ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第383話 キーパーソン

「美優、今日はここに来て良かっただろ?」

「うんリーダー、最高!フェイリスさんも本当にありがとう!」

「どういたしましてニャ」

「香蓮もそろそろ自分を好きになれそうか?」

「う、うん……八幡君にそう言ってもらえるのは嬉しいんだけど、

まだそこまではどうかな……」

「そうか、まあ焦らずゆっくりと、自分のいい所を見付けられればいいな」

「ありがとう、八幡君」

 

 そして八幡は二人に事情を説明し、先に現地へ向かってくれないかと頼んだ後、

キットに任せて二人を仲間達の下へと送り出した。

既に明日奈には、少し遅れる事とその理由を説明してある。

そして八幡は紅莉栖達と合流し、凶真の代わりにフェイリスを交え、

四人で話す事となった。

 

「私も同席していいのかニャ?」

「フェイリス、お前実は相当頭がいいよな?それによく物事の本質を突いてくる。

なので同席して、何か疑問に思ったりした事があったら気軽に何でも言ってくれ」

「分かったニャ」

 

 それを聞いたフェイリスは、力強く八幡に頷いた。

 

「さて、ダルに同席してもらったのは、

意見を聞かせてもらうのとは別にもう一つ理由がある。

今から俺がする提案は、何も知らない人には突拍子のない物に聞こえる可能性が高い。

なのでダルには、第三者としてとある証明の手伝いをして欲しい」

「証明?何の?」

「今掛かってくる」

 

 その直後に、ダルの携帯に着信があった。ダルはその表示された名前を見て全てを悟った。

 

「もしもし」

「ダル君、私、分かるわよね?」

「もちろん」

「じゃあ八幡君に目配せして頂戴」

「分かったお」

 

 そしてダルの目配せを受け、八幡はダルに、あえてこう尋ねた。

 

「誰からだった?」

「ソレイユの社長からだお」

「何ですって?」

 

 紅莉栖は驚いた顔でそうダルに聞いた。

 

「前に牧瀬氏には話したでしょ、たまにソレイユの仕事を請けてるって。

僕が保証するお、電話の向こうの相手はソレイユの社長、雪ノ下陽乃さんで間違いないお」

「という訳だ、ダル、電話を牧瀬さんに」

「あいあい」

 

 そして紅莉栖は電話を受け取った。

 

「初めまして、牧瀬紅莉栖です」

「こちらこそ初めまして、私は雪ノ下陽乃、ソレイユの社長をやっているわ。

その私があなたに言う言葉は一つ、そこにいる比企谷八幡君は、

既にうちの社の私の次の社長に内定しているわ」

「えっ、そうなんですか?」

「だから彼の言う事は、全てソレイユの意思だと思って聞いて頂戴。

それじゃあそのうち直接お会いした時に、また改めてご挨拶するわね」

「分かりました、わざわざありがとうございました、納得しました」

「良かった、それじゃあまたね」

「はい」

 

 それでその電話は切れ、紅莉栖は八幡に頷いた。

 

「オーケー、事情は把握したわ。あなたの言う事は全て真実だと思って聞く事にする」

「ありがとう、牧瀬さん」

「紅莉栖って呼び捨てにしてくれて構わないわよ、

多分あなたとはビジネスパートナーとして長い付き合いになりそうだしね」

「そうなるといいな、それじゃあ俺の事も八幡と呼んでくれ」

 

 そして紅莉栖は、それに頷いた後に言った。

 

「ソレイユと聞いて、色々思う所はあったのよ、アメリカでも色々と噂になっていたしね」

 

 八幡もそれに頷き、最初にこう切り出した。

 

「紅莉栖、メディキュボイドの事は知ってるか?」

「もちろんよ、個人的には興味が尽きないわ、私が研究してる事と共通する部分もあるしね」

「メディキュボイドは今、うちの社がその技術を独占している」

「……やっぱり噂は本当だったのね」

 

 紅莉栖はその八幡の説明を受け、やはりという顔でそう言った。

 

「ああ、いずれ商品化する事になるのは確定なんだが、その前に一つ、

紅莉栖に脳科学の観点から、とり急ぎ安全性の確認をしてもらいたいんだ」

「別に構わないわ、私も興味があったしね。でもいずれなのにとり急ぎ?理由を聞いても?」

「実は今、二人の被験者がVRの世界に長期間入りっぱなしになっているんだ。

二人に何かあったら俺としてはとても困るんでな、システムの安全性を担保したいんだ」

 

 それを聞いた紅莉栖は、少し意地悪な表情で言った。

 

「困るってのは、ソレイユ的に?」

「いや、あの二人は友達なんだ、治る見込みの薄い病気なんだが、

可能なら助けると約束したからな、絶対と言えないのがつらい所だが、

俺にやれる事は何でもやっておきたいんだ」

「そう……ちなみに病名は?」

 

 そう聞かれた八幡は、紅莉栖にとある病名を告げた。

 

「それは確かに厳しいわね……オーケー、大学の先輩に頼んで、

もし何かその病気関連でいい情報が入ったら、

直ぐに連絡をもらえるように私の方も手を回しておくわ」

「すまない、恩にきる」

「人助けの為だもの、当然よ。ちなみに先輩は日本人だから宜しくね」

「名前は?」

「比屋定真帆」

「オーケーだ、もし俺がいなくても、

会社に連絡してもらえれば担当者に繋がるようにしておく」

 

 そして八幡は、紅莉栖に報酬についての話を始めた。

 

「それで報酬なんだが、何か希望があったりするか?」

「そう言われると答えに困るわね……」

「ふむ、ダルとフェイリスはどう思う?」

「牧瀬氏の喜びそうな物……お金?」

 

 その瞬間に紅莉栖はいきなりダルを殴りつけ、その直後にこう言った。

 

「黙れ変態!殴るわよ!」

「そういう事は殴る前に言って欲しいお!そして誤解だお!」

「何が誤解だって言うのよ」

「ソレイユに研究費を援助してもらうとか、そういう事が言いたかったんだお」

「ああ……橋田にしてはいいアイデアね、でもどうかな、

レスキネン教授と相談が必要ね、企業の紐付きみたいになる訳だし」

「まあ今回の報酬とは別に、スポンサーになれるものならなりたいとは思うが、

それには手土産が必要か」

「あっ」

 

 その時フェイリスがあっと叫んだ。そしてフェイリスは、ダルに向かって言った。

 

「ダルにゃん、キズメルちゃんとユイちゃんは?」

「ん?あ、あ~!」

「二人がどうかしたのか?」

「それって何の事?」

 

 言葉は違えど八幡と紅莉栖は同様にきょとんとした。

 

「牧瀬氏は、今世界中に数多くあるAIの中で、どれに興味があるん?」

「それはもちろん茅場製AIね」

「ああそうか、そういう事か」

 

 八幡はその遣り取りを聞き、納得したようにそう言った。

 

「紅莉栖、今から暇だったりするか?」

「あ、うん、まあ特に予定は無いけど」

「よし、それじゃあさっきの奴らと再合流するか、

うちのメンバーに顔繋ぎをしておきたいからな」

「顔繋ぎ?」

 

 その言葉を聞いたダルが、何かを悟ったように言った。

 

「八幡、それはもしかしてもしかすると?」

「おう、いいヒントをくれてありがとうなダル、良かったらお前も来るか?」

「よ、よろしいので?」

「ALO関係で色々手伝ってもらってるしな、別にいいだろ」

 

 そう言われたダルは、感激したように言った。

 

「おおお、ありがとうありがとう!」

「要するに、私を誰かに紹介したいという事でいいのかしら」

「ああ、うちのメンバーにな」

「ヴァルハラ・リゾートにゃよ、クーニャン」

「えっ?」

 

 紅莉栖はその名前に聞き覚えがあった。ちなみにネットで得た知識である。

 

「え、じゃ、じゃあ八幡ってあのALOのハチマンなの?」

「普段はアメリカにいるのによく知ってるな」

「え、あ、うん、たまたまよ、そう、たまたま」

 

 そう誤魔化そうとする紅莉栖を、ダルはジト目で見ながら言った。

 

「牧瀬氏はネラーだから……」

「だ、黙れ変態、勝手に人の個人情報をバラすな!」

「なるほど、それならまあ知ってるのも頷けるな」

 

 八幡は特に何か気にした様子も無くそう言った。

 

「な、何も言わないの?」

「ん、何がだ?」

「私がネラーだって聞いたでしょ?」

「ん、それが?」

「それがって……」

「別に犯罪予告をしたり、誹謗中傷をバラまいてる訳じゃないんだろ?」

「そ、それは当然だけど」

「なら別にいいだろ、ただ意見をぶつけ合ってるだけだろうしな」

「う、うん」

 

 紅莉栖はそう言われ、八幡の評価を更に上げた。

それと同時に、ソレイユは今後もっと伸びるだろうとも感じていた。

 

(やはりソレイユとの関係は良好である事にこした事は無いわね)

 

 紅莉栖はそう考えた後、話を元に戻し、

自分をかの有名なヴァルハラ・リゾートのメンバーに会わせる意味を八幡に聞いた。

 

「で、何故私をメンバーに紹介する必要が?」

「紅莉栖には後日ALOにインしてもらい、うちの拠点に来てもらって、

キズメルとユイに会ってもらいたいからな」

「そういえばさっきもそんな名前を言ってたわね、もしかしてメンバーの名前?」

「茅場製AI搭載型のNPCだお、牧瀬氏」

 

 その言葉に紅莉栖の心臓がドクンと跳ね上がった。

考えれば当たり前の事だった。ソレイユといえばALOを管理している会社であり、

今のALOには、実質的にSAOが内包されているのだ。

そのソレイユなら、茅場晶彦の研究成果をある程度受け継いでいても、

何の疑問も無いではないか。

 

「もしかして、ALOのNPCは全員茅場製AIを搭載しているの?」

 

 その紅莉栖の疑問は当然だった。だが八幡は、その言葉に首を横に振った。

 

「いや、本当の意味でそう言えるのはキズメルとユイだけだ、二人は特別なんだ」

「そう……とても興味深いわ、私の研究にも役に立ちそうだし」

「紅莉栖の研究?記憶関連だったよな確か」

「ええ、その研究の過程でベースにするAIを探していたんだけど、

どうも性能がいまひとつのものしか出来なくてね……」

「それじゃあスポンサーになる為に、

手土産として茅場製AIのプログラムの使用許可もつけるか?

もちろん他社に流出させないのが条件でな」

「そのキズメルとユイというNPCと話してみて、

好感触だったらむしろこちらからお願いするかも」

 

 紅莉栖はこれで研究がまた進むと素直に喜んだ。

まあそれにはレスキネンの許可が必要なのだが、

紅莉栖は教授がこの話を受ける事を確信していた。

同様に八幡も、この出会いを素直に喜んでいた。

 

(紅莉栖は今後に向けてのキーパーソンになる、そんな気がする)

 

「それじゃあこれで仮交渉は成立ね」

「今後もいい関係を築ければいいな」

「今のままでもこっちがもらい過ぎだし、この借りは必ず返すわ」

「その言葉、ありがたく受け取っておくよ」

 

 そして八幡と紅莉栖は握手をし、ダルを含めた三人は、

ヴァルハラのメンバー達が待つ店へと向かう事にした。

私も行きたいとごねるかと思われたフェイリスは、

予想に反して素直に三人を見送った。

 

「ここはフェイリスの出番じゃないのニャよ、

それに仕事を放り出すような女は八幡に嫌われると思うのニャ」

 

 フェイリスの言い分はこうであり、八幡は内心でその通りだと思った。

そしてキットが到着し、三人はキットに乗り込んだ。

紅莉栖はキットにも興味津々で、店までの道中、キットと楽しそうに会話していた。

 

「あ、そういえばキットにも、茅場製AIが使われていたっけ……」

「そ、そうなの!?」

「ああ、昔はそうじゃなかったらしいんだが、密かにバージョンアップしたらしい」

「八幡、やっぱりあなた凄いわ、他にも色々隠していそうだし、興味が尽きない」

「俺が凄い訳じゃないぞ」

「でもこれは、あなたがいるからこそ、

こういう状況になっているとも言えるんじゃない?」

「まあそうかもしれないけどな、やっぱり成果として誇るのは、

自分が汗をかいた結果についてじゃないと何となく気持ち悪いんだよ」

「いい心がけだと思うわ」

 

 そんな会話をしているうちに三人は店に着き、

紅莉栖は名残り惜しそうにキットに別れを告げた。

そして店の中に入ると、そこには都合のついたメンバー達がひしめき合っていた。

主役の美優と香蓮に、明日奈、和人、里香、珪子の学生組、

そして呼び出されたのであろう、雪乃、結衣、優美子に加え、クルスとめぐりがそこにいた。

それを見たダルは八幡にこう言った。

 

「八幡、これどゆ事?」

「ん、何がだ?」

「何でここには美人しかおらんの?リア充爆発しろ!」

「まあここにいる奴らは結局これからお前の知り合いにもなる訳なんだが?」

「ありがとうありがとう、僕は八幡の友達でいられてとても幸せだお!」

「分かってもらえて嬉しいよ、ダル」

 

 そして八幡は、その場にいる者達に声を掛けた。

 

「悪い、少し遅れちまった。よし、それじゃあこれから美優の歓迎会を開催する」


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