「よっしゃあ、さすがは俺達のシャナ!」
「やったニャ、今日も大勝利ニャ!お祝いに甘い物でも用意しておくかニャ」
「それはいいアイデアだお、フェイリスたん」
そしてフェイリスは部屋を出ていき、色々と準備を始め、
ダルもそれを手伝う為に部屋を出ていった。
そして画面の中では、撤退を指示したシャナに、コミケがこう話し掛けていた。
『なぁ大将、色々話が聞きたいから、俺もそのハンヴィーに乗せてもらってもいいかな?』
『あ、はい、どうぞどうぞ』
『そういう訳だ、ケモナーとトミーは後から付いてきてくれ』
『『了解!』』
その時トミーが一瞬敬礼しかけてやめたのを見たシャナは、そっとコミケに耳打ちした。
『もしかして本職の方ですか?』
コミケは内心ドキッとしながらも、平静を装ってシャナに聞き返した。
『……どうしてそう思うんだ?』
『あ、その答え方はやっぱりそうなんですね。
すみませんちょっと鎌をかけてみました。今トミーさんが敬礼しかけてやめましたよね?
ただの軍事オタクならそのまま敬礼すると思うんで、敬礼し慣れているけど、
しないように言われてる職業の人はどんな人だろうって考えただけなんですけどね。
後は銃の構え方とか細かい動きとか雰囲気ですかね?』
そう説明されたコミケは、口笛を吹いた後にこう言った。
『そこまで見られてたら仕方ないな、さすがは大将って所かな。
でも俺って、よくらしくないって言われるんだけど、それでもそう見えちゃうもの?』
『う~ん、そうは言いますけど、やっぱり物腰が明らかに素人とは違いますからね』
『そっか……実は俺達、任務があってあと三日しかいられないんだけど大丈夫かい?』
『そうなんですか、問題無いです、それだけでも助かります』
『そっか、じゃあそれまで宜しくな!』
『はい』
そしてブラックに乗り込んだ後、コミケはシャナにこう言った。
『あ、俺達の素性は出来れば内緒で……』
『もちろんですよ、先生とシノンも、今の俺達の会話は聞かなかった事にしてくれ』
『訳ありなのだな?了解だ!』
『よく分からないけど問題ないわ』
コミケはそんな二人に感謝し、何となくシャナにこう言った。
『しかしこのゲーム、聞いていたより女性の比率が高いんだね、
さっき源氏軍のメンバーを見て驚いたよ』
『あ……』
『コミケよ、それは誤解というものだぞ!』
『誤解?どういう事です?先生』
コミケは先ほどの短い会話の中で、
ニャンゴロー相手にはどう接すればいいのか何となく理解しており、そう言った。
中々のコミュニティ能力である。だがそんなコミケも、
ニャンゴローの中の人にもし会ったとしたら、そのギャップにひっくり返るのであろう。
そしてニャンゴローはコミケにあっさりとこう言った。
『現在GGOをプレイしている女性プレイヤーのほとんどがこちらの味方なのだ。
相手方で確認されている女性はわずかに二人、不参加組の中にはいても五人くらいだろう』
『え、まじっすか……思いっきり誤解してましたよ……』
そんなコミケに、ニャンゴローは具体的な数字を説明し始めた。
『G女連が十五人、九狼が六人、SHINCが六人、おそらく最後のスコードロンに一人の、
計二十八人の女性がこちらの味方だ』
『それは多いですね……』
『昨日こちらにも戦死者が三人出たから、現在男はダインの所が十一人、
薄塩たらこが九人、闇風が五人、九狼が三人、コミケが三人の計三十一人、
つまり女性比率は約二分の一という事になるな。
ちなみにあちらはおそらく最初は二千人程度はいたはずだから、
千人に一人しか女性プレイヤーがいないという事になるのだ』
『俺、こっちの味方で本当に良かったです……』
コミケは心の底からそう思い、そう言った。
『ところで残り一つのスコードロンの女性、俺達さっきチラリと見たよ』
『白い髪の女性プレイヤーですよね?』
『あ、うん、そうだったかも。俺達が出撃した時に、実は敵も二台同時に出撃したんだよ。
で、殲滅してから合流しようと思ったら、何か不思議な乗り物に乗った女性が、
奇襲をかけて一台を潰し、もう一台を引き受けてくれてね、
手伝おうかと思ったんだけど、身振り手振りで大将の方へ行けって合図してきたから、
急いでこっちに来たって訳なんだよね。
で、姿が見えなくなる間際にバックミラーで見た限りは、
もう一台もキッチリと潰してたみたいだから、まあ安心してくれ』
『そうですか、早く合流してくれるといいんですけどね』
シャナはそう言いながら銃士Xの姿を思い浮かべた。
(街の近くでゲリラ戦をしてくれているのか?
どんなタイミングで合流してくる事やら、まったく楽しみだな)
そして世界樹要塞に着いた一行は、改めて勝利の雄たけびをあげた。
『今日は完勝だったな、皆ありがとな、このまま最後まで勝ち続けるぞ!』
『『『『『『『『『『『『『『『おう!』』』』』』』』』』』』』』』
そう雄たけびを上げた後、コミケ達は興奮ぎみに話していた。
『いや~、こういうのっていいっすね、隊長!』
『だな、暇つぶしのつもりだったけど、何か今凄ぇ楽しいわ!』
『俺もなんだか燃えてきました!』
『いいねいいね、俺達は残り三日だけど、頑張ろうぜ!』
そしてトミーは、周りを見回しながら言った。
『しかし女性が本当に多いですよね、事前の話と違っててびっくりしましたよ』
『あ、それなんだけどな……』
そしてコミケは、両軍の男女比率について二人に説明した。
『そ、それは極端ですね……』
『あ、でもこの戦争の始まりって……』
『まあそれもあるだろうが、やっぱり大将のカリスマだろうな』
『ですね……』
こうしてこの日の戦いも無事に終わり、
平家軍のスコードロン数は、ついに百の大台を割った。
その日の配信も盛り上がったのは言うまでもない。
そして落ち際に、シャナはメイクイーン組に声が聞こえないように、
ニャンゴローを呼びとめてその耳元でそっと囁いた。
『雪乃、報告があるから後で電話するわ』
シャナがあえて雪乃と呼んだ為、プライベートの用事だと理解した雪乃は、
八幡の耳元でこう囁き返した。
『分かったわ、落ちたら直ぐにシャワーを浴びたいから、
三十分以上後にしてもらってもいいかしら』
『了解だ』
そしてシャナとシズカは共にログアウトし、二人はメイクイーンの一室で覚醒した。
その直後にフェイリスとダルが、ケーキと飲み物を持って中に入ってきた。
「タイミングピッタリだったニャ!」
「ちょこちょこ中を覗いてた甲斐があったねフェイリスたん」
「二人とも、これはフェイリスのおごりの勝利のお祝いニャ、
遠慮しないで食べて飲んでニャ」
それを聞いた二人は、フェイリスにお礼を言った。
「ありがとな、フェイリス、ダル」
「ありがとう、ちょうど少しお腹がすいてたんだ」
二人はそのフェイリスの気遣いを有難く受け、一息ついた。
「今日も凄い戦いだったニャ」
「昨日ほどじゃなかったけどな」
「これからも頑張ってニャ」
「おう、絶対勝ってみせるわ」
「頑張るね!」
そして明日奈は、思いついたようにフェイリスに言った。
「あ、そうだフェイリス、私もメイド服を着てみたいんだけど……」
「それは似合いそうニャ!バーサクヒーラー皇女様、
良かったらフェイリスとも一緒に写真を撮って欲しいニャ」
「うん、喜んで!でもその呼び方は長すぎるから、私の事は普通にアスナって呼んでね」
「それじゃあアスにゃんでお願いしますニャ!」
そんなフェイリスに、八幡は冗談めかしてこう言った。
「俺の事は絶対にハチにゃんとか呼ぶなよフェイリス」
「呼ばないニャよ、ちなみにフェイリスが名前を呼び捨てにするのは二人目で、
本名で呼ぶのは八幡だけニャ」
「ん、そうなのか」
そんなフェイリスを観察していた明日奈は、内心でこう思っていた。
(これは恋心というより憧れみたいな感じかな……何か特別みたいな?
でもフェイリスは表情が読みにくいからなぁ、一応警戒はしておかないとだけどね。
フェイリスさんは凄くかわいいし、八幡君もフェイリスさんの事が気に入ってるみたいだし)
そしてフェイリスは明日奈にこう言った。
「さてアスにゃん、早速お着替えの時間ニャ!」
「うん宜しくね、フェイリスさん」
明日奈はバックヤードに案内され、そこでメイド服を生まれて初めて着る事になった。
「うわ、とんでもなく似合うニャ……アスにゃん、うちで働かないかニャ!?」
「嬉しいけどちょっと無理かな、ほら私、色々ゲームとかやってるから……」
「確かにそうニャね、う~ん、残念だニャ……もっと八幡やアスにゃんと一緒にいたいニャ」
そんなフェイリスに、明日奈は何となくこう尋ねた。
「フェイリスは、八幡君の事がそんなに気に入ったの?」
「うん!私が今まで会った中では、一、二を争うくらい謎めいていて興味を引かれるニャね、
あと単純に感謝して憧れてるってのもあるニャ、後は前世の知り合いだからかニャ」
「前世はともかく感謝?」
「あ、もちろんアスにゃんにも感謝してるのニャ。
うちの常連さんも何人かはSAOをプレイしていたからニャ」
「あ、そっか、ここはアキバだもんね」
明日奈は、ダルに言われたのと同じ事をフェイリスにも言われ、
まだまだあの事件の影響が色濃く残っている事を実感した。
もちろん二人の事を恨んだり嫌ったりしている者も、中にはいるのだろうが、
こういった感謝は素直に受けようと明日奈は考えた。
「それにしてもアスにゃんが羨ましいニャ、八幡と一緒にいたら絶対に退屈しなさそうニャ」
「あ、うん、まあそれはね」
「せめてお店に来てくれた時くらいはフェイリスにもお裾分けが欲しいニャね、
という訳で皆で楽しく撮影タイムといこうニャ!」
「うん!」
そして二人は八幡達のいる部屋へ戻り、
明日奈は恥じらいながらも頑張ってこう言った。
「あ……あすニャンニャンです、ご主人様」
そんな明日奈の姿をぼ~っと見ていた八幡は、
無意識に携帯を取り出して明日奈の姿を撮影し、その写真を待ち受けに設定した。
「ふわっ!?」
明日奈はまさかいきなり八幡がそう動くとは思っていなかったのか、
顔を真っ赤にしながら八幡に言った。
「は、八幡君、その待ち受けはさすがに恥ずかしいよ……」
その言葉で我に返った八幡は、自分の携帯の待ち受けを見て驚いた。
「あれ、俺は今、一体何を……」
「やっぱり無意識だったんだ……」
「お、おう、あまりの明日奈のかわいさに、つい意識が銀河系を一周してたわ」
それを聞いた明日奈は、真っ赤な顔を八幡の胸に埋め、
その胸をぽかぽかと叩きながら言った。
「もう!もう!」
「まあいいじゃないか、かわいいのは事実なんだし」
「だって八幡君は、絶対にそれを里香達に見せるでしょう?」
「当たり前だろ、こんなにかわいいんだから」
「もう、もう!」
明日奈は再び八幡をぽかぽかと叩き、
八幡はそれを気にせず明日奈の猫耳風のヘッドドレスをなでていた。
「もふもふの猫耳も捨てがたいが、これはこれで中々……」
「もふもふのもあるニャよ」
「何っ!?何でそれを早く言わない!フェイリス、今すぐそれを明日奈の頭に!」
「がってん承知ニャ!」
「フェイリスまで、もう、もう!」
そしてその後、四人は撮影タイムに入り、明日奈と二人で写真を撮ってもらったダルは、
涙を流しながらこう呟いた。
「今日ほど生きてて良かったと思った日は無いお……」
そして帰りの車の中で、明日奈は先ほど撮った写真をニヤニヤしながら眺めていた。
(恥ずかしがってたけどやっぱり喜んでたのか……)
そして明日奈は八幡に言った。
「八幡君の携帯で撮ったのも見せて」
「おう、ほらこれ」
「ありがとう」
そして写真を眺めながら再びニヤニヤする明日奈の手が、とある写真の所で止まった。
「は、八幡君?この写真は消したはずじゃ……」
「ん?……あっ、やべっ」
「今やべっって言ったよね?確かに言ったよね?どうしてこれがまだ残っているのかな?」
「あれ?何でだろうな、おかしいな」
それは例の、明日奈がよだれをたらしながらだらしない顔で寝ている写真だった。
明日奈はその写真をじっと見ながら言った。
「もう、そんなにこの写真がお気に入りなの?」
「その写真に限らず、明日奈の写真は全てお気に入りだ」
「それはもちろんそうだろうけど……」
「そもそも殺伐とした戦争中に、こういう日常的な写真はとても大事だろ?
こういうのが俺の疲れた心を癒してくれるんだ」
「でも別にこの写真じゃなくても……」
「いやいや、前も言ったが明日奈がこういう無防備な表情を見せるのは、
この世でただ一人俺の前でだけだ。つまり俺はこれを見る度に、
明日奈に愛されていると実感する事が出来る。これ即ち愛だ!」
「あ、愛かな?」
「愛だ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど……」
「愛だ」
「う、うん、まあ確かに愛だよね」
「愛だ」
明日奈は機嫌が良かった事もあり、そのまま八幡に押し切られ、
八幡がその写真を所持している事を認めた。
「仕方ないなぁ、愛なんだから誰にも見せちゃ駄目だよ?」
「おう、任せろ」
こうして八幡は命拾いし、携帯の中のお宝は守られる事となった。