ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第361話 二人のおうち

「さて、あいつらの様子でも見にいくか、約束したしな」

 

 戦争が終わって数日後、八幡は普段使っているナーヴギアではなくアミュスフィアを被り、

とあるVRのサーバーへとログインした。

そこには一軒の家が建っているだけであり、とても何かのゲームだとは思えなかったが、

八幡は何も気にする様子も無く、その家のチャイムを鳴らした。

 

「しかしこのチャイム、俺以外に使う奴なんていないんだよな……

アルゴも芸が細かい事をしやがる」

 

 八幡はそう呟きながら、家の住人が出てくるのを待った。

そして数秒後、家のドアがバタンと開き、中から二人の少女が姿を現した。

 

「八幡、久しぶり」

「わ~い八幡だ!」

 

 それはずっとこの環境で過ごしているアイとユウだった。

二人はとても嬉しそうに八幡を家に招き入れ、応接間に案内した。

 

「どうやら綺麗に使ってるみたいだな」

「まあ掃除とかもする必要は無いし、後は片付けをどうするかだけだしね」

「まあとにかくえらいぞ、アイ、ユウ」

 

 八幡はそう言いながら二人の頭を撫でた。

二人はやはり人恋しさもあるのだろう、とても嬉しそうに八幡に甘えていた。

 

「あ、ボクお茶を入れてくるね!」

「お、そんな事も出来るようになったのか、それじゃあ頼むわユウ」

「うん、任せて!」

 

 そして台所に向かうユウを見ながら、八幡はアイに話し掛けた。

 

「で、どうだ?ここの環境は」

「慣れてしまえばストレスもまったく無いわね、普通に生活しているのと何ら変わらないわ。

そうだ、面白い事があってね、食べ過ぎると普通お腹が痛くなったりするじゃない、

でもそういうのがここには無いから、

この前ユウが限界までケーキを食べてみるとか言い出してね」

「あいつらしいな」

 

 そう言って八幡は苦笑した。何をしても所詮データなのだからお金もかからない、

うるさくしても迷惑がる他人もいない、なので存分に楽しんでくれればいいと思いながらも、

八幡は気になっていた事を尋ねた。ここに来る予定の他の仲間達の姿はまだ無い。

全員分のメディキュボイドが完成してから一気に移動する予定だからだ。

 

「なあアイ、二人だけで寂しくないか?」

「寂しいわよ?だからもっと遊びに来てね。

何ならハーレム気分で泊まっていってくれてもいいのよ?」

「ただ泊まるだけなら別に構わないが、寝る前と起きた後にトイレに行かせてくれよな」

 

 そう言われたアイは、ため息をつきながら言った。

 

「もう、色気も何もあったものじゃないわね」

「お前は何を期待しているんだ……」

「ナニを期待しているのよ」

「おっさんかよ!」

 

 八幡は思わずそう突っ込んだ。

 

「言っておくけど、私達はもう十七になるのよ?

好きな人といちゃいちゃしたいと思うのも当然でしょ?」

「いや、まあそれはそうだが……」

「それにこの世界は、SAOに即したVR環境で構築されているわ、この意味が分かる?」

 

 その言葉に八幡はハッとした。

 

「……まさか」

「そう、そういう事が出来てしまうのよ。

だから八幡がこの世界で私達を美味しく頂いてしまっても、何の問題も無いのよ。

実際の体には何の影響も無いのだから」

「いや、まあそれはそうだが……やっぱりそういうのは良くないだろ」

 

 アイはその言葉に肩を竦めた。

 

「まああなたならそう言うと思ったわ。今のはほんの冗談。

ちなみに私達は、あなた以外の男にこの世界でこの体に触れさせるつもりは無いから、

その点は心配しなくてもいいわよ」

「へいへい、俺の心まで心配してくれてありがとさん」

「でもこれだけは覚えておいてね、もし私達が絶対に助からない状況になったら、

その時はこの世界で私達を抱いて頂戴。私達だって男を知らないまま死ぬのは嫌なの」

 

 その言葉に八幡は、こう返す事しか出来なかった。

 

「…………そんな事にならないように最大限努力はする」

「もう、分かってるわよ、でも約束はして欲しいわ、これはある意味私達の遺言なのだから」

「……分かった、約束する」

 

 その八幡の言葉に満足したのか、アイは態度を変え、にこやかな笑顔になった。

 

「さて、そろそろユウが戻ってくる頃かしらね、

ここだとお湯が沸くのも現実と同じ時間がかかるのよね、

それはそれで楽しいのだけれど、ショートカット機能を付けて欲しいわ」

「ははっ、そう伝えておくよ」

「まあ私からも言うけれど、一応お願いね」

 

 そう言いながらアイは、八幡の頬にキスをした。

 

「おい」

「ちょっとくらい前渡ししてもらってもいいじゃない、

また次に八幡が来てくれるまで寂しくないようにね」

「はぁ、お前は相変わらずだよな」

「そんな変わらない君が好き?」

「いい言い方に改変すんな、そもそも最初から別に嫌いじゃねえよ」

「まったく八幡はいつも素直じゃないわね」

「お前といると、どうしてもそっちのペースに乗せられちまうんだよな……はぁ」

 

 丁度その時ユウが戻ってきた。ユウはトレイに何か飲み物らしき物を乗せ、

それを両手で持ってえっちらおっちらと慎重にこちらに歩いてきた。

 

「おう、ありがとな、ユウ」

「どう致しまして!でもこれ、運ぶ時にどうしてもこぼれそうになるんだよね」

「それなら片手で持てばいい、ほら、よくウェイトレスとかがよくやってるだろ?」

「あ、確かに!」

「まあ暇な時にでも練習してみろ、覚えられる事は覚えておいて損は無いしな」

「うん、やってみる!」

 

 そして三人は、ユウの入れたお茶で一息ついた。

 

「おう、美味いぞユウ、腕を上げたな」

「っていうか、材料は無限にあるからさ、その気になればずっと練習出来るんだよね」

「まあそうだが、これは確かにお前の努力の結晶だ、えらいぞユウ」

「うん!」

 

 そしてユウは、もじもじしながら八幡に言った。

 

「そ、それじゃあ八幡、ご褒美にお姫様抱っこってのをして欲しいんだけど」

「おう、別に構わないが、急にどうしたんだ?」

「実はこの前、八幡が出てるっていう動画を見たんだけど、

そこで八幡が他の女の人にやってあげてたからさ」

「……どの動画だ?」

「今映すね、ちょっと待ってて」

 

 そして映し出されたのは、例のハチマンをGGOにコンバートさせた時の動画だった。

確かにその中では、ハチマンが銃士Xをお姫様抱っこしていた。

 

「これがよく俺だって分かったな」

「うん、教えてもらったの!」

「誰にだ?」

「この人、クルスさん」

「え、まじで?」

 

 ユウが指差したのは銃士Xだった為、八幡は本気で驚いた。

しかも銃士Xの事を本名で呼んでいるという事は……

 

「おいアイ、もしかしてここからソレイユに直で連絡出来たり連絡を受けたり出来るのか?」

「うん、出来るわよ、実際に目の前にいるような感じでね」

「……どういう事だ?」

「ちょっと待ってね……あ、今は大丈夫な時間みたい、ちょっと繋いでみるね」

 

 そしてアイが何か操作をすると、しばらくしてからそのコンソールのライトが点灯した。

 

「オーケーだって、それじゃあ繋ぐね」

「お、おう、頼むわ」

 

 八幡はよく分からなかったので、とりあえずアイにそう頼んだ。

そして部屋のソファーに、アルゴと薔薇とクルスの姿がいきなり投影された。

その姿は微妙に透明であり、実際にここにログインしている訳ではない事が分かった。

 

「おお?まじで?」

「お?その声はハー坊か、今日はそっちに行ってたんだナ」

「あら?八幡がいるのね」

「八幡様!」

 

 三人はそれで八幡に気付いたらしく、そう声を掛けてきた。

どうやらこちらの様子が鮮明に見えている訳では無いらしい。

 

「おい、これってどういう技術だ?」

「こっちからはそっちのシルエットしか見えてないんだが、

双方向でお互いの影を映してる感じだゾ」

「ほほう」

「そっちはVR内だから、相手が誰か判別出来るくらいには見えているんだロ?」

「おう、確かにな」

「こっちはそこまで資金を掛けられないから、簡単なシステムにしてあるんだぞ。

そちらの人物の影のみを投影してるんだが、まあそっちの人間が、

こっちの人間と実際に一緒におしゃべりしてる気分になれればいいかなってナ」

「そうか……二人の為にありがとな、アルゴ」

「どう致しましてだゾ」

 

 そしてアルゴは、八幡にこんな要求をしてきた。

 

「という訳で、とてもえらいオレっちに飴を寄越せ。具体的にはお姫様抱っこでいいゾ」

「え、何?お前らの間で今お姫様抱っこが流行ったりしてんの?」

「おう、クルクルのせいでな」

「クルクルってクルスの事だよな?ああ、そういう事か……」

 

 八幡はその説明で納得した。多分クルスが、内輪の間で例の動画を拡散しているのだろう。

 

「他人にオレの正体がバレないように気を付けるんだぞ、クルス」

「はい八幡様、もちろんです!」

「まあそれならいい。で、アルゴ、それじゃあ今度そっちに行った時にな。

お前なら小猫よりも軽いはずだから、問題無いだろ」

「オーケーだ、期待してるゾ」

 

 そして薔薇が、当然今の八幡の言葉に抗議してきた。

 

「なっ、ななな何をいきなり言い出すのよ!私はそんなに重くないわよ!」

「アルゴよりもか?」

「それは……重いけど」

「なら合ってるだろ」

 

 これは分が悪いと思ったのか、薔薇は話題を変えてきた。

 

「そ、そもそも私への飴はどうしたのよ!」

「そっちに関しては現在検討中だ、気長に待て」

「そ、それならいいけど……」

 

(まあもちろん何も考えてなかったけどな)

 

 八幡はそう心の中で舌を出し、とりあえずこの場を凌いだ。

 

「さて、システムの公開はこれくらいでいいかしらね、

ユウも私もこれから八幡にお姫様抱っこをしてもらわないといけないし」

「お前、さりげなく自分を数に入れやがったな……」

「何の事?よく分からないわ、とりあえずアルゴさん、また連絡しますね」

「おう、待ってるぞアイちゃン」

 

 そしてソレイユとの通信は切れ、約束通り八幡は二人をお姫様抱っこした。

 

「アイ、どう?今ボクはお姫様?」

「ふふっ、そうね、とってもお姫様してるわよ」

「やった!八幡、大好き!」

「喜んでもらえたようで何よりだよ」

 

「ユウ、どうかしら、今の私もお姫様みたいに見える?」

「うん見える見える、いいなぁ、ボクもそういうドレスを作っとけば良かったよ」

「ふふっ、頑張ってデザインするのね」

 

 一体どこで手に入れたのか、アイは今ドレスを着ていた。

 

「お前それ、どうしたんだ?」

「自分の着る服をデザイン出来る機能があるの。この時の為に事前に用意しておいたのよ」

「お前は相変わらず抜け目ないよな……ユウにも教えてやれば良かったのに」

「あら、何でも教えていてはユウが成長出来ないじゃない、

私は自分で気付かせるという教育方針でやっているのよ」

「まあそれもそうか、それじゃあユウ、次着た時の為に張り切ってデザインしてみろよ」

「うん、頑張るね!」

 

 そして再びソファーに腰掛けた八幡に、アイが言った。

 

「八幡、今日は時間は大丈夫?」

「おう、何時まででもいいぞ、寝ている俺にエロい事をしてこないと約束するなら、

本当に泊まってやってもいいくらいだな」

「本当に?それじゃあ一緒に行って欲しい所があるのだけれど」

「ん、どこにだ?」

 

 アイはその質問には答えず、逆に八幡にこう尋ねてきた。

 

「その前に、そのアバターはどのくらいの強さがあるの?」

「これはALOのハチマンのコピーらしいから、まあかなり強いかな」

「それなら大丈夫ね、こっちよ」

「お、おう」

 

 そして外に案内された八幡は、見慣れぬ小屋が建っているのを見付けた。

 

「あれか?」

「ええ、今開けるわね」

「おう」

 

 そしてアイが扉を開けると、そこにはどこかで見たような景色が広がっていた。

 

「こ、これはまさか、アインクラッドか?」

 

 八幡の目の前には、忘れようもないアインクラッド第一層の、

始まりの街の光景が広がっていた。こうして三人の冒険が始まる。


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