ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第036話 血盟騎士団

「ハチマン君じゃないか」

「シヴァタさん、お久しぶりです」

 

 その日ハチマンに声をかけてきたのは、ドラゴンナイツのシヴァタだった。

ハチマンの持つシヴァタの印象は、穏やかな良識派、といった感じで、

悪い印象はまったく無かった。

 

「ドラゴンナイツの増強、どうなってますか?」

「正直思わしくないね……」

「そうですか」

 

 重苦しい雰囲気を嫌ったのか、シヴァタが話題を変えた。

 

「そういえば解放隊、今度名前を変えるらしいよ」

「このタイミングで名称変更ですか?」

「どうやら、下層で活動しているギルドと合併して、キバオウ君はリーダーを降りるらしい」

「次のリーダーは誰が?」

「シンカーという人だそうだ。その合併先のギルドは、

主に戦闘に向かない人の支援活動を、下層でしていたギルドらしい」

「なるほど、支援系ギルドに転向するって事ですかね」

「僕もそう思っていたんだが、新名称は、アインクラッド解放軍だそうだ」

「軍ですか。その合併内容だと、何かイメージとまったく違いますね……」

「副リーダーに就任したキバオウ君が、どうしてもって言い張ったらしいね」

「あいつらしいといえばらしいですね」

「キバオウ君も、当初より大分丸くなってきてたと思ってたんだけどな……」

「俺もそう思わないでもなかったんで、今回の事は残念でした」

「まあ、早く戦力を立て直すしかないな」

「はい、お互い頑張りましょう」

「ああ、今後もよろしく頼むよ」

 

 

 

 それからさらに数日が過ぎたが、まだ状況は好転していない。

そんな中、アルゴからハチマンとアスナに一つ報告が入った。

どうやら、中堅ギルドで最近急激に勢力を伸ばしてきたギルドがあるらしい。

二人は、詳しい話を聞くためにアルゴと直接会う事になった。

 

「で、そのギルド、血盟騎士団って言うんだけどナ」

「聞いた事ないな」

「赤と白の制服まで揃えて、中々しっかりと運営してるチームらしいゾ」

「その制服、私何度か見た事あるかも」

「その血盟騎士団なんだが、攻略組に参加する気はあるらしいんだが、

一つ問題があるらしいんだヨ」

「どんな問題だ」

「そこのリーダー、ヒースクリフってユニークスキル持ちなんだけどな」

「まじかよユニークスキル持ちかよ」

「アルゴさん、ユニークスキルって?」

「全プレイヤーの中で、おそらく一人しか持てない特別なスキルだな。

エクストラスキルの中に、条件が記載されてない物があるらしいんだ。

他の種類が存在するかどうかはまだ確認されてないナ」

「そういえばガイドブックで昔見た気もする」

「で、そのユニークスキルが神聖剣って言うらしいんだけどな、

いわゆる防御特化らしいんだよ」

「で、何が問題なんだ?」

「チームに強力なアタッカーがいない」

「そういう事か……」

「可能なら誰か紹介してもらえれば、ボス攻略に参加する事も問題ないそうダ」

「と言ってもキリトくらいしか思いつかないが、キリトはなぁ」

 

 ハチマンの知る強力なアタッカーといえばキリトだが、

さすがにギルドに入ってうまくやっているらしいキリトにそんな事は頼めない。

本当はもう一人候補がいるはずだったが、ハチマンはその事を考えもしなかった。

 

「で、当てはあるのか?ドラゴンナイツとかから引っ張ってくるとか」

「さすがにそれは無理じゃないかナ」

 

 まあ無理だよな、と思いつつハチマンは考え込んだ。

しかしいい考えはまったく浮かんでこなかった。

 

(最悪俺を売り込んでみるか……)

 

 ハチマンは結局、そう結論づけた。

 

「とりあえずそのヒースクリフと話をする事は出来るか?」

「セッティングするのは可能だナ」

「それじゃ、頼む。どんな奴か話してみないとなんともいえん」

「それじゃ聞いてみるヨ」

 

 

 

 次の日、ヒースクリフの元へと向かったのは、

ハチマンとアルゴと……アスナだった。

 

「アスナは別についてこなくていいんだぞ」

「私も行くよ」

「いや、別に話すだけだから大丈夫なんだがな」

 

 アスナは、ハチマンが自分の名前を決して出そうとしない事に気付いていた。

気を遣っているわけではないようだから、考えもしていないのだろう。

もしくは、無意識に考えないようにしているのだろう。

そう考えると、ハチマンがヒースクリフに提案するのは……

 

(絶対にハチマン君は、自分でいいかと提案するつもりのはず)

 

 アスナは、もしそうなったら自分が立候補する事を、既に決めていた。

アスナはあの解放隊壊滅の日以来ずっと、

ハチマンが自分を責め続けているような気がしていた。

このままの状況が続くと、いずれ必ずハチマンの身に良くない事が起きる。

アスナはそう確信していた。

だからといって、ハチマンの代わりに仕方なく、という意識はまったく無かった。

話を聞いていてアスナは、以前自分がどこかのギルドへの参加を考えていた事、

そして、この血盟騎士団というギルドがそのギルドであるのではないかと、

根拠もなく確信していた。

ハチマンには自由でいて欲しい、その上で、私は私の道をゆくためにギルドに入る。

今のアスナは、そんな決意に満ちていた。

 

 

 

「はじめまして。私がヒースクリフだ」

 

 その男の目を見た瞬間、ハチマンは衝撃を受けた。

 

(晶彦さんの目に似ている……しかしまさか、ゲームのプレイヤーとして参加?

ありえない、ありえないと思うが、でも似ている……確信は持てないが)

 

 ハチマンは、気をとりなおして自己紹介する事にした。

 

「はじめまして。ハチマンだ」

「私はアスナです」

「攻略組の中で名だたるお二人にお会い出来て光栄に思うよ。で、用件は何だろうか」

「単刀直入に言う。ヒースクリフさん。血盟騎士団に足りないアタッカー、俺じゃ駄目か?」

 

(ハチマン君、やっぱり……)

 

「君か……確かに派手さはないが、君も強力なアタッカーだ。

それならそれでこちらとしては願ってもない申し出なんだが、

私としては、そちらのアスナさんの参加を打診されるものとばかり思っていたんだがね」

「アスナが血盟騎士団に?そんな事考えた事もない」

 

 ハチマンは、心底不思議そうな顔をして、そう答えた。

その時ヒースクリフが、二人の顔を見比べながら言った。

 

「考えた事がないのではなく、考えたくなかったのではないかね?

どうやらアスナさんは分かっているようだが」

 

 ハチマンはその言葉に、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

 

(考えた事がないのではなく、考えたくなかった、だと……だがしかし……俺は……)

 

 やや混乱しているハチマンをよそに、アスナが一歩前へ進み出た。

 

「ハチマン君の申し出は無かった事にして下さい。血盟騎士団には私が入ります」

 

 ハチマンはそのアスナの言葉に、何も反応する事は出来なかった。

 

「もちろん歓迎させてもらうが、それでいいのかい?」

「はい、自分の意思で決めた事ですから、問題ありません」

「だめだ!」

 

 ハチマンが突然、大きな声で叫んだ。

 

「アスナが参加なんて、そんなのは駄目だ。

今日の話は無かったって事で、帰ろう、アスナ」

「ハチマン君」

「まあ待ちたまえ。アスナ君を手放したくないという君の気持ちもわからないではないが、

それは君のエゴではないのかね?」

「エゴ?エゴだと?これのどこがエゴなんだ、ヒースクリフ!」

「それがエゴじゃなければ何だと言うんだい?

君はそもそも、アスナ君を候補にすら考えていなかったんだろう?

理屈で言えば、それが一番ベストな選択だというのにも関わらずだ」

「それは……」

「そして自分の意思だというアスナ君の気持ちもないがしろにしている」

 

 ハチマンは黙り込んでしまい、ヒースクリフもそのまま静観していた。

最初に言葉を発したのは、アスナだった。

 

「ハチマン君。私、ハチマン君の代わりにとか、そんな事思って決めたんじゃないよ。

確かにハチマン君には自由でいて欲しいのも確かだし、

この前からハチマン君が自分を責め続けて、一人で何とかしようって思ってるのも知ってる。

でもね、そんな事とは関係なく、これは、私のやりたい事でもあるの。

私、攻略のためにいずれどこかのギルドに入ろうかって、漠然と考えてた。

でも、ハチマン君達と一緒に行動するのが楽しくて、その気持ちを封印しちゃってた。

でも今回の話を聞いた時、うまく言えないんだけど、これだって思ったの。

いつまでもハチマン君に頼ってないで、自分の道を自分で選ぼうって、

そしてそれは今なんだってそう思ったの」

「アスナ……」

「心配しなくても、どこにも行ったりしないから。

どうせちょこちょこ秘密基地には行くしね」

 

 そう言いながら、アスナはハチマンに微笑んだ。

ハチマンはその顔を見て、ヒースクリフに言った。

 

「ヒースクリフ、アスナをその……宜しく頼む」

「わかった。本当は君にも参謀として入団して欲しかったが、

どうやら君はフリーで動く方が全体のためになるようだし、今回は諦めよう。

気がかわったら、いつでも言ってくれて構わないがね」

「ああ、その時は宜しく頼む」

 

 こうしてアスナは血盟騎士団に入団し、副団長に就任する事が決まった。

二十五層の攻略は、こうして再び動き出す。


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