「……イヴか?」
「うん、私は岡野舞衣、誕生日がクリスマスイヴだからイヴだよ」
「なるほどな、俺は比企谷八幡だ、宜しくな、舞衣」
「来た瞬間にこれだって直ぐ分かったよ、私の目に狂いは無かったね」
「お前、三回ミスってんじゃねえかよ……」
「あの三人は、今考えると大した事無かったわ」
「そういうとこ調子いいのな……」
そして八幡は舞衣をキットの所まで案内し、二人はそのままキットに乗り込んだ。
「うわ、何これ、凄い車だね!」
八幡はキットが褒められるのが嬉しいのか、自慢げにこう言った。
「おう、キットは凄いんだぞ」
『ありがとうございます、お褒めに預かり光栄です。初めまして舞衣、私はキットです』
「うおおおお、何これ、一体どうなってるの?」
「ふふん、キャラが崩壊する程驚いたか」
だがその直後に舞衣はこう言った。
「キットをお母さんに見せたら絶対に分解したがるんだろうな」
その言葉に虚を突かれた八幡は、思わずこう尋ねた。
「……お前の母さんって何してる人だ?」
「え~っと、発明家?」
「そ、そうか……」
八幡はその言葉に、その母にしてこの娘ありかと思ったが、
舞衣の話はかなりぶっ飛んだものだった。
「うちのお母さんって、沢山特許を持っててまったく働く必要は無いんだけどさ。
例えば自動追尾型撮影システム、GGOでも使われてるよね?」
「それは凄いな」
「でも正式に結婚はしてなくて、内縁の妻ってやつ?
なので私には正式にはお父さんはいないんだよね」
「そうなのか」
「二十年くらい前、江珂高校って学校がテロリストに占拠された事件は知ってる?」
「さすがに知らないな」
八幡は、自分が生まれた頃だと思いそう言った。
「その事件の時、お母さんとその同級生が人質になってね、
その時助けに来てくれたのが、少し前に海でお母さん達と知り合った男の人だったんだけど、
その人がね、捕まってたお母さんと密かに連絡を取り合って、
お母さんがその頃密かにプロトタイプを完成させていた自動追尾型撮影システムを使って、
人質の位置を特定して、お母さん達を無事脱出させてくれたの。
その男の人が私の血縁上のお父さんかな」
「何だそれ、凄いなお前の両親……」
八幡は心から感心したようにそう言った。
「でね、その時お母さんには二人の親友がいたんだけど、
お母さんも含めて三人ともが、その男の人を好きになっちゃってね、
結局誰も選べなかったその人は、三人全員と一緒に仲良く暮らし、
それぞれに子供が生まれましたとさ、おしまいっと」
「…………おいお前、その話は絶対に俺以外の前ではするなよ」
「え?何で?」
「そういう手段があるってバレたら、何が起こるか分からないからだよ!」
「え?あ、ああ~!やっぱりシャナ様ってそうなんだ」
「誰も選べなかったって部分は違うけどな、でも似たような状況ではある」
「なるほど、オーケーオーケーとりあえず分かった」
「頼むぞまじで……」
そして八幡は、その後も舞衣にいくつか質問をした。
「ハッカーの技術って、母さんに習ったのか?」
「うん、まあうちのお母さんはどちらかというとハード寄りだけどね」
「っていうかお前今何歳だよ」
「いきなり女の子に歳を聞く?まあ十八だけど」
「まじかよ……お前の母さんは十台の時にお前を産んだのか……」
「うん、そのせいで私とお母さんは友達みたいな関係だよ」
そしていよいよソレイユの本社ビルが見えてきた時、舞衣が言った。
「あっ、あれってソレイユじゃない?」
「ああ、そうだな」
「いいなぁ、あそこで働けたら最高だろうなぁ」
「何でだ?」
「だってソレイユだよ?私達にとっては憧れだよ!」
「理由になってないからよく分からんが、そうか……」
そして八幡は、平然とソレイユ本社の前に車を停めた。
「えっ?えっ?何でここに車を停めるの?」
「いいから付いて来いって」
そのままソレイユに入って行く八幡を、舞衣は慌てて追いかけた。
そんな八幡の目に、すました顔で受付に座るかおりの姿が映った。
「おお?」
「あっ」
かおりは隣に座っていたもう一人の受付嬢と何か話した後、
八幡の前で深々と頭を下げながら言った。
「お約束通りにここでお越しをお待ちしておりました、八幡様」
「お、おう……って何でここにいる?で、今日はどうしたんだ?入社にはまだ早いよな?」
「今は研修中です」
「なるほどな、遅い時間まで大変だな」
「春から宜しくお願いしますね、八幡様」
そう言ってかおりは、こっそりと八幡にウィンクした。
八幡は軽く微笑みながら、こっそりとかおりに囁いた。
「またな」
「うん、またね」
そして八幡はエレベーターに向かい、舞衣はその後に続いた。
「あの受付の人は知り合い?」
「中学の時の同級生だな」
「へぇ~、それにしても八幡様って何者なの?」
「ここの関係者だ」
「そういうレベル?思いっきり顔パスだよね?さっきの元同級生も敬語だったし」
「いいからさっさと上に行くぞ、早くこっちに来い」
「あ、ちょっと待ってよ、行く、行くから!」
そして二人はエレベーターを降り、八幡はとあるドアの前に立ち、そのドアをノックした。
「えっ?」
そのドアには社長室と書いてあった為、舞衣はとても驚いたのだが、
八幡は中からの返事を確認した瞬間、遠慮なしに中に入っていった。
「ちょ、ちょっと!」
舞衣も慌ててその後に続き、二人は陽乃の前に立った。
「えっ?……あれ、あれあれあれ、八幡君!まさかここに来てくれるなんて!」
「理事長と似たような事を……」
「さあさあ座って頂戴、今お茶を入れるわね。やだ、どうしよう、
まさか八幡君がこんなに早く来てくれるなんて思ってなかったから、
今日は簡単なお化粧しかしてこなかったのよね」
「やっぱり母娘か……」
八幡はその言葉を聞いてそう呟いた。
「で、今日はどうしたの?その女の子は?」
「アポ無しで悪いとは思ったんですが、こいつをうちで雇ってもらえないかと思って」
「へぇ~、どんな子?」
「ハッカーです、岡野舞衣、十八歳、参考になるかは分かりませんが、
自動追尾型撮影システムの特許を持っている、岡野……え~っと」
八幡は母親の名前を聞いていなかった事に気が付き、チラッと舞衣の方を見た。
舞衣はその視線を受け、そっと八幡に囁いた。
「岡野由香」
「岡野由香さんの娘さんですね」
「なるほど……身辺調査は?」
「既に菊岡さんが済ませたみたいです。可能なら政府で雇い入れたいとか何とか」
「それなら問題無いわね、さっさと正式に入社してもらって、
政府に取られないうちにうちで頂きましょう」
「それでですね、アルゴとロザリアには待機してもらうように伝えてあるので、
とりあえずここに呼んでもいいですか?」
その八幡の呼び方で、陽乃は舞衣がGGOの関係者だと理解した。
そして陽乃は直ぐに薔薇に連絡をとった。
「ああ、ロザリアちゃん?八幡君が来たから直ぐにアルゴちゃんと一緒にここに来て頂戴」
「ロザリアちゃんってあのロザリアちゃんかな?それにしてもアルゴ……?
う~ん、まさかね……アルゴ、アルゴ……」
舞衣はロザリアではなくアルゴの名前により反応した。
そして二人は直ぐに姿を現し、ロザリアは確認するように八幡に尋ねた。
「その女性はどちら様ですか?八幡様」
そのよそ行きの質問を受け、八幡は薔薇にこう言った。
「イヴだ」
「ああ、なるほど」
そして薔薇は、満面の笑顔でこう言った。
「先ほどぶりね、イヴさん。私はロザリアよ」
「ロザリアさん!」
イヴは会話から予想はしていたようだったが、
改めて本人から明言されて、ここで初めて安心したような表情を見せた。
知らない人ばかりだったので、少し心細かったのだろう。
その舞衣の態度を見た陽乃が八幡に尋ねた。
「八幡君、この子に何も説明してないの?」
「ええ、実はアルゴとロザリアにも説明してないんですよね」
「なるほど、それじゃあ説明タイムといきましょうか」
そして陽乃は、ニッコリと微笑みながら舞衣に自己紹介を始めた。
「初めまして舞衣さん、私はソレイユ社の社長にしてこの八幡君の妻である……」
「おいこらクソ馬鹿姉、先日雪乃にしめられた事を忘れたのか?」
「…………っていうのは冗談で、姉的ポジションにいる、雪ノ下陽乃よ」
陽乃は少し冷や汗をたらしながらそう言い直した。
雪乃に説教された時の事を思い出したのかもしれない。
「私はロザリアこと薔薇よ、宜しくね、イヴさん」
「フルネームは?」
その八幡の突っ込みに、薔薇は苦渋に満ちた表情をした。
「あ、後で覚えてなさいよ」
「フルネームを名乗るのは社会人の常識だ」
「くっ……薔薇小猫よ、宜しくねイヴさん」
「小猫さん!かわいい!」
「だろ?俺もお気に入りなんだ」
その言葉に薔薇は何ともいえない複雑な表情をした。
ちなみにその口の端は微妙にニヤケていた。そして最後にアルゴが自己紹介をした。
「オレっちはアルゴだゾ」
「フルネームは?」
当然八幡はそう突っ込んだが、アルゴはどこ吹く風でこう答えた。
「女の秘密だゾ」
「そうか、なら仕方ないな」
「仕方ないよナ」
その自分との待遇の差に、薔薇はじろっと八幡を睨んだが、八幡は気にせず薔薇に言った。
「だからお前はもっと自分の名前を誇れって言っただろ、
俺がかわいいって言ってるんだからそれでいいんだよ」
「そ、そう……」
途端に薔薇が、今度は明らかに相好を崩した為、周りの者達はこう呟いた。
「チョロいわね……」
「チョロインだナ」
「ロザリアさんかわいい!」
「イヴさん……」
薔薇はイヴにだけ笑顔を見せ、八幡は肩を竦めた。
「あんまりこいつを甘やかすなよ、イヴ」
「そう、その名前が気になってたんだよナ」
イヴの名前が出た途端、アルゴはそう言った。
「私もそのアルゴって名前が気になってました」
「ん、二人は知り合いか?」
「一方的に知ってるだけですよ、ですよねアルゴスター、星のアルゴ」
「今はネズミ扱いの方が多いけどな、電子のイヴ」
そして舞衣はアルゴにこう言った。
「四年前くらいに突然いなくなったと思ったら、こんな所にいたんですね」
「ああ、オレっちはその時SAOに捕まってたからナ」
「あっ!なるほどそうだったんですか、
まあ別に敵対してた訳じゃないから何も問題ありませんね、
これから宜しくお願いしますね、先輩」
「オレっちをそう呼ぶって事はイヴもソレイユに?そうか、これから宜しくナ」
「これでまた私もスキルアップ出来そうかな」
舞衣はこれは楽しくなりそうだと思ったのか、そう言って微笑んだ。
そして舞衣は、八幡の方に向き直ってこう質問した。
「ところで八幡さんのポジションがよく分からないんですが……」
「八幡君はうちの次期社長よ」
「いずれオレっち達のボスになるんだぞ、イヴ」
「私は秘書になる予定なの」
「あ、そういう事ですか、謎が解けました!」
舞衣はそれで納得したのか、うんうんと頷いた。
「まさか私がソレイユに入社出来るなんて、ありがとうございます八幡様!」
「様付けは慣れないんだが、まあとりあえずそれは今度また考えればいいか……」
こうして舞衣の入社も決定した所で、八幡はアルゴにこう言った。
「それじゃあアルゴ、戦争の動画の編集をさっさとやっちまおうぜ」
「おう、今日は暴れたみたいだな、ハー坊」
「まあな」
「あっ、だからソレイユで動画を製作して流す事にしたんですね、また謎が解けました!」
「彼の謎はまだまだ沢山あるわよ、でも絶対に外には漏らさないようにね」
「はい!私は八幡様を尊敬しているので、そこは大丈夫です!」
それを聞いた陽乃は、微妙な顔をした。
「尊敬、ね」
「何だよ姉さん」
「別にい?」
陽乃は、どうせこの子も八幡君の事を好きになるんだろうなと思いながらも、
口に出しては何も言わなかった。そして八幡からのメッセージが撮影され、
シノンが車のサイドミラーを撃ち抜く様子と、要塞での挟撃戦の動画が編集され、
GGO内の特設モニターとソレイユのサイトで直ぐに放送された。
イヴの背景についてはただのギャグですので気にしないで下さいね、
まあ分かる方は分かるだろう程度に書いただけなのです。
というか設定が都合が良かっただけなので!