ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/16 句読点や細かい部分を修正


第332話 一つ目のスコードロン

「シャナ、随分派手にやったもんだな。もしかしてキレてたか?」

「別にキレちゃいないさ、まあ喋ってるうちに、

ほんの少しイライラが我慢出来なくなりそうにもなったが、基本的には作戦の一環だ」

「まあ確かに当分はモグラ叩きをするだけだけどな」

 

 現在世界樹要塞の二階ホールには、既に源氏軍のメンバーが大集合していた。

ちなみにレンタル屋にあったハンヴィーは、事前に全てシャナが独占レンタルしていた。

その数総勢十台、もっとも事前にシャナが、

ザスカーに乗用車のレンタル枠を増やすように頼んでいた為、車不足になる事は無いだろう。

ただそれは、機動性に欠ける非戦闘用の車両ばかりなのである。

そして事前に源氏軍への参加を決めていた、薄塩たらこ、闇風、ダイン、エヴァの、

四つのスコードロンのメンバーは、事前にこの場所の事を知らされており、

シャナが別にバスを何台かチャーターしていた為、白旗を取った後直ぐに、

イベント開始時に間に合うようにここに案内されていたのであった。

 

「しかし主催者特権使いまくりだなおい」

「といってもここに事前に人を集めたくらいだけどな。

相手には俺の側に付くチャンスは与えたし、この要塞もブラックも輝光剣も、

全て自前で手に入れたものだからな。敵対者のリストもそうだ、

俺はイベントの開催を依頼しただけで、実は何も優遇されたりはしていない」

「言われてみれば確かにそうだよな……シャナってやっぱり凄いよな」

「あえて優遇された事をあげるなら、演説する機会を与えてもらったくらいだな」

「当初の目論見通りに、敵の数を可能な限り増やすいい演説でしたね、シャナ様」

 

 その会話に、横からそう声を掛けてくる者がいた。

 

「師匠、ありがとうございます」

「どうぞ私の事は、セバスとお呼び下さい」

「あ、え~っと……セ、セバス」

 

 そのセバスと名乗るプレイヤーは、当然都築だった。

シャナは都築にセバスを名乗らせる気はまったく無く、もはやネタと化している名前を、

尊敬する都築に名乗らせる事に弟子として抵抗感を感じていた。

都築にGGOにインしてもらい、色々教えを受けるのは予定通りだったとはいえ、

名前がこうなったのには理由がある。

 

 

 

「理事長、言われた通り遊びに来ました」

「えっ?……あら、あらあらあら、八幡君!よく来てくれたわね!」

 

 あんな事があった直後にも関わらず、

その日八幡は、何食わぬ顔で理事長室を訪れていた。

しばらく八幡は来てくれないだろうなと少し落胆していた理事長は、

良い意味で期待を裏切られ、満面の笑みで八幡を迎え入れた。

 

「さあさあ座って頂戴、今お茶を入れるわね。あらやだどうしましょう、

まさか八幡君がこんなに早く来てくれるなんて思ってなかったから、

今日は簡単なお化粧しかしてこなかったのよね」

「いやいや、理事長はいつもお綺麗ですよ」

「まあ!まあまあどうしましょう、こんな事ならもっと色っぽい格好を……」

「いやいや、理事長は何を着ていても似合いますから」

 

 もちろん八幡がここまで友好的なのには理由がある。

それは当然都築をGGOに招聘する為の下準備であった。だが相手はあの理事長である。

もし一度目でその話をしたら、それが目的だったのねと絶対に拗ねられる。

なので八幡は、この日は高校時代の思い出話に花を咲かせる事にし、

理事長もそれを楽しく聞いていた。そして次の日の昼、八幡は再び理事長室を訪れた。

 

「まあ!まさか二日続けて来てくれるなんて、

これは今日は家に帰れないと連絡しておくべきかしら……」

「すみません、今日はちょっとゲームで外せない用事がありまして……

行かないと雪乃に怒られるんですよね……」

「あらそれは大変ね、雪乃ちゃんは怒らせると怖いから……」

「まったく誰に似たんですかね、噂に聞いた、俺が高校時代の理事長ですかね?」

 

 八幡は苦笑しながらそう言い、理事長は拗ねたような顔をした。

 

「だって仕方ないじゃない、あの頃の私は、

陽乃と雪乃の人生のレールを引く事に躍起になっていたんだもの」

「もう今はそれはやめたんですね」

「当然よ、もうあの子達は、私がレールを引かずとも勝手にどんどん高みに上っていくわ」

「まあ今の理事長は、一緒にいても変に緊張しなくて済むので助かります」

 

 その言葉を聞いた理事長は、嬉しそうに八幡の隣に座り、

遠慮がちに少しだけ八幡に体重を預けた。時々暴走はするが、

それも含めて今の理事長の事は嫌いではなく、

むしろ好ましく思っている八幡は、黙ってそれを受け入れた。

陽乃と雪乃に不満は無いとはいえ、息子がいない理事長が、

代わりに八幡の事を息子のように思っているのを知っていたせいもある。

そして八幡は、今日はALOやGGOの話を理事長に語って聞かせた。

 

「……という訳で、ゲームなのに現実での訓練とかが必要だったりして、

色々師匠に教えてもらえて助かりました」

「そう、都築の技術がこんな事で役にたつなんてね。

平和な日本だとまったく必要の無い技術だものね」

「で、最近やっとGGOでも仲間が増えてきて、

そのメンバーにも色々教えないといけないので大変ですよ」

「あら、それなら都築を貸してあげましょうか?」

 

(おお、理事長自ら……)

 

「いいんですか?」

「ええ、でも条件があるわ」

「何ですか?」

「都築のゲーム内での名前を、セバスにする事よ」

「えっ?」

 

(まじかよ、まさかそうくるとは……)

 

「実は昔、都築とそんな会話をした事があるのよ。

雑談中に都築が、やはり執事といえばセバスですよねって言い出してね、

一時は本気で改名しようとしていたみたいで、驚かされたのよ」

 

(何やってんすか師匠…………)

 

「なのでゲームの中でくらい、セバスって呼んであげて欲しいなと思ったのよ」

「そ、そうですか……分かりました、それでお願いします」

 

 背に腹はかえられず、八幡はその条件で都築を招聘する事にしたのだった。

 

 

 

「セ、セバス、俺の事もシャナと呼び捨てにしてもらえると助かるんですが」

「執事が主人を呼び捨てに?ありえませんな。

せっかくこの名を名乗る機会を手に入れたのです、

ここはより執事らしく振舞わねばならないでしょう」

「師匠、ノリノリっすね……」

「セバスです、シャナ様」

「あ、はい……」

 

 

 

 セバスは早い段階から、あっさりとGGOに馴染んでいた。

仲間達はセバスに鍛えられ、一通り必要だと思われる事を学ぶ事が出来、

それで八幡は、これでもう何の憂いも無いと思い、

イベントの開催をザスカーに打診したというのが今回の件の始まりだった。

その時八幡は、セバスにイベントに参加するか尋ねてみたのだが、

セバスの答えはこうだった。

 

「私が参加するのは、大人が子供の喧嘩に介入するようなものですからね、

今回は遠慮しておきたいと思います」

「まあそうですよね、分かりました」

「ところでシャナ様、臨時で組むスコードロンの名前なんですが、

九郎判官の九郎を一文字変えて『九狼』になさってみてはいかがですか?」

「なるほど、確かに遮那王とは関連の深い呼び名ですが、何か理由が?」

「今のシャナ様の仲間は全部で九人じゃないですか、

九郎をもじって九狼、選ばれた九人の狼、この数字の一致は、

これぞまさに天命と呼ぶべきものだとは思いませんか?

まあそれもあって、私は今回の参加を見送る事にしたというのもあるのですよ」

 

 そのセバスの説明を聞いたシャナは、確かにその通りだと思い、

臨時のスコードロンの名前を九狼として登録した。

その名前はこの戦争において、敵対するプレイヤー達にとっては恐怖の象徴となる。

 

 

 

「さて、今回は思惑通りに事が進みましたね」

「はい、何とか達成する事が出来ました」

「こんな要塞を持ち、機動力もこちらが抑えているのです。

この要塞のキャパシティを考えると、このくらいの戦力比が理想的です。

後は何をすればいいか分かっていますね?」

「移動の足の問題があるうちに、街とこことの距離を生かして徹底的に各個撃破ですね」

「街に仲間を潜ませておくのも忘れてはいけませんよ」

「はい、情報収集は綿密にですね」

 

 ちなみにセバスはスコードロンに名前を登録していない為、

今回は一切戦う事は出来ない。だがこうして知恵を貸す事は別に何の問題も無い。

そう考えたシャナは、友好スコードロンの中の希望者を鍛えてもらう為にも、

セバスに要塞にいてもらう事にしたのだった。

その時街に潜んでいるロザリアから連絡があった。

 

「どうやら今日は、敵は右往左往するばかりでそちらに向かう者はいないようです」

「さっき派手に倒した映像が効いたみたいだな」

「そして先ほど味方からコンタクトがありました」

「お、どこのスコードロンだったんだ?」

「G女連でした」

「予想はしてたがやっぱりあそこか……

ちょっと仲間達と街からの脱出作戦について相談するから、

G女連の連中を鞍馬山で保護しておいてくれ」

「分かりました」

 

 そしてシャナはホールに仲間達を集め、その事を伝えた。

ちなみに今ここにいるのは、シャナ達九人の他は、ダイン達が十二名、闇風達が六名、

薄塩たらこ達が十名、エヴァ達が六名の、セバスを含めて総勢四十四名であった。

 

「皆聞いてくれ、不明だった残り三つの源氏軍のスコードロンのうち、

一つの名前が先ほど判明した、G女連だ」

「まじかよ、あそこがこっちに付くって事は、

もうGGOの数少ない女性プレイヤーのほとんどが、

全て源氏軍所属って事になるんじゃないか?」

「まあそれも仕方ないんじゃね?さすがに表立ってシャナの擁護はしてなかったけど、

反シャナ連合の事は明らかに嫌ってるみたいだったからな」

 

 以前シズカがゼクシードを相手に舞った時、ハルカの質問を受けて、

シャナについて熱く語った女性が話していた女性だけのコミュニティ、

それがG女連、『GGO女性連合』である。

 

「だが一つ問題があってな」

「何だ?」

「あいつらをここに招くと、次の拠点防衛イベントが開始されちまう」

「何だそれ?」

「実はな」

 

 そしてシャナはフローリアと共に、

イベントの事を知らないメンバーにイベントの内容を説明した。

今ここにいるのは四十四名、前回のイベント発生時で二十二名、

訓練の為にシャナ達はここを二回訪れているので、のべ二十名、合計すると八十六名となり、

先ほど殲滅した敵の人数が八名くらいだった事を考えると、

確実にG女連の来訪で次のイベント開始の条件である百名に届く事になる。

 

「まじかよ、そんなのが存在してたのか……」

「ああ、本来なら明日発生させて、モブを敵の挟み撃ちに利用するつもりだったんだが、

早くあいつらを保護しないといけないからな。そんな訳で可能なら今夜発生させて、

戦利品や報酬を皆にゲットしてもらいたいと思うんだがどうだろうか」

「いいんじゃないか?敵が攻めてくるのは明日以降っぽいんだろ?」

「今日ならG女連の連中も脱出しやすいだろうしな」

 

 他にも口々に賛同の声があがり、シャナはその意見を受けて本日中の決行を決めた。

 

「G女連のメンバーは全部で十五人、ハンヴィー三台で迎えにいく。

運転手は俺とシズカと先生、シノンだけは狙撃準備をして俺のハンヴィーに同乗してくれ。

他の者はモブ相手の戦闘準備を頼む、敵は千体だ」

 

 シャナは保険の為にシノンを同乗させる事にし、そして慌しく準備が開始された。

ロザリア経由で先方にもその事が伝えられ、承諾が得られた為、

ブラックとホワイトとニャン号は、街に向けて出発した。




まあ俺が王道の仲間を出す訳が無いですよね……銃士Xちゃんは間違いなく入ってますけどね!
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