ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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実質的に400話を達成する事が出来ました!でも半分以上がGGO編という……
ちょっと長すぎな気もしますが、もう少しでGGO編も終わります!
大会に入ればそこからは早いですので、最後まで頑張ります!


第400話 ありがとよ

 次の日八幡は、朝から忙しく動き始めた。最初に連絡したのは紅莉栖の所だった。

 

「ちょっと聞きたい事があるんだが……」

 

 そして紅莉栖から太鼓判をもらった八幡は、次に経子に連絡をした。

 

「経子さん、いくつかお願いがあるんですが……」

 

 次に連絡したのは南の所だった。

 

「南、ちょっと頼みにくい事を頼みたいんだがな……」

 

 次に八幡は、菊岡に連絡を入れた。

 

「菊岡さん、こっちの根回しはオーケーです」

 

 そして最後に八幡は、薔薇に連絡をした。

 

「おい小猫、命令だ」

「あらそういう八幡は久しぶりね、あ、その前に報告があるのよ、

声紋検査の結果なんだけど……別人の可能性が高いそうよ」

「そうか、という事はやはり複数犯の可能性が高いって事か」

「何かあったの?」

「それはこれから指示する事に関係するんだ、詳しくはゲーム内で明日奈から聞いてくれ」

「分かったわ」

「それじゃあ指示を出すぞ、先ず……」

 

 そして八幡は、次に明日奈と小町に今どうなっているのか状況を説明した。

 

「……という訳でな、学校が終わった後、

十狼と友好チームの連中に連絡を回しておいて欲しいんだ、

もし死銃を見かけても決して手出しせず、情報だけロザリアに送って欲しいとな」

「分かった、任せてよお兄ちゃん」

「あのゼクシードさんが意識不明の重体だなんて……」

「そっちは俺に任せろ、何とかするから」

 

 八幡は明日奈にそう言うと、その日の放課後に、キットでとある場所へと向かった。

その場所に着いた八幡は、目的の人物を見つけ、声を掛けた。

 

「よぉ、悪いな、急に呼び出したりして」

「南から久しぶりに電話が来てびっくりしたよ、

まあそれは別にいいんだけど、まさかお礼参りとかじゃないよね?」

「ゆっこ、びびりすぎだって、もううちら和解したじゃない」

「その通りだ、心配しなくていい、今日はちょっとゼクシードについて大事な話があるんだ」

「ゼクシードさんの?」

「ああ、詳しい話は車でする」

 

 そして八幡は、二人をキットの所まで案内した。

 

「これ、あんたの車?」

「ああそうだ、格好いいだろ?」

「うん、悔しいけどそう思う」

「やっぱあんた凄いんだね」

 

 三人はそのままキットに乗り込み、八幡は運転をキットに任せると、

二人に現状どうなっているかの説明を始めた。

 

「えっ、そんな事になってたの?」

「だからゼクシードさん、インして来なかったんだ……」

「ああ、これからゼクシードの所に案内するから、

二人にはそこで俺と一緒にあいつに会って欲しいんだ」

「うん、そういう事なら」

「声を掛けてくれてありがとうね」

「でも意識不明なんだよね、うちらに出来る事ってあるの?」

「それは考えてあるさ、任せてくれ」

 

 そしてキットはまもなく目的地へと到着した。

そこでは沢山のスタッフが慌しく動き回っており、

八幡は真っ直ぐに頼み事をした人達のいる場所へと向かった。

そこには菊岡と凛子とめぐりと清盛、そしてイヴがいた。

 

「菊岡さん、お待たせしました。あれがゼクシードですか?」

「うん、昨日も言った通り、ザスカーからの情報提供のおかげで、

首尾よくゼクシードこと茂村保君の身柄を確保する事が出来たよ」

「昨日こいつの状況は聞きましたけど、よく連れ出せましたね」

「いやぁ、まさかあんな状況になっていたとはね、これだから地元の名士って奴は困るよ、

まあそれでもそこはほら、国家権力を駆使してね」

 

 菊岡はニヤリと八幡に笑いかけた。

 

「……どんな脅しをかけたんですか?」

「やだなぁ、法を犯すような真似はしてないよ、普通に交渉したさ、彼のご両親とね」

「つまり法を犯すスレスレのラインで留めたって事ですか」

「いやぁ、あはははは」

 

 菊岡は誤魔化すように笑い、八幡はそれを見て苦笑しながら次にイヴに話しかけた。

 

「イヴ、小猫から聞いたと思うが……」

「八幡様、アバターと家の準備はバッチリです」

「悪いな、今アルゴには他の事を頼んでいてな」

「大丈夫、簡単でしたから」

 

 そして最後に八幡は、凛子とめぐりと清盛に声を掛けた。

 

「凛子さん、じじいのお守りをさせちゃってすみません」

「なんじゃと!久しぶりに会ったと思ったらそれか!」

「経子さんから話は聞いたわ、セッティングはバッチリよ、

彼の意識はいつでもサーバーに接続可能よ」

「儂も経子から話は聞いておるぞ、そこの嬢ちゃんと一緒にしっかりと調べ直すからな、

まあ結果が出るのはしばらく後になるが、

お主は心配せずに、そのゼクシードとやらを存分に叩きのめしてこい!」

「いやじじい、今日はそういうんじゃないから……」

「八幡君、私がしっかりサポートするから大丈夫だよ」

「お願いします、めぐりん」

 

 そして八幡は、状況がいまいち飲み込めていないゆっこと遥を、

併設されたアミュスフィアのあるベッドの所へと案内した。

 

「ちゃんと説明してなくて悪いな、先ず最初に、ここで見た物は秘密にすると約束してくれ、

これは一応うちの会社の機密なんでな」

「大丈夫、何がなんだか直接見てもさっぱり分からないから」

「うん、多分説明されても分からないと思う」

「この施設の名は眠りの森、そしてこの大げさな機械は、細かい説明は省くが、

まあ要するに意識不明の奴とVR空間でお話が出来る機械だと思ってくれればいい」

「うん、もうこの時点でよく分からない」

「だね」

「まあとりあえずあいつに会いに行こうぜ」

 

 そして八幡達三人は、アミュスフィアを被り、

ゼクシードが待っているはずの空間へとダイブした。

 

 

 

「ここは……?」

 

 ゼクシードは意識を取り戻し、きょろきょろと辺りを見回した。

自分は確か、MMOトゥデイの主催する座談会で、熱弁を振るっていたはずだ。

そしてそこで胸が苦しくなり、それから……

 

「よぉゼクシード、元気そうだな……とも言えないか」

「お、お前はシャナ!」

 

 シャナはイヴに頼んで、自分の外見をシャナと同じにしてもらっていた。

ちなみにユッコとハルカ、それにゼクシードも同様である。

 

「いやぁ、事前に紅莉栖に確認はしておいたが、

意識不明の奴ともこうやってちゃんと話が出来るんだな、これで一安心だ」

「……何の事だ?そもそもここはどこだ?」

「まあ待ってろって、ほら、二人が来たぞ」

「二人?」

 

 そんなゼクシードの前に、二人の女性が姿を現した。

 

「あれ……ユッコ、ハルカ?」

「ゼクシードさん!」

「もう、あんまり心配させないで下さいよ!」

「心配?どういう事だ?」

 

 そして二人は、今日がBoBの予選開始の二日前だという事を説明した。

 

「え、まじかよ、俺はいつの間にか時を越える能力を身に付けていたのか……」

「んな訳あるかよ、今から俺が説明する」

「シャナ……悪い、頼むわ」

 

 ゼクシードは予想外に素直にそう言った。

ここでいがみ合っていても仕方がないと思ったのだろう。

 

「お前はあの座談会の途中でいきなり回線切断されたんだが、

どうやらその直後に意識不明の重体で、病院に運ばれたらしい」

「えっ、俺の体に一体何が?」

「正直それはまだ何ともだ、何せお前の両親が、その事を警察に秘密にしたらしいからな。

病院での検査も、そこまで精密にはやらなかったらしい」

「まじかよ……まあ仕方ないか、あいつらは俺の事が嫌いだからな」

「そうなんですか?」

「ああ、俺は穀潰しらしいからな、自分の食い扶持は自分で稼いでるっていうのによ」

 

 どうやらゼクシードは、GGOでの収入で一応生活出来ていたらしい。

家が一族の持ち物の為、家賃がかからない事が大きかったようだが、

さすがはトッププレイヤーだという事なのだろう。

 

「で、俺がザスカー経由でお前の身元を照会して、政府にそれを提供した。

そのおかげでお前が放り込まれていた病院を見つけ出し、

俺の息のかかった施設にお前を連れてきた。で、今こうなってると、そういう事だ」

 

 その説明にゼクシードはポカンとした。

 

「シャナ、お前何者だよ……」

「まあそれはいいだろ、ただの成り上がりだよ」

「いや、それにしてもな……」

 

 そんなゼクシードに、シャナがソレイユの次期社長だと知るユッコとハルカが言った。

 

「まあそういうものなんですよ、ゼクシードさん」

「そうそう、考えるだけ無駄ですって」

「ん、そ、そうか?まあそれならいいか」

 

 ゼクシードは能天気にそう言った。内心は不安でいっぱいだったが、

ユッコとハルカがいる事が、その不安を軽減させているようだ。

ゼクシードはその点はシャナに感謝していた。

 

「わざわざユッコとハルカをここに連れてきてくれて、ありがとな」

「いや、俺だけの話じゃ信じてもらえないかもしれないと思ってな、

まあサービスだ、サービス」

「…………」

 

 そしてゼクシードは、シャナをじっと見ながら言った。

 

「俺の体の事だし、俺に何か手伝える事はあるか?」

「まだお前が意識を失った原因を調査中だから何とも言えないが、

俺はお前を治療するつもりでいる。もしかしたら後遺症が出る可能性もあるが、

極力死なせはしないつもりだ。

だからお前は生きようという強い意思を持ってくれると助かる」

「強い意思か……」

 

 そしてゼクシードは、ユッコとハルカを見ながら言った。

 

「こうして二人も来てくれた事だし、お前にまだ勝ってないからな、

こんな状態で死ぬ訳にはいかないよな」

「ですです、せっかく私達が来たんだから、また一緒に頑張りましょうよ」

「うんうん、私達ももっともっと稼ぎたいですから!」

「ははっ、正直だな」

 

 ゼクシードは機嫌を損ねるでもなく、面白そうにそう笑った。

そんなゼクシードにシャナが言った。

 

「まあ俺はお前には負けないけどな」

「くっそ、絶対いつか負かせてやる」

「いつでも挑戦は受けてやるよ」

 

 そしてシャナは、遠くに見える家を指差して言った。

 

「しばらくお前には、この空間で過ごしてもらう事になる、

その為にあそこに家を用意した、好きに使ってくれ」

「家!?」

「シャナ、やっぱりお前何者だよ……」

「VR空間の家だからな、別に実際に家を作った訳じゃないぞ」

「まあそれはそうだけどよ」

「俺が案内するからさっさとあの家まで行くぞ」

 

 そして四人はその家の中に入り、その設備の充実っぷりに驚いた。

 

「おいおい、俺の住んでるアパートよりも豪華じゃないかよ」

「この端末を使えば、普通にネットとかを見れるからな、

これを使ってBoBの観戦も可能だ」

「観戦だけなのか?」

「すまん、実はまだお前が使ってる機械は仮設段階で、

ネットを見る事は可能だが、実際に何か戦ったりとかは出来ないんだよな」

「そうか…………BoB、出たかったけどな」

「…………まあまた次があるさ」

「だといいんだけどな」

 

 ゼクシ-ドは一瞬寂しそうな顔をした後、晴れやかな顔で言った。

 

「まあいいさ、俺の仇はシュピーゲルにでもとってもらうさ」

 

 その意外な名前にシャナは少し驚いた。

 

「シュピーゲル?お前あいつと親しいんだったか?」

「まあそれ以前にもたまに話す機会があったんだが、先日一緒にBoBに出場を申し込んで、

お互い頑張ろうって約束したからな」

「そうだったのか」

「そういえばあいつの勧めでモデルガンも頼んでたんだったわ……」

「モデルガン?」

「ああ、俺の今の愛銃のな。くそ、本戦に出れれば手に入ったんだけどな」

「…………まあ確かにそれはいい記念になっただろうな、それこそ一生もののな」

 

 シャナはここでリスク云々の話を持ち出すのは無粋だと思い、

その事は指摘しない事にした。

 

「まあとりあえず、二人はここに自由に出入り出来るようにしておくから、

たまにはこいつの話し相手にでもなってやってくれ」

「私達もそこまで暇じゃないんですが、BoBを観戦する時は必ずここに来ますから」

「だね」

「大丈夫、それまでの間くらい一人で全然余裕だって、動画とかでも見てのんびり過ごすさ」

「ちなみに料理とかも出来るからな、暇潰しくらいにはなるだろ」

 

 シャナはそう言うと、最後にと断った後、ゼクシードに倒れる直前の事を質問した。

 

「何か気付いた事とかは無いか?」

「いや、まったく無いな……とにかく苦しくて、気が付いたらここにいたからな」

「そうか……」

「悪いな、役に立てなくて」

「いいさ、元気になったらまたGGOでやりあおうぜ」

「おう」

 

 こうしてシャナとゼクシードは、以前よりほんの少し仲良くなった。

そしてシャナ達三人はログアウトし、一人残されたゼクシードは、

部屋の中でぽつりと呟いた。

 

「あ~あ、くそ、敵だと思ってた奴に優しくされると調子が狂っちまうじゃねえかよ、

チッ…………ありがとよ」

 

 

 

「えっと、今日はなんかありがとう」

「うん、ありがとう」

「いいって、俺は自分がやりたい事をやってるだけだからな」

「仲良くは出来ないけど、でも言いがかりみたいな悪口はもう言わないよ」

「やっぱり敵同士だしね」

「ああ、まあ馴れ合う必要は無いからな。それじゃあくれぐれもここの事は秘密にな」

「うん、それは約束する」

「わざわざタクシーの手配までしてくれてありがとう」

「むしろ送ってやれなくて悪いな、まだちょっとやる事があるんでな」

 

 そして二人は八幡に感謝しながらタクシーに乗り込んだ。

当然その料金は菊岡に出させたのは言うまでもない。

 

 

 

「じじい、どうだ?」

「まだ何ともだが、これは何かの薬物が使われた可能性があるな」

「薬物か……」

「薬関係の事は私に任せてね、八幡君」

「お願いします、めぐりん」

「まあちゃんと調べておくから安心せい、これでも元は名医だったからの」

「自分で言うなよじじい……」

 

 こうして八幡はゼクシードの身柄を確保し、培ってきた人脈をフルに活用して、

着々と真実へと近付いていく事になる。




寄り道だったはずのメディキュボイドからの京都編が、
やっとここに来て密接に話に関わってくるようになりました。
イヴはアルゴの代役を務め、めぐりは薬関係でその力を発揮します。
そしてまさかの清盛再登場でした!

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