ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第397話 その剣の名は

 キリトとシノンよりも先に鞍馬山に到着したシャナは、そのまま中に駆け込んだ。

そこには幸いイコマしかおらず、シャナはほっと胸をなでおろした。

 

「あれ、シャナさん、慌ててどうしたんです?」

「イコマ、キリトだ」

「えっ?」

「もうすぐこの下の武器ショップにキリトが来るんだよ」

「本当ですか!?うわ、それは是非会いたいですね」

 

 そう嬉しそうに言うイコマに悪いなと思いながらも、シャナはイコマに言った。

 

「悪い、あいつは今回、国から受けた仕事でここに来てるから、

俺やお前の正体をバラすのは、色々と落ち着いたらって事になっちまうんだ」

「あ、そうなんですか、それじゃあその時を楽しみにしておきます!」

「会いたいだろうに、本当に悪いな」

「いえ、待つのも楽しいですから」

「で、相談なんだが……」

 

 そしてシャナは、懐から何かを取り出してイコマに頼んで何かしてもらった後、

更に十狼用の強力な防具一式を受け取った。

 

「ありがとうイコマ、もしかしたらシノンがここにキリトを連れてくるかもしれないが、

上手く逃げるか誤魔化すかしてくれ。あ、でも俺と一緒にショップに行けば、

面白い物が見れるかもしれないぞ」

「そうなんですか?分かりました、一緒に行きます」

 

 シャナとイコマはそのまま仲良く武器屋に駆け込んだ。そしてショップNPCに、

委託販売という事でアイテムの出品を頼んだ。

このタイミングなら一番最初に目にするのがキリトとシノンだという事を確信して。

 

 

 

「ここよ」

「何かすごいビルだね」

「ここは一部のお金持ちしか利用出来ない施設なのよ、さ、こっちよ」

 

(一部のお金持ち……この子、実はこう見えて古参のプレイヤーなのかな)

 

 キリトはそんな事を考えつつ、シノンの後を追った。

そしてショップに入ったキリトは、感嘆の声をあげた。

 

「おお」

「どう?さっきの所よりも地味だけど、その分強力な銃が多いわよ」

「うん、なんとなく分かる」

「それじゃあ順に回ってみましょうか」

 

 ちなみにシャナも店の中に残っていた。

シャナはどうなるかなと興味深げに二人の様子を観察していた。

そしてとあるウィンドウの前で、キリトがピタリと足を止めた。

 

「ねぇ、これは?」

「え、どれ?」

 

 そしてシノンはそれを覗き込み、黙り込んだ。

 

(え、嘘でしょ……でも間違いない、これって……)

 

 そこに出品されていたのは、シャナが保管していたはずのカゲミツG4だった。

シャナは、やっぱりキリトの『サブ武器』はこれだろうと思って出品したのだが、

まさかキリトがそれをメイン武器として使うなどとは、この時は夢にも思っていなかった。

 

「えっと……輝光剣っていうアイテムだけど、それが気になるの?」

「うん」

「そう……試しに振ってみたら?」

「うん」

 

 キリトは心ここにあらずといった感じでその剣に見入っていた。

そしてカゲミツG4を手に取ったキリトは、緊張しながらスイッチを入れた。

その瞬間、ブンッという音と共に、そこから漆黒の刃が現れた。

 

(え?)

 

 シノンはそれを見てとても驚いた。シノンの記憶だと、カゲミツG4の色は、

紫がかった白だったからだ。黒といえばシャナのアハトXの色と同じ事になる。

 

「あれ、その色、シャナの……」

「ん?色がどうかした?」

「あ、いや、何でもないわ」

「あれ?」

 

 そして今度はキリトが驚いた顔で、カゲミツG4を見つめながらそう声をあげた。

 

「どうしたの?」

「あ、いや、剣の名前が……」

「え?」

 

 シノンはそう言われて剣のデータを覗き込んだ。

そこに書いてあった名前は『エリュシデータ』となっていた。

 

「エリュシデータ?」

「あ、うん、これって俺……いや、わ、私が他のゲームで使っていた剣の名前なの、

すごい偶然だなってつい感動しちゃって」

「そうなの?」

 

(えっと……つまりそれって、もしかしてこの人もヴァルハラの人なのかしら、

そういえばまだ知らない人も結構いるのよね、あれからあっちには行ってないし)

 

 そしてシノンはその瞬間に視線を感じ、バッと振り返った。

そこからはシャナとイコマが顔を覗かせており、

シャナはぶんぶんと首を横に振っており、イコマは唇の前で人差し指を立てていた。

 

(えっと、つまり余計な事は言わずに静かにしていろと……)

 

 シノンは戸惑ったが、とりあえずまた言われた通りにする事にした。

 

「よし、ちょっと試し振りしてみる」

「あ、う、うん」

 

 そして剣を構えるキリトの姿を見て、シノンは素直に感心した。

 

(さすがね、凄く様になってる……)

 

 キリトはそのままいくつかのソードスキルの型をなぞり、

最後に何故か背中に剣をしまうようなアクションをし、

しまったという顔をして腰に剣をしまい直した。

 

(何かしら今の)

 

 シノンはそう疑問に思ったが、シャナの言いつけ通り、それを尋ねるのはやめておいた。

そしてシノンは代わりにこう言った。

 

「どう?気に入った?」

「うん、凄く」

「そう、そのアイテムって、GGO全体でも五人しか持ってない武器なのよ」

 

(私のこれは、ちょっと毛色が違うから数には入れられないしね)

 

「えっ、そうなんだ……」

「どうする?買う?」

「うん!」

「でもこれっていくらするんだろ……あ、お手頃価格だ……」

「本当に?やった!」

 

 キリトはそれを聞いて喜び、直ぐに支払いをし、嬉しそうにそれを自分の腰に差した。

それを見たシャナとイコマがうんうんと頷いているのを見て、

シノンは何この茶番と少し呆れた。

 

(まあいいわ、これを口実に後で必ず会って説明してもらうんだから)

 

 シノンは内心で、これでシャナと二人で会ういい口実が出来たとほくそえんでいた。

この辺りはシノンも抜け目が無い。

そして肝心の銃は、キリトはワルサーP38を選択した。理由は簡単である。

 

「これなら名前を知ってる」

 

 ただそれだけの理由でキリトはそれを選択した。つまりこの時点でキリトは、

メイン武器をエリュシデータにする事を選択していたという事になるが、

その時は誰もその事に気付かなかった。

こうしてGGO世界に、最初で最後の剣士プレイヤーが誕生した。

 

「さて、後は防具ね」

 

 シノンにそう言われ、キリトは大人しくその後を付いていった。

 

「ひぐっ」

「ん?」

「う、ううん、何でもない」

 

 そしてシノンは再び防具の並んでいるウィンドウを眺め、

それを手に取ると、キリトに差し出した。

 

「こ、これがいいんじゃないかしら」

「これ?」

「ええ、わ、私も同じ物を持っているけど、かなり防御力が高いわよ」

「そうなんだ」

 

 それはどう見ても十狼専用装備の一つだった。

実は胸に、横を向いた狼の意匠のエンブレムが入っているのだが、

それは見事に削除されていた。

 

(要するにこれを買うように仕向けろって事よね……)

 

「それじゃあ着る方法を教えるわ、こっちの更衣室に行きましょう」

 

 それを聞いたシャナは、焦った顔で必死に両手で×印を作っていたのだが、

シノンはそれにまったく気付かなかった。

 

「やばいぞやばいぞ」

「どうしたんですか?シャナさん」

「シノンの奴、キリトの事を女だと思ってるんだよ……」

「えっ、それはまずいですね、ウィンドウから着替える方法だけ教えるつもりなら、

別に更衣室に行く必要は無いし、

気を利かせて一応普通に脱いで着替える方法も教えるつもりなんじゃ」

「くそ、仕方ない」

 

 そしてシャナは二人が入っていった更衣室の方へと駆け寄り、いきなりその扉を開けた。

そこでは今まさに、シノンが自分の服に手をかけて脱ごうとしていた所であり、

シャナは間に合ったとほっと胸をなでおろした。

 

「きゃっ」

 

 そしてシャナはずけずけとシノンに近付くと、強引にその腕を掴み、その耳元で言った。

 

「脱ぐな、この後俺は後ろに飛ぶ」

「い、いきなりどうしたの?」

「その後は俺に変態とか痴漢とか、もう好きなように罵声を浴びせろ」

「えっ?えっ?」

 

 そしてシャナは、いかにもシノンに突き飛ばされた風を装って後ろに倒れ込んだ。

 

「おわっ、連れないなかわいこちゃん、せっかく偶然見かけて追いかけて来たってのに」

「うるさい、さっさと出ていきなさいよ、馬鹿、変態!」

「こいつはいいのかよ、あの後で気付いたけど、こいつのアバターはM9000系、

つまりこいつも男じゃないかよ!」

 

 その言葉にキリトの方を見たシノンは、

キリトが気まずそうに後ろを向いている事に気が付いた。

そして微妙に胸の下まで服を脱ぎかけていた自分の姿を見たシノンは、

悲鳴を上げて二人を追い出した。

 

「きゃあああああ!」

 

 そして更衣室から追い出された二人は、背中合わせで床に座ると、ため息をついた。

 

「はぁ……」

「ふぅ……」

 

 そしてそのため息を聞き、お互いの存在に改めて気付いた二人は、

慌てて立ち上がるとその場で睨み合った。

 

「またお前かよ、俺達の後をつけてきたのか?このストーカー野郎」

「お前こそ何ずっと女のフリをしてあの子の着替えを覗こうとしてやがるんだ、ぶん殴るぞ」

「お前に言われる筋合いは無えよ、変態」

「どっちが変態だよ男女」

 

 そんな一触即発の二人の頭に、更衣室から出てきたシノンが拳骨を落とし、

二人は慌ててシノンの前で正座をした。

 

「二人とも、覚悟はいい?」

「うっ……」

「あ、えっと……」

 

 そんな二人に、突然シノンが自己紹介を始めた。

どうやらまだキリトに名乗っていなかった事を思い出したらしい。

 

「私の名はシノン、あんた達は?」

 

 シノンはシャナの反応を見ようと思ってそう言った。

シノンは別にシャナに着替え中の姿を見られた事は、むしろウェルカムであり、

キリトも後ろを向いていた事が分かっていた為、実はまったく怒ってはおらず、

ただ空気を読んで演技をしているだけだった。

 

「えっと、キリト、です」

「俺はシャナだ」

「キリト君、男の子だったんだ、でもキリト、キリト、どこかで聞いたような名前ね」

「す、すまん、男だとバレると案内してもらえないかと思って、つい言いそびれた……」

「まあ確かにその通りかもだからそれはいいわ、それにシャナ、シャナねぇ……」

 

 シノンはシャナが偽名を名乗らなかった事で、名前は普通に出してもいいのだと判断した。

そんなシノンの目に、店内にかかっている時計が目に入り、シノンはあっと声を上げた。

 

「どうした?」

「しまったわ、BoBの申し込みの時間が……」

「えっ?」

 

 そして慌てて外に飛び出るシノンの後を、シャナとキリトが追いかけた。

 

(こいつ、まだ申し込みしてなかったのか、ハンヴィーを出して間に合うか?)

 

 そんなシャナの目に、道端に停めてあるレンタバギーの姿が目に入った。

三輪だが、操作方法はキリトがいつも乗っている旧式のバイクと一緒のはずだ。

 

(そうか、これならキリトが運転出来る)

 

「おいキリト、あれの運転って出来るか?」

「あれ?ああ、あれなら大丈夫だ」

「よし、今回の侘びに金は俺が出す、シノンはキリトと一緒にあれに乗って総督府へ行け」

「あれって誰も運転出来なくてずっと放置されてる奴じゃない」

「キリトが運転出来るそうだ、ほら、早く行け!」

「う、うん」

「お、おう」

 

 そして二人はシャナにせかされ、そのレンタバギーに飛び乗った。

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