ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第351話 それは都市伝説

 ユイとキズメルは、その日二人で昔のハチマンについての思い出話をしていた。

 

「あの頃のパパは……」

「そんな事が……私と会った時のハチマンは……」

「そうなんですね!」

 

 丁度そこにハチマンが駆け込んできた。その顔が最近あまり見る事のない顔だった為、

二人は何事かと思いハチマンに尋ねた。

 

「パパ、何かあったんですか?」

「ハチマン、そんな顔をしてどうしたのだ?」

「二人ともすまん、一人迎えにいってやらないといけない奴がいるんで、

一時的にこのキャラをGGOへコンバートする。

すまないが、しばらく俺の持っているアイテムと金を預かっておいてくれ」

 

 そう言ってハチマンは、ストレージからどんどんアイテムを出し始めた。

 

「パ、パパ、レアアイテムをそんなに無造作に……」

「ははっ、まあいいじゃないかユイ、とりあえず片っ端から確保だ」

「それじゃあ頼むぞ、もし俺の不在に気付く奴がいたら、適当に誤魔化しておいてくれ」

「分かりましたパパ!」

「気を付けてな、ハチマン」

 

 そしてハチマンは消えていき、二人は顔を見合わせた。

 

「今のハチマンの顔を見たか?ユイ」

「はい、昔みたいに誰かの為に必死になっている顔でした!」

「懐かしいな」

「ですね!」

 

 丁度昔のハチマンの事を話していた所だった為、なおさらそう思ったのだろう、

そして二人は、再びハチマンの思い出について話し始めた。

 

 

 

 そしてGGOにコンバートしたハチマンは今、

銃士Xを抱き上げたまま堂々と街中を歩き、鞍馬山へと向かっていた。

当然そんな事をすれば他のプレイヤーから注目を集めてしまうが、

ハチマンはまったくそんな事は気にしなかった。

 

「おうおう、街中で堂々と見せ付けてくれるじゃねえかよ」

「くそっ、こっちはただでさえストレスを溜めているってのによ」

「って銃士Xじゃねえかよ、今まで浮いた噂一つ聞いた事は無かったが、

お前にも男がいたのかよ」

 

 そんなハチマンに絡む三人組がいた。

それは獅子王リッチーとスティンガーとペイルライダーであった。

銃士Xはさすがにこのメンバーはやばいと思い、

心細そうにハチマンの首に回している腕にギュッと力を込めた。

 

「はぁ、羨ましいねぇ、こちとら悲しい独り身だっていうのによ」

「っていうかいつまで見せ付けてやがるんだよ」

「くぅ、俺もミサキさんといつかこんな事を……」

 

 そして揉め事の気配を察したのか、周囲に野次馬がどんどん集まってきた。

 

「おい、あのメンバー……平家軍の落ち武者じゃね?」

「シャナにあっさりとやられちまったくせに、街中だとイキがるねぇ」

「それにしても相手の男が気の毒だな、って、あれってもしかして銃士Xか?」

「まじかよ、誰も寄せ付けなかった白のヴァルキリーにもついに男が!?」

「俺あの子のファンだったのに……」

「畜生、羨ましいぞ!そのままボコられちまえ!」

 

 そんな群集の声を聞いてもハチマンは何の反応も示さなかった。

当然これは、かつて何度も見られたハチマンが怒っている時の反応である。

 

「おい、聞いてやがるのかてめえ!」

「何とか言えってんだよ」

「つ~か銃士Xをさっさと下ろせってんだよ!」

 

 そんなハチマンを見てイラだつ三人に、ハチマンはやっとこう反応した。

 

「邪魔だ、消えろ野良犬共」

「ああん?」

「お前、俺達の事を知らないのか?」

「もう手加減しないからな」

 

 その遣り取りを聞いた瞬間、群集はどよめいた。

 

「うわ、あいつあの三人に喧嘩を売りやがった」

「あれって新人だよな?見た事無えし」

「これは死んだな……」

「いくら街中とはいえ、殴られれば多少の衝撃はくるよな?」

「あ~あ、あいつも新人の洗礼を受ける事になるな」

 

 そんな群集の前で、ハチマンは穏やかな顔で銃士Xに語りかけた。

 

「マックス、怖いか?」

「マックス?」

 

 銃士Xは、それが自分の事を指した呼び方だと気付き、鸚鵡返しでハチマンに聞き返した。

 

「ああ、さすがに毎回銃士Xって呼ぶのは長いからな、俺が名付けた」

 

 その俺が名付けたという言葉に銃士Xは狂喜した。

 

「や、やばい嬉しい……鼻血出そう」

「おいおい落ち着け、まあしかし、それなら良かったわ。で、怖いか?」

 

 そのハチマンの笑顔を見て、銃士Xは先ほどまで感じていた焦燥感が霧散するのを感じた。

 

「ううん、あなたがいれば何も怖くない」

 

 その遣り取りを聞いた三人は激高した。

 

「ふ、ふざけんな!」

「イチャついてんじゃねえよ!」

「一々芝居がかった事を言ってんじゃねえぞクソ新人!」

 

 そんな三人を無視してハチマンは銃士Xに言った。

 

「そうか、じゃあちょっと高い高いするからな」

「え?」

 

 そしてハチマンは、いきなり銃士Xを真上に放り投げた。ちなみにかなりの高さにだ。

 

「ほうら、高い高い」

「きゃ、きゃあ!」

 

 銃士Xがそんな声を出すのはとても珍しい。というか彼女を知る者達にとっては、

まともに喋っている所を見る事すらレアな事であった。

そして次の瞬間、ハチマンは三人に向けて回し蹴りを放ち、

その衝撃で三人は纏めて数メ-トル吹き飛ばされ、地面に蹴り倒された。

 

「ぐあっ!」

「ぎゃっ!」

「うおっ!」

 

 そしてそのありえない光景を見た野次馬達は、一様にフリーズした。

恐るべき事に、今のハチマンの一番高いステータスはAGIなのだ。

それでいてこのありえない蹴りの威力である。

いかにハチマンが規格外なのか、これで推測出来るというものだった。

ちなみにこれは、GGOがまだ新しめのゲームな事にも由来する。

SAOからの積み重ねのあるハチマンと、GGOからスタートのシャナでは、

厳然としてこれくらい差があるのである。

そして落ちてきた銃士Xを、ハチマンは軽々と受け止め、

銃士Xは、受け止めてもらった時にまったく衝撃が無かったので驚いた。

 

「悪いな、びっくりしただろ?」

「う、うん」

「それじゃあ今度はこのままいくか」

 

 そう言ってハチマンは、立ち上がろうとする三人を蹴り集めて重ねると、

その上にドカリと足を乗せた。

 

「うごっ、重い……死ぬ……」

「く、くそっ、早くどけよスティンガー」

「とっくにやってんよ、でもまったく動けないんだよ!」

 

 その光景をぼ~っと眺めていた群集は、ハッと意識を取り戻した。

 

「やべ、あまりの衝撃に意識が飛んでたわ」

「い、今何があった!?」

「銃士Xのスカートの中が見えそうで見えなくて、そしたらあいつらが蹴り飛ばされてた」

「つーか三人がかりでもまったく動かせないって、マジなのか!?」

「あいつらは腐ってもGGOのトッププレイヤーだぞ!?」

「あの新人何者だよ……」

 

 そしてハチマンは、穏やかな顔で三人に言った。

 

「お前らは手加減しないって言ってたみたいだがな、

優しい俺は手加減してやったから、衝撃も大した事は無かっただろ?

で、お前らいつまでそうやって寝てるつもりだ?」

「ふ、ふざけんな!」

「お、お前が足で押さえてるせいだろ!」

「さっさと俺達を解放しやがれ!」

「ああん?どうもこの野良犬共は躾がなってないみたいだな」

 

 ハチマンはそう言うと、三人を踏みつけている足に力を込めた。

 

「ぐあっ!」

「し、死ぬ……本当に死んじゃう……」

「も、もう勘弁してくれ、俺達が悪かった!」

「よし、お前は謝ったから起きてよし」

 

 そしてハチマンは、一番上にいたスティンガーを蹴り飛ばし、残り二人を再び踏みつけた。

 

「で?」

「す、すみませんでした……」

「心から謝罪します……」

「よし、それじゃあお前らも立って良し」

 

 そしてハチマンは、ペイルライダーと獅子王リッチーも蹴り飛ばし、

何事もなかったかのように銃士Xに言った。

 

「さて、掃除もした事だしさっさと行くか」

 

 しかし銃士Xからは返事が無かった為、ハチマンはどうしたんだろうと銃士Xの顔を見た。

銃士Xはどうやらあまりの出来事に脳が処理落ちしたらしく、

かくかくと頷きながらぶつぶつと何か呟いていた。

 

「やばいやばいシャナ様まじやばい、さすがは我が神」

 

 ハチマンはそれを聞き、銃士Xを再起動しようと再び高い高いをした。

 

「ほうら高い高い」

「きゃっ!」

 

 そして再びハチマンの腕に収まった銃士Xは、それで見事に再起動した。

 

「すみません、戻りました」

「おう」

 

 そしてハチマン達は去っていき、周囲の群衆達は今の出来事について話し始めた。

 

「まじかよ……まさかこんな事になるなんてな」

「シャナ達がゼクシード達と揉めた時以来の衝撃だったわ……」

「いやそれ以上だろ、何だよあれ、何だよあれ」

「あの三人、まだ倒れてるぞ」

「落とされてない所を見ると失神はしてないな、多分放心でもしてるんだろうな」

「誰か今のを撮影してた奴、絶対にアップしてくれよな!」

 

 もちろん複数の者が今の出来事を撮影しており、その動画は直ぐにアップされた。

だがハチマンは、当然の事ながらこの時を境にしばらくGGOにコンバートする事は無く、

この謎の強者は、白い髪の美女と共に都市伝説レベルで語り継がれていく事となった。

 

 

 

 ゴン!

 

 突然窓からそんな音が聞こえ、ロザリアは慌てて窓へと駆け寄った。

 

「今の感じだと、誰かが窓に石を投げ付けたに違いないわね、まさか平家軍の嫌がらせ?」

 

そう言ってロザリアは、窓からこっそりと外を眺めた。

普段ならそのまま窓を開け放って怒鳴る所だが、今は戦争中であり、

あまり目立った事は出来ないのであった。

見ると外には二人のプレイヤーが立っており、そのうちの一人にロザリアは見覚えがあった。

 

「あれは銃士X?隣のプレイヤーは見た事が無いわね……」

 

 カーテンの陰からこっそりと覗いているロザリアを見付けたのか、

石を投げたらしいその見知らぬプレイヤーがロザリアに何事か叫んでいるのが見え、

ロザリアはほんの少しだけ窓を開け、何と言っているのか聞こうとした。

 

「おいロザリア、さっさと中に入れろ」

 

 その言葉を聞いたロザリアは、何だこいつと思いながらも、

その無礼なプレイヤーと一緒に銃士Xがいる事がとても気になった。

 

「あの子がシャナ以外の男と一緒に行動するとは思えない」

 

 そう呟いたロザリアの耳に、とんでもな言葉が飛び込んできた。

 

「その通りだ、要するにそういう事だ、いい加減に分かれ」

 

 そのロザリアの唇を読んだとしか思えないセリフに、ロザリアは思わずこう独白した。

 

「今のは読唇術?まさかシャナ?いやいや、あれ?って事はもしかしてハチマン?」

 

 その唇の動きを再び読んだのか、そのプレイヤーは再びロザリアに言った。

 

「おう、俺だ俺、ちょっと事情があってコンバートしたんだよ、

という訳でさっさと中に入れろ、小猫」

 

 その言葉を聞いたロザリアは、これは間違いなくハチマンだと確信した。

まあ小猫と呼んだ時点で当たり前である。

 

「い、今行くわ!」

 

 そしてロザリアは慌ててビルを駆け下り、二人を鞍馬山へと迎え入れた。

 

「おう、出迎えご苦労、明日は最終日だし、もうお前がここにいる意味は無い。

とりあえず事情は説明するから出掛ける準備をしろ、小猫。旧首都まで三人でドライブだ」

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