ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第345話 二つ目のスコードロン

「いらっしゃいませご主人様、お嬢様……って、あなたは確か昨日の」

「ああ、昨日もいたメイドさんか、連日ですまないがフェイリスかダルはいるか?」

「フェリスちゃんかダルくんですね、少々お待ち下さい」

 

(ん、この子はフェイリスの事をフェリスって呼ぶのか)

 

 そして八幡は、奥から慌ててフェイリスが出てくるのを見てすまなそうにこう言った。

 

「八幡、いらっしゃいませなのニャ」

「悪いフェイリス、ちょっと今日も頼むわ」

「もちろんうちはまったく問題ないニャよ、とりあえず昨日の席にどうぞニャ」

 

 そして八幡は、移動中に明日奈の事をフェイリスに紹介した。

 

「あ~フェイリス、こちらは結城明日奈、昨日別働隊を指揮してたシズカだ。

名前で分かると思うが、ALOのアスナだ。ちなみに俺の正式な彼女だな」

「結城明日奈です、宜しくね、フェイリスさん!」

「ニャニャッ、ニャんと!?ま、まさかバーサクヒーラー様かニャ!?

そんな恐れ多い、私の事は是非フェイリスと呼び捨てにして欲しいニャ、皇女様!」

「え……あ、う、うん、フェイリス……」

 

 明日奈は皇女とは一体何の事だろうと思い、首を傾げながらもそう言った。

そんな明日奈に八幡はそっと耳打ちした。

 

「明日奈、そういう設定だと思っておいてくれ。ほら、こういう店あるあるだろ?」

「ああ、そういう事なんだ」

「ちなみに昨日詩乃は、王女シノルティスとか呼ばれてたぞ、

ABCの三人はヴァルキュリアの三姉妹だってよ」

「ABCって、噂の詩乃のんの友達の事だよね?もう八幡君ったら、また変な呼び方して」

「すまんすまん、まあそういう事だから、適当に合わせてやってな」

「うん」

 

 そして部屋に案内された後、八幡はフェイリスに言った。

 

「とりあえずダルに挨拶しておきたいんだが、今日はいるのか?」

「うん、ちょっと待ってニャ」

「あ、後急いできたからちょっと喉が渇いちまった、俺にはホットを一つ頼む。

明日奈はどうする?」

「あ、それじゃあ私はミルクティーを」

「かしこまりましたニャ!それでは少しお待ち下さいニャ」

 

 そしてフェイリスが部屋を出ていくと、明日奈は八幡に言った。

 

「かわいい人だね、フェイリスさん」

「かなり変だけどな。まあ俺はピトで慣れてるから平気だけどな」

「あ、あは……しかし昨日はここからインしてたんだね、

どういう風にモニターに映るのか見てみたいなぁ」

「この機能を小型化してアミュスフィアの周辺機器として売り出せば、

一気に配信とかも増えるかもしれないよな。

まあ既存のシステムを一歩先に進めるだけなんだけどな」

「そうなったら色々盛り上がりそうだね」

 

 八幡はそれに頷きながらも難しい顔をしてこう言った。

 

「まあそれとは別に、気になる事もあるんだよな」

「気になる事?」

「オーグマーだ」

 

 明日奈はその聞き慣れない言葉に首を傾げた。

 

「何それ」

「他社が開発しているARのインターフェイスだな、VRはバーチャルリアリティだろ?

ARは拡張現実、要するに今その目で見えている景色が、別の景色と認識されるって奴だ」

「ああ~なるほど!でもそれがどうしたの?」

「そのオーグマーに配信機能があったとしたら、商品としては一部競合するって事さ」

「ああそうか、そっちのがお手軽そうだしね、なるほど、そういう可能性もあるんだね」

 

 八幡は明日奈がちゃんと理解してくれたようなので、満足そうに頷きながら言った。

 

「だからあまりここだけに資金を投入するのはまずいんだよな、

多分姉さんもそう考えて、小規模な実験しかしていないんだと思う」

「なるほどね」

 

 そして八幡は、更に深刻そうな顔をしながらこう言った。

 

「だがオーグマーには懸念される問題が一つあってな」

「どんな?」

「例えば俺から見て、明日奈が敵に見えるとするだろ?」

「うん」

「で、俺は敵を攻撃する。だがこれは拡張現実だ、

攻撃するには例えば殴ったりしないといけない」

 

 明日奈はその光景を現実に置き換えて考え、顔を青くした。

 

「あっ……」

「分かったか、その場合俺が思いっきり攻撃したら、明日奈は大怪我を負う事になる」

「だよね……」

 

 だが次の八幡の言葉はもっと深刻だった。

 

「それをプレイヤーがプレイヤーに対して意図的に行ったらどうなる?」

「そ、それは……」

「要するにいずれ発売されるであろうオーグマーには、

そういう危険があるって事を常に考えておかないといけないって事だ。

だからうちは今の所、ARは限定的な物しか考えていない」

「なるほど」

「まあそこらへんは何とかすると思うけどな、さて、ダルが来たみたいだぞ」

 

 八幡は外から近付いてくる人の気配を察知し、そう言った。

そして直ぐに部屋の扉がノックさて、ダルがその巨体を現した。

 

「今日も来てくれたんだ八幡、昨日ぶりだお」

「おう、悪いなダル、今日はちょっと俺の母校に行った後に友達を家まで送ったんだが、

その後急に道が混みだして、家に帰ってたら戦いに間に合わないかもしれなくてな」

「いいっていいって、こっちはまったく問題ないから気にしないで欲しいお、

で、そちらの美人のお姉さんはどちら様?」

 

 そんなダルに、八幡は明日奈を紹介した。

 

「結城明日奈、え~と、まあ何だ、俺の正式な彼女だな」

「初めまして、結城明日奈です。宜しくね、ダル君」

「お」

「お?」

「おおおおお、もしかしてバーサクヒーラー様ですか?」

「あ、はい」

 

 明日奈はその呼び方にもすっかり慣れたのか、大して気にした様子もなく笑顔で答えた。

 

「説明しなくても分かるんだな、さすがはスーパーハカーだな」

「僕は今猛烈に感動しているお……せっかく今三人なんだし、

この場を借りてお礼を言わせてもらうお、銀影に閃光、せっかく二人がここに揃ったんだお」

「俺と明日奈が銀影と閃光なのは、まあSAOの事を調べた奴なら知ってるからいいとして、

お礼って何だ?やっぱりダルの知り合いもSAOをやっていたのか?」

「うん、まあそこまで親しい知り合いって訳じゃないんだけど、

ここはアキバだからね、それなりにそういうプレイヤーは多い訳」

 

 八幡はそう言われ、そのロジックに納得した。

 

「ああ、確かに他よりも確率は高そうだよな。でも気にしないでくれ、

俺と明日奈はあくまで自分達が生き残る為に戦ったんであって、

多くの人を助けられたのはその副産物なんだからな」

 

 そう謙遜する八幡に、ダルはこう言った。

 

「でも逆に言えば、多くの人を助けたのは事実だって事でもあるんだお」

「まあそれはそうなんだけどな」

「なのでやっぱり僕としては、心からの感謝を二人に捧げるお」

「分かった、その感謝、有難く受け取らせてもらうわ、なぁ明日奈」

「うん、ダル君の知り合いを助けられて良かったよ」

「本当にありがとうだお」

 

 その時部屋がノックされ、フェイリスが中に入ってきた為、

三人はそこでその会話をやめる事にした。

 

「お待たせしましたニャ」

「おう、ありがとなフェイリス」

「ありがとう、フェイリスさん」

「で、今日もこれから戦いに出るのニャ?」

「ああ、毎日必ず戦闘に参加しないと失格になっちまうんでな」

「え?」

 

 それを聞いたダルが、おかしな顔をした。

 

「それだと昨日全滅させた以外のチームは全部失格になるんじゃない?」

「ああ、実はそれには抜け穴があるんだよな」

「抜け穴ですと?」

「実は交戦開始から終了までの間に、

どこでもいいから一発でも弾を撃っていれば戦闘に参加した扱いになるんだよな」

「そ、そうなんだ!?」

 

 その八幡の説明には明日奈でさえも驚いたようだ。

 

「ああ、さすがに二日目で全滅とかなったらイベント的にやばいだろ?

だからこの情報は、目立つ掲示板とかには既に告知済だ。実は公式にも書いてある」

「そうだったんだ……」

「なので純粋にやる気を失った奴だけがいなくなっていく事になるはずだ。

まったく何も調べないような奴らの事は知らんがな」

「そっか、それじゃあ今日何組になってるのか楽しみだね」

「まだそこまで減ってないと思うけどな」

 

 そして八幡は、時計を見ながらこう言った。

 

「よし、そろそろ時間か」

「二人とも、頑張ってニャ」

「応援してるお!」

「おう、行ってくるわ」

「二人とも、行ってきます!」

 

 そして二人はGGOにログインし、こちら側の二人の体はソファーで寄り添う形となった。

それを見たフェイリスは、羨ましそうに言った。

 

「いいニャ、本当に信頼し合ってる感じがするニャ」

「まあこの二人は伝説のカップルですし」

「ハチマンとアスナって事は、要するにSAOのハチマンとアスナって事になるんニャよね?

だったら確かに当たり前ニャね」

「この二人ともう一人は僕ら世代の英雄だお!」

「黒の剣士様ニャね」

 

 そして画面の中では、シャナが勢力図を見ながらこう言った。

 

『お、かなり減ってるな、さすがに昨日の戦闘はショックだったみたいだな』

『だね』

 

 その画面表示は、源氏軍が八、平家軍が百二十となっていた。

人数比は、おそらく五十対九百程であろう。そしてシャナはロザリアに連絡をとった。

 

『ロザリア、敵の動きはどうだ?』

 

 その名前を聞いたダルが、フェイリスにこう説明した。

 

「今のロザリアって子が拷問まがいの事をされたせいで、この戦争が起こったらしいお」

「拷問……?女の子ニャよね?」

「うん、正直許せないお」

「それは許すまじニャ……皆殺しニャ!」

 

 そして画面の中ではそのロザリアが、街の様子をシャナに報告していた。

 

『今日は組織的な動きは無いみたい。多分昨日散々やられてまだ作戦が固まっていないのね』

『ふむ、セバスはどう思いますか?』

『敵は一度は必ず出て来ざるを得ない訳ですし、

機動力を生かして街の付近を襲撃するべきだと思いますね』

『良かった、同じ意見でしたね、よし皆、そんな訳で今日は街付近を襲撃だ』

 

 そして昨日と同じように出撃した源氏軍は、街の近くまで侵攻し、

まるでもぐら叩きのように出てくる敵を狩りまくった。

 

「行け行けシャナニャ!」

「ゴーゴーシャナだお!」

「今日も楽勝ニャね!」」

 

 そのフェイリスの言葉が聞こえた訳ではないだろうが、薄塩たらこがシャナに言った。

 

『なぁシャナ、今日はちょっと楽すぎないか?』

『これだけ目立てばさすがにそろそろまとまった数の敵が出てくると思うぞ。

とりあえずそれに備えて味方を集結させておいてくれ』

『ふむ、了解だ』

 

 その言葉通り、シャナの下にロザリアから通信が入った。

 

『シャナ、敵の動きが慌しいわ、多分かなりの数のスコードロンが一気に出てくるわよ』

『車は何台くらい出てきそうだ?』

『今こっそり見てるんだけど、多分十台くらいね』

『残りは徒歩か』

『ええ』

 

 その報告を聞いたシャナは、一旦味方を後方へと下がらせた。

 

『よし、五百メートルほど後退だ』

『了解、で、どうする?』

『俺とシノンで街から出てくる瞬間の敵の先頭車両を狙う。

あそこの出口は意外と狭いからな、タイヤを狙えばそこで後続の車は足止めされるはずだ。

今頃慌てて車を出そうとか狙ってくれと言わんばかりだからな、遠慮なく狙わせてもらう。

とりあえずそこに全軍で突撃してありったけの手榴弾を放り込む。

ここからなら二十秒程であそこまで到達出来るはずだから、まとめてドカンだ』

 

 その説明を聞いた薄塩たらこは思わずシャナに言った。

 

『鬼かよ』

『いや、天狗だ天狗、本拠地が鞍馬山だからな』

 

 その珍しいシャナの冗談に、薄塩たらこはニヤニヤしながらこう答えた。

 

『まあこれだけ押してるんだ、鼻も高くなるわな』

『油断はしないけどな』

 

 そしてシャナとシノンは狙撃体制をとり、敵が出てくるのを待ち構えた。

そして先頭の車が見えた瞬間、二人はその車のタイヤを狙撃した。

 

『よし、全軍突っ込め!』

 

 そして残りの九台のハンヴィーがエンジンを唸らせ、

手榴弾を投げ込む為に全速力で突入した。

その瞬間にブラックの後方から別の車が現れ、それに真っ先にニャンゴローが気付いた。

 

『シャナ、バックミラーに敵影、あれは……平家軍だぞ!』

『お?どうやら敵にも目端のきく奴がいるな』

『あれは携帯式のグレネードランチャーではないか?』

『何っ?……さすがにまともにくらうのはまずいか』

『どうする?』

『単独で迎えうつ、とりあえず全速前進の後、時計回りに移動だ』

『了解』

 

 そしてシャナは、逃げながらもけん制の為にミニガンを乱射し、

シノンは敵を足止めしようとヘカートIIを構え、スコープを覗いた。

 

『あれ、ねぇシャナ、あの車に乗ってるのってどうやらゼクシードみたい』

『ゼクシードだと?まああいつならこれくらいはやりそうだ』

『それなりに認めてるんだね、ゼクシードの事』

『馬鹿だけどな』

『あは』

 

 シノンは笑いつつも、狙いを定めて運転しているプレイヤーを狙撃しようとしたが、

敵もさるもの、車を激しく蛇行させて狙撃されないようにしていた。

だがそのおかげで敵もグレネードを発射出来ないようである。

ちなみに運転しているのは、この日の為に特訓してきたハルカだった。

 

『くそっ、狙いがつけられねえ』

『思い切って直進しますか?』

『いやハルカ、それだと俺かお前がシノンに狙われる可能性がある。

そのうちチャンスがくるかもしれないからとりあえずこのままだ。

頑張って敵の後ろに張り付いてくれ』

『はい!』

 

 その様子を見ていたメイクイーンの二人は、手に汗を握っていた。

 

「ダルにゃん、大丈夫かニャ」

「大丈夫だと信じるしかないお」

「あっ、ダルにゃんあれ!」

「おお?まさか新手か?」

 

 ブラックは現在街に対して平行の進路をとっており、その正面から一台のジープが現れた。

どうやら街の反対側にあるもう一軒のレンタル屋から車を飛ばしてきたようだ。

 

『ちっ、新手か?』

『いや、あの旗は……味方だシャナ!』

『何だと?』

 

 そのジープに乗っていたプレイヤーは、シャナに親指を立ててみせると、

そのままゼクシード達に突進し、横合いに銃撃を浴びせた。

幸いゼクシード達は、それに気付いて直ぐに伏せたので無事であった。

 

『うおっ、今のはやばかった……ハルカ、とりあえず転進して離脱だ、

さすがに二対一だと分が悪い』

『了解!』

『危なかったですねゼクシードさん』

『ああ、まさかあっちにも伏兵がいたとはな』

『こっちもうまく奇襲したんですけどね』

『まあ戦争だから色々あるさ』

 

 一方介入したジープの主は、もちろんコミケ達だった。

 

『くそっ、外した』

『まあ今のは仕方ないですよ、相手が蛇行してた上に、上手く伏せてましたからね』

『どうします?』

『このまま転進してあのハンヴィーと合流だ、おそらくあれがシャナだろう』

『初お目見えっすね!』

『おう、大将に挨拶だな』

 

 そして他のハンヴィーも無事に敵の殲滅を終え、続々とブラックの下へ集結していた。

さすがに徒歩の連中にはどうする事も出来ないようで、

散発的に弾が飛んでくるくらいで、そのうち攻撃がやんだ。

 

『俺はコミケだ、宜しくな、大将』

『シャナです、初めまして。お味方感謝します』

『トミーです』

『ケモナーっす!』

『たった三人だが、今日から源氏軍に合流するので宜しく』

『いえいえ、心強いですよ』

 

 そしてシャナは、全軍に指示を出した。

 

『それじゃあ今日はこれで撤収だ、総員乗車の後に速やかに世界樹要塞へ帰還せよ!』


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