂かねばと考えた」
「もうさっさと直接シャナに声を掛けちまえよ……」
「俺達が紹介してもいいんだしよ……」
「黙りなさい、殺すわよ」
銃士Xはイラっとした感じでそれを拒み、冷たい声でそう言い放った。
「あ、はい」
「すみません……」
そして銃士Xは、そのまま冷たい声で二人に質問をした。
「最大の問題はそこ」
「ん、どこだ?」
「打ち上げか?」
「貴方達は、打ち上げの時に持ち込まれたスイーツを口にした?」
「そっちかよ……スイーツ?ああ、何か女性陣が喜んでたあれか」
「余ってたみたいだからいくつか食べたけど、あれは確かに美味かったな……」
「そうだな、料理もそうだし、随分質のいいスイーツだったよな」
その瞬間に銃士Xの目がスッと細まり、銃士Xは二人に銃を付きつけ、銃の撃鉄を引いた。
「有罪、情状酌量の余地無し」
「何でだよ!」
「スイーツか、スイーツのせいなのか?」
「肯定」
「まじかよ……」
そして銃士Xは、怒りを声に滲ませながら二人に言った。
「貴方達は知らないでしょう、あれはGGOの中でもトップクラスの高級品。
その値段はリアルマネーで軽く五桁に届く」
「えっ?」
「そ、そんなに高い奴だったのか!?」
「他の料理も、私の見た限り最高級品が揃えられていた」
「まじかよ……確かに美味いとは思ったが……」
「知らなかった……普通に食ってたわ……」
「そのシャナ様からの、貴方達への感謝の気持ちにも気付かず、
何も考えずにただ飲み食いしていた事があなた達の第三の罪、
そして最大の罪は、私でも食べた事のないスイーツをのうのうと食べていやがった事よ!
私も食べたかったのに!いつも食べたいって思って、
店の前で迷ってうろうろしちゃったりしてるのに!」
その銃士Xの変わりように、二人は戦慄した。
「うわ、食いもんの恨みだった……」
「やべえぞ相棒、こいつが素の口調になる程の食いもんの恨みだぞ……」
「とりあえず土下座だ、それしかねえ!」
「だな!」
そして二人は、その場で神妙に土下座をした。
「シャナがそこまで俺達の事を思ってくれてるなんて気付かずにすんませんでした!」
「スイーツの価値にも気付かず、無神経に食べちまってすんませんでした!」
「…………たらお、ヤミヤミ、何してんの?」
「へ?」
「あれ?ピト?」
二人が顔を上げると、そこには銃士Xの姿は無く、
代わりにピトフーイが、二人の事を上から覗きこんでいる姿があった。
「二人とも、何で誰もいないとこで土下座してんの?エアご主人様でもいんの?」
「あれ?」
「え?え?」
二人は驚き、きょろきょろと周囲を見渡した。
そして少し先のビルの所で銃士Xの姿を見付けた二人は、
どうやら鞍馬山から誰かが出てくる気配を察知して、
その前に銃士Xがその場を離れたのだと推測した。
「素早い……」
「ん、何が?」
「いや、こっちの事だ……っておいピト、その手に持っているのは……」
「あ、これ?余ったからお土産にって。二つあるし、もし良かったら一ついる?」
それは先ほど話題になっていたスイーツだった。
「い、いる!お願いします一つ分けて下さいピトフーイ様!」
「何その気持ち悪い呼び方……まあそれだけ欲しかったって事なんだろうから、
その意気に免じて黙って分けてあげる」
「すまん、恩にきる!」
その二人の態度を見て、ピトフーイは何かを察したように言った。
「あ、もしかして今日の料理とスイーツの価値にやっと気付いちゃった?」
「お、おう!」
「今更だが、やっと気付いたんだよ」
「私も二人が全然驚かないなって、気になってたんだよね。
シャナが車庫から宅配の手配をしたらしいんだけど、
まさかあのクラスの料理が届くなんて思ってなかったから、さすがの私もビックリでさ、
まあシャナが何も言わずにニコニコしてたから気にしない事にしたけど、
さすがに私も一瞬手を付けるのを躊躇っちゃったからねぇ」
「何も言わずにニコニコ、な……」
「まあシャナは絶対に言わないよね、そういう事。
後でその事を聞いても、『ん、そうだったか?』とかで済まされちゃうんだよね。
まあそういう所も好きなんだけどね!」
その言葉に銃士Xも遠くでうんうんと頷いているのが見え、
二人も釣られてうんうんと頷いた。
「それじゃ私はもう行くね、二人とも、またね~」
「おう、またな、ピト」
「今度も絶対に勝とうぜ!」
そしてピトフーイが去った後、二人は銃士Xのいる方へと向かい、
黙って手に持っていたお土産を差し出した。銃士Xは、嬉しそうにそれを受け取った。
「情状酌量の余地があると認めます」
「やっぱり理不尽だ……」
「これを理不尽と思うか思わないかがシャナ様と貴方達との差。
そこがモテるモテないの分かれ目になる」
そう言って銃士Xは、受け取ったスイーツを口にし、満面の笑顔になった。
「やばっ、美味っ、これは凄いね、これでまた明日から頑張れる」
そう年頃の口調で話す銃士Xを見て、二人は顔を見合わせた。
「なぁ相棒、要するにこんな笑顔が見られるなら、
それまでのどんな苦労も問題無いって事なのかな」
「だよな、そこが俺達とシャナとの違いか……」
「っていうか、俺もシャナに対する友情が深まった気がするんだが」
「だな!この戦争、何があっても絶対にシャナの為に全力で頑張ろうぜ!」
「いい心がけ、私もここぞという所を狙って介入するから、
それまで二人は頑張ってシャナ様の為に尽くしなさい」
「そこだけは絶対に譲らないよなお前……」
「とりあえず何かあったら、差しさわりの無い程度の事ならまた教えてやるよ」
そしてそのまま分かれようとした三人に、声を掛ける者がいた。
「あれっ、たらこさんに闇風さん、こんな所でどうしたんですか?
それにそっちにいるのは……確か銃士Xさんでしたっけ?
三人はお知り合いだったんですね、まあBoBに一緒に出てたんだから当たり前ですね」
「あっ……」
「いっ……」
「うっ……」
「ん?」
銃士Xもどうやらスイーツに夢中になり、誰かが接近してくるのを見逃したらしい。
ニコニコと笑顔で声を掛けてきたそのプレイヤーは、イコマだった。
このまますんなり分かれて終わると誰が言った!