ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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さて、いよいよキリ子ちゃんの登場です!


第396話 キリト、GGOに降臨す

「和人君、準備はいいかい?」

「ええ、いつでも」

「和人君、こっちの事は任せてね」

「ナツキさん、お願いします」

 

 和人にそう声を掛けた女性は安岐ナツキ、自衛隊付属の看護病院の卒業生で、

自衛隊員としての階級は二等陸曹であった。

 

「それじゃあ行ってきます」

「とりあえずそこそこ名前を売って、死銃氏に注目してもらえればいいんだけど、

あまり気負わなくていいから、GGOを存分に楽しんできてよ」

「あは、まあ仕事を忘れない程度に楽しんできます」

 

 そして和人はGGOへのコンバートの手続きを開始した。

もうこの状態になると外で何が起こっているかは分からない。

そしてその部屋に、八幡と共にもう一人の女性が入室してきた。

 

「さて、どうなる事やらですね」

「八幡君、それに黒川さんも、急に招集しちゃって本当にごめんね」

「いえ、私もこういうのに興味があったので」

 

 その女性は黒川茉莉、今回の為に自衛隊中央病院から召集された現役自衛官である。

もちろん看護資格を持っており、階級はナツキと同じく二等陸曹であった。

そして四人が見守る中、画面を見ていた八幡がいきなりおかしな声を出した。

 

「うわ」

「ど、どうしたの?」

「いや、だってあの和人……いや、キリトのアバター、

あれってレアアバターですよ、ほら、どう見ても女の子にしか見えないでしょ?」

「あは、本当だ」

「これは多分、ブローカーに声を掛けまくられますよ」

「そうなの?」

「ええ、レアアバターは高く売れるんで」

 

『な、なんじゃこりゃああああ!』

 

 そして画面の中では、キリトも自分の外見に気付いたのかそう絶叫していた。

 

「あ~あ、これで注目を集めちまった、ほら、ブローカーが寄ってきますよ」

 

 その言葉通り、画面の中ではキリトが怪しい男に声を掛けられていた。

 

『おおお、そのアバター、F1300系じゃない?それ滅多に出ないんだよね。

ねぇお姉さん、高く買うから、そのアカウントごと俺に売ってくれない?』

 

 その言葉にキリトは慌てて自分の胸を触った。

もしかして女性キャラになってしまったのではないかと一瞬思ったからなのだが、

もちろんそんな事は『ザ・シード』のシステム上ありえない。

 

『あ、いや、ごめん……俺、男なんだけど……』

『ええええええ!?それじゃあそれ、M9000番系かい!?

それならF1300の倍、いや、三倍出すから頼むよ!』

 

「ねぇ八幡君、あのアバターってそんなにレアなのかい?」

「はい、正直俺も見るのは初めてですよ、相場からいうと、

六桁くらいの金額で取引されてるんじゃないですかね」

「うわ、そうなんだ……」

 

 そして画面の中では、キリトがその男に断りを入れていた。

 

『ごめん、これ、新規のキャラじゃなくてコンバートなんだ、

だからちょっと売れないかなって……』

 

 それを聞いたブローカーの男は、ガックリと肩を落とした。

 

『そっかぁ、それは仕方ないね……』

 

 そう言ってそのブローカーは素直に引き下がった。

 

『ごめんな』

 

 そう言ってキリトは、きょろきょろしながら街を歩き始めた。

途中で何度もブローカーに声を掛けられ、キリトは一人ため息をついた。

 

『はぁ、これは一人で歩いているのには限界があるな……

誰かに声を掛けて案内してもらうしかないか……でもな……』

 

 そう言ってキリトは周りをきょろきょろと見回した。

どのプレイヤーも、まるで世紀末を舞台とした拳法アニメに出てくるような外見をしており、

そういったプレイヤーに声を掛けるのは、キリトにとってはかなり勇気のいる事だった。

 

『参ったな、ごつい男しかいない……

せめて声を掛け易そうな女性プレイヤーでもいればな……』

 

 そんなキリトを見て、茉莉が八幡に尋ねた。

 

「彼はそう言ってるけど、どうする?そろそろ八幡君が助けに行く?」

「そうですね……ん、あれは……」

 

 八幡はそう言って画面に見入った。

 

『お、駄目元であの子に声を掛けてみるか』

 

 丁度その時、画面の中のキリトが、前を歩く女性プレイヤーに声を掛けようとした。

その後ろ姿に見覚えのあった八幡は、ログインするのを思いとどまった。

 

「これはまた……丁度知り合いがいたんで、ちょっと様子見ですかね」

「八幡君は、GGO内の女性プレイヤーのほとんどと知り合いなんだよね」

 

 ここで菊岡がいらない事を言い、茉莉とナツキは驚いた顔で八幡を見つめた。

 

「そ、そうなの?」

「八幡君って実はハーレム王?」

「ハーレム王って何すか……いや、まあ全員っていうか、

そもそもGGO内の女性ってほとんどいないんで……」

 

 その答えに納得しなかった茉莉は、問い詰めるように八幡に言った。

 

「それでもほぼ全員ってどういう事?」

「あ、いや、えっと……」

「まあそれも当たり前なんだよ、彼はGGO内じゃ、一、二を争う有名人だからね」

「えっ、そうなんだ?」

「まあ一応そういう事になってますね」

 

 八幡は恥ずかしそうにそう答えた。

そして画面の中のキリトは、その女性プレイヤーに声を掛けた。

 

『あの、すみません、ちょっと道を……』

『何?』

 

 その女性プレイヤー、シノンは、冷たい表情でそう答えた。

 

「うお、あいつ、知らない奴にはあんな冷たい態度をとるのか……」

「いつもは違うの?」

「ええ、まあ後であいつにもコンタクトを取るんで、その時に分かりますよ」

「へぇ~」

 

 そして八幡達が見守る中、シノンはキリトを上から下までじろっと見ると、

相好を崩してこう言った。

 

『このゲーム……初めて?』

 

「ん……」

 

 八幡はそのシノンの反応にわずかに首を傾げた。

 

「どうしたの?」

「いや、多分シノンの奴、あ、シノンってのはこの女性プレイヤーの名前なんですけど、

キリトの事を同じ女性プレイヤーだと思ってるんじゃないかと」

「「「ああ~!」」」

 

 三人は言われて気付いたのか、同時にそう言った。

 

『あ、うん、初めて……かな』

『そうなんだ、どこに行きたいの?』

『……あ、えっと』

『ん?』

 

「ん……」

「今度はどうしたの?」

「いや、ちょっと待ってて下さいね、動画に撮るんで」

「え?何で?」

「勘ですけど、面白いものが見られそうなんで」

 

 そしてキリトは迷ったあげく、思い切ったように顔を上げ、

少ししなを作りながら頬に手を当てて、いかにも困ったという感じで言った。

 

『どこか、安い武器屋さんとぉ、あと、総督府って所に行きたいんですけどぉ』

 

 その女性っぽい言い方に、四人はたまらず噴き出した。

 

「だから動画を撮ったんだ」

「あいつがテンパってたみたいなんで、

もしかしたら面白リアクションが撮れるかなって思ったんですけど、

これは予想以上でしたね……」

「ま、まあ僕は見なかった事にしておくよ」

「俺もまあ、他人には見せないようにしておきます」

 

 そしてシノンは快くそのキリトの頼みに応えた。

 

『いいわよ、連れてってあげる』

『ありがとうございますぅ』

 

 そして二人はシノンの案内で歩き始めた。八幡はそれを見て、自分も中に入ると宣言した。

 

「そろそろ行きます、あいつに金を渡しておきたいんで」

「どうやってだい?」

「まあ何とかしてみます」

「それじゃあ八幡君はこっちの部屋に」

「はい黒川さん、お願いします」

「任せて」

 

 そして八幡もGGOにログインし、

キリト達が映る画面の横のもう一つの画面に、シャナの姿が現れた。

 

「おっ」

「うわ、何か雰囲気ありますね」

「どう?」

 

 そこに丁度戻ってきた茉莉が、二人にそう尋ねた。

 

「ほら見て、さすがにキリト君と違って雰囲気があると思わない?」

「本当だ、あっ」

 

 茉莉は思わずそう叫んだ。シャナの周りをごつい男達が取り囲んだからだ。

 

「これ、大丈夫なの?」

「大丈夫じゃない?」

「菊岡さん軽く言いますね」

「いやいや、大丈夫だって、ほら」

 

 そしてその男達は、いきなりシャナに頭を下げた。

 

『『『『『『シャナさんこんにちは!』』』』』』

『おう、ダインの所とたらこの所のメンバーか、仲良くしてるか?』

『はい、あの戦争を共に戦った仲間なんで!』

『そうか、それは良かった、悪い、俺はちょっと用事があるからまたな』

『『『『『『はい、またです!』』』』』』

 

「ほらね、大丈夫だっただろ?」

「うわ、まるでヤクザみたい」

「舎弟ってやつ?」

「それだけじゃないよ、ほら」

 

 そして画面の中では、どこから現れたのか数人の女性プレイヤーがシャナに群がっていた。

 

『シャナ様こんにちは!』

『おう、おっかさんは元気か?』

『はい、今日も元気に敵をどついてますよ』

『ははっ、ところでG女連からは誰かBoBに出るのか?』

『ミサキさんが出るみたいです、多分本戦には行けると思うんですけど』

『まあミサキさん、ああ見えてかなり強いからな……特に男相手だと無双だろうな……』

『使える武器は何でも使いますからね』

『まあ俺には通用しないけどな』

『ですね、ミサキさん、よく悔しがってますから』

 

「うわ……とてもあの八幡君と同一人物とは思えない」

「凄い人気ね」

「二人がどう思ったかは分からないけど、彼、実はリアルでもこんな感じだよ」

「そうなんですか!?」

「うん」

 

 そしてシャナは、再び用事があるからとその女性達と別れ、

キリト達の向かった方へと急いだ。

 

 

 

 その頃シノンはキリトを女性だと思い、色々尋ねている所だった。

 

「ねぇ、ところで総督府には何の用事?」

「あ、えっと、バレットオブバレッツっていう大会のエントリーに」

 

 その言葉にシノンは少し驚いた。

 

「BoBに!?えと、今日ゲームを始めたんだよね?」

「はい」

「えっとその……ちょっとステータスが足りないかも」

 

 シノンは遠慮がちにそう言った。

 

「あ、それなら大丈夫です、実は私、他のゲームからコンバートしてきたんで、

ステータスは結構高いんですよ」

「へぇ、そうなんだ」

 

 キリトは予めネットで予習し、手っ取り早く名前を売る為に、

BoBに出場する事を決めていた。もちろん銃での戦いで勝ち進める自信はまったく無い。

そしてキリトは、シノンにこう尋ねた。

 

「ところでシノンさん、お願いがあるんですけど」

「ん、何?」

「ちょっと私に、弾道予測線ってのを見せてもらえません?

予習はしたんですけど、どうも実感が沸かなくて」

「別にいいわよ」

 

 そしてシノンは足を止め、サブ武器のグロックを抜くと、

キリトの頭に照準を合わせ、トリガーに指を添えた。

 

「っ!」

 

 その瞬間にキリトの額に、シノンの銃から赤い光線のような物が伸びているのが見えた。

 

「なるほど……こんな感じなんですね、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 そしてシノンは目的地に到着し、キリトを武器屋の中へといざなった。

そこはショールームっぽく演出された巨大な店舗であり、沢山のプレイヤー達がそこにいた。

 

「うわ、凄いですね」

「まあ初心者から中級者用の店なんだけどね」

「そうなんですか」

 

 それでもキリトは物珍しさにきょろきょろと店内を見回した。

 

「ところでステータスはどんな構成?」

「あ、えっと、一番高いのがSTRで、次がAGI……かな?」

「そう、それなら……」

 

 そしてシノンは、いくつかの銃の名前を上げた後、ハッとした顔で言った。

 

「そういえばあなた、今日コンバートしてきたばかりなんだっけ……って事はお金が……」

「あっ、そういえば……」

 

 二人はそう言って、気まずそうに顔を見合わせた。

 

「どうしましょうか、とりあえず一度店を出てから考えましょうか」

「ですね……」

 

 そして二人は店を出て相談を始めた。

 

「どうしよう、最近お金に困ってなかったし、新しい装備を買う事も無かったから、

すっかりその事を忘れてたわ」

「ここでお金を稼ぐのってどうすればいいんですか?」

「そうね、プレイヤーを狩るかモブを狩るか、それとも……」

 

 その時いきなり誰かが二人の手を引き、二人は路地裏に引きずり込まれた。

その瞬間にシノンの耳に、聞き慣れた声が聞こえた。

 

「おいシノン、俺に合わせろよ」

「え?え?」

 

 そして二人の前に、キリトにとっては見知らぬ、

そしてシノンにとっては常に会いたいと思っているプレイヤーの姿があった。

 

「ねぇそこの彼女達、良かったら僕とお茶でもしない?」

 

 そのシャナにはまったく似合わぬセリフに、シノンは何か言おうとしたが、

シノンはその直前に聞こえたシャナの言葉を思い出し、

とりあえず言われた通りにしようと思ってこう言った。

 

「何よあんた」

「おやおやつれないねぇ、そっちの彼女はどう?」

「あ、えと……」

 

 キリトは何が起こっているのか分からずに呆然と言った。

 

「ちょっとやめてよ、ナンパはお断りよ」

「ナンパ!?」

 

 キリトはナンパされる事など当然生まれて始めてだったので、

シャナの不自然な演技にも疑問を抱かず、こういうものなんだろうと思い、

シノンを守る為にその前に立ちはだかった。

 

「やめなよ」

「おっ、やるか?女を殴るのは性に合わないが、こうなったら力ずくで……」

 

(いいぞキリト、その調子だ!)

 

 そしてシャナは、ゆっくりとキリトに手を伸ばし、キリトはその手を振り払った。

その瞬間にシャナはおおげさに後ろに飛び、その場に土下座をした。

 

「痛ってぇ!参った、俺が悪かった!」

「…………え?」

「…………は?」

 

 そしてシャナは、アイテムストレージからお金を出し、無理やりキリトに握らせた。

 

「すまん、これは詫びだ、受け取ってくれ!じゃあ俺はこれで!」

「あ、ちょっと!」

 

 

 

 この遣り取りを見ていた菊岡達は、その強引なやりかたに大爆笑していた。

 

「あはははははははは」

「お、お腹痛い……」

「ふひっ、いや、笑っちゃいけないけど、でもこれはちょっと……くっ、ぷぷっ」

 

 

 

 そしてその直後にシャナからメッセージが入り、シノンは呆然とするキリトに一言断り、

そのメッセージを見た。

 

『説明は後だ、鞍馬山のあるビルの武器屋に行け』

 

 シノンは訳が分からなかったが、とりあえず言われた通りにしようと思い、

肩を竦めながらキリトにこう言った。

 

「お金が手に入ったわね、良かったじゃない」

「え?え?これもらっちゃっていいの?」

「いいんじゃない?侘びって言ってたし」

「そ、そうなんだ……」

「で、いくら入ってた?」

「えと……」

 

 キリトは困った顔で、それをシノンに見せてきた。シノンはその袋の中身を見て驚いた。

 

「え、こんなに?」

「そんなに大金なの?」

「う、うん、これならそうね、うちの拠点の近くにもっといい武器を扱ってる店があるから、

そこに行きましょうか」

「そうなんだ、うん、分かった」

 

 そして二人は鞍馬山のあるビルへと向かった。


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