ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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長くやっているからというだけなんですが、昨日ついに200万UAを突破しました。
こんな思い付きを形にしているだけの作品に付いてきて頂きありがとうございます。
今後とも飽きられないように斜め上や真上や真下に突っ走りますので、
楽しんで頂けたら幸いに思います。皆様本当にありがとうございました。

2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第352話 最終防衛戦前夜のあれこれ

 旧首都へと向かう車の中で、ハチマンはロザリアに事情を説明していた。

 

「……という訳で、俺としてはどうしても迎えにいかないといけないと思ったって訳だ」

「なるほどそういう事、それなら納得ね」

 

 そしてハチマンは、いきなり銃士Xにこう言った。

 

「ところでマックス、俺はお前を俺の秘書にするつもりなんだが、その気はあるか?」

「えっ!?わ、私がソレイユの社長秘書に?いいんですか?」

「やっぱりお前、俺がいずれ社長に就任する事を知った上でソレイユを志望してるんだな。

もちろん構わない、という訳で、お前なりにその為の準備をこれから頑張ってくれよ」

「誠心誠意お仕えします、頑張ります!」

 

 そしてハチマンは、ロザリアの事を銃士Xに紹介した。正式に、そう、正式にである。

 

「マックス、これはロザリア、本名は薔薇小猫だ、いずれお前の上司になる事になるから、

ちゃんと仲良くするんだぞ」

「なっ……何でわざわざフルネームで呼ぶのよ!苗字だけでもいいじゃない!」

「だからお前は同じ事を何度俺に言わせるんだ、俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」

「あっ、小猫ってあだ名とかじゃなくて本名だったんですね……凄くかわいい……」

 

 そう言われたロザリアは、盛大に赤くなりながら銃士Xに言った。

 

「あ、あなたのクルスって名前だって凄くかわいいと思うわよ」

「ありがとうございます、小猫秘書室長」

 

 そして銃士Xは、疑問に思っていた事をハチマンに尋ねた。

 

「でもどうして私の本名を?」

「お前、わざわざ帰還者用学校まで来て、俺の事を観察してただろ。

それで不審人物がいるってこっちの網にお前がかかったから調査したって訳だ」

「あっ、す、すみません……やっぱりそういうのって気持ち悪いですよね……」

 

 銃士Xは他ならぬハチマンにそう言われ、自分の行いを猛烈に反省していた。

そんな銃士Xにハチマンは言った。

 

「いや、まあ少しいきすぎかもしれないが、それよりもよく俺を見付けたなと感心したよ」

「頑張りましたので!」

「そ、そうか……その頑張りを、今後は真っ当な事に生かしてくれよ」

「はい!」

 

 そしてハチマンは、ついでとばかりにこう付け加えた。

 

「そう言えばさっきのマックスって呼び名な、あれはお前の名前のクルスをXに見立てて、

間宮クルスでマックスって意味もあるからな、一応教えとくわ」

 

 その言葉に銃士Xは、頬を紅潮させて喜んだ。

 

「そ、そうだったんですか!これからはリアルでも友達にそう呼ばせます!」

 

 その言葉に危惧を覚えたハチマンは、慌てて銃士Xを止めた。

 

「それはやめておけ、同じ学校の中にもしGGOプレイヤーがいたとして、

俺がお前をそう呼ぶ事から銃士Xを連想する奴が出てくるかもしれん」

「それだけの情報で私に繋がるでしょうか?」

 

 そしてハチマンは、何かいい例は無いかと考え、ニャンゴローの事を思い出した。

ニャンゴローはアルゴの調査によると、銃士Xの同窓生だったはずである。

 

「ああ、学校といえば、ニャンゴローはお前と同じ学校の同じ学年だぞ」

「そうなんですか!?」

「あいつは化け物クラスの優秀な奴だから、

多分それだけの情報からお前にたどり着くと思うぞ。

何せお前はゲームとリアルの顔が酷似しているレアケースだからな……胸以外は」

 

 最後のはもちろん冗談だったが、その言葉を聞いた銃士Xは、

身を乗り出してハチマンに質問した。

 

「ハ、ハチマン様はどんな胸の女性がお好みなんですか?

やっぱり閃光様のようなお胸ですか?」

 

 その言葉にハチマンは思わず急ハンドルを切りそうになった。

そしてハチマンは、あまり触れたくはない話題だなと思いながら銃士Xに言った。

 

「む、胸の事はあまり気にするな、お前はお前らしくあればそれでいい」

「そうですか、良かったです」

「騙されては駄目よマックス、ハチマンは大きな胸の持ち主が大好きなのよ!

そう、例えばこの私のようにね!」

 

 そう胸を張るロザリアを見て、銃士Xはこう質問した。

 

「室長の胸はどのくらいのサイズなのですか?」

「少なくともあなたよりは少し大きいわね」

「なるほど、今後はバストアップ体操が必須ですね」

 

(ほら、胸の話題になると必ずこいつが調子に乗るんだよな……)

 

 ハチマンはドヤ顔のロザリアを横目で見ながら、懇々と銃士Xを諭した。

 

「いいかマックス、世の中には胸の事で悩んでる女性が沢山いるんだ、

だからお前は、胸の事なんか気にせずそのまま自然体のままでいてくれ」

「は、はい、分かりました!」

 

 そしてハチマンは、とある疑問を思い付き、

どうしても我慢出来なくなって銃士Xにこう尋ねた。

 

「なあ、もしも小猫の胸がお前よりも小さかったとしたら、どうしてたんだ?」

「もちろんバストダウン体操をしますね」

「そ、そんなのが存在するのか!?」

「いいえ、存在しません。だから独学で作り出します」

「まじかよ……」

 

 ハチマンは、そういった面での銃士Xの健康管理に危惧を覚え、

仕方なく銃士Xにこう指示を出す事にした。

 

「いいかマックス、俺はお前のリアルな姿を把握している。

その立場から言わせてもらうが、お前の体型は俺の好みにとても合致している。

だから無理に胸を大きくしようとしたり小さくしようとしたり、

過剰なダイエットしたり逆に太ろうとしたりするのは禁止だ。

何よりお前が健康を維持出来る事を最優先に考えるんだ、いいな?」

「分かりました!」

 

(ふう、ここまで言えば、こいつがおかしな事をする心配は無いな。後は……)

 

 そしてハチマンは、ロザリアの頭をぐいっと抱え込んだ。

 

「い、いきなり何をするのよ!」

 

 そう言いながらもロザリアは、ハチマンにある意味抱かれている事に気が付き、

そのセリフとは裏腹にニヤニヤしていたが、

ハチマンはそんなロザリアの頭を叩いてこう言った。

 

「いいか小猫、あいつは多分俺の言葉には絶対服従だ。

なので下手な事を言うと、さっきの胸の話みたいにやりすぎちまって体を壊す可能性がある。

だからお前もその事を踏まえてあいつに余計な事を吹き込むのはやめろ」

「あっ……た、確かにそうかもしれないわね、気を付けるわ」

「おう、何かおかしいなと思ったら、直ぐに原因を調べて修正するんだぞ」

「分かったわ」

 

 こんな冗談のようで冗談ではない会話をしながら、三人はそのまま旧首都へと到着した。

そんな三人を、ロザリアから連絡を受けていた仲間達が出迎えた。

真っ先に出てきたのは闇風と薄塩たらこ、それにギンロウの三人だった。

三人は銃士Xの事が心配で仕方なかったのだろう、

心配そうな顔で銃士Xの下に駆け寄った。

 

「銃士Xちゃん、俺が先に飛び出すべきだったのに、本当にごめんな」

「無問題、結果良好」

「そうか、それなら良かったよ」

 

「シャナの盾になったんだってな、明日は銃士Xちゃんの分まで戦うから、

砦の中の特等席で見ててくれよな」

「見物了承、たらこ、頑張って」

「おう、任せろ!」

 

「銃士X」

「ギンロウ、依頼、シャナ様の守り」

「おう、この命にかえても!」

 

 三人は銃士Xとそんな言葉を交わし、決意を新たにしたようだ。

 

「お前、俺以外の前だと喋り方が極端に変わるのな」

 

 ハチマンは面白そうな表情でそう言い、銃士Xは少し恥らいながらそれに頷いた。

そしてシズカが前に出てきて、ハチマンの耳元にそっと囁いた。

 

「どうやら上手く会えたみたいだね」

「おう、ついでにうちの秘書になるようにオファーも出しておいた。優秀な人材ゲットだな」

「えらいえらい」

 

 そんな仲の良さそうなハチマンとシズカの姿を見て、ピトフーイがこう尋ねてきた。

 

「ねぇシズ、そのちょっとぞくぞくするような素敵なオーラを放つ男性は知り合い?

何ていうかこう、上手く説明出来ないんだけど……シャナに似てるような」

 

(やべ、こいつのありえない勘の鋭さを忘れてた)

 

 そしてハチマンは、その場をさっさと逃げ出す事にした。

 

「ぼ、僕はロザリアさんの知り合いです、ロザリアさんが街を出るのに、

カモフラージュの為に運転手を頼まれまして、こうしてここまで来たんですが、

用事があるので僕はここで落ちておきますね、明日の戦いは頑張って下さい!

車は自動返却モードにしておくので、気にしないで下さい!」

 

 そう早口でまくし立てたハチマンは、銃士Xの耳元でこう囁いた。

 

「適当にシズと口裏を合わせておけよ、明日お前の学校に行くからな」

「えっ……は、はい!」

 

 そしてハチマンは、さっさとその場から逃げ出した。

そんなハチマンを密かに追いかける者がいた、闇風である。

闇風はシズカにこの事を聞いており、ハチマンの正体を知っていた。

 

「シャナ、おいシャナ、いや、今はハチマンか」

「闇風か、さてはシズカに俺の事を聞いたのか?」

「ああ、シャナが落ちた直後に教えてもらったんだ。

あの時は咄嗟に動けなくて本当にすまねえ……」

「何、あれは全て俺のミスだ、逆にこっちこそ心労をかけちまってすまなかった」

「でもよ……」

「でもも何も無い、あの場面だともしお前が飛び込んでいたら、

マックスの代わりにお前が死んでただけだ、だから明日は、銃士Xの分まで頼むぞ」

「お、おう、任せろ!」

 

 そして闇風は、感心した顔でハチマンに言った。

 

「しかしまさか、そのキャラをコンバートさせてくるとはな、銃士Xちゃんは幸せ者だな」

「どうしても自分であいつを迎えにいってやりたかったんでな」

「かーっ、やっぱりシャナは違うよな、同じ立場だったとしても、俺には真似出来ねえわ」

「どうかな、そうなってみたら案外同じ事をしたんじゃないか?」

「どうだろうな……」

 

 そしてハチマンは、とりあえずさっさとキャラを戻す事にした。

この後はイベントが控えているからだ。

 

「それじゃあ俺は、このキャラをALOに戻してからシャナに戻るからな、

お前はシズカに、先にコミケさん達の送別会を始めておくように伝えておいてくれ」

「あいよ!あ、そういや銃士Xちゃん、獅子王リッチーを倒したらしいぞ」

「お、やっぱりあいつだったのか、これは後で褒めてやらないといけないな」

「おう、頼むぜ!」

 

 そして源氏軍の者達は、コミケ達の送別会を行った。

銃士Xやロザリアを呼んだのはその為でもある。

当然明日へ向けての壮行会も兼ねており、この催しの為に、

食材やら何やらがこの砦に大量に運び込まれていたのだった。

そして交代で見張りをしつつ、宴会が始まった。

 

「いやぁ、ほんの少ししか参加してない俺達の為に悪いね」

「いえいえ、短い間ですけど楽しかったです、また機会があったら一緒にプレイしましょう」

「おう、その時は宜しくな」

 

 コミケ達は、この数日の事を思い出して源氏軍に参加して本当に良かったと思った。

そして任務を終えたら必ずまた顔を出そうと心に誓った。

 

「それじゃあそろそろ行くよ、ここでリタイアっと」

「はい、お元気で!」

 

 コミケはコンソールを操作して戦争からリタイアすると、そのまま落ちていった。

トミーとケモナーもログアウトし、源氏軍の者達は、深夜組が交代で見張りを受け持ち、

大部分の者はそのままログアウトしていった。

 

 

 

 その頃街中では、シャナの想像もしない事が起こっていた。

 

「おい、源氏軍のスコードロン数が二つ減ってるぞ」

「何が起こったんだ?」

「そういやゼクシードが、源氏軍の誰かを倒したとか言ってやがったな」

「まじかよ、あのゼクシードがか?」

「これはまだまだ分からないかもしれないな」

 

 実際にはゼクシードが倒したのはたった一人のプレイヤーだったのだが、

観客にはそんな事は分からない。

結果、ゼクシードが単独で二つのスコードロンを葬ったという噂が街を駆け巡る事となった。

 

「これならいけるぞ!」

「俺達だってやれるんだ!必ず勝とうぜ!」

 

 更にその結果、今までやられっぱなしだった平家軍の士気は、

ここにきて最高潮に達する事となった。

 

「ゼクシードさん、何か平家軍が盛り上がってるみたいなんですけど」

「みたいだな……だが真実を告げる訳にもいかないよなぁ……

まあ別に俺は嘘を言った訳じゃないし、あいつらが勝手に勘違いしてるだけだ、

せっかく士気も高まったみたいだし、ここはこのままにしておこうぜ」

「……ですね」

「……はい」

 

 ユッコとハルカは、先ほどのハチマンと銃士Xの姿を思い出し、複雑な気分になったが、

内心はともかくその事には賛成する以外の道は無かった。

こうしてシャナは、予想外に士気の高まった平家軍を相手に、最終日を戦う事となった。




さて、明日の投稿を挟んで明後日はいよいよ戦争も大詰めです!

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