「は、初めまして、私は銃士Xと申します」
「初めましてですね、僕はイコマです、宜しくお願いしますね、銃士Xさん」
「はい、光栄です」
銃士Xは、ガチガチに緊張しながらそう言った。
「光栄?嫌だなぁ、シャナさん相手ならともかく、
僕なんかを相手にするのにそんな固くならなくてもいいですよ」
「いえ、シャナ様の傍に彗星のように現れた、
GGO最強職人のイコマさんの前で普通にするのは無理です」
それを聞いたイコマは、きょとんとしながら銃士Xにこう尋ねた。
「えっと、銃士Xさんは、シャナさんのファンなんで……すか?シャナ様って呼んでますし。
じ、実は僕もなんですよ、出会った頃から、僕もシャナさんが大好きなんですよね」
「はい、その通りです。イコマさんとは同志という事になりますね」
「……なるほど、これがミス・パーフェクト、っと失礼、え~っと、確か神だったか……」
イコマはそうよく分からない事を呟いた。その中の神という言葉に銃士Xが反応した。
「はい、とにかくシャナ様こそが我が神なのです」
その銃士Xの熱意に押されたのか、イコマは困った顔で薄塩たらこと闇風の顔を見た。
そんなイコマに二人は銃士Xの事を説明した。
「大丈夫だよイコマ君、銃士Xは、ちょっとシャナの事を崇拝しすぎてるだけだから」
「そうそう、こいつは何があってもシャナの味方だから安心していいぜ」
「そうですか……もし良かったら、僕からシャナさんに紹介しましょうか?」
「むむっ……」
銃士Xはその言葉に揺れに揺れた。他人の紹介ならまだしも、
イコマはシャナの身内であり、イコマからの紹介というインパクトはかなり大きい。
だが銃士Xは、熟考した上でそれを断った。
「嬉しい話ではあるのですが、残念ながらその話は受けかねます」
「いや、軽い気持ちで言ってみただけなんで、嫌な事を無理強いするつもりは無いですよ」
その言葉を聞いた銃士Xは、焦ったように少し感情的なところを見せながら言った。
「嫌じゃないです、絶対に嫌じゃないんです、むしろ後ろ髪を引かれまくります」
「そ、そうなんですか?」
「はい、ですが私は、自分の力でシャナ様に認めて頂きたいと考えておりまして、
今は登場の機会を虎視眈々と狙っている所です」
「あは、正直なんですね」
普通なら引いてしまうその言葉に、イコマは苦笑しただけだった。
「おいおい銃士X、そこはほれ、もう少しオブラートに包めって」
「そうだよ、イコマ君がびっくりしちまうじゃないかよ」
「否、虚偽はいけない。シャナ様達の前では、私は正直でありたい」
その正邪合わせ持つ正直さを含んだ銃士Xの姿勢に、
二人はある意味感心しつつも少し彼女の事が心配になったようだ。
「そ、そうか……まあ程々にな」
「イコマ君、こいつの事を悪く思わないでやってくれよな」
「いやいや、別に自作自演みたいな悪巧みをする訳じゃないですし、
銃士Xさんに助けてもらうかもしれない僕達にとっては、全然悪い話じゃないですから」
「イコマ君は心が広いな……」
「ほれ、イコマ君に感謝するんだぞ」
「イコマさん、ありがとうございます」
銃士Xはそう言いながら、ミニスカートの裾をちょこんと持ち上げ、
見事なカーテシーを見せた。それを見たイコマは感心したように言った。
「綺麗な姿勢のカーテシーですね」
「シャナ様に会った時の為に、鏡の前で練習していたので。
他にもまあ色々とシャナ様のお役に立てるように、リアルで修行中です」
「リアルで、ね。本当にシャナさんの事が好きなんですね」
「はい!」
銃士Xは、そこだけは力強く、そして誇らしげな笑顔を見せた。
それを見たイコマは、どうやら銃士Xの為に何かをしてあげたいと思ったようで、
自分から銃士Xにこんな提案をした。
「シズカさんやロザリアさん、シノンさんやピトさんの手前、
あまり贔屓するのはどうかと思いますけど、
まあそういった人達とはちょっと好きの意味が違うみたいですし、
そうですね……そういう事なら、今開発中の新装備を使ってみますか?」
「はい、是非」
「即答かよ!」
「内容も聞かないままそんな事を言っちまっていいのか?」
「大丈夫、問題ない」
銃士Xは、イコマに全幅の信頼を置いているようで、キッパリとそう言った。
イコマはその言葉を聞き、ニヤリとしながら言った。
「実はシャナさんやシズカさんに頼んだら一発で乗りこなしちゃいそうで、
ちょっと公開するのを躊躇っていたんですよね。
これで一般の方の正確なデータがとれますよ、うふっ、うふふふふふ」
「イコマ君の様子が……」
「マッドサイエンティスト!?でもそういうの、嫌いじゃないぜ!」
「これで私は初めてシャナ様のお役にたてる……」
そう呟いた銃士Xに、イコマは言った。
「結構きついかもしれませんけど、それでも構いませんか?」
その言葉に銃士Xは、キッパリとこう答えた。
「はい、シャナ様に私の初めてを捧げます」
それを聞いた薄塩たらこと闇風は、困惑した様子で顔を見合わせた。
「そ、その表現はどうなんだ!?」
「くっそ、どうしても誤解しちまうぜ……」
そんな二人に、銃士Xは淡々と言った。
「大丈夫、誤解はありえない。当然それも含めて発言している」
「ぐふっ……」
「がはっ……」
二人はまるで吐血したように口を押さえ、その場に蹲った。
イコマはそれを困ったように見ていたが、多分ギャグなんだろうなと思ったのか、
特に二人には何も言わず、そのまま銃士Xを連れてレンタル式の射撃練習場へと向かった。
二人は実は、本気で心にダメージを負っていたのだが、興味が勝ったのか、
よろよろと立ち上がった後は、しっかりとした足取りで二人の後を追った。
「お~いイコマ君、待ってくれよ~」
「俺達にもその新装備を見せてくれよ!」
「もちろんですよ、一緒に行きましょう」
そして四人は射撃練習場に到着し、イコマはストレージから板のような物を取り出した。
「イコマ君、それは?」
「男のロマンですよ」
「おおう、そういうのは大好物だぜ!」
それを聞いた銃士Xは、困った顔でイコマに尋ねた。
「それは私にもロマンですか?」
「あっ……えっと、どうでしょう……」
イコマはしまったという顔でそう言った。
それを見た銃士Xは、機転を利かせたのかこう言い直した。
「それはシャナ様にとってロマンですか?」
「ええ、それはもちろん」
それを聞いた銃士Xは、笑顔でイコマに言った。
「それなら私にとってもロマンです」
それを聞いたイコマは安心した顔で、同じく銃士Xに笑顔を向けた。
「それじゃあ銃士Xさん、この上に乗って下さい」
「はい」
そしてイコマは銃士Xの足元に跪き、何かを操作しようとしてふと顔を上げかけ、
銃士Xの膝の辺りに視線がいった所で慌てて目を瞑って立ち上がり、銃士Xに言った。
「その前に銃士Xさん、そのスカートはちょっとまずいので、
とりあえずズボンか何かをはいてもらえますか?その……それはシャナさんの前だけで」
「あっ、そうでした、この中身はシャナ様専用でした」
「ぐふっ……」
「げほっ……」
その銃士Xの言葉に、横から再び吐血するような声がした。
そして上下のバランスを考え、装備一式を無難なものに変更した銃士Xは、
じろっと薄塩たらこと闇風を見ながら言った。
「二人とも分かった?モテる男とはこういうもの」
「くっ……」
「まったく反論出来ねえ……」
「いや、僕はモテませんけど……」
困ったような顔でそう言ったイコマに、銃士Xは言った。
「それはイコマさんが気付いていないだけ、貴方は絶対にモテている」
「まあ、確かに女性に話し掛けられる事はそこそこありますけど、
それがモテていると言っていいのかどうかは……」
実はイコマは普通にモテていた。家柄がいい上に人当たりが良いからである。
ただ本人が鈍い上に、そういった女性達との付き合いよりも、
シャナ達との付き合いを優先させていたせいで、その事にまったく気付いていないのだ。
いずれGGOでの活動が落ち着いた後、イコマはその事実に気付くのだが、
その直後に駒央を楓の婿にロックオンしている清盛に妨害される事となる。
「まあそれはさておき、それではスイッチを入れますね。転ばないように注意して下さいよ」
そしてイコマがスイッチを入れると、板から手すりのような物が起き上がり、
その板は銃士Xを乗せたまま浮き上がった。
「おおっ……」
「これはまさか……」
「僕はこれを、エアリーボードと名付けました。版権とかの問題もありそうですしね」
「なるほど……しかし折り畳み式の台車みたいな形だな」
「これが一番動かしやすそうな形だったんですよね。移動の操作は手でも足でも出来ますが、
最初は手で操作した方がいいと思います。もっとも足での操作が出来ないと、
乗ったまま銃を撃つ事は出来ないので、足での操作はいずれ必須の技術になるんですけどね」
「分かりました」
そして銃士Xは、恐る恐る手元のレバーを倒した。
その瞬間にエアリーボードは、のろのろと前へ進み出した。
「常に一定の高度は保ってくれるので、その辺りは心配しないで下さい。
手すりを仕舞ったままでも操作は出来るので、最終的にはそこを目指しましょう。
もっとも高速移動中は手すりがあった方がいいかもしれませんけどね。
これで登場すれば、必ずシャナさんは驚いてくれるはずですから頑張って下さいね」
「はい、必ず使いこなしてみせます」
そして銃士Xは練習を始め、その後を薄塩たらこと闇風が付いてまわった。
「いいなぁ……なぁ銃士X、俺達にも後でちょっとだけ使わせてくれよ」
「イコマ君、これは一つしか無いのかい?」
「はい、残念ながらまだ一つ分の素材しか無いんですよね」
「そっかぁ……残念だな」
「それじゃあ僕はちょっと用事で出てくるんで、三人はしばらく練習してて下さい」
そう言ってイコマは、一時外に出ていった。
三人はわいわいと相談しながら、何とか乗りこなそうと知恵を出し合っていた。
「イコマ、最初はうっかり失言しそうになってたな」
「すみません、ついうっかり『シャナさんのファンなんですよね』
って言い掛けちゃいました。何とか誤魔化しましたけど、ちょっとどもっちゃいましたね」
「俺への紹介は断られたみたいだが、自力で何とかしようと頑張ってくれるなら、
それはそれでその時が楽しみだから問題無いな」
「しかしさすがはミス・パーフェクトですね、
シャナさんへの好意というか尊敬というか、そういった物をひしひしと感じました」
「直接の面識は無いんだがなぁ……第一回BoBがキッカケらしいが、
俺は俺で必死にサトライザーと戦っていただけだからな、
まさかあの戦いを、そんな風に見てくれていた奴がいたとはな」
イコマを外で待ち受けていたのは、何とシャナだった。
イコマが一時外に出た理由は、どうやらシャナと話をする為だったらしい。
実は銃士Xは、既にロザリアによってマークされていた。
あからさまに怪しい行動をしていたのだから当たり前だろう。
そういった者は他にもいたのだが、そのほとんどが敵であった。
そんな中、銃士Xはロザリアの細かいチェック項目全てに合格をし、
調査対象の中では、唯一シャナへの好意度が満点だった為、
シャナ達の間ではミス・パーフェクトと呼ばれていた。
ちなみにこの調査が行われたのはつい最近の事である。
「まあ調査通り味方になってくれそうで良かったよな」
「結局さりげない勧誘は断られちゃいましたけど、どうするんですか?」
「それがな、どうやらマックスの俺への感情は恋愛というよりは忠誠心の色合いが強いから、
もし俺達の前に姿を現したら、しっかりと抱きしめるなりなんなりして、
十分にその労をねぎらってやれと、シズカからのお達しだ」
「それは……あの人には凄く効きそうですね」
「そうなのか?俺にはまだピンとこないんだが」
「僕的にもそれには太鼓判を押せますね」
「そ、そうか……」
シャナは少し困った顔でそう言った。いくらシズカの命令とはいえ、
出来レースのようで少し気がひけるのだろう。
それを察したイコマは、笑顔でシャナに言った。
「大丈夫です、どんな形であれ、それが彼女にとっては一番のご褒美ですよ」
「それならまあいいんだがな」
どうやら彼女の知らない所で、シャナは彼女の事をマックスと呼ぶ事にしたようだ。
ちなみにその呼び名は、単にマスケティア・イクスの略というだけではないのだが、
この会話からすると、銃士Xは既に幸せをその手に掴んでいたようだ。
その事を彼女が知るのはまだもう少し先、戦争がクライマックスに差し掛かった時になる。
だが彼女がシャナの腕に抱かれるのは、この時の想定とは微妙に別の形になった。
だがその事で彼女のシャナに対する忠誠は、確固たる物になるのである。
次回、いきなり衝撃の事実が!