ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第362話 アイとユウ、その実力

「おい、これは本物か?」

「ある意味本物だし、ある意味偽物ね」

「どういう事だ?」

「要するに、これはアインクラッドのマイナーチェンジバージョンなの。

街の機能も限定されているし、NPCもほとんどいないわ。外の敵は基本一緒だけど、

クエストの数もかなり絞られていて、今はこの層しか存在しないの」

「今は?」

 

 その言葉が引っかかった八幡は、アイにそう尋ねた。

 

「ええ、サーバーの関係で、二層ずつしかダウンロード出来ないようになってるの。

始まりの街だけはうちからの入り口があって固定だから、

もし三層を入れてもらったら二層には戻れない、

正確には入れなおしてもらわないと戻れない、なので極力下に戻らなくていいように、

アルゴさんが構成をいじってくれているみたい」

「そうか……そんな簡単な作業じゃないだろうに、アルゴ様々だな」

「うん、本当に感謝してる」

「そうだな、それじゃあ今度お前らの代わりに、

俺があいつを思いっきりお姫様抱っこしておいてやるよ」

「うん、お願いね」

 

 そして三人は始まりの街に降り立った。

 

「さて、これからどうするんだ?」

「街を案内して欲しいの」

「…………俺がSAOサバイバーだって誰かに聞いたのか?」

「うん、アルゴさんにね」

「そうか……で、それだけでいいのか?」

「ううん、今日はボスまで行きたいんだけど、とりあえずって感じね」

「そうか」

 

 そして三人は、一緒に街を歩き始めた。

 

「ねぇ、これって何の施設だったの?」

 

 そこには何の働きもしなくなったらしい剣士の碑があった。

名前も元のまま生命の碑となっていた。

 

「生命の碑か……」

 

 八幡は生命の碑を感慨深げに眺めながらそう呟いた。

 

「うん」

「これにはな、元々SAOに囚われたプレイヤー全員の名前が書いてあったんだ。

そしてそのプレイヤーが死ぬと、その名前に線が引かれる、ここはそういう場所だ」

「それじゃあこれは、要するにお墓……?」

「ああ、そんな感じだな」

 

 それを聞いたアイとユウは、目と目を合わせると、その碑に向かって手を合わせた。

八幡もそれを見て、碑に手を合わせた。

 

「よし、次に行くか」

「うん」

「だね!」

 

 そして次に三人が向かったのは黒鉄宮だった。

 

「ここは?」

「ここは黒鉄宮といってな、監獄と迷宮があった。監獄は、ハラスメントや重罪……

まあ人殺しだな、そういったプレイヤーを閉じ込めておく場所だ。

あの薔薇も、ゲーム終了時はここにいたんだぞ」

 

 その言葉に二人は本気で驚いた。

今の薔薇は、二人の主観だととても穏やかで優しい人だからだ。

 

「えっ、そうだったんだ?」

「おう、俺の仲間があいつをここに叩き込んだんだ。

で、俺はこの中に入って、更にあいつを叩きのめして知ってる情報を全部吐かせた」

「うわ……」

「でも今は一緒にいるんだね」

「おう、あいつは俺が拾ったからな、今じゃ俺の所有物みたいなもんだな」

 

 そんなハチマンをユウがからかった。

 

「八幡ってば、屈折してるう」

「そうかもな、まああいつの面倒は最後まで見るつもりだ」

「なるほど、私達みたいなものなのね」

「え?……あれ?そうなるのか?」

「ふふっ、責任重大ね」

「だな……」

 

 そして八幡は、次に迷宮の事を説明した。

 

「多分ここには存在しないと思うが、この迷宮はな、

プレイヤーが上の階へと進む度に広くなってたんだ。

なので気が付いたらかなり巨大な迷宮になってやがってな、

クリア直前に一度だけ奥まで行ったんだが、危うく死ぬ所だったわ」

「えっ、そんなに大変な所だったんだ」

「おう、その時の到達階層は七十五層でな、

その時出てきた敵は九十層クラスの敵だったんだよな」

「うわぁ、危なかったねぇ」

「おう、本当にやばかったな」

 

 そして三人は、再び移動を開始した。

 

「あっ、あれって教会?」

「SAOに教会って、何の為に存在するのかしらね……」

「さあな、まあ実際は、孤児院みたいに運営されてたな。

SAOは一応年齢制限があったんだが、そんなのは関係なく子供も何人かいてな、

そういった子供がここには集められてたんだわ。

その時その子供達の面倒を見てくれてた人が、今うちの母校で先生をやってるよ」

「そうなんだ!」

「優しい人なのね」

「だな、尊敬出来る人だと思う」

 

 そして八幡は、とある宿の前で足を止めた。

 

「どうしたの?」

「おう、ここな……」

 

 そして八幡はそのドアを開けた。どうやら宿としての機能は失われているようだが、

ベッド等の設備はあの頃のままになっていた。

 

「ここは?」

「ここは元々宿屋でな、このフロアで唯一風呂がある宿だったんだよ。牛乳も飲み放題でな」

「ああ、お風呂は大事ですものね」

「だね!」

「まあそれだけだ、街の内部はこのくらいか、それじゃあ外に出てみるか?」

 

 八幡の提案を受け、二人は頷いた。

 

「で、今の二人のレベルはどのくらいなんだ?」

「えっと、レベル二十くらいかな」

「うん、そのくらい」

「おう、俺がここをクリアした時はレベル十五くらいだったんだがな、

お前らよくそこまで上げたな」

「奥に強めの敵が出てくるダンジョンがあってさ、そこで上げたんだよね」

「ほうほう、そんな場所があったのか、それは俺も知らなかったな」

 

 そして八幡は、色々と気になる事を一つずつ確認していった。

 

「ソードスキルは……使えるな」

「えっ、何その動き、凄い」

「まあこれはもっと上の層で覚えるような技だからな」

「そうなんだ!」

 

 そして八幡は、二人にこう尋ねた。

 

「で、お前らの武器は何なんだ?」

「ボクはこれ」

「片手直剣か」

「私はこれよ」

「刀か、なるほどな」

 

 そして最後に八幡は、二人にこう尋ねた。

 

「で、二人とも、スイッチって知ってるか?」

「スイッチ?何それ?」

「スイッチ……これ?」

 

 そう言ってアイが指差したのは、自分の胸の先だった。

 

「お前の冗談は本当におやじっぽいよな……」

「あらやだ、試しに押してみてもいいのよ?」

「遠慮するよ、スイッチってのはな……」

 

 そして八幡は、スイッチの概念を二人に説明した。

 

「ああなるほど、回復の為のインターバルの事なのね」

「まあそういう事だ。これをスムーズに行えるかどうかが戦いでは大事になる」

「まあその辺りは大丈夫だと思うわ、だって私達、双子ですもの」

「うんうん、アイが何を考えてるか何となく分かるもんね」

「あら、じゃあ今私が何を考えているのか分かる?」

「うん!八幡は本当に私のスイッチを押してくれないのかしらねって考えてる!」

「正解よ」

「お前らそのネタをいつまでも引っ張るなよ……」

 

 そして八幡が実際にやらせてみた所、

二人は何の苦も無くスムーズにスイッチを行っていた為、

これなら大丈夫だと思った八幡は、そのまま一層のボスを目指す事にした。

 

「その前にとりあえずフィールドボスか、どうする?二人だけでやってみるか?」

「うん!」

「まあそのレベルだとかなり手ごわいと思うが、

いざとなったら俺が介入するから安心して挑戦してみろ」

「分かった!」

「その前にお前らのその武器をちょっと見せてくれ。俺も見た事が無い奴らしいんでな」

「そうなんだ!はい、それじゃあこれ」

「私もこれ」

 

 そして八幡は、慣れた手付きでコンソールを操作し、武器の性能を表示した。

 

「おっ、何だこれ、強化したアニールブレードよりも強いじゃないかよ」

「あ、そうなんだ!これもそのダンジョンで見付けたんだよね」

「この刀もか、これなら多分いけるな」

「本当に?良かった……」

「頑張った甲斐があったね、アイ」

「ええ、本当にね」

 

 そして二人は八幡が見守る中、フィールドボスへと挑んだ。

 

「おいおいまじかよ、ユウのあの動きはあの頃のキリトクラスだな、

そしてアイの足捌きは、熟練の技を感じさせる……どういう事だ?」

 

 そしてフィールドボスが二人に倒された後、八幡は勝利に喜ぶ二人の下へと向かった。

 

「やったよ八幡!」

「さあ、褒めていいのよ?」

「おう、凄いな二人とも、随分腕を上げたんだな」

 

 八幡は素直に二人を褒め、二人は得意げに胸を張った。

 

「えっへん!」

「ふふっ」

 

 八幡はそんな二人の頭を優しく撫でた。そして八幡にアイがこう言った。

 

「まあ種を明かせば、オートトレースシステムのせいね」

「オート……何だそれ?」

「うちの自宅にあるのよ、他の人の動きを強制的にトレースして、体に覚え込ませるの」

「ああ、そういう事か……まさにVRの真骨頂だな」

 

 八幡は、楓の手術の時の知盛の事を思い出しながらそう言った。

 

「そんな訳で、私達は基本だけはしっかりと体に叩き込んであるのよね」

「えへっ、まあそんな感じかな」

「そうか、それはとても大事な事だな」

 

(やれやれ、俺も将来はこいつらに負けるかもしれないな)

 

 そして三人は、そのまま第一層の迷宮区へと向かった。

 

「おお、最短ルートを体が覚えてるな……」

「ボスに向かってまっしぐら~!」

 

 そしてアイが、歩きながら八幡にこう尋ねてきた。

 

「そういえばここのボスは何なの?」

「確か、雑魚が沢山出現するコボルドだ、名前は忘れたな」

「へぇ~」

「まあ二人はボスの動きに注視していればいい、怪しい兆候を絶対に見逃すな」

「それはフリね?」

「さてどうだろうな」

 

 そんな三人の前に、ついにボスがその姿を現した。

 

「イルファング・ザ・コボルドロード?」

「そうそう、それだそれ」

「それじゃあ早速いきますか!」

「雑魚は俺が殲滅しておくから頑張れよ」

「うん!」

 

 そして二人はボスに戦いを挑んだ。またたく間にボスのHPが削り取られていく。

 

「おいおいまじかよ、レベルがあの頃より五つ高いと、こんなにも違うものなのか……」

 

 そう言いながら八幡は、忙しく取り巻きを葬り去っていった。

当然一撃なので、楽といえば楽なのであったが、削りが早いのでとにかく忙しい。

そしてついにその時が訪れた。ボスのHPがレッドゾーンに達し、その武器が変化した。

 

「ユウ、一旦下がって、ボスの武器が変わったわ」

「だね、了解了解」

 

 そしてアイは、一人でボスと対峙した。

 

「さて、どうするつもりなんだかな」

 

 ボスが刀を振り上げモーションを起こした瞬間、

アイはその胴を横なぎにし、後方へと走り抜けた。

 

「おお、速いな」

 

 ボスは攻撃対象が正面からいなくなった為、

モーションをキャンセルしてアイのいる方を向いた。

こう書くとボスのモーションを起こすスピードが遅いように感じてしまうかもしれないが、

実際はタイミングを完璧に予想していないと出来ない程、そのモーションのスピードは速い。

 

「まさかこのまま削りきっちまうのか?いや、ユウが行くな」

 

 そして八幡の言う通り、ユウがこちらに背中を向けたボスの背後から、

素早く単発のソードスキルを放つ。そしてユウは直ぐに離脱し、

二人は絶妙のタイミングで交互にボスに攻撃をする事により、ボスを完全に翻弄していた。

 

「これはまったく問題無いな、取り巻きも全滅したようだし後はのんびり観戦だな」

 

 そして八幡が見守る中、二人はそのままボスを削りきった。

 

「よっしゃあ!」

「楽勝ね」

「よしよし良くやったな。今のはアイが止めか?コート・オブ・ミッドナイトが出たよな?」

「えっと……あら本当」

 

 そしてアイは、そのコ-トを身に付けた。

 

「どう?似合う?」

「あれ、俺の知ってる見た目と違うな、これが男女差って奴か」

「あら、そうなの?」

「だが中々似合ってるな、いいんじゃないか?」

「ふむ……試しにユウも着てみて」

 

 そして今度はユウがそのコートを身に付けた。

 

「う~ん、何かしっくりこない……」

「それじゃあそのコートはアイが着た方がいいかもな」

「そう、それじゃあ遠慮なく」

 

 そして三人は二層への門をアクティベートし、そのまま街へと戻った。

 

「あ~、楽しかったね!」

「ええ、本当にね」

 

 そして家に戻った後、八幡はそのまま泊まる事にし、三人はそのまま川の字になって寝た。

そして次の日の帰り際に八幡はユウに言った。

 

「ユウ、今度は左手でも剣を操れるように練習しておけよ」

「左手、左手ね、うん、分かった!」

 

 ユウは何の疑問も持たずにその八幡の指示に頷いた。

 

「アイはすり足と、最低限右手一本で短時間でもいいから刀を扱えるようにしておいてくれ」

「なるほど、分かったわ」

 

 アイも何の疑問も持たずにその八幡の指示に頷いた。

そして二人は別れを惜しむように左右から八幡に抱き付き、

八幡はそんな二人の背中をぽんぽんと叩いた。

 

「それじゃあまた来るわ、それまで二人とも頑張れよ!」

「うん、またね八幡!」

「また来てね、八幡!」

 

 こうして八幡は二人の家を後にし、ログアウトしていったのだった。

後日八幡がアルゴをお姫様抱っこして、ソレイユ中の話題を掻っ攫ったのは言うまでもない

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