ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ついにこの戦争も終わりとなります。

2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第355話 戦争終結~那須シノイチ

「今日が最終日だが、目的の大半はもう達成済だといえる。

もうおかしな噂はほとんど消え、街では源氏軍を讃える声が大勢を占めている状況だ。

だがここまで来たからには必ず勝つぞ!源氏軍、配置に就け!」

 

 戦いの序盤はひたすら待ちの体制から始まった。

いつ平家軍が来襲するのか誰にも分からない。そしてこの日だけは特別に、

報道旗を掲げたMMOトゥデイのメンバーがあちこちでこの戦いの様子を撮影しており、

その映像は普通に街のモニターで流されていた。

 

「どっちが勝つんだろうな」

「そりゃ源氏軍だろ、地の利もあるしな」

「でも平家軍も昨日一矢報いたじゃないか」

「神のみぞ知るって奴か」

 

 源氏軍はシャナを中央に配置し、その周辺をG女連の選抜メンバーが守っていた。

シノンもそこにおり、他のメンバーは各所に散っていた。

ちなみに銃士Xも、特等席で観戦出来るようにとこの場にいた。

そして今はミサキがシャナの周辺を警護していた。

 

「ミサキさん、その格好は……」

「これが私の戦闘服ですのよ、シャナ様」

 

 シャナが呆れるほどミサキの格好は露出が多く、際どい部分が多かった。

この場にいるシノンと銃士Xも大概だが、ミサキの格好は露出の桁が違う。

シャナはそれ以上何も言えず、無難な言葉を口にするに留まった。

 

「ミサキさん、今のうちに休んでおいて下さいね」

「あらシャナ様、こういう時は女の方が実はタフですのよ」

「ああ、まあそう聞きますね」

「近寄ってくる敵は私が果てさせておきますので、シャナ様はどんと構えてて下さいな」

「は、はい」

 

(この人が言うと別の意味に聞こえるんだよな……

それに何か今日はいつもよりもミサキさんの俺を見る目が熱っぽいような……

まるであの日の理事長みたいに……)

 

 これには実は理由があった。昨日の夜遅く、家に帰った美咲に、

珍しく起きていた娘の杏が話し掛けてきたのだ。

ちなみに杏は美咲がまだ十台の時に産んだ子の為、杏は美咲の事をちゃん付けで呼んでいた。

 

 

 

「美咲ちゃん、今日凄く面白い事があったの」

「そうなの?どんな話?」

「実はクルスが、ソレイユの社長にいきなり路上で面接されてさ」

 

(ソレイユの社長は確か、雪ノ下陽乃さんだったかしら、

型破りって評判だけど、本当にそうなのね)

 

「へぇ、面白い社長さんね」

「うん、でももっと衝撃的だったのはこの人かな」

 

 そう言って杏は一枚の名刺を美咲に見せてきた。

 

「これは?」

「その人、私と同い年の学生らしいんだけど、実はソレイユの次期社長なんだってさ」

「へぇ、そうなのね」

 

(まさか噂ばかりで真実かどうかも分からなかったソレイユの次期社長の話が、

ここで出てくるとはね……比企谷八幡君ね……覚えておきましょう)

 

「あ、美咲ちゃん、その事は誰にも内緒ね、彼に嫌われたくないの」

 

 そう言われた美咲は、即座にその情報を自分の脳内に固く封印する事にした。

昔から美咲は杏に寂しい思いをさせてきた事を自覚しており、

杏との約束は絶対に守る事を心がけていた。

それは美咲にとっては、何よりも優先される重要事項なのであった。

 

「分かったわ、誰にも言わない。で、杏はその彼の事が好きになったの?」

「う~ん、彼ってクルスの思い人だから、好きになっちゃいけない人だと思うの。

でも絶対に嫌われたくないって思う程度には好きだよ、将来性抜群だし格好いいしね」

 

 そう言って杏は、にへらっと笑った。

 

「そういえば私、クルスちゃんの顔って見た事が無いのよね、美少女なんでしょ?」

「うん、クルスは凄くかわいいよ、私もああいう顔と体型に生まれたかったなぁ」

「あなたはまだまだこれからよ、この私の娘なんですからね、

胸もまだまだ大きくなるし、少し年をとってからの方が色気も出てモテると思うわよ」

「確かにこの年でもまだ胸が大きくなってるのは確かだけどさ、

私はクルスみたいに今モテたいの!あ、あと雪乃みたいに!」

「雪乃?誰?」

「今日出来た新しい友達」

「そうそれは良かったわね」

「うん!」

 

 そして杏は今日撮ったらしい一枚の写真を見せてきた。

 

「ほらこれが雪乃、美人でしょ?」

「あら本当、凄い美人さんね」

「しかも雪乃はソレイユの社長の妹なんだよね」

「そうなのね」

 

(という事は、フルネームは雪ノ下雪乃さんって事ね、

まったくあそこの家は朱乃さんといい、どうしてこう美人ばかり産まれるのかしらね)

 

 ちなみに朱乃とは理事長の本名である。

 

「で、これがクルスだよ」

 

 その写真を見た美咲は、心臓が止まりそうになった。

その顔は、どこからどう見ても銃士Xと同じ顔だったからだ。

 

(いや、でもまさかよね、ゲーム内とリアルで顔が同じになるなんて……

GGOのキャラ生成はランダムだし……)

 

 そう考えた美咲に、杏は特大の爆弾を落とした。

 

「前からクルスは絶対にソレイユに入社して社長を支えるって公言してたんだけど、

どうやら何か銃で戦うゲームの中で、運良くその比企谷君と知り合って、

それで今回社長さんを紹介してもらえたんだって。

ずっと男を敬遠してきたクルスがその人にはもう傍から見てても恥ずかしいくらい甘えてて、

見てるこっちが恥ずかしくなっちゃったよ」

「銃で戦うゲーム……?」

「あ、そういえば美咲ちゃんもやってたよね、銃で戦うゲーム。

もしかしてクルスとどこかで会ってたりしてね」

「そ、そうね、もしかしたら会ってるかもしれないわね」

 

(というか銃で戦うゲームなんてGGOしか……

以前からソレイユに入ると公言していて今回たまたまソレイユの次期社長と知り合った?

それは多分順番が逆なのね、銃士Xであるクルスちゃんは、

何らかの手段で好きになったシャナ様がソレイユの次期社長だと知り、

ソレイユへの入社を志望していた、そしてシャナ様に気に入られて、

今回ソレイユ入りを果たした、うん、この方が辻褄が合うわ、これで全て繋がったわね、

つまりこの比企谷八幡という方が、シャナ様の正体なのね)

 

 そして美咲は、ノートPCを開いてGGO関連の動画を検索し、

ハチマンが銃士Xを守って三人を叩きのめす動画がアップされているのを発見した。

 

「これはあの時、銃士Xちゃんを連れてきた人……」

「ん、美咲ちゃん、銃士Xって誰?」

「あ、えっと、この人なんけど、クルスちゃんに似ていると思わない?」

 

 そしてひょいっとモニターを覗き込んだ杏は、銃士Xの顔を見て驚愕した。

 

「本当だ!これもしかしてクルスなのかな、このゲームって現実の顔と同じになるの?」

「ううん、完全にランダムよ」

「そっかぁ、じゃあ偶然かな、でも凄いなぁ、この人どこからどう見てもクルスじゃない」

「まあそういう事もあるのかもしれないわね」

 

(あの銃士Xちゃんが懐くなんて、シャナ様以外にはありえない、

という事はやはりあれもシャナ様……

ふふ、謎が多い男性ってどうしてこうも素敵に見えるのかしらね。

それにしてもこっちのシャナ様……凄い強さだわ、常識ではありえない。

もしかしてコンバート……?これは益々シャナ様に興味が沸いてきたわね……

自分の息子くらいの年の男にこんなに興奮させられるなんて、背徳的でいいわぁ……

銃士Xちゃんや杏には悪いけど何とか会えないかしら、そしてあわよくば既成事実を……)

 

 そう考えた美咲は、極度の興奮の為ぶるっと体を震わせた。

それをみた杏はニヤニヤしながら美咲に言った。

 

「美咲ちゃん、最近誰か気になる男でもいるの?何か女の顔になってるよ」

「もう、杏ったら大人をからかわないの」

「再婚するなら早く再婚しちゃってね、私は美咲ちゃんを応援してるからね」

「本当にもう、杏ったら……」

 

 

 

 といった事があり、現在に至っていると、まあそういう事なのである。

ミサキは一晩考えた末に、地道にシャナからの信頼を得ようと、

こうしてシャナの護衛に付いているという訳なのであった。

もちろん身を投げ出してシャナを庇うチャンスがあれば、絶対に逃さないつもりだった。

このくらいのしたたかさが無いと、銀座で大物相手のスナックの経営等は出来ないのである。

 

「シャナ様、ついに平家軍が姿を現しましたわ」

「やっと来ましたか」

 

 見ると地平線の彼方に、十台ほどのバスの姿が見えた。

今日はバスで移動しても危険は無いので、まるで修学旅行のように隊列を組んでいる。

そしてバスが吊り橋の前に停車すると、島からシャナの声が聞こえてきた。

 

「ゼクシード、いるか?そこにマイクがあるだろ、それを使って喋れるぞ」

「……いるぞ、何か話でもあるのか?」

「とりあえず吊り橋を渡って十メートル先に線を引いておいた。

吊り橋を渡ってる最中はこちらも何もしない、そちらの誰かがその線を越えたら開戦だ、

プラズマグレネードはこの戦いでは公式ルール通り禁止、それでいいな?ゼクシード」

「相変わらず甘いなシャナ、だがこちらも異論は無い、了解だ」

「それじゃあまた後でな」

「おう、また後でな」

 

 その会話が終わると同時に平家軍は続々と橋を渡り始めた。その数は三百人。

開戦当初から見ると、その兵力は実に七分の一まで減少していた。

 

「平家軍の奴ら、誰も後ろに回り込む気配が無いな」

「まさか全員で正面突破を?」

「それでもこっちは背後を無防備にする訳にはいかないからな、

正面の奴らには苦労を掛けるが、頑張ってもらうしかないか」

「背後はトラップも多めに仕掛けてありますし、多少の人員は回すべきですね」

「ですね、ミサキさん、各チームから人員を選抜して正面に回すように伝えて下さい」

「分かりましたわ」

 

 そして街では、当然ほとんどのプレイヤーがモニターにかじりついていた。

 

「おい聞いたか?いきなりガチンコらしいぞ」

「いいねいいね、ゲームの戦争はこうじゃなくちゃな」

「しばらくすれば変わった動きもあるだろうが、とりあえずは様子見だな」

「スタッフさん、いい絵をお願いします!」

「出来れば銃士Xちゃんのスカートの中をズームで!」

「お前は何を言ってるんだよ、ついでにミサキさんのスカートの中も是非!!」

「やっほー、シノンちゃんの生足だぜ!」

「はぁ、これだから平家軍の落ち武者共は……」

 

 そしてゼクシードは、シャナ陣営の動きが慌しくなったのを見て即座に突撃指示を出した。

 

「予想通り、敵はまだ体制が整っていないぞ、罠を排除しつつ突撃!」

 

 そして平家軍のプレイヤーは正面から攻撃を開始した。

最初の門に、平家軍から多数の手榴弾が投擲される。

同時に左右では、源氏軍の仕掛けたトラップが発動し、いくつもの爆発が起こっていた。

 

「ちっ、源氏軍の奴ら、いくつトラップを仕掛けてやがるんだ」

「次から次へと……ぐわっ」

「門内からの銃撃にも注意しろよ!」

 

 そしてシャナは、その様子を見ながらある事に気付いていた。

 

「おいシノン、旗持ちプレイヤーの姿がどこかに見えるか?」

「いないわね、まさか隠してる?」

「かもな、ゼクシードも色々考えてやがる」

「どうする?」

「バスの方を見てみてくれ、いるとしたら多分そっちだろ」

「分かったわ」

 

 そしてシノンは、スコープの倍率を最大にしてそちらを見た。

 

「いたわ、バスの陰に旗持ちプレイヤーが多数!」

「やはり多少戦力が減っても、旗持ちプレイヤーをピンポイントで狙われて、

一気に多数の戦力が減少するよりはいいって考えだな」

「狙撃にもギリギリの距離ね」

「おそらくカタログスペックの値を基準にして、安全な距離を算出したんだろうが……」

「そうじゃないとあんなギリギリの距離にはしないわよね、もっと遠くに逃がしておくはず」

 

 その会話の意味は、ミサキ達には分からなかった。

その意味は直後に判明する事となる。

そしてシャナは何か思いついたようにシノンにこう言った。

 

「そういえば源平合戦だと、那須与一が遠くの船の旗を射抜いてたよな、

まあ史実かどうか分からないが」

「……つまり?」

「二人で同時に撃てば、まあ二人は倒せるだろ、那須シノイチ」

「はいはい、私達の銃はイコマ君に射程を延ばしてもらってるから、

確かにあそこならギリギリ届くわね」

 

 その会話で、やっと意味が分かったミサキが二人にこう言った。

 

「カタログ通りに逃がしたのにギリギリって意味が分からなかったのですが、

そういう事だったんですね」

「うん、あそこは今の私達にとっては安全圏じゃないのよ、ミサキさん」

「なるほど」

「それじゃあ久々にやるか」

「ええ」

「なるべく大手のスコードロンのリーダーを狙うぞ」

「了解」

 

 そして二人はM82とヘカートIIを構え、その様子が街のモニターに映し出された。

 

「おいおい、射程を強化してあるらしいけど本当に届くのか?」

「余裕で有効射程距離を超えてるな」

「いくらあの二人でもなぁ……」

「当たるに決まってるだろ、シャナとシノンだぞ!」

「よし、賭けようぜ!」

「乗った!」

 

 こうして街中ではあちこちで賭けをする様子が見られた。

そしてシャナは、銃士Xにカウントを頼んだ。

 

「オーケーよ」

「こっちもオーケーだ、マックス、カウントファイブから」

「了解、ファイブ、フォー、スリー、トゥー、ワン、ファイア」

 

 そのロケットの発射時のような銃士Xの流暢な発音のカウントと共に、

二人の銃が大きな射撃音を上げた。

次の瞬間に遥か彼方のバスの横で二人のプレイヤーが光となって消え、

その場にいた者達はあわててバスを発車させ、もっと遠くへと移動を開始した。

それを見た観客達は驚愕し、熱狂した。

 

「凄え!当てやがった!」

「銃士Xちゃん、綺麗な発音だったなぁ……」

「はい賭け金徴収~!」

「くっそ、あいつら本物の化け物だな!」

「まああの二人なら当然だろ!」

 

 そして仕事を果たしたシャナとシノンは、特に熱狂するでもなく淡々と立ち上がった。

 

「残りは逃げたか」

「まあこうなるわよね」

「だが今ので二つのスコードロンのメンバーが全員リタイヤだ、十分だろ、那須シノイチ」

 

 再びそう呼ばれたシノンは慌ててシャナに抗議した。

 

「ちょっと、その呼び方が定着したらどうするのよ!

もしそうなったら責任とってもらいますからね!」

 

 そのシノンの言葉に、シャナはとても嫌そうに言った。

 

「え、やだよ、お前の言う責任って微妙にエロいし」

 

 シノンはその言葉に絶句した後、顔を真っ赤にしながら言った。

 

「なっ……ななな何言ってるのよ、そんな事無いわよ!謝罪と賠償を要求するわ!」

「え、やだよ、お前の謝罪と賠償は絶妙にエロいし」

「ちょっと、中継されてるのに変な事言わないでよね!」

 

 その二人の遣り取りを見て、観客達は様々な反応を見せた。

 

「あのクールなシノンがこうなるなんて、やっぱりシャナは凄え……」

「くそ、リア充爆発しろ!」

「リアルじゃないゲームだ」

「ゲム充爆発しろ!」

「くっそ、何て羨ましい……俺も女の子といつかあんな遣り取りがしてえ……」

「諦めろ、G女連もあそこにいるからな」

「シノンちゃんの狙撃体勢って何かエロいよな……」

「そこ、銃士Xちゃんをもっと下からのアングルで!」

「ミサキさんをもっと映せ!」

「黙れ変態ども!」

 

 そしてシャナは、スコープを覗き込みながらゼクシードの姿を探した。

 

「おいシノン、冗談はそれくらいにして、ゼクシードを探すのを手伝ってくれ」

「どっちが冗談を言ってるのよ!もう、もう!」

「いいからさっさと探せ」

「分かったわよ、後で覚えてなさいよ!」

 

 その言葉で我に返ったのか、他の者達も慌ててゼクシードを探し始めた。

これは仕方ないだろう、それだけ二人の狙撃は注目を集める物だったのだ。

そしてその場にいる者達は、口々に言った。

 

「どこにもいません、ゼクシードをロスト!」

「こっちにもいないわ、これはまずったわね」

「上手い事やりやがったなあいつ、

さてはユッコとハルカにでも街のモニターを見させてやがるな」

 

 そのシャナの言葉は正しかった。街にいるユッコとハルカは、

ゼクシードに二人が狙撃をする事を伝えており、

ゼクシードは自分が移動する事への隠れ蓑として、

その事を旗持ちプレイヤー達にわざと伝えなかったのだった。

 

「卑怯な……」

 

 思わずそう言ったミサキに、シャナはこう言った。

 

「いや、卑怯なんかじゃないさ、これも情報戦の一環って奴だな、

俺はむしろこの状況でも情報収集を怠らないあいつを評価するぞ」

「なるほど、そんなシャナ様も素敵ですわ」

「え、あ、はい」

 

 こうして戦いは、次の局面へと移行する。




明日は久々に衝撃的な話になるのだろうと思います。
そしてGGO編のラストパートに向けての大事な話となります。
第356話「戦争終結~闇風とシュピーゲル」お楽しみに!
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