皆さんも色々と先の展開を想像してみて下さい。
残念ながら収穫はあまり無かったが、
八幡はとにかくゼクシードに事情が聞けた事でとりあえず満足し、そのまま帰ろうとした。
その瞬間に八幡は怪しい気配を感じ、慌てて振り返った。
(何だ……?)
だが振り返った先には誰もおらず、ただモニターが置いてあるだけだった。
八幡はしばらく様子を伺っていたが、やはり誰もいない。
そして八幡は、再び外に出ようと踵を返したのだが、
その瞬間に何ともいえないプレッシャーを感じ、八幡は再び振り向いた。
(またか……一体どこに……)
そして八幡は緊張に耐えられなくなったのか、そちらに向けて声を掛けた。
「……誰かいるのか?」
『ずっと目の前にいるのだけれど?』
『そうだよそうだよ、ボク達を放置して黙って帰ろうだなんて!』
その口調で、八幡はその気配が何なのか気が付いた。
八幡が自分達に気が付いた事を確認した二人は、慌てて何かの準備を始めた。
画面が消える直前、一瞬アイとユウが服を脱いだように見えた八幡は深いため息をついた。
そんな自分の事をニヤニヤしながら見ている凛子に気が付いた八幡は、
黙ってベッドに横たわり、凛子に言った。
「……ちょっと子守をするのを忘れてました」
「そうね、あなたはある意味あの二人の保護者だものね」
「……………………はい」
そして八幡は二人の家にログインしたのだが、
その瞬間に、雲一つ無い空と白い砂浜、そして青い海が視界いっぱいに広がった。
砂浜にはご丁寧にビーチパラソルとビーチチェアが準備されており、
そこに水着姿で寝そべっている二人の姿を見た八幡は、呆然と呟いた。
「…………何だこれは」
「ダル君が作ってくれたのよ」
「……………………あいつの仕業か」
「はい、これ」
「水着か……」
八幡はその水着を一度ストレージにしまい、ボタン一つで一瞬でその水着に着替えた。
それを見たアイは愕然とした顔をした。
「ちょっと、そこは男らしく私達の目の前で全裸になって着替える所じゃない?」
「逆にめんどくせえ」
「ちっ……」
アイは舌打ちした後に気を取り直したように咳払いをし、ニコニコと笑顔で言った。
「ところでパパ」
「パパ?……ああ、もしかして子守って言ったのを聞いてやがったのか?」
「映像をオフにして音声だけオンにする事も出来るのよ、覚えておきなさいパパ」
「俺はお前のパパじゃねえ!」
八幡はパパ、パパと連呼され、抗議するように言った。
「というかお前、そのパパって絶対愛人的な意味で言ってるよな?」
「八幡は馬鹿なの?私と八幡の年齢差でパパと呼んでいるんだから、
そんな事言うまでもないじゃない」
「ああはいはい聞いた俺が馬鹿だったよ」
そしてアイは次に、水着の肩紐を外しながらこう言った。
「とりあえずパパ、私の成長具合を確認する為に、
『ぐへへ、アイちゃんがどれくらい成長したのか脱がせて確かめてみようね』
って言ってみて」
「俺はそんな変態キャラじゃねえ、あと肩紐を外すな」
「もしかして私にサンオイルを塗りながら、
わざと手を前の方に滑らせるプレイがお望みなの?」
「よ~しユウ、アイはほっといて一緒に泳ぐか、競争するぞ」
「え、あ、うん!」
ユウはアイに気を遣ったが、アイが頷いたのでそのまま八幡の後を追いかけていった。
アイは次はどうしようかと考えていたが、
やがて考えがまとまったのか、二人が競争の目印にしている岩へと向かって泳ぎ出した。
「ゴ~ル!」
「参った、ユウは泳ぐのが速いんだな」
「えっへん!」
どうやらユウは泳ぎが得意らしく、八幡はユウに一度も勝てなかった。
「ユウは小さい頃は泳ぎが得意だったものね」
そんな二人に岩陰で待機していたアイが声を掛けた。
「そこにいたのかアイ、お前も一緒に競争したくなったのか?」
「残念ながらいいえ、ユウ、このステージが実装された時に話し合った事を覚えているわね」
「あ、うん」
「オペレーション・モーゼを発動するわ、直ぐに準備を」
「あ!了解!」
「…………なんだ?」
そして二人はウィンドウを開き、何か操作したかと思うと、
いきなり胸を隠すような仕草をしながら八幡に言った。
ちなみにここは足が届くので、海に沈むような心配は無い。
「きゃあ、水着が流されてしまったわ、八幡、探すのを手伝って!」
「手伝って!」
「なんてベタな……」
八幡は、一体何がモーゼなんだとため息をついたが、
その瞬間に何かに気が付いたのかハッとした。
「おい、まさか……」
「ふっ」
だがどうやら気付くのが少し遅かったようだ。アイは八幡を見て鼻で笑ったかと思うと、
その瞬間にいきなり海が割れ、上半身裸の二人の姿があらわになった。
「やっぱりか!」
「もう遅いわ、さあユウ!」
「うん!」
そして二人が両手を広げようとした瞬間に、
八幡はくるっと踵を返し、脱兎のごとく逃げ出した。
「あっ……」
「ちっ」
「ははははは、まだまだ甘いな、足の届かない所でやられたら、
バランスを崩して直ぐには動けなかったかもしれんが、
足が立つ以上その場から逃げる事など造作もない」
八幡は目を瞑ったまま浜辺で振り返り、そう高笑いをした。
その瞬間に、八幡の耳元でアイの声がした。
「私に対抗しようだなんて百万年早いわよ」
「何っ!?」
次の瞬間、八幡の背中に柔らかい感触が四つ押し当てられ、八幡は硬直した。
「一体どうやって……」
「あそこはVR空間内VR空間なの。だからその空間を消せば、
当然私達は元の場所に戻る。そう、この家の庭にね。
八幡は実はログインした位置から一歩も動いていなかったの。
そして私達もその位置で待機していたのよ。目を瞑ったのが失敗だったわね」
「手の込んだ事を……」
「アイはこういうのを考えるのが得意だからね」
「くっそ、またセクハラされちまった……」
そう言って落ち込む八幡から、何故か二人はスッと離れ、
ちゃんと服を着た状態で八幡の前に回りこんでこう言った。
「どう?ちょっとは元気が出た?」
「八幡、ちょっとは元気になれた?」
そう二人に言われた八幡は目を開くと、焦った様子で二人の顔を見た。
「お、お前らどうして……」
「だって、いきなり意識不明の患者さんが運び込まれてきたかと思ったら、
直ぐに八幡が暗い顔で登場したから、それは何かあったなって思うわよ」
「出てきた時は多少満足したような表情だったけど、
どう見ても疲れてますって感じの動きをしてたからね」
「だから元気付けようと思ったの。どうだった?」
「…………何か心配かけちまったみたいだな、ごめんな二人とも」
八幡は頭をかきながら二人にそう言った。
「気にしなくていいよ、ボク達は八幡の愛人なんだから!」
「そうそう、いつも沢山愛してもらってる分、こういう時はちゃんとお返ししないとね」
「お前ら既成事実みたいに言うんじゃねえよ!」
そう言いながらも八幡は、いつの間にか笑みを浮かべていた。
「良かった、ちょっとは元気になってくれたみたいだね!」
「とりあえず家に入りましょう、お茶でも入れるわ」
「そうだな、それじゃあちょっとゆっくりさせてもらうか」
そして三人は家に入り、仲良くお茶を飲みながら話をした。
「今はどんな案件を抱えているの?」
「まあお前らになら話しても問題ないだろうな、今関わっているのはな……」
そして八幡は、GGOで今何が起こっているのかを、動画を見せながら二人に説明した。
「こんな事件が起きてたんだ……」
「この男が犯人なの?」
「その一人ではあると思うんだがな……いくつか推測出来る事はあるんだが、
まだ色々材料が足りないんだよな」
「逆に分かってる事は何なの?」
アイにそう尋ねられ、八幡は分かっている事実を羅列した。
「こいつの名前は死銃、使ってる銃は黒星、トカレフだな。
このキャラは多分複数の人間が操作している、それは声紋分析から明らかだ。
こいつがゲーム内でプレイヤーを撃つと、そのプレイヤーは現実世界で死を迎える。
と言っても多分、別の奴がタイミングを合わせて薬物を使って殺してるんだと思う。
だがそれもな、プレイヤーの住所をどうやって調べているのかがネックなんだよな」
「直接聞いたとか?」
八幡はその問いに首を振った。
「さすがにそんな事、教える奴はいないだろ」
「まあそれもそうね」
「後ろから覗き見たんじゃない?」
「そんな事をしたら即通報されるだろうな、というか見られた奴が直ぐ気付くだろうな」
「だよね……」
それが真実に一番近いとは、さすがに誰も気付く事が出来なかった。
「ザスカーに問い合わせするにしてもな……
さすがに疑いだけで情報の開示を頼むのは無理があるからな。
さっき運ばれてきた患者の時に多少強引に頼んだだけに、二度続けてはちょっとな」
「打てる手が無いわね」
「だねぇ」
三人は腕を組み、う~んと唸った。
「視点を変えてみましょう、八幡は犯人の正体に心当たりとかは無いの?」
「無くはないな」
「誰?」
「ラフィンコフィンだ」
八幡はそう言って、ラフィンコフィンの事を二人に説明した。
「世の中には頭のおかしな人達がいるのね」
「気持ち悪いなぁ」
「八幡はそのラフィンコフィン対策は、何かしているの?」
「俺がやっているのは、敵のプレイヤーネームの割り出しだな、
それと俺がシャナだってのは多分あいつらにはバレてるから、
あまり効果は無いかもしれないが、おびき出せたらと思って一応……」
そして八幡は、とある事実を二人に告げた。
それを聞いたアイが、八幡にとある提案をした。
「それなら…………っていうのはどう?」
「お前それ本気で言ってるのか?」
「もちろんよ、こんな場でそんな冗談を言う訳が無いじゃない」
「…………確かにそれならおびき出せるかもしれん、分かった、やってみるか」
「ええ」
こうして八幡達も、何らかの作戦を開始した。
それが明らかになるのはもう少し先の事となる。
「あら、随分元気そうな顔になったわね」
「すみません凛子さん、もう一度ゼクシード……茂村保でしたっけ?
あいつの所に行きたいんですが」
「それは構わないけど何かあるの?」
「ええ、ちょっと頼みたい事がありまして」
「まあ別に問題無いわよ、今準備するからちょっと待っててね」
「はい、俺もまだ他に色々準備があるんで大丈夫です」
次に八幡は、アルゴに連絡をとった。
「どうしたハー坊、オレっちが恋しくなったのカ?」
「いきなりだな、また泣かされたいのか?」
八幡はアルゴにそう返した。
それはもちろんアルゴを数日間マンションまで運んだ時の話である。
「……いや、もうあれは勘弁だぞ、で、何かあったのカ?」
「実はちょっとお前に面倒な頼みをしたい」
「そんなのいつもだろ、で、何ダ?」
「実はな……」
そして八幡はアルゴに一つの頼み事をした。
「……って感じなんだが、どうだ?」
「そんなの別に面倒じゃないぞ、まだダルとイヴも残ってるしナ」
「どれくらいで準備出来る?」
「まあ三時間って所だナ」
そう言われた八幡は、思わず言った。
「まじかよ、お前神かよ!」
「種を明かすと、ハー坊がGGOをやってるから、
いつかこういう事もあるんじゃないかと軽く準備はしてあったんだよナ」
そのいつもながらの用意周到さに、八幡は感心したように言った。
「さすがというか……」
「おう、もっと褒めてくれ、褒めるだけじゃなくたまにはご褒美をくレ」
「……まあ何か考えとくわ」
「出来ればエロい奴で頼むゾ」
その言葉に虚を突かれた八幡は、とある友人の顔を思い出しながら言った。
「…………お前実はかなりダルに影響受けてんのか?」
「うっさいな、オレっちだってそういう冗談くらい言う事もあるんだゾ」
「お前のそれ、絶対に冗談じゃないよな?
後になって、前に確かに約束したゾ、とか絶対言い出すよな?」
「乙女の秘密をあまり詮索するもんじゃないぜ、ハー坊」
丁度その時凛子が八幡に言った。
「準備が出来たわよ、彼にアポもとっておいたわ」
「あっとすみません、今行きます!悪いアルゴ、ちょっとゼクシードと話してくるわ」
「おう、こっちはこっちで進めておくからナ」
「悪い、頼むわ」
「今度は何だ?」
「おう、実はな……」
八幡はゼクシードにとある頼み事をした。
「まあこっちは世話になってる身だし、暇だから別に構わないが」
「悪いな、それじゃあちょっと頼むわ」
ほっとした顔でそういう八幡に対し、ゼクシードは少し言いづらそうに声を掛けた。
「……なあ」
「ん?」
「…………いや、何でも無い」
「そうか、とりあえず三時間後にまた来るわ」
「分かった」
(今更面と向かってありがとうなんて、やっぱり言えないわ……)
そして八幡はログアウトし、アイとユウに状況を説明した後、仮眠をとる事にした。
「せっかくだからここで寝ていけば?」
「いや、リアルで連絡があるかもしれないからな」
「そう、残念ね」
八幡はそのままログアウトし、経子に断り、そのままベッドで眠りについた。