「おや?シャナ坊やじゃないかい。わざわざあんたに足を運んでもらえるなんて恐縮だね」
「その呼び方はやめてくださいよ、おっかさん」
ちなみにおっかさんというのは通称ではなくプレイヤーネームである。
G女連のリーダーおっかさん、女性プレイヤー達を豪腕で纏め上げている女傑である。
「迎えに来てもらって助かったよ、さすがに五十キロもの距離を歩くのは骨だったからねぇ」
「歩くつもりだったんですか……」
シャナは呆れた顔でそう言った。
「だって押しかけ助っ人が迎えを頼むなんて恥ずかしいじゃないかい」
「確実に敵の襲撃を受けますし、今回は俺が言い出した事なんで気にしないで下さいよ。
さあ、こっちの二台には六人ずつで、こっちの重武装の方には三人乗って下さい」
そのシャナの言葉におっかさんは頷き、続けてこう言った。
「シャナ坊やはどの車を運転するんだい?」
「俺はこの重武装のハンヴィーですね、通称ブラックです」
「なるほど、という事は二人か……」
「ん?さっきも言いましたが、ブラックには三人乗ってもらうつもりなんですが」
「一人は私だろ?」
「ああ、そういう事ですか」
「おっかさん、ずるいです!」
「ふふん、リーダーの特権ってのはこういう時に使うもんなんだよ」
そしておっかさんは、メンバー達に大声で言った。
「聞いたかいあんた達、分かったらさっさと勝負しな!枠は二つだよ!」
「…………へ?」
そしてシャナがぽかんとする中、メンバー達はやる気まんまんの目でシャナを見た。
そしてその中の誰かがこう言った。
「さあさあ時間が無いわ、確率は七分の一、みんな恨みっこ無しのジャンケン勝負よ!」
そして十四人によるジャンケンが行われ、とはいえその人数だと、
どう考えてもあいこの連続になってしまう為、実際は二手に分かれて行われたのだが、
シャナと同乗出来る二人の強運の持ち主が選出された。
「これはまた……やっぱりあんたは何か持ってるんだね」
おっかさんがそう呟く中、その二人の女性は対照的な仕草をみせた。
「ミサキと申します、宜しくお願いしますわ、シャナ様」
「イヴです、宜しくね、シャナ様」
ミサキは優雅に、そしてイヴはシャナに興味深げな視線を送りながらそう挨拶した。
そしてそのミサキと名乗る女性がいきなりスッとシャナに近寄り、その耳元でこう囁いた。
「私の名前と同じ名前の店を銀座で経営しております、
いつかその時が来たら、是非うちにいらして下さいね、シャナ様」
そして負けじとイヴも、シャナの耳元でこう囁いた。
「シャナ様、ハッカーの手が必要なら私をいつかスカウトしてね」
そう聞いたシャナは、いぶかしげにおっかさんの顔を見た。
おっかさんは豪快に笑いながらシャナに言った。
「うちはあくまで一般女性の集まりだけどね、その二人はちょっと毛色が違うのさ。
しかし二人がいきなりその事をバラすとはねぇ、さすがの私も予想外だったよ」
「私はこれでも、人を見る目はあるつもりですのよ」
ミサキがそう言い、おっかさんはシャナにこう言った。
「この子の店は、どうやら政財界の人間が多く集まるみたいでね、
まだ学生かそこらに見えるあんたには早いかもしれないけど、
まあいつか一旗上げる時に必要になったら行ってみるといいさ」
そしてイヴもおっかさんにこう言った。
「私はシャナ様の各種データから推測して、この人ならと思っただけ」
「ふむ、その根拠になるデータはどんなデータだい?」
「それはいつか雇ってもらったら開示してもいいよ。
つまりここからは、シャナ様の人を見る目が頼りという事になるね!
まあ起業しないならそれはそれで、仲良く友達として傍に置いてくれれば嬉しいかな」
シャナはいつか使えるかもしれないと思い、その二人の事をしっかり脳内に記録した。
そして出来ればイヴは、直ぐにでもスカウトしようと考えた。
そんなシャナに、ロザリアが声を掛けた。
「シャナ、そろそろ敵が動くと思われます、お早めに」
「おお、もうそんな時間か、それじゃあおっかさん、ピクニックに出掛けるとしますか」
「目的地は『この木なんの木』なんだよね?あの辺りに要塞でも作ったのかい?」
おっかさんは、明らかに冗談と分かる口調でそう言った。
そしてシャナは、おっかさんにこう答えた。
「作ったんじゃなくあったんですよ、それじゃあ行きましょう」
「おいシャナ坊や、それはどういう……」
「さあ、時間が無いですから乗って乗って」
そして三台のハンヴィーは車庫を飛び出し、そのまま荒野を走り出した。
そして街でそれを見送ったロザリアから通信が入った。
「シャナ、今慌てて沢山の車がそちらを追いかけていったわ、百人以上ね」
「お、噂を広めた甲斐があったな」
シャナは自らがG女連を迎えにいくと事前に噂を広めておいた。
どうやらシャナは、拠点要塞イベントを利用して敵を挟み撃ちにする計画も、
この脱出計画に組み込んだようだ。
「後は任せろ、お前はそのまま車庫に戻って監視を続けてくれ。
くれぐれも敵の襲撃には警戒してな」
「もう、心配性ね。その心配は無いって分かっているでしょう?
大丈夫よ、外に出る時はキャラを変えるから」
実はロザリアは、このイベントの為に新規にキャラを作っていた。
偵察を行う為にはその方が都合がいいからだ。ちなみに名前はコピーキャットと言う。
九狼には所属させていない為に、直接戦争には参加出来ないが、
この場合は情報を伝えるだけなので何の問題も無い。セバスと同じ立場である。
「それじゃあ何かあったらまた報告してくれ」
「ええ、またね」
そしてシャナは通信を切ると、横に乗っているシノンに声を掛けた。
「シノン、どうやら敵が罠にかかったぞ、このまま全力で飛ばせば簡単に敵は振り切れるが、
あくまで要塞に敵を引き込むのが目的だからな、
こっちが焦っているように見せる為、適度に速度を落として追走させる。
くれぐれも敵に当てないようにけん制だけ頼む」
「何台か倒してしまうのは駄目なの?」
「ああ、そうしたら残りの奴らが撤退しちまうかもしれないからな、
ギリギリの所まで敵を引き付け、そのまま全滅させる」
「そういう事ね、分かったわ」
その会話を聞いていたおっかさんは、感心した顔でシャナに言った。
「シャナ坊や、私達を囮にして敵の数を減らすつもりなんだね」
「正確には俺を囮にして、ですけどね」
「シャナ様、後方に車の砂塵が見えますわ」
「お、ありがとなミサキさん。よし、出番だシノン」
「了解」
そしてシノンは上手に左右に弾を散らし、敵の乗る車ギリギリの場所を狙撃した。
「このまま外してばかりいると、変な癖がついちゃいそう」
「なんならサイドミラーでも狙ってみたらどうだ?
敵が継走能力さえ失わなければいいんだしな」
「そうね、そうしましょうか」
そして直後にシノンがあっさりとサイドミラーを撃ち抜いた。
「おやおやシノン、どうやらあんた、たまにうちに顔を出していた時とは別人だね」
「あの時は何も聞かずに私を置いてくれてありがとう、おっかさん。
最近まったく顔を出さなくてごめんなさい」
「別にシノンはうちの正式メンバーって訳じゃないんだから、気にしなくてもいいさ。
どうやらいい出会いがあったみたいだね、私も嬉しいよ、シノン」
「そうよシノンちゃん、逆に羨ましいくらいよ」
「私も早く自分の居場所を見付けたいなぁ」
おっかさんに加えてミサキとイヴもそう言い、
シノンは助手席のシートで恥ずかしそうに身を縮ませた。
「ところでシャナ坊や、さっきの要塞の話に関連してだけど、
事前にロザリアから、着いたらモブ相手の戦闘準備をしておくように言われたけど、
あれは一体どういう事なんだい?まあちゃんと準備はしておいたけどね」
「もうすぐ分かりますよ、さあ、そろそろ目的地が見えてきましたよ」
「……相変わらず日本人の郷愁を誘う木だねぇ」
「私あれを見るのは初めてだ、本当に大きいね」
おっかさんとイヴはそんな感想を漏らしたが、ミサキは少し毛色が違っていた。
「本当ね、凄く……大きいわ……」
丁度その瞬間、シャナはチラリとバックミラーを見たのだが、
その中に映るミサキがペロリと舌なめずりをしていた為、
シャナはもし会う機会があったら、絶対に食われないように警戒せねばと心に誓った。
そして遠くに口を開ける世界樹要塞を見て、三人はあんぐりと口を開いた。
「シャナ坊や、何だい?あの入り口は。あんなのがあるなんて聞いた事は無いよ」
「あれって人工物だったんだ……」
「そう……これからあの大きいのが中に入るのね」
「ミサキさん、その言い方はおかしいから!」
シャナはさすがに看過出来なかったのか、そう突っ込んだ。
それを聞いたおっかさんがすまなそうに言った。
「ごめんよシャナ坊や、この子は気に入った男の前だとこうなっちゃうみたいなんだよね」
「もっともそんないい男は、最近まったく見かけなくなっちゃいましたけどね」
ミサキはそうため息をつき、期待のこもった目でシャナをじっと見つめた。
「俺は別に、その期待に応えたくはないんですが……」
「ふふっ、それを決めるのは私よ」
シャナはその言葉を無視し、正確にはその余裕が無かっただけなのだが、
シノンの方に向き直った。
「シャナ、多分そろそろよ」
「オーケーだシノン。シズカ、先生、もっとスピードを落として敵を引き付けてくれ」
「「了解」」
シャナはそう通信を行い、前方を走る二台は徐々にスピードを落とした。
後方との距離が詰まった為、そちらから弾が飛んできたが、
それらは全て三台の厚い装甲に阻まれた。
「うわっ、さすがにおっかないね」
「大丈夫ですよおっかさん、あんな豆鉄砲じゃ、この車の装甲は撃ち抜けませんから」
そして三台がある一定のラインを超えた瞬間に、
辺り一帯にフローリアの声でアナウンスが響き渡った。
『警告、世界樹要塞に敵の集団が迫っています。
カウントダウン開始、敵は千八百秒後に到達予定』
「前回フローリアが言ってた通りだな、今回は拠点に入った人数じゃなく、
一定範囲に入ったプレイヤーが対象だな。どうやら時間は半分になったようだが」
「そうじゃないと、要塞が誰かの所有物になった瞬間に、
今までの累積でイベントが発生しちゃうかもしれないものね」
「前回でカウントがリセットされたんだろうな」
「さて、今回は数が数だ、全方向から敵が来るかもしれないから警戒を密にな」
「追いかけてきたプレイヤー達はどうする?」
「もうこの要塞の周囲は敵に囲まれているだろうし、このまま放っておいてもいいんだが、
せっかくだからうちの要塞をあいつらに紹介させてもらうとするか。
どうせ何もしなくても話は直ぐに相手に伝わっちまうだろうしな」
そしてシャナは要塞の近くで窓から何かを落とし、そのまま他の二台と共に要塞に入った。
追って来た車は警戒したのか一定以上は近付いてこず、要塞の周りをぐるぐると回っていた。
そして要塞から、シャナの声が響き渡った。
「平家軍の諸君、先ほど俺が落としたのはただの拡声器だ。
俺を信用してくれるなら、少し話がしたいからその拡声器を拾ってくれ、
その者にはこちらから攻撃はしない」
その言葉を信用したのか、追っ手の中から代表らしき者が姿を現し、
その拡声器を拾ってこちらに話し掛けてきた。
『拾ったぞ、これでいいか?シャナ』
「おう、ペイルライダーじゃないか」
シャナは、これはいきなり大物が罠にかかったと内心でほくそ笑んだ。
『話がしたいと言ったな、ここは何だ?そしてさっきのアナウンスは何だ?』
「ここは世界樹要塞という、世界にいくつかある要塞のうちの一つらしいぞ。
最初に見付けた者に所有権がいくらしくてな、
それがどういう意味かは言わなくても分かるよな?」
ペイルライダーは、その説明に声を振るわせながらこう言った。
『まさか……この木が要塞だと?そしてお前がその持ち主だと?』
「そういう事だ、こっちは数が少ないんでな、使える物は存分に活用させてもらう」
『き、汚ねえぞ!』
「お前が最初にこれに気付いてたら、この要塞はお前の支配下に入ってたんだがな、
その点俺とお前の条件は対等だった、違うか?」
『ぐっ……じゃああの黒い光剣は何だよ!あんなの卑怯じゃないか!』
「あれは職人プレイを極めてスキルを上げ、素材を集めればお前にだって作れるんだがな、
俺は事前にこういう事もあるかとイコマをスカウトしておいたんだが、
その間お前らは何をしてたんだ?何の努力もしないで文句を言うだけなら、猿と変わらんな」
そのやり取りを聞いていたおっかさんが、シャナに言った。
「おお、煽るねぇ」
「ここであいつらに離れられると都合が悪いんで」
「今のシャナ様は、すごく黒くて光ってますわ!」
「ミサキさんはちょっと黙ってて下さいね」
シャナはミサキに釘を刺した後、再びペイルライダーに語りかけた。
「そもそも戦争になったのも、お前らが誰かにおかしな事を吹き込まれたせいだ。
要するにこれは全てお前らが馬鹿だったせいで起こった事だと、そうは思わないのか?」
『確かにそうかもしれないが、それだけにこの戦争に負ける訳にはいかねえ!
必ずお前に一泡吹かせてやるぞ、シャナ!』
そしてシャナに、そっとベンケイが声を掛けた。
「お兄ちゃん、来たよ」
「そうか、分かった」
そしてシャナは、ペイルライダーに向かってこう言い放った。
「残念ながら、お前がそれを成すのは不可能だ。ここでさよならだ、ペイルライダー」
『何を寝言を言ってやがる!俺は一旦撤退して、今度はもっと多くの仲間を引き連れて、
必ずこの要塞を落としてやるつもりだ!さっき追走した感じだと、
ハンヴィーとこっちの速度差はそんなに無いみたいだから十分逃げ切れるはずだ!』
シャナはそのまま勘違いさせておこうと思い、速度差の事については何も言わなかった。
代わりにシャナは、ペイルライダーにこう言った。
「違う違う、後ろをよく見てみろ。それじゃあこっちもいくからな、
総員戦闘配備、迫り来る敵に備えよ!
ついでに逃げ場を無くしたあそこの馬鹿どもを蜂の巣にしてやれ!
ただし約束があるからな、ペイルライダーを仕留めるのは最後にしてやれよ!」
その瞬間に要塞から多くの銃口が姿を現したのを見て、
ペイルライダーは慌ててその場から逃げ出そうと、後方に向かって走り出した。
そしてペイルライダーは、正面から迫りくるモブの大集団を見た。
また変態が増えた気が……