ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/18 句読点や細かい部分を修正


第376話 王手

「ん?お前確か源氏軍だった奴だよな、よく分かってるじゃないか、

そう、俺があのゼクシードさんだ」

 

(何でこいつは自分にさんを付けてるんだよ……だからこいつは嫌なんだよ)

 

 シュピーゲルはそう思いながらも、そんな事はおくびにも出さず、

にこやかにゼクシードに話し掛けた。

 

「今回改めてゼクシードさんの戦闘を間近で見る事が出来て、

やっぱり他の人とは格が違うんだなって良く分かったんです」

 

(まあ見てたのは確かだけどね、主にこの会話をする為にだけど)

 

「お、お前は見所があるみたいだな」

「ありがとうございます、それにしてもその銃、凄いですよね」

 

 その瞬間にシュピーゲルは、ゼクシードの顔が一瞬曇った事に気が付いていた。

 

(やっぱり兄さんの言った通りだ、多分ゼクシードは、

実力は低いのに銃のおかげで強い、って言われるのが不愉快なんだな。なのでここは……)

 

 そしてシュピーゲルは続けてこう言った。

 

「やっぱり一流の使い手は、使う道具も一流じゃないと駄目ですよね」

 

 その言葉にゼクシードはきょとんとした後、嬉しそうにこう言った。

 

「おう、やっぱりお前は良く分かってるな、そうだ、その通りだ。

やっぱり俺クラスにもなると、これくらいの銃を持ってないと腕に釣り合わないんだよな」

 

(よしよし、掴みは問題無いな)

 

 そしてシュピーゲルは、とにかくゼクシードを持ち上げ続けた。

その会話をなんとなく横で聞いていたユッコとハルカは、

ゼクシードにもファンがいたのかと少し驚いた。

だが実際の所、ゼクシードのファンも多少は存在するので、

さすがにその感想はゼクシードに失礼であろう。

 

(さて、そろそろ……)

 

 シュピーゲルはそう考え、話を第二回BoBへと持っていった。

 

「そういえばゼクシードさんは、前回のBoBの賞品は何にしてたんですか?」

「おう、それがな、ちょっと失敗しちまって、ゲーム内通貨を選んじまったんだよな。

俺の実力なら、金はいくらでも稼げるってのにな」

 

 それを聞いたユッコとハルカは思わず変な顔をした。

実際ゼクシードは稼いだ通貨をすぐ使ってしまい、

常に金欠状態でひぃひぃ言っているので、

BoBで優勝した時は、心から嬉しそうにしていたからだ。

ちなみに今は多少は余裕がある。今回のイベントできっちり稼げたからだ。

 

「そうだったんですか、それは失敗でしたね」

「おう、ゲーム内じゃ特に困ってないし、モデルガンって手もあったんだけどな」

 

(おっ、きたきた)

 

 その言葉をシュピーゲルは待っていた。

その話が出なかったら自分でそっちに誘導するつもりだったのだが、

どうやらその手間を省く事が出来たらしい。

 

「いいですねそれ!どうせなら今使ってる銃とかどうでしょう」

「ん、おお、そうだな、確かにいいかもな」

 

 ゼクシードは実は、次は輝光ユニットを選択するつもりだったので、

内心舌打ちしながらも表面上はそう答えた。どうやら輝光剣が欲しいらしい。

 

「そういえばゼクシードさんのツイッター、毎日チェックしてるんですよ!

良かったらそこにそのモデルガンの写真もアップして下さいね、僕、必ず拡散しますから!」

「そ、そうなのか?そうか、あれを見てくれているのか……」

「はい、ゼクシードさんは憧れですから!」

 

(しかし兄さんも、よくゼクシードのツイッターなんか見付けたよなぁ)

 

 その言葉にゼクシードの自尊心はかなりくすぐられた。

そしてシュピーゲルは、更にゼクシードの逃げ道を塞いだ。

 

(ここでこの二人も巻き込んで……)

 

「ユッコさんとハルカさんもそう思いますよね?」

「えっ?う、うん」

「も、もちろんよ」

 

 突然話を振られたユッコとハルカは戸惑ったが、

この流れではその言葉を否定する事も出来ず、同意する事しか出来なかった。

 

「これはモデルガンを選ばないと駄目な流れだね」

「まあいいんじゃない?それはそれで」

「まあね」

 

 そう二人は囁き合い、ゼクシードの出方を見守った。

ゼクシードは二人にまでそう言われた事に気を良くし、上機嫌な顔でシュピーゲルに言った。

 

「そうかそうか、それじゃあ今回はお前の薦めに従ってモデルガンにしてみるか」

「はい、絶対に格好いいですよ!」

「おう、そうだな!」

 

(よし、後は登録当日に偶然会えば完璧だ、前回の登録は初日だったらしいから、

次も初日に張り込んでおけばいけるはず)

 

 シュピーゲルはそう考え、会話を終わらせにかかる事にした。

今回の目的が完璧に達成されたからだ。

シュピーゲルは、これ以上思ってもいない事を言うのが苦痛であり、

早くこの場から立ち去りたかったのだ。

 

「今日は僕なんかに貴重なお時間を使って頂いて本当にありがとうございます、

またどこかで会ったらその時は、宜しくご指導下さい」

「おう、お前みたいないい奴がいるなんて知らなかったよ、その時は是非任せてくれ」

 

 そのシュピーゲルの言葉に対し、ゼクシードはにこやかにそう答えた。

昔のシュピーゲルだったなら、例え多少傲慢さがあろうとも、

ここまで親しげに接してくる相手に対して悪意を持ち続ける事は困難だっただろう。

だが今のシュピーゲルは、かつての気の弱い少年ではなかった。

シュピーゲルもステルベンもずっと家にいる生活を続けており、

ステルベンがその気になれば、それこそ二十四時間体制で、

延々とシュピーゲルに悪意を吹き込む事が可能なのだ。

そして今、ステルベンはまさにその気になっており、

今のシュピーゲルは、こうする事が正義だと完全に思い込んでしまっていた。

その為シュピーゲルは罪悪感をまったく感じる事もなく、

ゼクシードをずるずると暗い暗い闇の底へと引きずり込む事をまったく躊躇わなかった。

 

 

 

「今日は楽しかったな、また今度こういう機会があれば宜しくな」

「うん、本当に楽しかった、シャーリーさん、また宜しくね」

「はい、是非!」

 

 三人が会話を終え、和やかな雰囲気で外に出てきた時、

シュピーゲルは既にゼクシードとの話を終え、人ごみの中に消えた後だった。

こうしてシャナの知らない所で、また一つ悪意の芽が育った。

 

 

 

「どうだ?」

「上手くいった。後は次の大会の開催を待つだけかな」

「そうか、よくやったな」

「うん、正義の為だからね」

「……だな」

 

 そう複雑な顔で答えるステルベンの表情を隠すように、

ノワールが陽気な声でシュピーゲルに話し掛けた。

 

「ところでよ、これを見てくれよ」

 

 そう言いながらノワールは、シュピーゲルに見た事もない金属のような物を差し出した。

 

「これって……何かの金属みたいですけど」

「説明によると、この世界で一番硬い金属みたいでな、宇宙船の装甲板だそうだ」

 

 それを聞いたシュピーゲルは、ハッとした顔でこう言った。

 

「あっ、それ知ってます、シャナさんのブラックの装甲に使われてる奴です」

「まじかよ、そうすると性能はもう実証されてるって事だな」

「やりましたね、これって凄くレアな素材ですよ」

「これは剣に加工出来るのか?」

 

 ステルベンが横からそんな問いを発し、ノワールは渋い顔でこう答えた。

 

「今の俺だと、さすがにまだこれを加工するのは無理なんだよな……さてどうしたもんか」

「そもそもこれを今加工出来る職人さんって、イコマさんしかいないと思います」

「だよな……」

 

 そしてステルベンは、その金属を見つめながら言った。

 

「出来ればこれをエストックに出来ればいいんだが」

「だよね……よし、僕が何とかイコマさんに頼んでみるよ」

「大丈夫か?」

「うん、そこまで親しくはないけど、何度か顔は合わせてるからね。

駄目ならシノン経由でお願いするつもり」

「そうか、それじゃあこれはお前に託す」

「何か注文はある?」

「そうだな……」

 

 そしてステルベンは、サイズとバランスにだけ注文を付けた。

見た目までかつて自分が使っていた武器に似せると、

そこから足が付く可能性があると危惧したのである。

 

「分かった、それじゃあちょっと行ってくるね」

 

 そしてシュピーゲルは、どう言い訳をするかを二人と相談した後、

すぐさまイコマの下に向かった。

 

「イコマさん!ちょっとご相談があるんですが」

「あ、シュピーゲル君どうしたの?僕に相談って事はそっち関係だよね?

もしかして今回、何かいい物でも出た?」

「はい、これなんですが……」

「おお、やったね!」

「はい!」

 

 イコマはもう何度も扱っている為、一目見ただけでそれが何なのか理解した。

 

「で、これをどうしたいんだい?まさか車には付けないよね?防具にでもする?」

「いえ、出来れば剣に……それもエストックに出来ます?」

 

 その意外な申し出に、イコマは目を細めた。

 

「何故エストックに?」

「その方が僕のスピードを生かせると思ったんです。

シズカさんが戦う所を見ていてそう思いました」

 

 ここでシュピーゲルは、予め相談して用意していたセリフを口にした。

確かにスピードタイプはエストックのような刺突剣と相性がいい。

 

「オーケー、そういう事なら納得だよ、サイズとか希望はある?」

「それじゃあ長さはこのくらい、バランスは……」

 

 その妙に玄人臭い要求にイコマは少し驚いた。

だが事前にもしこうなったらこうしようと考えていたのだろうと思い、

深く突っ込むような事はしなかった。

 

「それじゃあ完成したら連絡するね、多分明日にはもう出来ると思うから」

「ありがとうございます、楽しみにしてますね!」

 

 こうしてシュピーゲルは立ち去り、入れ替わりでシャナがやってきた。

 

「お、シュピーゲルに何か製作でも頼まれたのか?」

 

 遠くにシュピーゲルの後ろ姿を見ながら、シャナは察し良くそう言った。

 

「はい、これでエストックを」

「ほう?あいつがそんな物をな、出来たら俺にも見せてくれよ」

「はい、イクスさんの輝光剣と一緒に見せますね」

 

 実は今回、銃士Xは運よく輝光ユニットを入手していた。

それを聞いた薄塩たらこと闇風の悔しがりようは、見ていてとても笑えるものだった。

 

「マ、銃士X……もしかしてそれは……」

「たらこ、既知?私には不明、イコマ様に質問に向かう所」

「輝光ユニットだ、例の輝光剣の材料だよ!」

「本当に?」

「おう、こんな事で嘘なんか付かねえって」

「…………やった」

 

 その小さくガッツポーズをする銃士Xを見て、薄塩たらこは良かったなと思いながらも、

内心ではかなりの悔しさを覚えていた。

そこに闇風が合流し、銃士Xの手にする物に気が付き、驚愕の声を上げた。

 

「銃士Xちゃん、そ、そそそそれって……」

「………………どやぁ」

「うっわ、その顔、わざわざ口に出してどやってる所がまた、かわいむかつく!」

「私、かわいい?」

「お、おう、かわいいって部分だけ拾うのな、まあでもむかつくな」

「………………どやぁ」

 

 その銃士Xの再びのドヤ顔を見て、ついに薄塩たらこが爆発した。

 

「うがああああああ、畜生、やっぱり羨ましい!」

 

 そんな薄塩たらこに闇風が突っかかった。

 

「うるせえたらこ、俺だって羨ましいのを我慢してるんだからちょっと黙れ!」

「羨ましいのを羨ましいと言って何が悪い!」

 

 そこで銃士Xが、棒読みでこう言った。

 

「私の為に争わないで」

「そういうセリフは棒読みで言うなよ!」

「そうだそうだ!でもそういうの、嫌いじゃないぜ!」

 

 そう言われた銃士Xは、今度は感情を込めてこう言った。

 

「ごめんなさい、私の為に争うのは二人の勝手だけれど、

この身は全てシャナ様の物だから二人にはまったく可能性は無いの、ぽっ」

「くっそ、内容もうざいが、最後の口に出して言った、ぽっ、が、かわいむかつく!」

「おう、かわいむかつくな!」

「それより剣の名前と色を考えるのを手伝って。

出来れば流れる水のイメージで流水、色は青がいいんだけど」

「今考えるのを手伝ってって言ったのに、もう結論出ちゃってない?」

「まったく意味が分からないよ……」

 

 こうして銃士Xも輝光剣を入手する事となり、その剣は流水と名付けられ、

色は青が選択される事となった。

こうして今回の要塞防衛戦は、何人かがいくつかの収穫を得る事となり、終わりを告げた。

 

 

 

 丁度その頃、空港に降り立つ一つの影があった。

 

「むふ、調子に乗って一日早く来てしまった。コヒー、驚くかなぁ……

それ以前に泊めてくれるかなぁ…………まあいいや、なるようになる!

待ってて下さいねハチマン様、あなたのかわいいフカ次郎がもうすぐ会いに行きますよ!」

 

 まだまだ波乱は終わらないようである。


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