ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ACSについては、第347話「源氏軍の帰還」をご参照下さい。

2018/06/18 句読点や細かい部分を修正


第384話 フカ次郎歓迎会

「とりあえず最初に、俺がここにいる人達の紹介をするからな」

 

 八幡は集まった仲間達にそう言うと、順に紹介を始めた。

 

「最初は当然今回の主役、フカ次郎こと篠原美優だ」

 

 美優は眼鏡をクイッと持ち上げ、とても嬉しそうに言った。

 

「やっと皆さんとリアルでの繋がりを持つ事が出来て、

本当の意味でヴァルハラの一員になれた気がします、

これからも末永く、このかわいいフカちゃんを宜しくお願いします!

そしてリーダー、今日の記念にジュ・テーム!」

「珍しくしおらしいと思ったが、やっぱりうぜえ」

 

 八幡は、そう両手を広げながら迫ってくる美優の頭をガシッと掴んで止め、

そのまま香蓮の紹介を始めた。

 

「こちらは美優の友達の香蓮だ、ちなみに美優の事とは関係なく偶然俺と知り合いだった」

「小比類巻香蓮です、美優の保護者です。こんな困った友達ですが、

どうか皆さん、美優の事を宜しくお願いします」

「くっ、コヒー、自分だけいい子になりやがって、ずるいぞ!」

「いいからお前は少し自重しろ」

 

 そして次に八幡は、ダルの紹介をした。

 

「こちらはダル、スーパーハカーだ」

「ハッカーだろ常考」

「ダルにはソレイユで色々と仕事を手伝ってもらっているんだ、

そして最後にこちらは牧瀬紅莉栖、知っている奴もいるかもしれないが、

ヴィクトル・コンドリア大学の脳科学研究所の研究員で、

この前サイエンス誌にも論文が載った、いずれ世界的に有名になる人だ。

今度ソレイユのアドバイザーを頼む事になった」

「牧瀬紅莉栖です、宜しくお願いします」

 

 紅莉栖はそうシンプルに挨拶をした。

 

「紅莉栖はゲストとして今度ヴァルハラ・ガーデンに来てもらう事になるから、

今日は顔合わせの為に来てもらったんだ、もし中で会った時は、皆、宜しく頼むな。

キャラネームは……どうする?」

「そうね……それじゃあ紅莉栖をもじってクリシュナにでもしようかしら」

「という事だ、クリシュナはゲストだが、正式メンバー扱いとするから、

何か聞かれたら包み隠さず何でも教えてやってくれよな」

 

 その後、順番に皆が挨拶をし、場は歓談へと移行した。

 

 

 

「は、八幡八幡」

「ん、どうしたダル」

「さっきお礼を言っておいてアレだけど、僕がここにいるのってやっぱり場違いじゃね?」

「は?どこがだ?」

「そんなの僕を見ればわかるっしょ」

 

 そう少しおどおどしながら言うダルに、八幡はこう断言した。

 

「見ても分からん、お前は凄く頼りになるいい奴だ」

「でも……」

「過去に何かあったのか?」

「うん、まあ色々と……ほら、僕って見た目も中身もアレだから……」

「そんな頭の中にお菓子が詰まったような人達の事を気にする事は無いわ」

「雪乃」

「あっ、絶対零度様!」

 

 そう呼ばれた雪乃は、怒る事もなくにこやかに言った。

どうやらその呼び方は、もはや雪乃の中では悪口扱いはされていないのだろう。

 

「あなたが噂のダル君かしら、アルゴさんと同じくらい凄腕のハッカ-だと聞いているわ、

これから宜しくね、ダル君」

「はっ、はい、宜しくお願いします!」

「そんなに硬くならなくてもいいのに、ふふっ」

「ゆきのん、ヒッキー!」

「お、今度は結衣か」

 

 そこに結衣が現れ、嬉しそうにこちらに声を掛けてきた。

結衣はこの頃幼さも抜けてきており、年相応の色気を醸し出すようになってきていた。

当然ダルなどいちころである。

 

「あ、こちらが噂のダル君?聞いてた通り大きいねぇ」

「あ、ど、ども。えと、どんな噂を?」

 

 ダルは顔を紅潮させながらも、やや卑屈さの残る態度でそう言った。

いくら気にするなと言われても、染み付いた癖は中々抜けないものである。

 

「うん、いい友達が出来て嬉しいってヒッキーがね」

「ヒッキーって八幡の事だよね?そっか、そっか……」

 

 ダルはそう言うと、感極まったように八幡に抱きついた。

 

「八幡、僕達ずっ友だお!」

「ああ、凶真と三人で、これからもずっと仲良くやってこうな」

「おい八幡、俺の事を忘れるなよ!」

「おう和人、悪い悪い、話の流れでついな」

「黒の剣士様!」

「いいっ?さ、様付けはやめてくれよ!」

 

 ダルに突然そう言われ、和人は困ったような顔でそう言った。

 

「じ、じゃあ和人氏で」

「う~ん、それくらいならまあいいか」

「ねぇ、あ~しちょっと聞きたい事があんだけど」

「うおっ、何だよ優美子、いきなり背後から声を掛けるなよ」

 

 そこにひょっこりと、八幡の肩越しに優美子が顔を出した。

 

「で、何を聞きたいんだ?」

「それがさ……」

 

 優美子が言うにはどうやら最近スマホの調子が悪いのか何なのか、

ACS(AI・コミュニケーション・システム)が上手く機能しないらしい。

それをチラッと横目で見たダルは、それをまたたく間に解決してみせた。

 

「このアプリとACSは相性が悪いんだお、だからこのアプリを一度削除して、

同じような別のアプリに変えれば動作が良くなるお」

「ダルはACSの事にも詳しいのか」

「うん、前にこれの改良を手伝わさせられたんだお」

 

 そして一瞬で問題を解決してもらった優美子は、当然ダルに好意を抱いた。

 

「あんた本当に凄いんだね、え~と、ダル君だっけ?ありがと」

「あ、ど、どういたしまして」

 

 優美子はこのメンバーの中では、ダルが一番苦手とするタイプだった。

優美子の見た目からしてどうしても腰が引けてしまうのだろう。

だが優美子の方はそんな事は無いらしく、他にも色々な事を気軽にダルに尋ねてきた。

それに答えているうちに、ダルも苦手意識が消えたのか、

段々と普通に話す事が出来るようになっていた。

そしてそれをキッカケに、他の者達もダルに色々聞いてきた為、

ダルは一時的に女子に囲まれる事となった。

ダルはそれに答える合間に、そっと八幡に話し掛けた。

 

「八幡、もしかして僕、今モテてる?」

「おう、ここにはお前の事を見た目で判断する奴はいないからな」

「まさか僕の身にこんなイベントが発生するなんてビックリだお」

「大げさだな、まあダルが喜んでくれたならそれでいいさ」

 

 

 

 一方美優達は、明日奈、里香、珪子の学生組と楽しそうに歓談していた。

香蓮は少し気後れがあるのか、基本あまり喋る事は無かったが、

それでも時々は会話に参加しつつ、ニコニコと嬉しそうに美優を眺めていた。

 

「大人しいな、香蓮。まあ香蓮にとっては知らない人ばっかりだし、

こんな所に連れてきちゃってごめんな」

「あ、八幡君、ううん、私も十分楽しんでるから気にしないで」

「香蓮は特にゲームとかはやってないんだよな?」

「うん、ALOはやってみたい気もするんだけどね」

「その時は是非声を掛けてくれ、多分香蓮は強くなると思うしな」

 

 その言葉に香蓮はきょとんとした。

 

「ど、どうしてそう思うの?」

「お前、暴走する美優をあっさりと止めただろ?その姿を見た時にそう思ったんだ」

「そ、そうなんだ……そういうの、自分じゃ分からないから」

「まあそうだよな、普通に暮らしてて、いきなり『あなた、戦いに向いてますね』

とか言われても、困るだけだよな」

「あは」

「とりあえず今度、ALOのソフトをプレゼントするよ、

それで合わないようだったら仕方ない、他のゲームにコンバートしてみればいいさ」

「コンバート?」

 

 香蓮がきょとんとした為、八幡はコンバートのシステムを香蓮に説明した。

 

「そんなのがあるんだね」

「ああ、だから気楽にな」

「小さくてかわいいキャラになれたらいいなぁ」

 

 その香蓮の呟きを聞いた八幡は、遠慮がちに香蓮に尋ねた。

 

「やっぱり身長の事が気になるのか?」

「うん、今まで生きてきて、身長の事で何もいい事は無かったからね」

「……でも多分俺は、もし香蓮が普通の身長だったら、

最初に財布を拾った時何も言わなかったと思うから、

多分そうしたら、今こうやって知り合ってたかどうかは分からないぞ」

「あっ……」

 

 香蓮はそう言われ、初めてその事に気がついた。

 

「そっか……いい事はあったんだね」

「俺と知り合った事がいい事かどうかは分からないけどな」

「そんなのいい事に決まってるよ」

「そ、そうか」

 

 香蓮はそう断言し、八幡は頭をかいた。そして香蓮は、小さな声でそっとこう呟いた。

 

「もう私、今まで嫌だった分は全部取り返しちゃってたんだ……」

 

 

 

「どこかで見た顔だと思ってたけど、そっか、アメリカで講演した時……」

「うん、その後の懇親会で、少しお話した事があるよ、お久しぶり、紅莉栖さん」

 

 紅莉栖とめぐりはそんな会話を交わしていた。どうやら二人は知己であったようだ。

もっとも一度話した事があるだけのようであったが。

 

「今はこっちに?」

「うん、今はソレイユで、メディキュボイド部門の仕事をしているの」

「あ、そうなんだ、メディキュボイドって、どう?」

「あれが完全に実用化されたら、助かる命が沢山出てくると思う」

「そっか……安全性を担保したいから協力してくれって言われたんだけど、

何か問題でもあるのかしらね」

 

 その言葉に少し考え込んだめぐりは、紅莉栖の経歴を考慮しながら慎重な口調で言った。

 

「八幡君の考えは私には分からないけど、想像で言うならば、

多分VR環境でずっと過ごす事でストレスがたまりすぎないか心配してる気もする」

「ああ、なるほど、ずっとその環境にいた場合、脳がどんな判断を下すか……

確かにそれなら私の出番かもしれないわね」

「うん、多分他の分野の専門家にも声を掛けるつもりだとは思うんだけどね」

「なるほど参考になったわ、参考ついでにもう一つ聞いてもいい?」

「あ、うん」

「キズメルとユイについて……」

 

 それを聞いためぐりは、そっちは完全に紅莉栖の専門分野だなと、

かつて見た紅莉栖の講演の内容を思い出しながら言った。

 

「『側頭葉に蓄積された記憶に関する神経パルス信号の解析について』」

「あ、うん、それが私の研究、覚えててくれたんだ」

「そこにキズメルとユイちゃん……?

もしかして、その解析した記憶を茅場製AIにコピーするつもり?」

「驚いた、今研究しているのがまさにそれ。どう、面白いと思わない?」

「画期的だとは思う」

「私達はそれを、アマデウスと呼んでいるの。擬似的な物はもう完成してるんだけど、

反応がどうもね、どうしても違和感を感じちゃうのよ。

だから八幡との出会いには少し期待してるの」

「そっか、うん、研究が進むといいね!」

「ありがとう、もちらんそちらにも全力で協力させてもらうわ」

 

 

 

「今日はとても楽しかったです、またALOの中でも楽しくフカ次郎と遊んで下さい」

 

 そんなフカ次郎の挨拶で、この日の集まりは盛況のうちに幕を閉じた。

 

「本当に送っていかなくていいのか?」

「うん、美優が夜の町を少し歩いてみたいんだって」

「まあ確かに、車で通過するだけってのはつまらないよな」

「あは、そうだね」

「それじゃあALOのソフトの手配が出来たらまた連絡するわ」

「うん、本当にありがとう」

 

 

 

 後日香蓮は、八幡にもらったALOのソフトを使ってログインを試みたのだが、

出来たキャラが高身長だった為、

アミュスフィアがショックを受けた香蓮の神経パルスの異常を感知し、

それは果たされなかった。その事を泣きながら伝えてきた香蓮の様子を見て、

八幡は種族変更サービスの導入を決意する事となったのだが、

その結果どうなったかは後日語られる事になるであろう。

 

 

 

 そして八幡の下に美優が挨拶に来た。八幡はそんな美優をじっと見つめた。

 

「な、何?もしかしてフカちゃんの体をご所望ですか!?

ごめんコヒー、今日は一人で帰って!私はこれからリーダーを襲わないといけないから!」

「うぜえ」

 

 そう言いながらも八幡の手は、優しく美優の頭を撫でていた。

 

「リ、リーダー!?あれ?えっと、嬉しいんだけど、ちょっと恥ずかしいでしゅ……」

 

 美優は顔を赤くして、そのまま下を向いた。そして八幡は、美優の耳元でそっと囁いた。

 

「確かにうざいが、お前はそのままでいろよ、今日は本当に楽しかったな、

襲われてやる気はまったく無いが、また必ず会いに来いよ」

 

 そして八幡は、自分の連絡先を美優と香蓮に渡した。

美優は顔を紅潮させたまま何度もこちらに振り返り、

ぶんぶんと手を振りながら香蓮と共に帰っていった。

 

「さて、後は……」

 

 八幡はそう言いながら辺りを見回した。

明日奈を始めとする女性陣は、そのまま次の店で女子会を行うらしい。

ダルは近くに寄りたい店があるようで、その場に残っていたのは、

八幡の他には和人と紅莉栖だけであった。

 

「ふむ、おい和人、たまにはうちに泊まるか?」

「お、いいね、そうするか」

 

 そして八幡は、紅莉栖も同じように自宅に誘った。

 

「紅莉栖さん、和人と一緒に、良かったらこのままうちに来ませんか?」

「……と言うと?」

「うちには予備のアミュスフィアとALOのソフトがあるんで、

良かったらそこからログインして、キズメルとユイと話せばいいんじゃないかって思って。

帰りは俺が車で送りますから」

「それは願ってもないけど、いいの?」

「ええ、問題ないですよ、俺は一人暮らしじゃなく自宅なんで、

ログインする部屋は俺達とは別にして、

そこからログインすれば身の危険を感じる事も無いと思いますしね」

「ふふ、あなた達相手にそんな心配なんかしないわよ」

「まあ一応です、それじゃあ行きますか」

 

 こうして紅莉栖は、和人と共に八幡の家に招かれる事になった。


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