ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/18 句読点や細かい部分を修正


第375話 戦い終わって

「残る敵はあと僅かか、あんまり俺達が目立つのもあれだし、

残りは他の連中に任せるとするか」

 

 シャナはそう言って後退し、他の者達もそれに付き従った。

そして要塞内に戻った後、十狼の面々は打ち上げの準備を始めた。

 

「フローリア、NPCも総動員してこのフロアにテーブルを並べてくれ。

基本立食形式でいいが、周囲に長椅子も置いておければいいかな」

「それなら私一人でいけます、マスター」

「お、そうか、それじゃあ早速やってくれ」

「はい」

 

 そしてフローリアが目をつぶると、

その場はシャナが指定した通りのレイアウトに変化した。

 

「おお」

「さっすがフローリアちゃん」

「ありがとうございます」

「よし、俺が資金を提供するから、

ある程度の飲み物と食べ物を各テーブルに並べて置いておいてくれ。

足りない奴らは周囲の店で買ってもらうようにすればいいな」

「それではそのように手配しておきます」

 

 丁度その時外の銃撃音が止み、フローリアは戦闘終了のアナウンスをした。

 

『敵は完全に殲滅されました、世界樹要塞は今回も無事守りきられました』

 

 それを聞いた一同はホッとした。

 

「今回は余計な敵は出なかったようだな、まあ出てくれても良かったが」

「さすがのピトの悪運も連続では発動しなかったみたいだね」

「前回だって別に私のせいだと決まった訳じゃないですし?」

「いや、あれは絶対にお前のせいだろ……」

 

 そしてぞろぞろと参加者達が戻ってきた。参加者達は、ホールに入ると目を輝かせた。

 

「おお、これ好きに飲んだり食ったりしてもいいのか?」

「ああ、全員揃ったら、各自戦利品の確認でもしながら楽しくやってくれ」

「さっすがシャナ、至れり尽くせりだな!」

 

 そして参加していた全プレイヤーが戻ってきたのをフローリアに告げられると、

シャナは軽く挨拶をする事にした。

 

「今日は皆お疲れ!ささやかだが打ち上げの品を用意させてもらった。

これじゃ足りないって奴は、周囲の店から好きなように注文してくれ……自腹でな!」

 

 その言葉に参加者達は大声で笑った。

 

「今後俺がいない時にこの要塞防衛戦が発生する事もあるだろうが、

その時たまたまここに居合わせたら、その時も宜しく頼むな」

「おう、任せろい!」

「むしろ喜んで参加させてもらうぜ!」

「それじゃあ皆、楽しんでくれ」

 

 そのシャナの言葉を合図に、一同は各自で勝手に盛り上がり始めた。

シャナの下にはひっきりなしに色々な者達が押し寄せ、

シャナはそれに対応するのでいっぱいいっぱいになった。

 

「よし、ここがチャンス!」

 

 クラレンスはそう思い、何とかシャナと仲良くなろうと頑張って話し掛けようとした。

 

「シャナさん初めまして、私はクラレンスと申します」

 

 クラレンスは慣れない敬語を使いながら、そうシャナに話し掛けた。

 

「おっ、初めましてだなクラレンス……おっとすみません、女性でしたか。

初めましてですね、クラレンスさん」

 

 その言葉にクラレンスは驚いた。初見でクラレンスが女性だと見抜いた者は、

いまだかつていなかったからだ。

 

「ど、どうして分かったんですか?」

「いや、男と女じゃ微妙に動きが違いますからね、まあ他にも色々……」

「そうなんですか!」

 

 予想以上に会話が弾む予感がして、クラレンスはそのままぐいぐい押そうとした。

だがその意思を示そうとした瞬間、クラレンスの肩を叩く者が二人いた。

 

「何?これからシャナさんと大事な話を……」

「うん分かってる、だからそこまでね」

「不穏、不許可」

 

 慌てて振り返ったクラレンスの目を、ピトフーイと銃士Xがじっと見つめていた。

 

「それじゃあシャナ、私達はちょっとこの子と話があるから」

「ん、そうか?それじゃあまたな、クラレンスさん」

「あっ……ちょっと」

「いいからあんたはこっち」

「うお、放せコラ!」

「やっと地が出たわね、いいからさっさとこっちに来いっての」

 

 そしてピトフーイに引きずられたクラレンスは、少し離れた所で二人に囲まれた。

 

「一体何なんだよお前ら、邪魔すんなよ!」

「邪魔って何の?」

「それはえっと……シ、シャナさんとの会話を?」

「ただの会話じゃないわよね、色々な手段で自分を売り込む気満々だったわよね?」

「な、何でそれを……」

 

 その言葉にピトフーイは自信満々にこう答えた。

 

「勘」

「り、理不尽な……」

 

 その答えにクラレンスは呆然とした。

だがそんなクラレンスに、ピトフーイは胸を張りながら言った。

 

「シャナ絡みだと、私の勘はほぼ百パーセント当たるけど?」

「なっ……」

「そんな私の勘が、あんたをシャナに近付けちゃいけないと言っている。はい、さようなら」

 

 そう言いながらピトフーイは、クラレンスの頭に鬼哭の柄だけを押し付けた。

 

「ああっ、つい手が滑ってうっかりこのスイッチを押しちゃったらどうなるのかなぁ?」

「や、やれるもんならやってみろよ!」

「へぇ、案外肝が据わってるのね」

 

 ピトフーイはそう言って大人しく鬼哭をしまった。

どうやら最初から脅しに使うだけのつもりだったらしい…………多分。

 

「そもそもお前ら俺の名前すら知らないだろ、そんな奴らに俺の何が分かるってんだよ!」

「ふ~んそう、ロザリアちゃん、ちょっとこっち来て~」

 

 そのピトフーイの呼びかけに応え、ロザリアが姿を現した。

 

「何?」

「ねぇ、この子の事知ってる?」

「この人?」

「はっ、こいつに俺の何が分かるってんだよ」

 

 ロザリアはクラレンスをちらっと見ると、脳内の情報を検索し、

即座に該当する人物を見付けると、その情報の羅列を始めた。

 

「クラレンス、見た目は男っぽいけど実は女、男も女もイケる口。

小さくてかわいい子が好み。性格は昔のピトに似て奔放で自分勝手。

最近スコードロンで揉め事を起こして追い出されそうになったが、

逆にメンバーの弱みを握って主導権を握るも、居心地が悪くなったのが現在移籍先を探し中」

「いっ……」

「これでいい?」

「うん、忙しいのにありがと」

「どういたしまして」

 

 そしてピトフーイは、ニタァっと笑いながらクラレンスに言った。

 

「で?」

「分かった分かった降参だ、もうシャナさんに近付くのは諦めた」

「意外、聞き分けがいい」

「諦め早いなぁ」

「お前らがプレッシャー掛けてきやがったんだろ!」

 

 そんなクラレンスにピトフーイが突然こう言った。

 

「シャナを利用しようとかそういう奴は絶対に駄目、私達が事前に排除する。

だけど純粋にゲームを楽しみたいなら、シャナの目にとまりさえすればワンチャンあるかも。

でもそれにはこのイクスくらいのインパクトが無いと多分無理」

「それハードル高くね?銃士X、あんたの姿は戦争の映像で見たよ、

あれには不覚にも感動しちまったぜ」

 

 銃士Xはその言葉に、得意げな顔をした。

 

「直後の別の映像も見たけどよ、別の男に抱かれながら三バカを倒す奴、

あれって多分シャナさんなんだろ?あ、そんな怖い顔すんなって、

誰にも言わないからよ、まあもう一部の間では噂になってるんだけどな」

 

 クラレンスは二人の顔が険しくなった為、慌ててそう弁解した。

 

「そうじゃない、俺が言いたいのは、同じ女として羨ましかったって事だ。

まあ今までの俺が駄目な奴なのは事実だから、また出直してくるわ」

「ふ~ん、案外悪い奴じゃ無さそうね」

「あんたの方がよっぽど評判悪かっただろうが!」

 

 クラレンスはたまらずそう突っ込んだ。

 

「それもそうか、まあ精々頑張りなさいな」

 

 そうあっけらかんというピトフーイに、クラレンスはこう答えた。

 

「おう、先ずは第一歩として誰か信頼出来る女の相方でも探す事にするわ」

「何それ、なんで女?」

「一人で行動し続けるのはリスクが高いだろ?

で、そもそも俺は両刀とはいえ実は男はあまり好きじゃない。

それに男とコンビを組むよりも、女二人組の方がシャナさんの目にとまる気がする」

「男が嫌いって、じゃあシャナは?」

「シャナさんなら平気だ」

「意味が分かんないんだけど」

「俺にも分からねえよ、多分格上の人すぎて、嫌悪感が働かないんだろうよ」

 

 そう言ってひらひらと手を振りながらクラレンスは去っていった。

ピトフーイと銃士Xは、クラレンスが去った後に顔を見合わせた。

 

「思ったより面白い奴だったね」

「でもピトの勘がそう言うのなら、多分今はまだシャナ様の傍には相応しくない」

「そもそも相応しくなれるかどうかも分からないけどね」

「昔のピトと一緒、可能性は無くはない」

「くはっ、それを言われると……そうか、あんたも古参だから私の事をよく知ってるんだ」

「肯定、昔のピトはそれはもうひどかった」

「言わないで!」

「あっ、またシャナ様に女性プレイヤーが近寄ってきた」

 

 突然銃士Xがそう言い、ピトフーイは慌ててそちらを向いた。

だが直ぐに興味を失ったのか、こちらに向き直って銃士Xに言った。

 

「ああ、あの子はオーケー」

「知ってるの?」

「シャナにM82を貸してもらったラッキーガール」

「ああ、あれが」

「だから問題ない、もうあの子はシャナの目にとまってる」

「仲間になるのかな?」

「私の勘だとならない、シズが言うには、あの子は人が撃てないらしいしね」

「撃てるようになったら?」

「もしそうなったらその時にまた、自分の勘に聞いてみる」

 

 

 

「あのシャナさん、これ、ありがとうございました」

 

 そう言いながらM82を差し出すシャーリーを見て、シャナは微笑みながら言った。

 

「おお、シャーリーさんか、M82はどうだった?」

「ずっと興奮してました、こんなの初めてで凄く感動しました」

「そうか、敵もかなり倒してくれたみたいだし、

こちらこそこれを上手く使ってくれてありがとな」

 

 クラレンスのケースと違い、こちらの会話はとても和やかな雰囲気だった。

 

「あ、あの、お時間があるようでしたら、シノンさんも交えてスナイパー談義など……」

「お、それはいいな、おいシノン、ちょっとこっちに来てくれ」

「どうしたの?あ、確かシャーリーさん」

「おう、シャーリーさんが俺達とスナイパー談義をしたいそうなんだが、どうだ?」

「うん、するする、色々聞きたい事もあるし」

 

 シノンはそう即答し、邪魔が入らないようにと、話はシャナの個室でする事となった。

そして個室に着いた後、シャーリーが大事そうに抱えている銃を見たシャナは、

何となくシャーリーにこう尋ねた。

 

「シャーリーさん、その銃は……」

「あっ、邪魔でしたね、今しまいますね」

「あ、いや、そうじゃなく、いかにもリアルでハンターが使ってそうな銃だなって。

後敬語は疲れるでしょう?楽な話し方でいいですから」

「あ……はい、えっと、これは私が普段仕事で使ってるのと同じタイプの銃なの」

「ブレイザーR93だっけ?いい銃だよな」

「あ、この銃の事知ってるんだ?うわぁ、感激だなぁ。

凄く取り回しが良くて、ボルトアクションなのに速射性能も結構いいんだよね、これ」

 

 そこから話は盛り上がり、三人はそのまま楽しく会話を続けた。

 

 

 

 一方シャナが一時的に姿を消した事で動きやすくなった者達もいる。

 

「おいシュピーゲル、いい頃合いだ、ゼクシードの事、頼むぞ」

「うん、正直話すのも不愉快だけど、行ってくる」

 

 そしてシュピーゲルはゼクシードに近寄り、声を掛けた。

 

「ゼクシードさんって、やっぱり凄いんですね」


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