「ではこれから、第二回社乙会を開催します」
薔薇の挨拶と共に、参加者達はパチパチパチと拍手をした。
今日の参加者は、第一回社乙会の参加メンバーである薔薇、クルス、南、かおりに加え、
詩乃と舞衣が参加していた。当然詩乃の前にはウーロン茶が置かれている。
「何となく来ちゃったけど、えっと、社乙会って何?」
「当ててみなさい」
その薔薇の言葉にクルスが即座に突っ込んだ。
「室長、おっさんくさい」
「い、いいのよ、簡単にバラしてもつまらないじゃない、ねぇ?ねぇ?」
薔薇はそう同意を求め、他の者達は仕方なくそれに頷いた。
「えっと……どんな字を書くの?」
「会社の社に、自演乙の乙ね」
それを聞いた詩乃はしばらく無言になり、少し後にとても困った顔で薔薇に尋ねた。
「えっと……分かるけど何故その単語をチョイスしたの……?」
「さっきひどい自演を見たからよ」
「自演?何それ?」
「うちも聞きたい!」
「いいでしょう、私が目撃した事実を皆に伝えます」
薔薇はそうもったいぶった後に、五人に説明を始めた。
「先ずこの動画を見て」
「これ、さっきの比企谷とアルゴ部長?」
「ええ、ちなみにかおり、どこでアルゴさんだと分かったの?」
「えっと、頬のヒゲ?」
「じゃあ八幡は?」
「そこからの推測!」
「パーフェクトよ」
薔薇はその言葉に、我が意を得たりと言った感じで頷いた。
「よく分からない」
「うん、一目瞭然だと思うけど」
そう突っ込むクルスと舞衣に対し、薔薇はこう聞き返した。
「じゃあアルゴさんの頬にヒゲが書いてあるって知らなかったらどう?」
「どうって……」
「あ、そうなると二人とも誰が誰だか……」
「あ、そういう事か!」
「分かったようね」
そして薔薇は、動画を見せた意図を五人に説明した。
「この動画は、さっきの事案が発生した直後にアップロードされたものよ。
見てこのアングル、身内にはこれが誰なのか一目瞭然だけど、
知らない人から見たら何が起こっているのかまったく分からないはずよ」
「確かに……」
「そう言われると、うちの社員にしか分からないかも」
そして薔薇は、次にこんな質問をした。
「で、あなた達、今日疑問に思った事は無い?誰か大事な人がいなくなかったかしら?」
「誰か?う~ん……」
「いなかった、いなかった、むむむ……」
「あ!そういえば今日社長は?」
「社長は今日ずっと社長室にいたはずだよ、
私ずっと受付にいたけど、社長が出掛ける所なんて見なかったもん。
まあ裏口から出ていったなら分からないけど、普通そんな事ありえないしね」
「え、ありえなくない?」
「あの社長があんな面白いイベントを見逃すとかありえない」
「じゃあ社長はどこに?」
「ここ」
薔薇はそう言って画面を指差し、皆はその画面に見入った。
「ここに社長が映ってるの?」
「いいえ」
「え、じゃあどこに……」
その時詩乃が、何かをひらめいた表情でこう言った。
「あっ、まさかこれを撮影してアップしたのが社長?」
「正解よ詩乃」
「え、ええ~!?」
「そうだったんだ……」
「でもそれと自演とどう関係が?」
「それを今から説明するわね」
そして薔薇は、アルゴの部屋で何があったのかを皆に説明した。
「さて、ここが新しいお前の部屋だ」
「くっそ、何だよこの羞恥プレイは……まあいいや、中々居心地が良さそうな部屋だな、
ここならまあ住んでやっても構わないゾ」
「お前そう言って安心させて、直ぐにここに帰らなくなるんだろ?」
「いやいや、あっはっは、そんな事ある訳無いだロ」
「これを見ろ」
八幡はそう言ってアルゴに動画を見せた。
「ん?げっ、これはさっきの……」
「何人か撮影してたから、アップされてるだろうと思って探してみたら案の定だったな」
「まじかよ、こんなのどこからどう見てもオレっちじゃねえかヨ……」
アルゴは呆然とそう呟いた。だがこれは、先ほど薔薇が説明したロジックそのままである。
知らない人が見ても、これが誰でどういうシチュエーションなのかは分からない。
なので実際の所、こんな物がアップされてもアルゴには何の痛手にもならないのだが、
この時のアルゴは先ほどまでの羞恥のせいで少し冷静さを欠いていた。
「まあそういう事だ。この動画のせいで、この場所を訪れる奴も何人かいるはずだから、
明日はもっとギャラリーが増えるだろうな」
その八幡の言葉にアルゴは固まった。
「あ、明日……?」
「だってお前、今日さえ凌げばいいとか考えてるんだろ?
なので終業時間から始業時間の間に、もしお前の姿が本社の監視カメラに映ったら、
また明日も今日と同じ事をするつもりだ」
そう言われたアルゴは、頬をひくつかせながら言った。
「そんなもん、オレっちの技術があれバ……」
「お前とダルとイヴが作りあげた鉄壁のディフェンスを、お前、簡単に突破出来るのか?」
「あああああ、くそっ、そうだっタ!」
「そんな訳で、お前が諦めるまで毎日来るからな、行くぞ薔薇」
「はい」
「あ、おいハー坊、薔薇ちゃん……くっそ、オレっちは負けねえ、絶対に耐えてみせるゾ」
「という事があったのよ。で、その後私達がソレイユに戻った後、社長室でね……」
「おかえり二人とも」
「ボス、いたんですか」
「あら薔薇、気付かなかったの?八幡君がアルゴちゃんを運んでいた時、
私は変装してギャラリーに混じって一部始終を撮影してたんだけどなぁ」
「えっ?そうなんですか?あ……じゃあまさかさっきのアップロードって……」
「うん、私」
「これで明日からはアルゴの奴、
顔を知らない社員の事を一般人だと勝手に思い込んでくれるでしょう」
「どのくらい持つかな?」
「まあいいとこ三日でしょうね」
(うわ、この二人……あの手この手で……)
「あいつを相手にするならこれでも足りないくらいですけどね」
「まあこんな感じよ」
「なるほど……」
「で、詩乃、社乙会が何の略か分かったかしら?」
「う~ん、社員の乙かれ会?」
「…………あんたもかなり強引にまとめてきたわね」
「いや、だって……」
そして薔薇に南が言った。
「室長、さすがにこれを当てろと言われても、正直うちにも絶対に無理だと思う」
「ああ……まあ確かにね。詩乃、社乙会というのはね、
『社長がモテすぎてむかつく乙女の会』の略よ」
そう薔薇が言った瞬間、詩乃は自分の荷物をまとめて帰ろうとした。
「わ、私は別にそんなヤキモチみたいな事は思ってないわよ!」
そんな詩乃の後姿にその場にいた者達は次々に声を掛けた。
「私は死ぬまで八幡の傍にいるつもりなのよね」
「神への信仰は不変、私も同様」
「う、うちはそこまでは言い切れないけど、
秘書として二人きりで行動する時もあるだろうなって思ったらちょっとドキドキする……」
「それある、私も受付で比企谷が通りかかる度にドキッとするし」
「私はまだそこまでじゃないけど、何か最近八幡様って呼ぶと鼓動が早くなる……」
それを聞いた詩乃は、くるりと踵を返して元の席に座ると、ぼそっと呟いた。
「何かむかついてきた……」
そんな詩乃の背中をバシバシ叩きながら、薔薇が言った。
「あはははは、やっぱりそうでしょう?ヤキモチも焼きたくなるわよね」
「大体何なのよあいつは、優しくて格好良くてお金持ちとか反則じゃない!」
「お、詩乃が乗ってきたわね」
「まあ詩乃は若い分感情を抑えるのが大変だよね」
「それでもうち、詩乃は恵まれてる方だと思うな。うちなんか何も無いもん、
高校の時なんかあいつに思いっきりひどい事をしたし……」
「え、何それ、何をやらかしたの?」
「実は……」
そう言って南の暴露話を聞いた五人は、口々にこう言った。
「八幡様、さすがにお人よしすぎない?」
「自己犠牲にも程がある」
「まあでもあの人らしいと言えばあの人らしいというか」
「南も大変だね」
「まあ今は必要としてもらえて満足はしてるけど、もうちょっと会えればなとは思う」
「でもこの中で一番かわいそうなのは、やっぱかおりなんじゃないかな」
「あ~、それある……」
「え、かおりさん何があったの?」
「あ、あは……中学の時ね……」
そしてかおりは、中学の時の自分の失態を情けなさそうな顔で暴露した。
「え、かおりって八幡様に告白されてたんだ……」
「逃した魚は大きいって、まさにかおりさんの為の言葉だよね……」
かおりはそう言われ、顔を手で覆いながら言った。
「言わないで、自分でも分かってるから……」
「まあそんなに気を落とさないで、ささ飲んで飲んで」
「う、うん……あ~もう中学の時の自分を殴ってやりたい、
何でもっと相手の将来性を見なかったかな!」
「いや、さすがにその中学での姿から今こうなるなんて想像するのは無理でしょ……」
「確かにそうだけど、そうだけどさ!」
そして話はGGOでのクルスの活躍に移った。
「それに比べるとクルスは最高だったよね」
「そうよ、あんた上手くやりすぎよ!」
「あれはさすがの私も羨ましいと思った」
「あそこでハチマンをコンバートさせてまで迎えに行くってどうなのよ、
あんな事されたら完全に惚れちゃうでしょ!」
クルスはそれに首を振りながらも、熱っぽくこう言った。
「大丈夫、元々大好きだったから。でも正直あの時は、
ちょっと体の芯から熱いものが……具体的には下半身の方から……」
「そ、それ以上は駄目!」
「詩乃だって噂に聞く限りじゃ、同じような経験があるでしょう?」
「う……」
そして詩乃は、自分と八幡とのリアルでの出会いの日の事を思い出した。
自分の生活を一瞬で変えてくれたあの日の八幡の事を考え、詩乃は顔を真っ赤にして俯いた。
「詩乃、顔が真っ赤だよ」
「わ、分かってるわよ!」
「そんなに凄い事をされちゃったの?」
「べ、別の意味で……」
「どんな?」
「えっと……」
そして詩乃は、自分と八幡とのリアルでの出会いの事を話し、
それを聞いた一同はさすがに目を剥いた。
「何それ……」
「どう考えても落としにきてるでしょ!」
「でも八幡様にとってはただの善意の行動」
「ありえない、ありえないわよ!すみません、ビールおかわりで!」
「まあ詩乃は、それで止めを刺されちゃったと」
「だ、だって仕方ないじゃない、本当に王子様みたいだったんだもん!」
「うんうん仕方ない、ささ、ウーロン茶を飲みなさい」
「う、うん」
その一連の話を聞いた舞衣は、羨ましそうに言った。
「いいなぁ、私なんか自分で売り込んでここに連れてきてもらっただけだから、
良くも悪くもそういったイベントが何も無いよ……」
「そのうちあんたにも何かきっとあるわよ、元気を出しなさい」
「それで私も落とされちゃうのかな?」
「「「「「あ~……」」」」」
五人はその舞衣の言葉に、絶対そうなるだろうなと思い、微妙にむかついた。
そして薔薇以外の四人の矛先は、薔薇に向かった。
「そもそも薔薇さんがこの中で一番優遇されてる気が……」
「仲いいですよね……」
「いつも羨ましいなって思ってた」
「あんた達は勘違いしすぎよ、確かに私は一生八幡の傍にいると思うけど、
それは裏を返せば、間違いを起こす以外、本当に言葉のまま傍にいて、
指をくわえて見てるだけになる可能性が凄く高いのよ!」
「ああ……確かに八幡様の薔薇さんに対する態度は拾った小猫に対する態度に見えるかも」
「でしょでしょ?もう何なのよあいつ、でも困った事に、
それでも嬉しいと思ってしまう自分がいる訳で……」
「うんうん分かるよ、ささ薔薇さん、飲んで飲んで!」
そして薔薇はビールをぐびぐびと飲みながら言った。
「ほら皆、もう無礼講よ、日ごろの不満をぶちまけなさい!」
「「「「「お~!」」」」」
こうして会は、六人がそれぞれ愚痴を言う残念な状態になった。
そんな感じで二時間が経ち、店から外に出た六人を、意外な人物が待っていた。
「おうお前ら、俺への愚痴は存分に吐き出せたか?
それじゃあ順番に家まで送ってやるから、とりあえずこの車に乗れ」
店の外で待機していたのは八幡であり、それはソレイユの社用車であるバンだった。
そして六人は恐縮しながらその車に乗り込み、順番に家に送ってもらう事となった。
そして最後に送ってもらう事となった薔薇に、八幡は言った。
「今日は楽しかったか?」
「え、う、うん」
「そうか」
(もう、何なのよこいつは、他の皆とも車の中で話したけど、出来杉君なの?
それとももっと自分に惚れさせるつもりなの!?)
「よし着いたぞ、ここからはもう一人で大丈夫だな」
「あ、うん、その……ありがと」
「おう、それじゃあまた明日な」
たったそれだけの言葉に、薔薇はドキリとした。
実は他の者もそれは同様で、帰り際に八幡にそう言われただけで、
皆同じようにドキリとしていた。まるでチョロイン軍団である。
「うん、また明日」
薔薇はそう答えると、弾む足取りで自分の部屋へと向かったのだった。