ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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後半は少し驚かれるかもしれませんね。

2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第350話 その願いが叶う時

 その日の戦闘の結果は、観客達に衝撃を与えた。

 

「おいおい、平家軍やばくねーか?」

「最初は八対二百以上とかどんな冗談かと思ったけど、

気が付いたら平家軍は壊滅しそうじゃないかよ」

「これってもしかして、最終日を残して平家軍は全滅しちまうんじゃないのか?」

「ペイルライダーに続いて、ギャレットと獅子王リッチーもやられたって言うしな」

「残るはあのゼクシードか……」

「ゼクシードじゃな……」

 

 その会話を聞いていたフードを被った三人組のうち、一人がぼそりとこう呟いた。

 

「だそうですよ、ゼクシードさん」

「勝手な事ばかり言いやがってだな、実際に戦場に出てみろってんだ、

さすがの俺も、シャナがあそこまでやばい奴だなんて想定外だったぞ」

「ことごとく殲滅されてますからね……」

「化け物め」

 

 ゼクシードはそう吐き捨てるように言った。

 

「何がやばいって、あのモブの使い方だ、何で奴はあんなに色々知ってやがるんだ?」

「それは……色々と一人で冒険したんじゃ?」

「ははっ、ユッコは面白い事を言うな」

 

 だがそのユッコの言葉が実は一番正解に近かった。

シャナが戦いだけではなくゲームの全てを楽しもうとしたせいで、今の結果があるのだ。

 

「まあいいさ、今回はその言葉に倣ってみるとするか、

軽く戦って失格になるのを防いだら、明日の舞台である旧首都にでも足を伸ばしてみようぜ」

「いいですね、行った事の無い場所に行くのは楽しみです」

「確かにな、俺も昔はそういうのを楽しみにしてたはずなんだがなぁ……」

 

 ゼクシードは遠い目をしながらそう言った。

 

「そろそろ源氏軍も攻めてくる頃だろ、軽くひと当てしたら移動だ」

「「はい!」」

 

 

 

 一方源氏軍は、同じく敵にひと当てした後、

一度世界樹要塞まで撤退し、明日の準備に追われていた。

 

「罠の数は足りてるか?」

「シャナ、弾薬の補充はオーケーだ」

「明日は最初で最後の防衛戦だ、思いつく準備は全てやるぞ!」

「大体揃ったか?」

「よし、荷物を纏めてハンヴィーに詰め込め!」

 

 そして準備を終えた一行は、旧首都へ向けて移動を開始した。

 

 

 

 一方銃士Xである。

 

「さすがにここまで来たら合流しておくべき、面会に値する成果もあげた」

 

 そう呟きながら銃士Xは、戦いが落ち着いたのを見計らい、

誰もいない街の片隅から世界樹要塞へと移動を開始した。

 

 

 

 ゼクシード達は、島へと続く橋を目の前に立ち往生していた。

 

「つり橋か」

「ゼクシードさん、さすがにこの上を車で通るのは怖いです……」

「だよな、乗ってるだけでも怖いからな。よし、近場で車を隠せる場所を探して、

そこから歩いていってみようぜ」

 

 そして三人は、首尾よく車を隠すのに丁度いい場所を見付け、そこに車を停めると、

旧首都のある島に向けてのんびりと歩き始めた。

 

「おお、かなり揺れるな」

「ちょっと怖いですね」

「ここを軍勢で通過するのは苦労しそうだな」

「橋を落とされたりしませんかね?」

 

 ふとそんな疑問を口にしたハルカに、ゼクシードはこう断言した。

 

「シャナはそんな事しねえよ」

 

 その言葉に二人は意表を突かれた。

 

「ゼクシードさんって、シャナさんの事が嫌いですよね?」

「おう、嫌いだぞ」

「でも今のセリフ……」

「それとプレイヤーとして信用出来るかどうかは別だ。あいつはそんな卑怯な事はしない」

 

 その言葉に二人は顔を見合わせ、含み笑いをした。

ゼクシードは二人のその態度に気付いていたが、それを完全に無視しながら言った。

 

「よし、明日の為に地形を調査しておくか。

ユッコは攻め手のつもりで、ハルカは守り手のつもりで意見してくれ」

「「はい!」」

「ちなみに明日、時間になったら平家軍のプレイヤーは一定範囲から追い出されるから、

早めに来て隠れておくとかそういうのは無理だからな」

 

 それを踏まえて三人は、意見を出し合いつつ色々見て回った。

 

「島に渡る為のルートは三本のつり橋のみか」

「三方向から攻めますか?」

「いや、橋から砦まで距離がそこそこあるから、

纏まって行動して上陸してから散った方が良さそうだ」

「そんなに大きくないけど、防御が固そうな砦ですねぇ」

「ちなみにプラズマグレネードの使用は禁止だから、アレの投げ合いになる事はないからな」

 

 そして三人は砦の内部に入り、中を見て回った。

 

 

 

「頼もう!」

 

 その頃銃士Xは、世界樹要塞の前に到着し、開門を求めていた。

そして中からフローリアが現れ、銃士Xに言った。

 

「その旗は源氏軍の方ですね、初めまして、この要塞を管理しているフローリアと申します」

「私は銃士X、ずっと街の周辺でゲリラ戦を展開していましたが、

しかるべき成果を上げられたので、最終日に備えて合流しようと馳せ参じました」

 

 その言葉を聞いたフローリアは、困った顔で言った。

 

「そうですか……実は皆様は、明日の準備をする為に旧首都に向かわれました」

「なるほど、入れ違いですか」

 

 そして銃士Xは、笑顔でフローリアに言った。

 

「了解、旧首都へと向かいます」

「いずれまたお会いしましょう、道中お気をつけて」

 

 

 

「よし、資材を下ろして明日の準備だ、各自担当のエリアで作業を進めてくれ」

 

 一方シャナ達も旧首都に到着し、

源氏軍の者達はそのまま罠の設置や簡単な改造を開始した。

ちなみに上陸は、一部の者はつり橋を渡ったが、ブラックとホワイトは、

以前イコマが説明したように水陸両用なので、そのまま島に持ち込まれていた。

その様子に気付いた者がいた、ゼクシードである。

 

「何だ?今の車の音は……うわ、二人ともやばいぞ、

いつの間にか源氏軍の奴らが来ちまったみたいだ」

「ど、どうしましょう、脱出しないと……」

「まずいまずい、このままじゃ囲まれちゃう」

「おっ、あそこのつり橋には誰もいないっぽいな」

「何とかあそこまで移動ですね、後は隙を見て駆け抜けるしか」

「もう怖いとか言ってる場合じゃないね」

 

 そして三人は、苦労してそのつり橋の前まで移動した。

特にゼクシードは、旗が見えないように体制を低くしながら移動していたので、

かなり苦労したようだったが、とりあえず移動自体は成功した。

 

「ふう、後は走るだけか」

「あっ、ゼクシードさん、あれ!」

「ん?あれは……シャナか!」

 

 そうユッコが指差す先にはシャナ達九狼の面々がいた。

シャナはあちこちを指差し、仲間達と何事か話し合っていた。

 

「ど、どうします?」

「これは千載一遇のチャンスだな、油断したなシャナ」

 

 ゼクシードはそう呟きながら銃を取り出した。

 

「シャナだけを倒してもこの戦争が終わる訳じゃないが、

源氏軍にとっては大打撃になるのは間違いない。上手くいけば明日も勝てるかもしれん」

「九狼の離脱は痛いでしょうしね」

「ついでにボーナスも戴きだな」

 

 ゼクシードはそう言って銃を慎重に構えた。緊張の為か心臓の鼓動が早くなり、

中々狙いが定まらない。そんなゼクシードの肩に、ユッコとハルカが手を添えた。

 

「ゼクシードさん、もし外しても明日決着を付ければいいだけです、気楽にいきましょう」

「ですです、リラックスですよリラックス」

 

 その言葉でゼクシードは落ち着く事が出来たのか、バレットサークルが小さくなった。

 

「ありがとうな、よし……」

 

 視界の中のシャナが、誰かに向かって手を上げたのを見ながら、

ゼクシードは銃のトリガーを引いた。その弾丸がシャナに向かって一直線に飛んでいく。

 

「もらった!」

 

 だが次の瞬間、弾丸とシャナの間に白い影が割り込み、

ゼクシードの放った弾丸は、シャナではなくその白い影に命中した。

それで九狼の面々はゼクシードに気付いたのか、こちらを指差してきた。

 

「くっそ、外した!邪魔が入った!ユッコ、ハルカ、逃げるぞ!」

「了解!」

「全力でダッシュしましょう!」

 

 

 

 銃士Xは旧首都に到着し、軽々とつり橋を渡っていた。エアリーボード様々である。

そんな銃士Xの姿を見つけたのは、もはや完全に顔馴染みとなった闇風であった。

 

「お、ついに来たのか?」

「肯定、明日が最後」

「だな、でもお前が求めていた劇的な出会いとは程遠いと思うが、それはいいのか?」

「私は昨日獅子王リッチーを仕留めた。

この成果を持って、シャナ様に頭を撫でてもらう事で妥協する」

「おお、やっぱりリッチーを倒したのはお前だったんだな!

待ってくれ、今シャナの所に案内するぜ」

「感謝」

 

 そして一緒に歩きながら、といっても銃士Xはエアリーボードに乗ったままだったが、

二人は会話を交わしていた。

 

「しかしそれに乗るの、上手くなったもんだな」

「肯定、頑張った」

「凄えな、後で俺にも乗らせてくれよ」

「許可。案内に対する報酬と判断」

「おお、サンキューな」

 

 そして遠くにシャナの姿が見え、闇風はシャナに声を掛けた。

 

「シャナ!」

「お?やっと来たか」

 

(やっと?まさか私の存在は、既にシャナ様に知られていた?

イコマ様が私の事を言う訳が無いから、私は既に神の手の平の上にいた?)

 

 銃士Xは逸る心を落ち着けながら、ゆっくりとシャナの方へと向かっていった。

シャナはこちらに手を上げ、二人を迎えようとした。

その銃士Xの視界に、平家軍の旗のような物と、銃を構えるプレイヤーの姿が入った。

どうやら闇風もそれに気付いたようで、闇風はぎょっとした声を上げた。

 

「なっ、シャナ!」

「ん?」

 

 そんな闇風を置き去りにして、銃士Xは全力で加速した。

 

「シャナ様!」

 

 そして銃声が聞こえ、シャナの向こうに飛び出した銃士Xの胸に弾丸が命中した。

 

「なっ……おい!」

 

(良かった、シャナ様を守る事が出来た……)

 

 そして銃士Xは、シャナにニコリと微笑みかけると、

シャナに手を伸ばした体制のまま光の粒子となって消えた。

 

「あそこだ!」

 

 その声で我に返ったシャナは、慌ててそちらの方を見た。

 

「まさか……ゼクシード!てめえ……」

 

 ゼクシードは既に全力で逃げる体制に入っており、ここからだとかなり距離が開いていた。

 

「くそっ、油断した」

 

 そんなシャナに、シノンが声を掛けた。

 

「まさかやられっぱなしにはしないわよね?」

「ああ、当然だ」

 

 そしてシャナはM82を、シノンはヘカートIIを取り出し狙撃体制に入った。

 

「よくもやってくれたなゼクシード、せめてお前の両手ももぎ取らせてもらうぞ」

 

 そして二人はトリガーを引き、M82とヘカートIIから放たれた弾は、

ゼクシードの後ろを走っていたユッコとハルカに吸い込まれた。

 

「あっ!」

「ぐっ……」

「ユ、ユッコ、ハルカ!」

「ゼクシードさん、逃げて下さい!」

「最後まで一緒に戦えなくてごめんなさい、早く行って!」

「わ、分かった」

 

 そしてユッコとハルカも光の粒子となって消え、ゼクシードは何とか離脱に成功し、

双方にとっては痛み分けの結果となった。

 

 

 

「くっそ、何がスピードスターだ、何がGGO最速だ、まったく動けなかった……」

「気にするな闇風、全ては油断した俺のせいだ」

「でもよ……せっかく銃士Xちゃんが来てくれたのに、こんなのってあんまりだろ……」

「何、こうなったらこっちから会いに行くさ」

 

 そう言ってシャナは、シズカを呼んで何事か囁いた。

シズカはその言葉にとても驚いたようだったが、笑顔でシャナにこう言った。

 

「分かった、ちょっと驚いたけど、確かにそうするのがいいね。ここは私達に任せて」

「ああ、頼んだぞ」

 

 その言葉に闇風は、慌ててシャナに声を掛けた。

 

「まさか一人で街まで行くつもりか?袋叩きにあっちまうぞ」

「ああ、分かってるさ、俺はここで一度ログアウトする、すまないが後の準備を頼む」

「え?お、おう、分かった」

 

 闇風は何故そうなるのか分からなかったが、そのシャナの言葉に頷いた。

そしてシャナはログアウトし、その場には九狼の面々と闇風だけが残された。

 

「シズカちゃん、シャナは一体何を?」

「ふふっ、それはね……」

 

 そしてシズカの説明を聞いた闇風は、大きく目を見開いた。

 

「まじかよ……」

「だから心配しないで私達は準備に励みましょう」

「おう!分かった!」

 

 

 

 銃士Xは街のリスタート地点に戻されると、

その場に崩れ落ち、ぽろぽろと涙を流し始めた。

 

「うん、これで良かった、私はよくやった」

 

 だがやはりシャナの傍に居られない事を考えてしまうのだろう、

その晴れやかな気持ちとは裏腹に、銃士Xは涙を抑える事が出来なかった。

 

 そんな銃士Xの隣に、同じく倒されたユッコとハルカが姿を現した。

 

「はぁ、倒されちゃったねハルカ」

「まあ仕方ないっしょ、私達なりによくやったよ」

 

 そんな二人は、すぐ傍で泣いている銃士Xの姿に気が付いた。

 

「あれ、あんたさっきの……」

「ど、どうして泣いてるの?」

 

 そして二人は、理由は分からないが泣いている銃士Xを慰め始めた。

さすがに泣いている女性を放っておく事は出来なかったのだろう。

 

「あんた、あそこでシャナさんの盾になれるなんて凄いよ」

「だから元気出して、きっといい事があるって」

 

 そんな三人のすぐ傍に、一人のプレイヤーが現れた。

そのプレイヤーはきょろきょろと辺りを見回し、直ぐに三人に気が付いた。

 

「あれ……ユッコとハルカ、か?」

「ん?あんた誰?」

「私達とどこかで会った?」

 

 その質問に、そのプレイヤーは肩を竦めながらこう答えた。

 

「まあさっきお前達を狙撃したのは俺だからな」

「はぁ?私達を狙撃したのはシャナさん……え?」

「何でその事を知ってるの?」

「さあ、何でだろうな」

 

 そのプレイヤーはいかにも高レベルという感じで、風格のようなものを漂わせていた。

だがそこそこ経験を積み、名の通ったプレイヤーの事を知るようになった二人は、

このプレイヤーにまったく心当たりが無かった。

 

「あんた…………何者?」

 

 その声を無視し、そのプレイヤーは銃士Xの傍に近寄ると、その頭を撫でた。

銃士Xはビクッとしながら、その手を振り払おうとそのプレイヤーの顔を見て固まった。

顔にはまったく見覚えが無いが、その目には見覚えがあったからだ。

そして銃士Xは、呆然とその名を呟いた。

 

「まさかあなたはハチマン様……?ALOからわざわざコンバートを……!?」

「なっ!?」

「あ、あんたまさか同窓会の……」

「やっぱりお前ら本人だったんだな、まああの時の事はもうお互い水に流そうぜ。

今の俺は、俺の盾になってくれたこいつの為にわざわざコンバートしてきたんだからな」

「そ、そんな……まさかシャナさんがあんただったなんて……」

「あの時は……いや、うん、何でもない」

 

 二人は反射的に文句を言い掛けたが、ハチマンと銃士Xの姿を見て何も言う事をやめた。

その身をもってシャナを庇った銃士Xと、

その気持ちに応えてわざわざコンバートしてきたハチマンの間に、

水を差すような事をしてはいけないと思ったからだった。

そして二人は穏やかな気持ちでハチマンに言った。

 

「確かに敵だったけどさ、その子の事はお願いね」

「あんたの事は嫌いだけど、あんた本当に凄いね」

 

 そう言って二人はその場を去っていった。

ちなみにその後も二人はシャナの事をさん付けで呼び続けた。

二人もどうやら順調に成長しているようだ。

 

「ハチマン様……」

「おう、ありがとうな、銃士X」

「ハチマン様は私の名前を知って……?」

「ああ、別の名前も知ってるぞ、間宮クルス」

「ほ、本名まで!?」

「ちなみにイコマに指示して、エアリーボードをお前に託したのも俺だ」

「そ、そんな……じゃあ私がしてきた事は……」

「ただの遠回りだな、まあ気にするな、お前は見事に俺の心に衝撃を与えたぞ」

 

 そしてハチマンは銃士Xを抱き上げながら、彼女に言った。

 

「お前はそんなに俺の傍にいたいのか?」

「はい!」

「そうか、じゃあこれからはそうしろ、リアルでも忙しくしてやるから覚悟しておけよ」

「はい!喜んで!」

 

 こうして銃士Xは、ついに念願のハチマンの下へとついにたどり着く事となったのだった。




ついに彼女は念願の場所にたどり着きました。
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