ちょっと暗い話が続いたので、この辺りでゆるい話を書きたくなりました!
** GWですし、今日も18時にもう1話投稿します **
「あ?すまん、もう一回頼む」
「あ、はい、それじゃあもう一度……」
クルスはソレイユに向かい、直接八幡にさっき体験した出来事の説明をしていた。
電話でもいいのではないかと思うのは至極当たり前の考えであるが、
それは単純に、クルスが八幡に会いたかっただけなのである。
この辺り、『八幡相手には肉食系』を実践しているとも言える。
まあこのくらいで肉食系とか言っていたら、例えばミサキ辺りは鼻で笑う事だろう。
「…………意味が分からないな、いや、分かるんだが」
「…………ですよね」
「ゲームの中でプレイヤーが銃で撃たれたら回線落ちしたって事だよな?
でももしそんなバグが存在するなら、他でも絶対に起こってるよな、それ」
「ですね……」
クルスは、こんな事は八幡に報告するような事じゃなかったかもと一瞬考えた。
そんなクルスの考えを察したのか、八幡はクルスの頭を撫でながら言った。
「まだどういう事なのかは分からないが、知っているのと知らないのでは雲泥の差がある。
よく報告してくれたな、マックス」
「は、はい」
クルスは頭を撫でられ、嬉しそうに目を細めながら言った。
そんな二人に横から声が掛かった。
「ちょっとちょっと、わざわざ私の横でやるとか、ウケないんだけど」
「おっと、悪い折本、もしあれならお前の頭も撫でてやろうか?」
「えっ?」
その言葉が示す通り、そこは受付の隣であった。八幡がかおりに挨拶をし、
上の階に向かおうとした矢先にクルスに呼び止められた為である。
そして八幡がかおりにそう言った瞬間に、
たまたま周りにいた女子社員達から羨望の視線がかおりに集まった。
「えっ?えっ?」
かおりはきょろきょろと周囲に目をやり、その事に気付くと、
どうしようかと頭を悩ませ始めた。
「う、う~ん、ここで便乗して頭を撫でてもらうのはどうなの?アリ?ナシ?」
「お~い折本、冗談だからな~?」
「私的にはアリね、でもこの視線……新入社員の私としては、
やっぱり先輩達との関係には気を遣う訳で……」
「どうした?俺達はそろそろ上に行くぞ、お~い」
「あ、でも千佳も言ってたっけ、私はそういう所がドライすぎるって、
そのせいで人生最大のチャンスを中学生の時に棒に振ったんだし……」
「まあいいや、行くぞマックス」
「あ、はい」
「そうよそうよ、こういう時は全力でその言葉にしがみつかないと駄目なのよ、
例え冗談でも本当に変えてしまうくらいのパワーが、今の私には必要、アリね、アリだわ」
そしてかおりは、ぐわっと顔を上げてこう言った。
「是非お願いします!」
だがその時にはもう、八幡とクルスはエレベーターで上の階に向かった後であり、
その場には二人はもういなかった。
かおりはその事に気付いてガックリと肩を落とし、隣に座っていた同僚の他に、
周囲に残っていた女子社員達がかおりの下に駆け寄り、口々にかおりを慰め始めた。
「かおりちゃん、ドンマイ」
「今度はそのチャンスを逃さないようにね」
「迷ったら負けよ、いい?忘れちゃだめよ、迷ったら負け!」
「は、はひ……」
かおりは盛大に顔を赤くしながら慰められ続けた。
そんな場面に通りかかった薔薇は、何事かと思いながらもその横を通り過ぎ、
秘書室へと向かう為にエレベーターの中に入った。
そして階数のボタンを押そうとした薔薇の視界が急に暗くなった。
「す、すみません、乗りまぁす!」
「あら、ダル君じゃない」
「あ、薔薇さん、お久しぶりだお」
視界が暗くなったのはダルの巨体のせいだったようだ。
「今日は開発室?」
「うん、これでも僕は受けた仕事に対しては真面目だからね」
「そう、頑張ってね」
そして薔薇は秘書室の扉を開け、中に八幡がいたので少し驚きながら言った。
「あれ、八幡来てたんだ」
「おっ、八幡?」
その声で誰がいるのか分かったのか、八幡は扉の向こうから声を掛けてきた。
「お、小猫とダルか、俺は今日は紅莉栖を眠りの森に案内する為にここで待ち合わせなんだ」
「あ、そうだったのね」
「そうだマックス、せっかくのこの機会に、ダルにさっきの事を聞いてみるか?」
「それはいいかもですね」
「ついでにアルゴとイヴも呼ぶか」
「あ、それじゃあ私、呼んできますね」
「おう、頼むわ」
そして秘書室に、八幡、小猫、クルス、アルゴ、イヴ、ダルの六人が集まった。
「ハー坊、何かあったのカ?」
「それがな、今日GGOでこんな事があったらしい。クルス、説明してくれ
そしてクルスの説明を聞いた一同は、難しい顔をして黙り込んだ。
「で、どう思う?プレイヤーが中から何かをやって、
他のプレイヤーを回線落ちさせる事って可能だと思うか?」
「うん、無理だナ」
「無理だと思います」
「どう考えても無理だお」
「やっぱりそうか……」
八幡はその言葉に頷いた。
「そもそも縛りがきつすぎるお、ゲームの中にPCの端末か何かが伸びてて、
外部に干渉出来るならまだしも、ただ銃で撃つだけじゃちょっとね」
「だよな……」
「他にそんな例は無いの?」
「今のところは確認されてないな……」
ゼクシードの時の死銃の件に関しては、
一人だけ音声のみをアップロードしていた者がいた。
だがそのタイトルは『座談会の時の出来事、音声のみ』だけであり、
説明書きも無かった為、まったく拡散していないのが現状だった。
「そもそもアミュスフィアに外部から簡単にアクセスなんか出来ないお、ね、アルゴ氏」
「ああ、あれはああ見えてナーヴギアと同じくらいセキュリティだけは凄まじいんだよ、
もし素人……かどうかは分からないが、簡単にアクセス出来て中をいじれるようなら、
そもそもオレっちやハー坊や他の皆は、あっさりとあそこから脱出出来ていたはずダ」
「そう言われると確かにそうだな」
八幡はそう呟くと、とりあえずこの件に関しては一時棚上げする事にした。
「まあ他の事例や実際の詳しい映像でも無い限り、検証は無理だな」
「あっ、それならもう動画とかアップされてるんじゃね?
ちょっとそこのPCで調べてみるお」
「お、確かにそうだな、すまんダル、頼むわ」
「任されよ!」
そして直ぐにダルはその動画を見付け、秘書室のモニターにそれを映し出した。
「被害者の姿が見えないな」
「まあ仕方ないっしょ、犯人の姿が見えるだけでも御の字だと思われ」
「ふむ……小猫、こいつに見覚えは?」
「ここまで色々隠されるとちょっと判別が付かないわね」
「そうか……しかしこの雰囲気は……」
「ラフコフの誰か?」
「モニター越しだと何ともだが、赤目のザザに似ている気もするな」
八幡は一応そう言ったが、まったく確証は無い。
「どうだ?」
直後に八幡はアルゴ達にそう尋ねたが、三人とも首を振るだけだった。
「何もしてないと思うゾ」
「ですね」
「こんなんで何か出来るなら、こちとら商売あがったりだお」
「そうか……じゃあやっぱりこの件に関しては保留するしかないな」
「まあ少なくとも単独じゃ絶対無理だお、銃で撃つ担当と何かの細工をする人、
複数いないと絶対に成り立たない事象だお」
「何か……か」
それが何なのか八幡には分からない、しかし八幡は、悪い予感を抑える事が出来なかった。
こういう時の予感は、得てして当たるものだ。
「まあいいや、今日はわざわざこっちに来てもらってありがとうな。
また何か分かったら相談すんわ」
こうしてその場は解散となり、薔薇はついでとばかりに八幡に話し掛けた。
「そういえばついに見付けたわ、私が攫われた時の監視役」
「お、そうか、で、動画は手に入ったのか?」
「ええ、バッチリよ、今から詳しく調べる所」
「そうか」
「でも本人に聞いても、完全に顔を隠してたって言ってたし、
黒幕の正体を探るのは期待薄かも」
「なら試しにそいつの声紋と、さっきの死銃とかいう奴の声紋を比べてもらってくれ」
「……分かったわ、頼んでみる」
八幡はそれだけ伝えると、クルスと共に部屋を出ていった。
「さて、俺は用事で待ち合わせの後に出かけるが、マックスはどうする?」
「あ、私は雪乃と杏と待ち合わせがあるので学校に戻ります」
「そうか、二人によろしくな」
「はい!」
そう言って八幡はクルスを見送ると、なんとなく受付に戻ってみた。
そんな八幡の姿を見付けたかおりは、顔を赤くして八幡に詰め寄った。
「ちょっと、何で急にいなくなってるのよ!」
「いや、俺は何度もお前にそろそろ行くぞって言ったからな」
「ぐぬぬ……」
「ぐぬぬってお前な……どこでそんな言葉覚えたんだ」
八幡は呆れたようにそう言い、かおりは言葉を返せずぐぬぬ状態のまま八幡を睨んでいた。
丁度そこに、こっちでバイトをするつもりなのだろう、詩乃が通りかかった。
「あれ、修羅場中?」
「お前いきなり何言ってるんだよ……」
詩乃にいきなりそう言われ、八幡は渋い顔をした。
「俺は今、人を待っている最中だ」
「そう、しかしそろそろ暑くなってきたわね、喉が渇いて仕方ないわ」
「そういやそうだな、何か飲むか?」
「私はまあバイト中にタダで飲めるけど、せっかくだから奢ってもらおうかしら」
「それじゃあ上に行くか」
「オーケー」
「それじゃあかおり、またな」
「あ、ちょっと!」
「かおりさん、また後でね」
「あ、うん、またね詩乃ちゃん」
そんな二人の背中を見送りながら、かおりはぼそりと呟いた。
「やるなぁ、でも昔の私もあんな感じだったはず、やっぱり年はとりたくないわ……」
「で、バイトにはもう慣れたか?」
「うん、私にもこんな動きが出来るんだなってちょっとびっくりする事もあるわね」
「まあその調子でどんどん強くなってくれ、第三回BoBでは手加減しないけどな」
「ふふん、前回の準優勝者として受けてたつわ」
「ちっ、「調子に乗んな」」
「ん?」
「あっ……」
八幡は、自分の声がハモって聞こえた気がした為、首を傾げながら声のした方を見た。
そこには詩乃のバッグが置いてあるだけだったが、その中から小さな手が出ており、
その手は八幡の袖を掴んでいた。それを見た詩乃がやばいという顔をした為、
八幡はそれが何なのかハッキリ理解した。
「…………おい」
「おう、何だ俺」
「何でお前がここにいる」
「もちろん詩乃に連れられてきたんだよ」
そう言われた八幡は、詩乃をジト目で睨んだ。
「…………おい詩乃」
「や、ち、違うの、はちまんくんには説明しなかっただけで、
メンテナンスの為に連れてきただけなの」
「メンテ?まあそれならいいが、本当だろうな」
「うん、本当だって、はちまんくんを外に連れ出すなんて、本当にたまにしか……ああっ!」
「たまに……な」
「え、えっと……」
そこに救世主が現れた、ダルと紅莉栖である。
「あ、やっぱりここにいたんだ八幡、牧瀬氏を案内してきたお、まあついでなんだけどね」
「おう、ダルと紅莉栖か、でもついでって何のだ?」
「はちまんくんのメンテなのだぜ?」
「ああ……」
その思わぬ助けを受け、詩乃は一気に攻勢に転じた。
「ほ、ほら、本当だったでしょう?」
「お、おう、疑って悪かったな」
「本当に悪いと思うなら、それなりの誠意を見せなさい!」
「え?あ、お、おう、考えとくわ」
「絶対よ、絶対だからね!」
「わ、分かった……」
詩乃は自分がはちまんくんをたまに外に連れ出していた事を誤魔化す為に、
押して押して押しまくった。八幡はまんまとそれに乗っかり、つい頷いてしまった。
それを見たダルは、憤慨したように言った。
「僕の前で逆ナンとか、これってどんな罰ゲーム?リア充爆発しろ!」
「それじゃあ私はバイトだから、ダルさん、この子をお願いね」
「うん、任されたお!」
「お前やっぱり変わり身早いよな……」
そんな一連の遣り取りを目にした紅莉栖は、くすくす笑いながら言った。
「あんたってやっぱり押しに弱いのね」
「な、何だよ、自覚してますが何か?」
「子供か」
「これでもお前と違って立派な成人ですが何か?」
「はぁ……まあいいわ、それじゃあ早速行きましょっか、その眠りの森って所に」
「おう、そうだな」
そして紅莉栖は、はちまんくんを横目で見ながら言った。
「で、橋田、その目付きの悪い人形は何?」
「目付きが悪いとは失礼だな、俺ははちまんくんだ、
お前の事は、前回のメンテの時に凶真から聞いたぞ、実験大好き変態天才少女め」
「なっ…………」
紅莉栖はいきなりはちまんくんがそう言った為、絶句した。
だがその理由はいきなり失礼な事を言われたからではなく、怒ったからでも無い。
紅莉栖は目を輝かせると、いきなりダルからはちまんくんを奪い取った。
「ちょ、ちょっと八幡、これってもしかして、アマデウスみたいなものじゃないの?」
「ん、あ、おう、違うぞ」
「え?だって……」
「こいつは俺と記憶を共有してはいない、あくまで他人の目から見た俺だ。
俺が言ってる事は分かるか?」
「……つまり、こういう時にこういう反応をするっていうパターンと、
作った人の知る限りの八幡のエピソードから構成されてるって事?」
「理解が早すぎてちょっと引くわ……まあ使ってるAIは茅場製だけどな」
「なるほど……」
紅莉栖はそう言うと、興味深そうにはちまんくんに話し掛けた。
「あなたと八幡の違いって何?」
「そうだな、俺の方があいつよりも素直な分いい男だな」
「例えばどんな風に?」
「ふふん、俺はあいつがやりたくてもやれない事を平気で出来る、例えばこんな風にだ」
そう言ってはちまんくんは、いきなり紅莉栖の胸に顔を埋めた。
「なっ、ななななな何すんのよ八幡!」
「俺じゃねえから……作った奴のせいだから」
八幡は、紅莉栖にそう苦情を言った。
紅莉栖ははちまんくんをあっさりと持ち上げると、感心したように言った。
「でも凄いわこれ、これがアマデウスだって発表しても、信じてもらえるレベルかも」
「これじゃねえ、はちまんくんだ、栗悟飯とカメハメ波」
「うわ、その反応、凄くいい!」
「ん、何だそれ?」
「私の@ちゃんねるでのハンドルネームよ!そんなのはいいから!」
「お、おう……」
紅莉栖は興奮のあまり、自分が何を言ったのか気付かないままそう言った。
そんな紅莉栖を見て、はちまんくんはやれやれというゼスチャーをした。
「お前も詩乃も、俺の事が好きすぎなんだよ」
「詩乃?詩乃って?」
「さっきいただろ、俺のマスターだ」
「あ、さっきここにいた子ね」
「言っておくが、お前と同い年だからな」
「あ、そうなんだ」
「牧瀬氏、そろそろいい?その子のメンテナンスをしないとなんだお」
「あ、ごめんなさい、つい興奮しちゃって」
そう言って紅莉栖は、大人しくはちまんくんをダルに手渡した。
「それじゃあ行きましょうか」
「もういいのか?」
「ええ、詩乃と仲良くなって、今度詩乃の家に遊びにいく事にするわ。今度連れてって」
「え、まじかよ……お前どっちかっていうと人見知りじゃないのか?」
「う……た、多分大丈夫よ、私もそれなりに鍛えられてきたんだから」
「それじゃあ交換条件だ、詩乃に数学とか物理の勉強を教えてやってくれ、
あいつこの前赤点ギリギリだったらしくてな」
「それくらいは別にいいわよ、任せて」
こうして詩乃の知らぬところで詩乃の家庭教師が決まった。
そして八幡と紅莉栖は、キットで眠りの森へと向かった。
ちなみにはちまんくんが栗悟飯とカメハメ波という紅莉栖の恥ずかしいペンネームを知っていたのは、単純に前回のメンテの時に、ダルから雑談として聞いていた為です。
特に本文中で説明はしませんが!