ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/16 句読点や細かい部分を修正


第330話 GGOをプレイする皆さんへ

 その日、シャナに対抗する者達は、街中にある大きなホールに集まっていた。

この日はそのほとんどの者が集まっており、その人数は実に千人を超える。

よくもまあここまで集まったものだと、参加者達は感嘆した。

もっとも実は、何も知らないままここに連れてこられた者がほとんどで、

実際にシャナと敵対する意思を固めていた者は、この中の半数程だった。

 

「なぁ、これ何の集まりなんだ?凄え人数だよな」

「お前知らないで参加してたのかよ、これはシャナの暴虐を糾弾する奴らの集まりだぞ」

「えっ、まじかよ!?俺どっちかっていうとシャナのファンなんだけど……」

「俺だってそうだよ、でもスコードロンの上の連中には逆らえないからよ……」

 

 これはそういった者達を中心に噂を広めてきた、ステルベンとノワールのせいだった。

百人の集団がいれば、そのうち五十一人を占める勢力の意見が優位を占める。

そしてその中で意見が対立した時は次の二十六人、そしてまた次、その次、

といった感じで、最後に残るその何人かを中心に、二人は噂を広めていた。

その結果、実際に現在これだけの人数が動員されるに至っている。

二人が既に手を引いたにも関わらず、だ。

さすがそういった悪巧みが専門な二人だけの事はあるようだ。

ちなみに主催者はいない。この日の集まりは、主だったスコードロンのリーダーが、

何となく話さねばと思った事を話し合おうと集合をかけた結果、

どんどん人が集まってしまったというだけの事なのであった。

ちなみにそのせいで、まともに会議に参加しているのは全体の数パーセントで、

他の者達はひそひそと雑談しているだけだった。

 

「さて、それでは一番の脅威である、シャナの持つ重武装型ハンヴィーへの対策だが……」

 

 一応司会のようなものをやっているプレイヤーが、そう議題を読み上げた。

やはりブラックの脅威が、この者達にとっては一番大きいのだろう。

 

「こっちも同程度の武装を揃えるしかないんじゃないか?」

「あの防御用の素材が手に入らないんだよな、あれはやばすぎだろ」

「今思えば、あのクリスマスイベントの素材独占が大きかったよな。

さすがシャナの先見の明は凄いよな……」

「そもそもあれを加工出来る職人なんざ、イコマ以外には居やしねえよ」

「一体どこにいたんだよ、あんな神職人……」

 

 一応イコマに触発されて職人プレイを始めた者も何人かいるようなのだが、

素材入手の大変さと、元々余計なステータスが上がってしまっている事が多いせいもあり、

イコマのように一から育てない限り、一定以上のレベルに達する者は出てこないようだった。

 

「そもそもバスで出撃って、平地以外に逃げ込まれたらそれ以上こっちは進めないから、

狙い撃ちされて簡単に全滅させられるだけだろ」

「それもあるし、超遠距離から運転手を狙撃されてももうどうしようもないっつーか……」

「とにかくマニュアル車を運転出来る奴を公募して、一台の車に乗る人間を少なくした上で、

多くの車を動員し、別に護衛でロケット砲とかを積んだ車を用意するしかないんじゃねーの」

「まあそれしか無いよな……」

 

 そしてブラック対策についてはそのように決定されたが、

そもそも運転手の数がまったく足りてない事については無視された。

どうも公募すれば何人かは集まるだろうという楽観論が大勢を占めているようで、

ゲーム内で車を運転するのに免許などは必要ないという発想は出ないようだ。

もしここにシャナがいれば、ゲーム内で練習しろと冷たく言い放った事だろう。

次に問題とされたのは、ロザリア誘拐事件の時のシャナの謎攻撃についてだった。

 

「次に、例の誘拐事件の時に誘拐犯達が殲滅された攻撃についてだが」

「あの黒い光を放つ光学銃か?一体何なんだよあれは。

光学武器に対する防御フィールドも全て無効化されたんだろ?」

「分からん……」

 

 上位レシピを参照出来るレベルの、高位の職人がいないせいで、

どうやらシャナのアハトXの正体が分かる者はいないようだ。

結果、アハトXは黒い光を放つ謎の光学銃と認識されていた。

 

「とりあえずそれについては保留にしないか?何かを見落としている可能性もあるだろうし」

 

 この意見に誰も反対せず、アハトXに対しては棚上げされた。

 

「ついでに確認しておきたいんだが、もうああいうのは絶対に禁止って事でいいんだよな?」

「ああいうのって、誘拐の事か?」

「ああ」

「そもそも誰が言い出したんだよあんな事」

「ロザリアって奴に拷問まがいの事をしたんだろ?正直最低だな」

「でも犯人が誰なのかよく分からないんだよな……」

 

 困った事に、あの日参加していた者達には、護衛の者を含めて皆アリバイがあるのだった。

これは単独行動をしていた者がいなかった事に由来する。

だが誘拐事件に関わった事は間違いなく、参加した者達は肩身の狭い思いをしており、

今も参加者達から白い目で見られていた。

そしてその白い目をしている者達の中に、ゼクシード達三人もいた。

 

「本当にあいつら最低……女を何だと思ってるんだろうね」

「そうだな、さすがに話を聞くだけで虫唾が走るよな」

「ですよね、ゼクシードさん」

 

 どうやらゼクシードは、そういった方面に関しては当たり前の常識を備えているようだ。

そしてゼクシードはその事については考えたくないのか、

一つ前の話題について二人にこう尋ねた。

 

「それにしても足の問題は俺達にとっても課題だよな……なあユッコ、ハルカ、

お前達はマニュアル車の運転とか出来ないよな?」

「無理ですね」

「ゲームでなら経験はあるんですけどね、免許はさすがに持ってないですね」

「まあそうだよな、ゲーム、ゲームな……」

 

 そう呟いた後、ゼクシードはハッとした顔でハルカに尋ねた。

 

「ちょっと待て、今何て言った?」

「免許は持ってないって事ですか?」

「いや、その前だ」

「ゲームならマニュアル車を運転した事はあるんですよね、

もっとも上手く操作出来ませんでしたけどね」

「それだ!」

 

 ゼクシードはどうやら、ハルカの言葉でその事に気付いたようだ。

この辺りはさすがと言えよう。

 

「そもそもここはゲームの中なんだ、別に免許なんか無くても、

最低限車を動かせれば別に何の問題も無くないか?」

「あっ……」

「そ、そういえば!」

「そもそもシャナの仲間は全員がハンヴィーを運転出来るみたいじゃないか。

それって不自然極まりないと思ってたが、そういう事かよ……」

「ですね、さすがはシャナさん……そういうとこ抜け目無いなぁ」

 

 ユッコはそうシャナを褒め、ゼクシード自身もそう感じていたのか、

その事について何か言う事は無かった。そしてハルカがゼクシードに言った。

 

「どうしましょうゼクシードさん、その事を提案してみます?」

「そうだな……とりあえず後にしよう。もし今提案しちまったら、

俺達が練習する為の車が全部他の奴に借りられちまって、

レンタル屋に無くなっちまうかもしれないからな」

「確かに……」

「まあ練習の達成度を見ながら適当に報告すればいいだろ」

「ですね」

 

 そしてその時、突然外から何人かのプレイヤーがホールに駆け込んできた。

 

「おい、大変だ!」

「シャナが、シャナが……」

 

 そしてそのプレイヤー達は口々にこう言った。

 

「どこでもいいから街頭モニターを見てみてくれよ!」

「シャナの野郎が何か言いたい事があるみたいで、

モニターの中から集まれって呼びかけてるんだよ」

「まじかよ」

「おい皆、行くぞ!」

 

 そしてその場にいたプレイヤー達は外に飛び出し、モニター前へと向かった。

 

「おいユッコ、ハルカ、俺達も行ってみようぜ」

「はい!」

「シャナさんは何を言うんでしょうね」

「何だろうな、まあとにかく今の流れに一石を投じるつもりだろうな」

 

 

 

 その前日の事である。八幡と陽乃とアルゴ、それに薔薇とめぐりはソレイユ本社に集まり、

GGOを運営しているザスカー社の担当の者と、

テレビ電話で直接対話をする為に連絡をとっていた。ちなみにめぐりは通訳係である。

 

「それじゃ先輩、先方と繋がったら通訳をお願いしますね」

 

 そう言った八幡に、めぐりは控えめに抗議した。

 

「もぉ、今の私はいずれ八幡君の部下になるんだから、

今から別の呼び方に慣れておいた方がいいと思うよ。さすがに先輩って呼び方はちょっとね」

「確かに正論ね」

 

 陽乃にまでそう言われた八幡は、諦めたようにめぐりの事をこう呼んだ。

 

「そ、そうですか、それじゃあめぐり……さん」

 

 そう呼ばれためぐりは、違和感を感じたのか再び八幡に抗議した。

 

「さん付けもちょっとなぁ……そもそも社長が部下にさん付けっておかしいよね?

ちなみに他の人の事は何て呼んでるの?ハルさ……ハル社長は?」

「姉さんですね」

「ふふん、羨ましいでしょ?めぐり」

「うぅ……姉ポジションいいなぁ……まあいいか、アルゴ部長は?」

「アルゴ」

「薔薇さんは?」

「小…………薔薇」

「今何て言いかけたのかすごく気になるけど、まあいいや、

それじゃあめぐりかめぐり君、もしくはめぐりんでもいいかなぁ」

 

 そう言われた八幡は、慣れないが仕方ないかと思い、めぐりと呼ぶ事にした。

 

「分かりました、それじゃあめぐり」

「ん」

「で…………って、んんっ?」

 

 八幡がめぐりまで口に出した瞬間、めぐりは即座に「ん」と付け加えた。

そしてめぐりはとても嬉しそうにこう言った。

 

「そっかぁめぐりんを選んだかぁ、嬉しいな嬉しいな」

「やるわねめぐり」

「な、なんて力技を……しかしかわいいから文句も言えん……そして癒される……」

「それじゃあ今後はめぐりんって呼んでね」

 

 八幡は、俺に選択の余地はそもそも無かったのかと思い、それを認めた。

 

「はぁ、仕方ない……他人がいない時だけですからね。他の時はめぐりで」

「うん!どっちにしても私大勝利だから問題無いよ!」

 

 その時アルゴが、八幡にザスカー社の人間とアポがとれた事を伝えてきた。

 

「オーケーだぞ、十分後に通話開始だ」

「お、ありがとなアルゴ、それじゃあ今のうちに打ち合わせといくか」

 

 そして八幡は、一同に今回の目的について説明した。

そして十分が経ち、ザスカー社の担当と話した八幡の目的は、あっさりと達成された。

 

「それは面白そうだ、ただ準備に少し時間をもらうがいいか?だそうです」

「アルゴ、例の物を」

「あいヨ」

 

 そして八幡の指示で、アルゴはあるプログラムを先方に提示した。

 

「ほう、これは凄いな、ちょっとプログラム担当の者を呼ぶから待っててくれ、だそうです」

 

 そしてプログラム担当のそのアメリカ人は、感心した顔で何か言った。

 

「いい部下をお持ちですね、これがあれば明日からでも開始出来るよ、とのことです」

「オーケーだ、それじゃあその線で話をまとめて下さい。

あと放映権料に関しては、こっちが三、相手が七でと伝えて下さい」

「五対五でもいいと思うが、いいのかい?だそうです」

「今後のお互いの友好の為にも、それでいいと伝えて下さい」

「了解した、ご好意に感謝する。是非そのうち直接お会いして、

いずれ業務提携出来ればいいですね、との事です」

「そうですか……姉さん、そのうちアメリカに行って、正式に提携してみますか?」

「そうね、せっかくだしそうしましょうか。めぐり、とりあえず今後の提携について、

前向きに相談したいと伝えて頂戴。そしていずれ私達がそちらにお伺いしますともね」

「はい…………伝えました、その時を楽しみにしている、だそうです」

「こちらも楽しみにしています」

 

 

 

 そしてモニターの中のシャナは、

開口一番にモニターを見ている多数のGGOのプレイヤー達にこう言った。

 

「画面の前のGGOをプレイする皆さんへ。今から皆さんには戦争をやってもらいます」

 

 こうしてこの日、唐突にGGOの多くのプレイヤーを巻き込んだ戦争が始まった。


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