ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第358話 二人のアルバイト

 その日、闇風と薄塩たらこはソレイユ前で待ち合わせをしていた。

ロザリアに場所をそう指定されたからだ。

そして今、ソレイユ前には二人が少し離れた状態で別々に立っている。

それも当然だろう、二人はお互いの顔も名前も連絡先も知らないのだ。

二人はもしかしたらと思いつつも、お互い声を掛けられずに悶々としていた。

そして闇風が先に軽いジャブを放った。

 

「ロザリアちゃんはどこかな~……」

 

 それを聞いた薄塩たらこはビクッとし、誰に言うでもなくこう呟いた。

 

「シャナの紹介で来てみたけど……」

 

 そして二人は顔を見合わせ、どちらからともなくこう言った。

 

「闇風か?」

「たらこ?」

 

 そして二人は頷き合い、ほっとしたような顔でお互い歩み寄った。

 

「おお、まじで良かったわ、

俺一人の時にロザリアちゃんが来たらどうしようってちょっと不安だったんだよな」

「お、分かる分かる、いかにもキャリアウーマンっぽい人が来たら、

何も話せなくなりそうでちょっと怖いよな」

「だよな!俺だけじゃ無かったか、やっぱりそうだよな!」

 

 そして二人はお互い自己紹介をした。

 

「俺は闇風こと山田風太だ、宜しく!」

「薄塩たらここと長崎大善だ、こちらこそ宜しくな、ヤミヤミ」

「お前はピトフーイかっつ~の!」

「あはははは、あいつは本当におかしな奴だよな」

 

 二人はゲーム内でもよく一緒に行動していた為、

最初から十年来の知り合いのように打ち解けた様子で話す事が出来た。

 

「しかしロザリアちゃん、薔薇ちゃんって言うらしいけど、どんな人なんだろうな」

「きっと知的な感じのキャリアウーマンに違いないだろ!」

「薔薇ちゃんってお淑やかで可憐だけど芯は強いってイメージだよな」

「おう、絶対にあんな感じの派手で胸の大きい美人さんな訳が無いよな」

 

 丁度ソレイユ本社からそんな感じの女性が男性連れで出てきた為、

二人はそう言って笑い合った。そしてそろそろ待ち合わせの時間なので、

二人はソレイユ本社に背を向け、道の方をきょろきょろと見回し始めた。

ちなみにどこでバイトをするか、どんな仕事をするかは二人はまったく聞いていなかった。

シャナとロザリアを信頼し、その事にはまったく興味を持っていなかったのだ。

時給だけが二人にとって大事な要素であり、他の事はまったく大事では無かったようだ。

そして二人の背後で、こんな男性の声が聞こえた。

 

「お、多分あれですね、ロザリア様」

「……様、様ね……」

「ロザリア様?」

「……ねぇ、違和感が半端ないんだけど」

「何を仰っているのか僕には分かりかねます」

「…………僕とか…………」

「ささ、もう時間ですよ、早く声を掛けましょう」

「……そうね」

 

 直後にその男女は風太と大善の後ろで止まり、女性が二人に声を掛けてきた。

 

「失礼、そちらのお二人は闇風さんとたらこさん?」

「えっ?」

「ま、まさか……」

 

 そして二人は声を合わせて言った。

 

「「薔薇ちゃん!?」」

「ええ、私が薔薇よ。こちらは私の部下の……え~っと田中一郎君よ」

「田中です、宜しくお願いしますね」

 

 そのスーツ姿の青年は爽やかな笑顔でそう言った。

二人はその青年を見ていかにもモテそうな野郎だなと思い、内心で歯噛みした。

 

「あ、私の事はロザリアでいいわよ、そっちの方が慣れてるでしょう?

さて、それじゃあ行きましょうか」

「は、はい、今日は宜しくお願いします」

「宜しくお願いします!」

 

 そう少し固い調子で答えた二人に、薔薇は気さくな感じで言った。

 

「そんなに固くならないで、いつも通りでいいわよ」

「そうか?まあ努力はするけど……」

「ロザリアちゃんみたいな美人の前でいつも通りなんて俺達にはハードルが高いんだけど、

まあでも何とか頑張って普通に喋ってみるよ」

「えっ?」

 

 その言葉に薔薇はきょとんとした顔をした。

 

「美人?私が?ああ、そんな事を言ってもらったのは久しぶりだわ……」

「え、そうなのか?」

「さすがのシャナだって、リアルでロザリアちゃんを見たらそう言うんじゃないの?」

「いや、あの人は別に……私程度はシャナの周りにはごろごろしてるし……」

 

 そう言って薔薇は、恨めしそうな目で何故か田中の方をじっと見つめた。

 

「えっ、まじか……」

「さすがはシャナというべきか……」

「さあロザリア様、時間が押してるので急がないと」

 

 その時田中が少し慌てた様子で薔薇に言った為、薔薇はハッとした顔で二人に言った。

 

「そ、そうだったわね、さあ行きましょう」

「了解!」

「さあバイトだバイト!」

 

 そして薔薇はくるりときびすを返し、ソレイユの本社ビルの方へと向かった。

それを見た二人は顔を見合わせた。

 

「あ、あれ、ロザリアちゃんそっちなの?」

「あ!そういえばさっきロザリアちゃんと田中さん、ソレイユから出てきたよな?」

「ええそうよ、私はソレイユの社員だもの」

「えっ?」

「まじかよ……時給が高い訳だわ……」

 

 二人は納得したような顔をし、薔薇と田中の後に続いた。

そして入り口ホールに入った瞬間、二人の目に若い美人の女性の姿が映った。

それは四月になり、晴れてソレイユで働き始めたかおりだった。

かおりは四人に気付くと薔薇に向かって頭を下げ、次に田中に声を掛けてきた。

 

「……えっと、確か田中さん、ちょっといい?」

「あ、はい」

 

 そして田中はかおりに近付いた後にこう言った。

 

「おい、確かとか付けんな」

「ごめんごめん、ソレイユ各フロアの植木の管理と納入の件、千佳がオーケーだって。

むしろ大きな仕事を回してもらって凄い感謝してたよ」

「お、そうか、それじゃあ後は関連部署に連絡しておいてくれ」

「うん分かった、後、千佳が今度また一緒に遊びに行こうって」

「そうか、それじゃあ今度また四人で飯でも食いに行くとするか」

「うん、楽しみにしとくね」

 

 その会話を聞きながら、風太と大善はヒソヒソと小声で会話をしていた。

 

「おい見たかたらこ、あれがモテる男のスキルだぞ」

「今サラッと飯に誘ったよな、相手も喜んでオーケーしてたし」

「むしろその前に、相手から誘われてたような……」

「あの子絶対田中さんの事が好きだよな……」

「さすがはソレイユの社員だな、俺には逆立ちしても真似出来ねえ……」

 

 そして田中が頭を下げながらこちらに戻ってきた。

 

「すみません、お待たせしました」

「それじゃ行きましょうか」

 

 そして二人はエレベーターで上の階へと案内された。

エレベーターを出ると、そこにはVRマシンが並んでおり、

さすがはソレイユだと二人は感心した。

 

「おお、凄えな!」

「こういうのわくわくするよな!」

 

 丁度その時、前から一人の女性がこちらに歩いてきた。

その女性もとても美人であり、二人はこの会社には美人しかいないのかと驚いた。

その女性を見た薔薇はこう言った。

 

「あ、社長」

「えっ!?」

「し、社長?」

 

 二人はその薔薇の言葉を聞いて慌てて頭を下げた。

田中も同じように頭を下げ、その女性はこちらに近付いてきて薔薇に声を掛けた。

 

「あら薔薇ちゃん、そちらが新しいバイト君?」

「はい、山田さんと長崎さんです。二人とも、こちらはうちの社長の雪ノ下陽乃さんよ」

「山田です、宜しくお願いします」

「長崎です、宜しくお願いします」

「そう、頑張ってね二人とも」

「「はい!」」

 

 陽乃はとても魅力的な笑顔でそう言い、二人は陽乃の胸の大きさも相まって、

これは頑張らねばと改めて思った。

そして陽乃は先ほどの受付嬢と同じように田中に声を掛けた。

 

「田中君、だっけ、後で社長室に来て私の肩と腰を胸をもんでくれない?

どうも疲れがたまってるみたいでね」

「……社長、お戯れが過ぎますよ、僕には荷が重過ぎます」

 

 それを聞いた陽乃は堪えきれずにプッと噴き出しながら薔薇に言った。

 

「僕!?僕だってよ薔薇」

「……田中君の一人称はいつも僕ですよね?」

 

 薔薇が何故か焦ったようにそうフォローをし、陽乃も慌ててそれに頷いた。

 

「あ、そうだったわね、うんうん」

 

 ちなみにこの時、田中が陽乃と薔薇の足を連続して踏んでいた事に、

風太と大善は気が付かなかった。

 

「それじゃあ私は行くわね、二人とも頑張って」

「「はい、頑張ります!」」

 

 そして陽乃は去っていき、二人はそのまま開発室へと案内された。

 

「それじゃあちょっと待っててね」

 

 そう言って薔薇は一度外へと出ていった。残された二人は、何となく田中に話し掛けた。

 

「田中さんって社長にまでモテるんですね」

「あ、いや、あの人はいつもああなんで……」

「美人ばっかりの職場だし、羨ましいっす!」

「確かにここは美人が多いですね」

 

 そう言って田中は少し離れた所にある何かの機械の方を見た。

そこから丁度大人しそうな少女が出てきてじっとこちらを見つめた。

それは闇風と薄塩たらこが来ると聞いて野次馬根性を出し、

家にいたままでも構わないのにわざわざソレイユまでバイトに訪れた詩乃だった。

ちなみに風太と大善も次回からは自宅でバイトが可能になる予定なので、

この日を逃すと二人の姿を見れる機会はほぼ皆無と言えよう。

そして詩乃は、面白そうな顔をして三人の方に近付いてきた。

 

「田中さん、そちらの二人が?」

「ええ、そうですよ」

「そう、闇風さんとたらこさんね」

 

 その言葉に二人はギョッとした。

 

「えっと、誰?」

「当ててみたら?」

 

 そう定番の質問を投げかけられた二人は、この少女が誰なのか必死に考え始めた。

 

「えっと……常識がありそうだしピトじゃないよな……」

「あら、ピトにチクっておこうかしら」

「じ、冗談だって、ニャ、ニャンゴロー……さん?」

「さすがのあの喋り方は私には無理ね、残念、外れよ」

 

 その喋り方という言葉を聞いて、風太はハッとした。

 

「この喋り方には聞き覚えが……このガサツな感じ、まさかな……

でも見た目とイメージが一致しないが……」

「ちょっと、誰がガサツだって言うのよ、殴るわよ」

「うわ、まさかのシノンか!」

「え、まじかよ、でもそう言われると、その暴力的なイメージは確かに……」

「誰が暴力的なのよ!」

 

 そう言って詩乃は田中を小突いた。

 

「何で僕に……」

「ぷっ、僕、僕だって……」

 

 詩乃は何故かその田中の言葉に噴き出した後、

田中にじろっと睨まれて慌てて笑うのをやめ、二人に向かって改めて挨拶をした。

 

「別に本名じゃなくていいわよね、私はシノン、宜しくね二人とも」

「おう、俺が闇風だ、宜しくな、先輩」

「俺がたらこな」

「まあ会うのは今日が最初で最後になりそうだけど、教えられる事は教えるから」

「済まないな……って最後?」

「ああ、聞いてないんだ」

 

 詩乃はそう言いながらチラッと田中の方を見た。そして田中が二人に説明を始めた。

 

「実はこのバイトは、アミュスフィアがあれば自宅で出来るんですよ」

「ああ!」

「なるほど!いいバイトを紹介してもらって、シャナには本当に頭が上がらないぜ……

もう本当に足をなめてもいいな!」

「だな!」

 

 その言葉に何故か田中が何かに耐えるような表情をしたが、

二人はそれには気付かなかった。

 

「お待たせ、それじゃあ二人には、この二台のアミュスフィアを使ってもらおうかしら」

 

 その時丁度薔薇が戻ってきてそう言った。

見るとその機械の中には、寝心地の良さそうなベッドとアミュスフィアが設置されていた。

 

「よし、頑張ろうぜたらこ」

「おう」

 

 こうして二人の初めてのソレイユでのバイトが始まった。




ここに来て田中という新キャラが!?
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