ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/18 句読点や細かい部分を修正


第387話 公式アナウンス

 その日の夜、GGOの公式から一つのアナウンスがあった。

 

「おい、ついに公式から発表があったぞ」

「第三回BoB……思ったより早かったな」

「またゼクシードの野郎が調子に乗るのか……」

「さすがに今回はシャナも出るだろ、そしたらもうあんなマグレは起こらないさ」

 

 そう、ついに公式から第三回BoBの開催が発表されたのだ。

多くのプレイヤーの予想よりも、これはかなり早い開催だった。

実はこれは、前回の結果に納得しない者がかなり多くおり、

その者達が早く開催するようにメールをしまくった結果である。

これにいち早く反応したのはMMOトゥデイであった。

 

 

 

「第三回BoB,有力候補座談会をやってほしい」

 

 こんな要望が、MMOトゥデイのシンカーの下に多数寄せられていた。

シンカーはユリエールと相談し、一番視聴数が稼げるタイミングを計っていた。

開催が決まった今、まさにそのタイミングが訪れたという訳だった。

 

「なぁユリエール、シャナさんは出てくれるかなぁ?」

「無理じゃないかしら、シャナさんってこういうのにはまったく興味が無いしね」

「だよね……でもゼクシードさんがメインだと、盛り上がらないだろうなぁ……」

「せめて十狼から何人かは来てほしいところよね」

「とりあえず今はシャナさんはいないみたいだから、今度聞いてみようか」

「そうね、他の人は来てくれるかもしれないしね」

 

 

 

 そして次の日の夜、シャナは美優を空港まで送った後、GGOへとログインした。

昼に香蓮と美優に付き合って東京中を走り回ったシャナは、少し疲れていたので、

鞍馬山でのんびりしていたのだが、丁度そこにシンカーが尋ねてきた。

 

「シャナさん、お久しぶりです」

「シンカーさん、戦争の時は本当にありがとうございました」

「いえいえ、こちらも楽しんで中継させてもらったんで」

 

 二人はそんな社交辞令を交わし、直後にシンカーが本題に入った。

 

「第三回BoBの有力プレイヤーの座談会?」

「はい、昨日の夜に第三回BoBの開催が発表されたんで、

タイミング的には今が丁度いいんじゃないかと思ったんですよ」

「お、ついにですか、それはまだ知りませんでした」

「で、その番組にシャナさんや十狼の出場予定の方が出てくれないかなと」

「何人集めるつもりなんですか?」

「全部で四人くらいが妥当かなって思うんですよね」

「四人……」

 

 シャナはその言葉に少し考え込んだかと思うと、困ったような顔でシンカーに言った。

 

「うちから出るのは多分、俺、ピトフーイ、シノン、銃士X、

後は確認していませんが、もしかしたらシズカ辺りも出るかもしれません。

でもピトフーイを座談会に参加させたら、多分放送事故になっちゃいますよね……」

「あっ……」

 

 シンカーはそう言われて確かにそうかもしれないと思いつつも、

一方でそれはそれで面白いかもしれないと内心思っていた。

 

「まあその辺りは多少抑え目でと事前にお願いしておけば何とでもなりそうですが……」

「他には誰かに声を掛けているんですか?」

「ゼクシードさんと闇風さん、それに薄塩たらこさん辺りはいいかなって思うんですが……」

「ああ、それなら前回最後まで残った五人にすればいいんじゃないですか?」

 

 そのシャナの提案に、シンカーは難しい顔をした。

 

「それも考えないでもなかったんですが、やはりシャナさんがいないというのは……」

「しかしそうなるとバランスがな……」

「確かに元源氏軍ばっかりになっちゃいますよね、

まあそれだけ源氏軍が強かったって事なんですけど」

「座談会というからには、ある程度散らしたいですよねぇ……

それじゃあゼクシード、闇風、俺の三人でもいいかもしれませんね」

「その三人を選んだ意図をお聞きしても?」

 

 シャナはそのシンカーの言葉に、頷きながら言った。

 

「戦闘スタイルが綺麗に分かれますからね、ゼクシードは近接パワータイプ、

闇風はランガン、俺は狙撃、みたいな」

「ああ、確かに!」

「それにこれなら俺が上手くあの二人を取り持てば、

三すくみみたいになってバランスも取れそうですしね」

「ですね、分かりました、その三人という事で調整してみます」

「まあもしシノンが出てみたいって言うなら、俺の代わりにあいつにしましょう。

女性が一人いると華やかさも出るし、

あいつならまあバランスもちゃんととってくれると思いますしね」

 

 シンカーはそれにうんうんと頷きながら、シャナに言った。

 

「実はシャナさんは出てくれないんじゃないかって、事前にユリエールと話してたんですよ、

ほら、シャナさんはこういうのにあまり興味が無さそうじゃないですか」

「まあ確かにそうなんですけどね、出来る事なら遠慮したい気持ちもあります。

下手な事を言うと、ヴァルハラの奴らにバレちゃうかもしれませんし……

あ、そうなるとシノンもか……でも結局本戦を見る奴がいたらバレちまうんだよな、

それを言ったら第二回BoBを見た誰かがもう指摘してるかもしれないな……」

「ああ、そういう事情もありましたか、う~ん」

 

 その言葉を受け、シンカーは若干の申し訳無さを感じ、再び考え込んだ。

 

「それじゃこういうのはどうですか?ゼクシードさん、闇風さんに加え、

もう一人は銃士Xさんにお願いして、

シャナさんは最後にサプライズでちょっと顔を出すだけにする、

銃士Xさんならバランス的にも中距離狙撃タイプですし、問題無さそうな気もします」

「あ、いいですねそれ。銃士Xなら俺が言えば出てくれると思いますしね」

「それじゃその方向でいきますか!」

「はい!」

 

 こうしてその方向で話が進む事になり、その事が大々的に告知された。

もちろんゼクシードが出ないはずもなく、闇風もこの企画には乗り気だった。

銃士Xがシャナの頼みを断るはずもない。

そしてこの件に関しては、当然十狼内でも話題になった。

シャナはたまたま今話に出た、ピトフーイ、シノン、銃士Xがいる時に、

その事について説明をした。

 

「まあ私みたいなかわいい子が出た方がいいってシャナが言うのも仕方ないけど」

「調子に乗んな」

 

 シノンが冗談めかしてそう言い、シャナは即座に突っ込んだ。

 

「まあでも、私は人前で話すのはそんなに得意じゃないし、

そういうのはちょっと遠慮したかったから丁度良かったわ」

 

 シノンは、あっさりとそう言った。

 

「私は出ても良かったけど……」

「いや、お前を出すのは俺的に不安で仕方がない」

「え~?そういう場なら、さすがの私も自重するわよ?」

「まったく信用出来ねえ、特にあのゼクシードがいるんだ、

カチンときたらお前絶対暴走すんだろ」

「まあそれはほら、程々に……ね?」

「お前の程々は全然程々じゃねえんだよ」

 

 そう言われたピトフーイは、やれやれというゼスチャーをしながら言った。

 

「まあ実はその日は仕事があったから、どっちにしろ無理なんだけどね」

「だったら最初からそう言え」

「もう、それじゃあシャナをいじれないじゃない」

「お前な……」

 

 そしてシノンとピトフーイは、銃士Xの手を握りながら言った。

 

「という訳でイクス、任せたわよ」

「十狼魂を見せてやりなさい!」

 

 その言葉に銃士Xはこくこくと頷いた。

 

「まあマックスはマックスで不安もあるんだが、お前ちゃんと喋れるか?」

「肯定、平気」

「ほらお前のそういうとこ!こういう場でくらいは普通に喋ってもいいんだぞ?」

「それだと私の個性が……」

「個性を出すのは別の機会にしよう、な?」

「分かりました、そういう事なら立派にやりとげてみせます」

「おお、いいぞ、その調子だ」

 

 そして銃士Xは、上目遣いでシャナに言った。

 

「それでシャナ様、その……もしシャナ様がその場にいたら、

二人のバランスをどうとるのか、もしくは二人の事をどう思っているのか、

リアルでじっくりと教えて頂けたらと……」

「ああ、そうだな、バランスをとるのに必要かもしれないな、

分かった、それじゃあこの後どこかで落ち合うか」

「はい、必要な事だと思うので」

 

 銃士Xは見た感じは表情を変えず、淡々とそう言った。

だがピトフーイとシノンは見てしまった、銃士Xが密かにガッツポーズをした所を。

 

「そ、その手があったのね……」

「イクス、恐ろしい子……」

 

 だがそれを止める訳にもいかず、二人はシャナと銃士Xを見送る事しか出来なかった。

 

 

 

「おう、待ったか?」

「いえ、八幡様を待つのは楽しいです」

「楽しいってお前な……」

「だって、必ず来てくれる人をドキドキしながら待つのは嬉しい事じゃないですか」

「まあそれはそうだが……」

「昔はただ当てもなく待つだけだったから、それに比べれば今のクルスは幸せです」

「そうか、まあそれならいい」

 

 そして二人は並んで歩き出した。八幡も確かに道行く女性達の目を集めるのだが、

クルスはそれ以上に、道行く男共の視線を集めていた。

 

「それじゃああの店にでも入るか」

「はい!」

 

 クルスは嬉しそうにそう言い、二人はそのまま店に入り、席についた。

そしてクルスを先に席に座らせ、自らも席につこうとした八幡は、

店内でも男共の視線を感じ、座る前にクルスの全身をちらっと見つめた。

 

「あ、そうか……」

 

 そして八幡は何かに気付いたようにそう呟くと、クルスに向かってこう言った。

 

「マックス、これを膝の上に掛けておけ」

 

 そう言って八幡は、バッグからひざ掛けを取り出してクルスに渡した。

 

「ありがとうございます、でもそんなに寒くはないですよ?」

「そうじゃねえ、お前のその、な、スカートが短いからちょっと心配になってな」

「ああ!」

 

 そしてクルスは嬉しそうに八幡に言った。

 

「八幡様以外にあまりじろじろ見られちゃうのは確かに嫌ですしね」

「俺にも見せちゃ駄目だろ」

「別に私は構わないんですけど……」

「とにかく駄目だ。あ!」

 

 そして八幡は更にこう言った。

 

「あと座談会の時も、いつもみたいなスカートは絶対にはくなよ、いいか、絶対にだぞ!」

「あ、はい、分かりました」

 

 クルスは含み笑いをしながら八幡に頷いた。そして八幡は本題に入った。

 

「よし、それじゃあ先ずはゼクシードからな」

「はい」

「俺が思うに、あいつはまったく普通だ。装備の力を借りている感は否めないが、

基本はしっかり押さえているし、戦闘中の冷静さも兼ね備えている」

 

 それを聞いたクルスは、頷きながらも少し驚いた表情で言った。

 

「意外に高評価なんですね」

「俺はあいつを低く評価した事は無い」

「まあ、確かにそうですね」

「そういうスタイルでいくなら、確かに装備を充実させる為にSTRを上げるのは正解だ、

だがあいつは前、AGIタイプを賞賛している時期があったからな、

その事に関してどう答えるか見ものだから、その事については突っ込んでもいい。

というかむしろ突っ込め、闇風からは言いにくいだろうから、お前が言ってやれ」

「分かりました」

「次に闇風だが……」

 

 八幡は腕組みをすると、意外な事を口に出した。

 

「あいつは多分、自分の力をまだ完全には出せていない気がする」

「そうなんですか?」

「ああ、多分だけど、あいつはもっと早く動けると思うんだよ。

でも常識が邪魔をしているのか、全力だと脳がついていかないのか、

とにかく何て言えばいいのかな、動きが一般的な動作の延長でしかないんだよな」

「何となくなら分かりますが……」

「うちでのバイトで、もっと自分には人としてありえない動きが可能だと知り、

それをGGOに応用出来たら、あいつはもっと強くなる……と思う」

「なるほど、人の動きとはこういうものだっていう思い込みが邪魔をしていると」

「そんな感じだな、参考になったか?」

「はい!」

 

 そしてその後も、二人は色々な話をした。

クルスもこの機会を逃さないようにと、普段から用意していた会話のネタを存分に披露し、

まるでデートのような感覚で、八幡との会話を楽しんでいた。

 

 

 

 一方その頃、ラフコフ陣営も、慌しく準備をしていた。

 

「ゼクシードの住所は?」

「バッチリです、直ぐに兄さんと一緒に調査した結果、丸でした」

「そうか、それは朗報だな!」

「顔を隠すマスク、マント、それに腕も何かで隠したい」

「後は銃だな、通常時と『その』時で銃を使い分けないといけないからな」

「あ、それじゃあこれなんかどうですか?」

 

 そう言ってシュピーゲルが差し出してきた銃は、トカレフだった。

別名黒星、これはかつて詩乃が銀行強盗を撃ち殺した銃である。

シュピーゲルは学校で詩乃を脅すのに使われた銃がこれだと把握しており、

今回はあえてこの銃を用意したのだった。その意図をシュピーゲルは何も語らなかったが、

この銃を見せれば、あるいは詩乃も自分の言う事を聞くかもしれないという、

そんな醜い意図が透けて見えるのは間違いない。

そして二日後、GGO内で座談会の中継が始まった。


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