ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第349話 一の砦の戦い・後編

「お、おい、あれ……」

 

 最初にそれを見付けたのは、平家軍の一プレイヤーだった。

 

「何だよ、今はそれどころじゃ無えんだよ!畜生、こいつら一体どこから来やがった!

さっさとこのモブ共を何とかしないとシャナが来ちまう!」

「いや……シャナならもう来てるみたいだぞ……」

「はぁ?お前何言ってんだよ!とにかくモブを撃てって!」

「だってあれ……」

「何だよしつこいな……って、何であんな所に源氏の白旗が……」

 

 そんな下の阿鼻叫喚の様子を眺めつつ、源氏軍の面々は絶対安全圏で談笑していた。

 

「まさに袋のネズミって奴だな」

「北側は逃げようと思えばいつでも逃げられるけど、南はねぇ」

「まあ運が悪かったって事で諦めてもらおうぜ」

「さて、こっちは任せるぞ、シノン、たらこ、それに……トーマ、

デグチャレフのデビュー戦だ。ローザ、重くて歩く速度が遅くなって苦労しただろうが、

北門前までもう少し頑張ってくれ」

「頑張ります!」

 

 そして南門では、シズカが敵の前にその姿を現した。

 

「シ、シズカがいるぞ!」

「まじかよ、本当に源氏軍なのかよ……」

 

 そのシズカはニコリと微笑み、平家軍の者達に優雅に挨拶をした。

 

「皆さんご機嫌よう、そしてさようなら」

 

 そしてシズカは敵を見下ろしたまま、仲間達に向かって叫んだ。

 

「放て!」

 

 その合図と共に、門の上にずらずらと源氏軍の者達が姿を現し、

モブと平家軍の者達に激烈な銃撃を浴びせ始めた。

平家軍の者達は、その場から脱出する事も出来ず、かといって隠れる場所も無く、

ある者はモブに倒され、またある者は源氏軍の銃弾にハチの巣にされた。

 

「くそ……報酬に釣られてホイホイ平家軍に入ったりするんじゃ無かった……」

「平家軍に入っても、何もいい事は無かったわ……」

「むしろ周りの一般プレイヤーから白い目で見られるようになっちまったぞ」

「これでやっと解放されるな、後は精々観客として楽しませてもらおうぜ」

 

 そんな会話をしつつ、完全に諦めた南門勢は、

ほとんど抵抗しないままバタバタと倒されていった。

もちろん抵抗しようとする者もいたが、敵はかなりの高所の門の上である。

狙いをまともにつける事すら出来ないのだ。

こうして南門の平家軍とモブはまとめて殲滅された。

 

 一方北門である。北門には、ギャレットと獅子王リッチーが揃っていた。

これは決して偶然ではない。シャナ達の姿が南門に見えた瞬間、

ギャレットと獅子王リッチーの二人は、

大将は後方に控えるべしと言って北門方面に移動したのだ。

南門に踏みとどまったゼクシードとは大違いである。

 

「くそっ、源氏軍の奴らめ……俺は先に脱出するぜ、お前も出来るだけ急げよ、リッチー」

「くっ……俺は銃が重すぎて早くは走れねえんだよ!」

「そんなの知るか!そんなクソでかい銃なんか使ってるからいけないんだろ!」

 

 そしてギャレットは、源氏の白旗に背を向け一心不乱に走り出した。

次の瞬間にギャレットの背中に黒い大穴が開き、獅子王リッチーは目を丸くした。

 

「お、おいギャレット、何だその背中の穴……」

 

 ギャレットはそれには答えず、振り返って泣きそうな顔で獅子王リッチーの顔を見た。

そして次の瞬間ギャレットは光の粒となって消滅した。

 

「なっ……まさか今のは狙撃なのか……?」

 

 そう呆然とする獅子王リッチーの耳に、平家軍の者達の声が聞こえてきた。

 

「おい、あれは何だ……?」

「対物ライフルか?見た事が無い銃だぞ!」

 

 そして平家軍の中の銃オタクの一人が正解を叫んだ。

 

「デグチャレフだ!対物ライフルなんてもんじゃない、あれは対戦車ライフルだぞ!」

 

 その言葉が平家軍の者達の脳に染み入るまでは若干時間がかかった。

そして少しの間を置いて、平家軍の者達は我先にと逃げだし始めた。

 

「まじかよ、この地形でそんなの相手に出来るかよ!」

「何で源氏軍にばっかり遠距離狙撃の使い手が集まるんだよ……」

「とにかく逃げろ!今は生き延びるんだ!」

 

 結果的にその早逃げのせいで、平家軍は辛うじて軍の体裁を保つ程度の戦力が維持出来た。

シャナ達も選りすぐった狙撃手を中心に編成した為、

ある程度のプレイヤーを倒す事に成功していたが、

一気に大人数が移動しようとした為、その人の群れに紛れ込んだ獅子王リッチーは、

残念ながら仕留める事が叶わなかった。

 

「リッチーは逃がしたか……だがトーマ、よくやったぞ、立派なデビューを飾ったな」

「はい、ありがとうございます!」

「ローザも頑張ったな、えらいぞ」

「シャナさん、ご褒美に頭を撫でて下さい」

「おう、よくやったな」

 

 ローザはちゃっかりシャナに頭を撫でてくれるようにねだり、トーマもそれに便乗した。

 

「で、出来れば私も……」

「別に構わないぞ、えらいぞ二人とも」

 

 シャナが二人を撫でる姿を見て、周りの者達は何とも言えない気分になった。

ローザは肝っ玉母さん風の外見であり、トーマはシャナよりも背が大きい。

二人のリアルを知っているシノンはともかく、他の者達は苦笑する事しか出来なかった。

 

「さて、何組くらい倒したかな」

「北門の方が敵が多かった気がしないか?」

「うん、そんな気がした」

「何でだろうな……」

 

 それは要するにギャレットと獅子王リッチーが北門にいた理由と一緒である。

要するにびびったのであった。だがもちろんそんな事はシャナ達には分からない。

そして源氏軍の者達は誰もいなくなった一の砦の中央で合流し、

シャナはロザリアに連絡をとった。

 

「ロザリア、戦力比はどうなった?」

『源氏軍八、平家軍五十三ね……あっ、今五十二になったわ』

「何だと?」

『どうしたの?』

「いや……」

 

 シャナはきょろきょろと辺りを見回したが、戦闘をしている者はいない。

そして直ぐにコミケ達も合流を果たしたが、戦闘をしたような気配は無かった。

そんなシャナの耳に、再びロザリアのこんな声が聞こえた。

 

『まだ戦闘中なのね、今五十一になったわ』

「いや、戦闘はもう終わってるんだがな……ああ、そうかあいつか」

『どういう事?』

「いや、疑問は解けた、とりあえず世界樹要塞に帰還するわ、

こっちの被害はゼロ、今日も大勝利だ」

『凄いわね、連戦連勝じゃない』

「ちょっと出来すぎな気もするが、まあいい事なんだろうな」

『そこは素直に喜んでおきなさいよ』

「おう」

 

 そしてシャナは通信を切った後、仲間達に向かって言った。

 

「どうやら戦力比は、八対五十一になったらしい」

「くっそ、思ったより伸びなかったか」

「運が悪かったな」

「まあ五十一スコードロンならフルでも四百五十人くらいだろ?

フルメンバーが残ってる所は少ないだろうから、多分敵は三百人前後だと思うぞ」

「あっ、そうか!」

「たったの六倍程度の敵相手で最終日は防衛戦だろ?これは勝ったな」

「まあ油断しないでおきましょうね」

「だな」

 

 砦内に敵の姿が無い事を確認したシャナ達は、世界樹要塞に移動を開始し、

行きと同じようにブラックに乗ったコミケにシャナは言った。

 

「さすがですね、コミケさん」

「いやぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、決意の割りに簡単な仕事だったよ」

「何組かは瓦礫を乗り越えて脱出するかと思ったんですけどね」

「車が一台脱出しただけだったなぁ。

まあ後続に備えないといけなかったから追いかけられなかったけどね」

「まあ問題無いです、明日は穏やかな戦闘になると思うんで、

今日がコミケさん達にとっては山場になりましたね」

「だな、短い間だったけど楽しかったよ、またどこかで会えたらいいな」

 

 そのコミケの言葉に、シャナはニヤリとしながら言った。

 

「もしかしたらコミケで会いそうですけどね」

「おっ、シャナはそういうのいける口か?」

「いや、実は知り合いがそういう活動をしてるんですよね、

まあ正直近寄りたくない類のジャンルなんですが」

「えっ?それってもしかして……」

「サークル名は、腐海のプリンセスらしいです」

 

 その言葉にコミケは固まった。シャナはやっぱりそうだよなと思ったが、

コミケが固まったのは、微妙に違う理由だった。

 

「そ、それ……うちの元嫁が最近加入したサークルの名前……」

「そ、そうなんですか?」

「お、おう、間違えようのない名前だろ?勘違いとかじゃ絶対に無いよ……」

「世界は狭いですね……」

「だな……この出会いは必然だったか……」

 

 そして二人は顔を見合わせながら言った。

 

「それじゃあその時を楽しみにしておきますね」

「合言葉みたいなのを決めておくか?」

「あ、それじゃあ俺は千葉県民御用達のコーヒーを持っていきますね」

「あれか、それじゃあ俺もそうするよ」

「楽しみですね」

「ああ」

 

 そして二人は楽しそうに笑い合った。

そんな二人をニャンゴローとシノンとトミーは呆れた顔で見ていた。

 

「お前ら何て会話をしておるのだ、確かにお前らはリアルでも意気投合しそうではあるが」

「うるさい先生、こうなったら先生も夏に道連れにしてやる」

「や、やめろ!あの人は苦手なのだ!」

「この前変な言葉を覚えさせられたからか」 

「腐ってるって、噂のアレの事よね……」

「シノンも道連れな」

「ちょっと、私だってそういうのにはまったく興味無いわよ!」

「いいじゃない、こうなったらもうノリよノリ」

「隊長、少しは自重して下さい!」

 

 この時の遣り取りのせいもあったのか、

シャナとコミケは半年後の夏のコミケで再会する事となる。

ちなみに他の者も何人か道連れになったのは言うまでもない。

 

 

 

 銃士Xは独自のルートで平家軍の作戦を掴んでおり、

その作戦内容から、必ず敵が逃げ出してくる事を確信していた。

 

「シャナ様の為に、狙うは大将首」

 

 そう呟きつつ、銃士Xは辛抱強く敵を待った。

だが多人数が一気に逃げてきた為、銃士Xは中々敵を攻撃するチャンスを掴めなかった。

そして敵の列も大分減った頃、一人の旗持ちプレイヤーが走ってくるのが見えた。

 

「これはチャンス、敵のスコードロンを一つ減らせる」

 

 そして銃士Xはエアリーボードに乗って突撃し、あっさりとそのプレイヤーを葬った。

 

「まあ残念だけど、今日はこれで我慢……ん、あれは……」

 

 そして銃士Xは、もう一人旗持ちプレイヤーが歩いてくる姿を発見した。

 

「まさか獅子王リッチー?」

 

 獅子王リッチーは、ヴィッカース重機関銃を所持している為に走る速度が遅い。

しかも走り易さを優先した為、今は丸腰だった。今回はそれが彼の致命傷となった。

 

「残り物には福があった」

 

 そう言いながら銃士Xは、銃を構えてエアリーボードを発進させた。

練習の甲斐あって、今では銃士Xはエアリーボードを自由自在に操りながら、

普通に射撃をする事が可能になっていた。

 

「う、あれは……銃士X?あいつ源氏軍だったのか!」

 

 獅子王リッチーは、近付いてくる銃士Xの姿を遠目に発見し、

その頭上の旗を見て、慌ててヴィッカース銃機関銃を出そうとしたが、

銃士Xの速度は獅子王リッチーの想像を超えていた。

 

「なっ、は、早……」

 

 そしてすれ違い様に、獅子王リッチーは見事に心臓を撃ち抜かれた。

 

「く、くそ、何だよその乗り物は……何でお前はシャナの味方を……」

 

 獅子王リッチーは、心臓を押さえながら目の前に戻ってきた銃士Xにそう尋ねた。

 

「これはイコマ様にもらった私の翼、そしてシャナ様は我が神」

「お前もシャナに惚れてやがったか……くそ、ミサキさんといいお前といい、

何であいつなんかに……」

「ミサキ?それがあなたの戦う理由?」

「ああそうだよ、悪いかよ」

「別に好きにすればいい、そして惚れるも何も、私の全ては永遠にシャナ様の物。

後はいつ知り合えるかだけが問題」

「知り合ってもないのにそれかよ、まったく女って奴は……」

 

 そう言って獅子王リッチーは光の粒子となって消えた。

こうしてこの日、平家軍は中心と目されていた残り三人のうち、

二人を失う事となった。残りはゼクシードただ一人である。




夏コミ参加メンバー

コミケ側・伊丹、倉田、梨紗
シャナ側・八幡、明日奈、雪乃、結衣、優美子、詩乃、小猫、クルス、香蓮、美優、姫菜、エルザ
フェイリス側・橋田、岡部、まゆり、紅莉栖

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