ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/16 句読点や細かい部分を修正


第329話 銃士Xの調査書

 理事長室での事案発生の数日後、八幡はアルゴと薔薇に呼び出され、ソレイユ本社にいた。

 

「銃士Xのリアルが割れたと聞いたんだが」

「おう、オレっちにかかればこんなのは大した事じゃないんだぞ。

恩にきるんだぞ、ハー坊」

「いつも本当に有難く思ってるよ、天才ハカー」

「ハカーとか言うな。それじゃあ薔薇っち、説明をよろしくナ」

 

 そして薔薇は、八幡に銃士Xのリアルについて説明を始めた。

 

「マスケティア・イクス、本名は間宮クルス、大学生です。

驚いた事に、どうやら雪乃さんとは同級生のようです。もっとも交流は無いみたいですが」

「まじかよ、世間は狭いってのは本当だな……」

「ええ、それじゃあこれを」

 

 そう言って薔薇は、写真と調査書を八幡に手渡した。

 

「見た目がここまでゲーム内とそっくりになるなんて珍しいよな」

「GGOはランダム生成だしね」

「違うのはこの胸だけか……」

 

 そう言って八幡は、チラリと薔薇の胸に視線を走らせた。

薔薇は胸を張りながら八幡に言った。

 

「まあ私の方が大きいけどね」

「態度もな」

「なっ……」

 

 そして調査書を見た八幡は、アルゴにこう尋ねた。

 

「クルスってカタカナの名前なのか?」

「ああ、その通りだゾ」

「なるほど、クルスっていう事は、親がクリスチャンか何かなのかな」

「いや、特にそういう事は無いみたいだナ」

「ふ~ん……まあ銃士XのXは、もしかしたら名前から来てるのかもな」

「それはそうかもしれないナ」

 

 そして八幡はぶつぶつと何か呟いた後、こう言った。

 

「よし、それじゃあ今後は銃士Xの事は、マックスと呼ぶかな」

「マックス?」

「マスケティア・イクスなんて毎回呼んでられないし、

本名もプレイヤーネームも、クルスをXに置き換えれば、両方とも短縮してマックスだしな」

「どう考えても女性名じゃないように思えるけど……」

「まあコードネームだと思えば別にいいだろ、何より言いやすい」

「まあそうかもね」

 

 こうして銃士Xの呼び名は、八幡によってマックスと決められた。

ちなみに後日、八幡にそう呼ばれた銃士Xは、神に名を与えられたと狂喜する事となる。

 

「それからハー坊は驚くかもしれないが、これが部屋を望遠で盗撮した写真だゾ」

「おいおい、犯罪行為は慎めよ」

「それがね、私達も最初はそこまでする気は無かったんだけど、

さすがにあれを見たら、一応報告すべきかなって思っちゃってね……」

「一体何が写ってるんだ……」

 

 そして八幡はその写真を受け取り、それを見た瞬間に仰天した。

 

「な、な、な…………」

 

 そこには部屋の目立つ所にシャナと八幡の大きく引き伸ばされた写真が、

一枚ずつ貼られている様子が写し出されていた。

 

「おいおい、これはさすがにどうなんだよ」

「それが困った事にね、調査の結果、彼女自身に異常性はまったく認められないのよ」

「そうなのか……」

 

 八幡は、困った顔でそう言った。

 

「ええ、異常性という訳ではないのだけれど、特殊な行動と言えるのは、

朝晩のお祈りくらいかしらね」

「お祈り?」

 

 その意外な言葉に八幡は驚いた。

 

「お祈りって……どういう事だ?」

「それが彼女、毎日欠かさず朝晩あんたの写真にお祈りを捧げるのよ。

それはもう何ていうか、凄く真摯な感じの祈りをね」

「なるほど、それじゃあこの写真は単なる信仰の賜物?って事か」

「そうなの、あんたの写真を見てデレデレするとかハァハァするとかは一切無いのよね」

 

 その言葉に違和感を覚えた八幡は、何となく薔薇にこんな冗談を言った。

 

「なるほど、それじゃあお前とは全然違うんだな。

お前は毎日俺の写真を見てデレデレしたりハァハァしたりしてるからな」

「なっ……」

 

 そして薔薇は、直後にうっかりこう言ってしまった。

 

「何でその事を……」

 

 それを聞いた瞬間、八幡はとても驚いた顔で薔薇の方を見た。

その八幡の態度で、薔薇は先ほどの八幡の発言が冗談だったのだと気付かされた。

そして薔薇はウィンクしながら人差し指を立て、左右に振りながらこう言った。

 

「なんてねっ、きゃはっ☆」

 

 そんな薔薇を、八幡はまるで可哀想なものを見るような目でじっと見つめていた。

 

「…………」

「…………」

「えっと……」

「とりあえず言っておくが、お前にはそういうのは似合わないからやめておけ」

「そ、そんなの分かってるわよ!」

「まったく、冗談はその胸だけにしておけよな」

「こ、この胸は天然ものよ!冗談でも何でも無いわよ!」

「ああはいはい、分かった分かった」

「くっ……適当な……」

 

 そして八幡は、思い出したようにこう付け加えた。

 

「そうか、そういえばクリスマスの時、お前は俺の写真を大量に入手していたんだったな」

「ええそうよ、それをただ有効活用しているだけですが何か?」

「いや、まあ俺に何も迷惑を掛けないならそれでいい、好きにしろ」

「ちょ、ちょっとは困ったような顔をしてくれてもいいじゃない!」

 

 そんな薔薇に、八幡は苦笑しながら言った。

 

「他ならぬお前の頼みだから、そういう顔をしてやってもいいんだが、

とりあえずさっきからアルゴがニヤニヤしながらお前の事を見てるからな?」

「うっ……」

「やっぱハー坊がいる時の薔薇ちゃんは面白いナ」

 

 アルゴはニヤニヤしながらそう言い、薔薇は羞恥にもだえ、八幡をポカポカと叩いた。

 

「さて、少し脱線しちまったが、とりあえず話を元に戻すぞ」

「そ、そうね」

「他に何か問題点は無いのか?」

「もちろん心の中でこいつが、

ハー坊好き好きちゅっちゅと考えている可能性は否定出来ないぞ。

ただそれにしても、強力に自己を律する事が出来る奴なんだと思うゾ」

 

 その言葉に八幡は、少し考えた後にこう言った。

 

「なぁ、そういう奴って結局適度にガス抜きしてやらないと爆発するんじゃないのか?

その……こいつみたいに」

 

 そう言って八幡は、親指で薔薇を指し示した。

 

「わ、私は別に……」

「まあ多かれ少なかれ、女ってのは誰でもそういう部分があるんだゾ」

「そうだよなぁ……あの理事長や姉さんでさえそうなんだしな……」

 

 八幡は先日の出来事を思い出しながら言った。

 

「まあそういう事だナ」

「…………実はお前もなのか?」

「オレっちか?オレっちはまぁ、実は男だからナ」

 

 その衝撃の告白に、さすがの八幡も完全に固まった。

それを見たアルゴは苦笑しながらこう言った。

 

「冗談だっつの。なんならここで全裸になるカ?」

 

 八幡は先ほどのアルゴの言葉によほど驚いていたのだろう、思わずその言葉に頷いた。

 

「た、頼む」

「お?お?マジでカ?」

 

 アルゴは面白そうにそう言うと、いきなり制服のボタンを外し始めた。

それでやっと八幡は我に返り、慌ててアルゴを止めた。

 

「うわああああ、ストップ、ストップだアルゴ、その必要はまったく無い!」

「ちぇっ、何だよハー坊、気を持たせやがっテ」

「お前がおかしな事を言うからだろ!」

 

 八幡はそう抗議し、それに対しアルゴは言った。

 

「まああれだ、ハー坊はオレっちがいないと困るだろ?

情報面に関しては、全面的にこのアルゴ様に依存しちゃってるだロ?」

「そうだな、それは否定出来ないな……」

「オレっちはそういう所で優越感を感じているから、特に爆発するような事は無いんだゾ」

「そ、そうか……それくらいでいいならいくらでも優越感を感じてくれ」

「まあたまにオレっちを、二人きりの豪華な食事に誘ったりしてくれれば確実だナ」

「…………善処するわ、まあお前を労うって事なら明日奈も反対はしないだろうしな」

「たまにはアーちゃんと三人ででもいいからナ」

 

 アルゴはそう言ってニッコリと微笑んだ。

 

「で、他にこいつに問題点は無いのか?」

「特に無いな、学校での評判もいいし成績優秀だし、

あ、そうそう、多分こいつはうちに入社するつもりだと思うゾ」

「まじかよ」

「それだけは日頃から公言しているそうだ、私は必ずソレイユに入社して、

社長のお役にたちたいってな。周りの皆はその社長ってのが、

ボスの事だと思っているようだがナ」

 

 八幡はそう言われ、しばらく押し黙った後に言った。

 

「………………俺か」

「だろうな、どうする?ハー坊」

「基本的には採用していい人材だと思うが、そうなるとやっぱり俺の秘書だよな……

おい小猫、こいつを上手く制御出来る自信はあるか?」

「まあ問題無いのではないかしらね、要するに大人しいピトみたいなものだし」

 

 薔薇もどうやらピトフーイの相手をする事で鍛えられたのか、

自信ありげな態度でそう言った。

 

「よし、それじゃあ俺の秘書はお前が筆頭で、そこに南とマックスで決まりだな。

情報はアルゴ、開発は和人、経営は雪乃、渉外は明日奈にお任せだ。

ついでに受付嬢はアルゴが採用した折本だな、

まあいずれそこに、結衣と優美子も入ってくるかもしれないが」

「しれっと身内の就職先を指定しやがったナ……」

「まあ冗談だよ冗談、一部はな」

 

 そして八幡は、次にこう言った。

 

「その為にも、今のうちにGGO内でマックスを取り込んでおくか。

最終的にはあいつもヴァルハラに所属させる」

 

 こうして銃士Xの意思とは関係ない所で、八幡により、彼女の希望通りの決定がされた。

この決定が彼女にとって幸せかどうなのか、もちろんそれは当然幸せなのである。

そして話がまとまった後、八幡は少し疲れたのかソファーもたれかかり、目を瞑った。

それを見たアルゴと薔薇は顔を見合わせると、交代で八幡の肩を揉み始めた。

 

「おっ、すまないな二人とも」

「なぁ、ハー坊も最近ちょっと疲れてるんじゃないのカ?」

「そうだな、このところ色々な事があったしな」

「なんなら今から仮眠室で、オレっちと薔薇ちゃんと一緒に同衾するカ?」

「それは心惹かれる有難い申し出だが、まだそこまで疲れてないから大丈夫だ」

「あんたがそんな事を言うなんて珍しいわね」

「女心をくすぐるじゃねーか。ハー坊もやっと、

否定だけじゃなくそういう事が言えるようになったんだナ」

「まあ俺の立場だと、さすがに綺麗ごとばかりってのもな」

 

 そう言って八幡は苦笑し、そんな八幡を、アルゴは背後からそっと抱き締めた。

 

「オレっち達も、長い付き合いになったナ」

「そうだな」

「せっかくボスが居場所を作ってくれたんだ、その期待に応えられるように頑張ろうゼ」

「おう、これからも俺に力を貸してくれよな、アルゴ、小猫」

「もちろんだゾ」

「当然ね」

 

 そしてその後、八幡はGGOに仲間を集め、銃士Xの事について一緒に話し合った。

その結果、イコマからエアリーボードについての情報が開示され、

エアリーボードを銃士Xの足として提供する事が決定され、

そのままイコマが銃士Xの勧誘係に指名されたのだが、

結果は先日の結果通り、本人の意思で一時見送りという形になった。

そしてその席上で、最後に八幡はこんな事を言った。

 

「こっちの戦力もそれなりに形になったし、後日敵に大々的に宣戦を布告する」

 

 こうして八幡は、姿の見えない敵を一気に叩くべく、そう決断を下した。

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