ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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今日も18時にもう1話投稿します


第039話 気晴らしのおまけ

 現在の最前線の第三十五層には、迷いの森と呼ばれる森がある。

なぜ迷いの森かは、入ってみればわかるだろう。

太陽の光の一切入らない深い森というのは、

慣れない者の方向感覚を失わさせる。だが、中には騙されない者もいる。

ハチマンは、その少ない一人だった。

 

「何でハチマンは騙されないの?」

「それは俺の持つ真実を見抜く目がだな」

「あーはいはい、捻くれてるからね」

「ちっ」

「おっ、ここらへんが良さそうじゃないか?」

「それじゃここらへん拠点で少し狩ってみるか」

 

 ハチマンは、何故かエギルとリズベットと共に狩りにきていた。

少し前、エギルの露店前でこんな会話があったのだ。

 

「エギル~久しぶり~」

「お、リズ、何か入り用か?」

「ううん、ただの通りがかりかな。あ、あれってハチマンじゃない?お~いハチマ~ン」

 

 その声に気付き、ハチマンが早足で向かってきた。

 

「おい、街中ででかい声で俺の名前を呼ぶな」

「別にいいじゃなーい。ねね、ハチマン暇なんだったら一緒に狩りに行かない?」

「あ?なんでだよ……」

「最近ちょっとレベル上げさぼってたから、ここらへんで上げといた方がいいかなって」

 

 ハチマンは、めんどくさかったので、適当な言い訳を考えようとしたのだが、

やはり口から出たのは、慣れ親しんだこの言葉だった。

 

「あーすまん、ちょっとアレがアレで忙しい」

「おっけー、それじゃ、早速行こう」

「おい、俺は断ったはずなんだが」

「え?だってハチマンのその言い方、暇な時の言い方じゃない」

「ちっ……仕方ない、ちょっとだけだぞ」

「ありがとー!」

「おい二人とも。それ、俺も一緒に行ってもいいか?」

「あ?別にかまわないけどエギルもレベル上げがしたいのか?」

「まあ、そうだな。最近商売ばっかりで、次の階層ボス戦がちょっと不安なんだよ」

「それじゃ、三人で行くか。エギル、店じまいだ」

「あいよ」

「それじゃ三人でれっつごー!」

 

 とまあこんなわけなのである。

 

「それじゃ俺が敵を引っ張ってくるわ」

「すまん、頼む」

「ハチマンよろしくー」

 

 ハチマンは、迷いの森などなんでもないようなしっかりとした足取りで、

森の中へ消えていった。

 

「エギル、最近商売の調子はどう?」

「正直迷いの森産の品が全然不足してるな」

「あーやっぱそうなんだ。ここ、最前線な上に、敵がまとまって行動してるらしいしねぇ」

「実力的にも中層以下の冒険者には厳しいところだしな。

ソロで潜れるのは数人しかいないだろうな」

「いやー、ハチマンがいてくれて良かったよねほんと」

「そうだな、絶対迷わないし、敵の数もうまいこと調節してくれるだろうしな」

「あ、来たみたい」

「おう」

「三匹来る。二匹抑えるから二人は一匹づつ確実に仕留めてくれ」

「了解」

 

 ハチマンが森の中から飛び出し、そう言った直後、

俊敏なゴリラとも言うべきモンスターが三匹、ハチマンを追いかけてきた。

ハチマンは二匹の敵をうまいこと抑えていた。

エギルとリズベットはどちらもパワー系なので、交互に強力な一撃を叩きこんでいた。

ほどなくして一匹が倒れ、エギルとリズベットが次の一匹に襲い掛かったため、

ハチマンは残りの一匹をソロで倒し、最後の一匹もすぐ沈んだ。

 

「これくらいなら余裕なんだよね」

「そうだな、多めに来てもまあ、地形を利用して何とかするから、

確実に一つずつ仕留めてくれればいい」

「任せろ!」

 

 ハチマンにとって、この二人と過ごす時間はかなり気が楽だった。

二人ともしっかり気を遣える上に、距離を感じるような事もしない。

絶妙な距離感を保ってくるのだ。さすがは商売人と言うべきだろうか。

 

「それじゃ次いくぞー」

「いつでもこい!」

 

 こうしてしばらく狩りを続け、レベルもそこそこ上がり、

素材も大量に獲得した一行は、ほくほく顔で戻ろうとしたのだが、

その時ハチマンが何か思い出したように提案してきた。

 

「そういやさっき面白いものを見つけたんだよな。ちょっと見に行かないか?」

 

 二人はその言葉に従い、ハチマンの後をついていった。

そのまま少し歩くと、開けた広場の真ん中に、ぽつんと木が立っているのを見つけた。

 

「これは、モミの木か。でかいな」

「モミの木って、クリスマスツリーのあれ?」

「そうだな。いかにも怪しい感じの広場に、モミの木。

もしかしたら、クリスマス限定の敵とかがここに出るんじゃないか?」

「そうかもしれないな」

「ま、見せたかったのはこれだけなんだがな。

それじゃまあ、少し休んで帰りますかね。ここには敵はPOPしないみたいだし」

 

 こうして少し休憩した後、三人は帰路で遭遇した敵を殲滅しつつ、街へと戻っていった。

 

 

 

 数日後、ハチマンは、キリトに呼び出された。

久しぶりに会ったキリトは、表面上はもうすっかり元気に見えたが、

やはりなんとなく、まだ色々と引きずってるように見えた。

実はキリトから見たハチマンも、微妙に色々引きずってるように見えてたのだが。

 

「よう、今日はどうしたんだ?」

「実はエギルから聞いたんだが」

 

 そう言ってキリトが切り出したのは、先日見かけた巨大なモミの木の話だった。

その話を聞いて、キリトもそこを目指してみたようなのだが、

どうやら中々辿り着けないらしい。

ちょっと観光のつもりで案内してくれよという事だった。

 

(あー、あそこちょっとわかりにくいしな)

 

 ハチマンはちょうど攻略もひと段落ついたところだったので、

キリトの誘いに乗る事にした。

二人は遭遇する敵を瞬殺し、どんどん奥へと進んでいった。

一度だけハチマンのミスで、十数匹のゴリラもどきに襲われた事があったのが、

あえて言うなら最大のピンチと言えるのだろうか。

もっとも敵がかわいそうなくらいの蹂躙劇が繰り広げられただけだったが。

そしてまもなく例の広場に着くという時、いきなりハチマンが周囲を警戒しだした。

 

「キリト待て、何かいる」

「ハチマンが警戒するって事は、中ボスクラスか?」

「ああ。少なくともただの雑魚じゃないらしい」

 

 二人はその方向に慎重に進んでいった。

 

「あれだな」

「あれか、木が立っているようにしか見えないな。トレントってやつか」

「擬態してるんだろうな。とりあえず、やるか」

 

 二人はそのトレントに奇襲をかけた。

だが敵も即座に対応し、しなる腕を何本もふりまわして反撃してきた。

そのため、中々近寄る事が出来ない。

 

「キリトどうだ、あの腕、斬れるか?俺だとリーチの関係でちょっとやりにくい」

「ああ、問題ない」

「それじゃいつもと選手交代だな。キリトがあの腕を切り落とした隙に、俺が連撃を加える」

「了解」

 

 キリトはそう言うと、トレントに向かって走り出した。

当然トレントも腕を伸ばして反撃に出てきたが、キリトの狙いは最初から腕だけだったので、

逆に容易に切り落とす事が出来た。

その瞬間にハチマンが飛び込み、《ファッドエッジ》から《弦月》へのコンボを繋げた。

この攻撃で、トレントのHPは一気に二割ほど減り、

何度か繰り返す事によって、十数分後にトレントは光となって消えた。

 

「ふー、そこそこ時間がかかったな、ハチマン」

「中ボスクラスっぽいからリポップはしないと思うが、もしそうなら、

少人数のパーティが遭遇した時危ないかもしれないな。一応アルゴに報告しとくか」

「お、何かドロップしてるな……ミラージュスフィア、だってよ」

「何だそれ?聞いた事ないな」

「結構沢山ドロップしてるから、半分ずつ分けようぜ」

「どれどれ……ん~、これは、持ってるマップとリンクさせて、立体化させる?」

「よくわからないな、目的の場所はおそらく敵がPOPしないエリアみたいから、

そこで試しに使ってみようぜ。何度でも使えるぽいし」

 

 二人はそのまま、モミの木広場へと移動を開始した。

 

「これか……ははっ、なんだあのでかいモミの木」

「こんな殺伐としたゲームなのに、仮にあれがイルミネーションで飾られるとしたら、

ちょっと笑っちまうだろうな」

「それじゃハチマン。さっきのアイテムを早速使ってみようぜ」

 

 二人はミラージュスフィアを試してみる事にした。

幻想的な二つの球状のマップがその場で明るく輝く。

 

「何だこれ、面白いな」

「道順とか説明するのに、いいかもしれないな」

「ただの散歩のつもりだったけど、これは思わぬ収穫だったな」

「キッチリ全部のマップデータを集めたくなるなこれ」

「わかるわかる。男ってそういうとこあるよな。集めるのが好きっていうか」

「しかもこれ、敵がリポップしないようなら他の誰も手に入れられないって事だな」

 

 二人は、楽しそうに笑い合った。

 

(これでキリトの気が少しでも晴れてくれればいいんだが)

(これでハチマンもいい気晴らしになってくれればいいんだけどな)

 

 こうして三十五層でのとある一日が終わった。

今後このミラージュスフィアは、垂涎のアイテムとされ、

攻略組の人間にも重宝されていく事となるのであった。


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